溢れる
人間という容器の栓は瞳にあるらしい。容器が一杯になると、そこから溢れてしまうのである。出会い頭のおはよう。他愛のないおはなし。屈託のないえがお。 繰り返される君との優しいやりとりが増えて、どうにも溢れてしまいそう。だから容器を大きくしなきゃ。幸せが溢れてしまわぬように。#書き出し
盲目
ねぇ、私綺麗?盲目の少女は言う。綺麗だよ。僕の言葉に頬を真っ赤に染めてた君は近頃様子が違うみたい。ねえ綺麗?ねえ本当?心配そうに繰り返す。#書き出し 彼の声に頬を染める君を僕は知っている。今では僕は魔法の鏡。それでもいいさ。君の近くにいられるならば。世界で一番美しいのは貴方です。
影
私は卑しい影の民にございます。影でしか生きられぬか弱き存在。日差しを避け光から逃れ、闇そのものであるようなこの身を更なる深淵へと滑り込ませるのでございます。そしてそっと貴方をニャニャ見つめるのです。#書き出し 視線を感じた。残暑に負け、だらしなく日陰で伸びる黒猫がニャニャとなく。
ばさり
ばさりと鋏を入れたならはらはら落ちる黒い髪を見送った。こんなに簡単なことをどうして躊躇い続けたのか。ううんそれすら簡単なこと。怖かった。執着を手 放してしまったならばきっと私は。ああだけど。いつもより眩しい太陽に貞子は目を細める。生きている。笑う。生きている。生きている。#書き出し