クローゼットの宇宙
ワンピースの裾がするすると解けた。どこに引っかけたのか猫かもしれない。千切ってもほつれてく大好きな花の、海の、文明の模様がなんでもない糸へと戻る 様をみてたら何だかいたたまれなくて、どうにかなりそうなのに仕舞い込んだ。それから地球は闇の中。クローゼットの宇宙は深い。#twnovel
鳥
鳥の中にはそういう鳥がいて他の鳥たちと同じように巣を作り卵を産むが、その卵は孵らない。孵ってはならない。捧げ物の卵に命があろうがなかろうがアレは 気にしやしないだろうが、孵れば子らが苦しむのだから。親鳥は目覚めぬ卵を産む。しばし抱いては孵らぬ卵に安堵する。羽ばたく。#twnovel
がめ煮
心をこめて作りました。持ち寄り飲み会で後輩がよそってくれたのは俗にいう筑前煮。予想外の甘さにどんな心こめちゃったのとからかうと、がめ煮ってこうい うもんですからとすげなく返された。あ、ちょっと期待外れ。黙りこむ僕の耳元に、地元の味やけん慣れてくださいってそれって。#twnovel
おしまいのひ
どこかで信じていた。あれは予言だ。世界はちゃんと壊れるから面倒なことなど考えずその日を待てばいい。涼しい顔してスーツ装備。努めて冷静に約束の日を 過ごす僕など気にもせず、時計の針は何ごともなく明日へと渡る。おわってしまった。思いがけずほっとする自分に苦笑いする0時。#twnovel
粛々と
右はお前たちのために。左は私のために。世界を聞かせておくれと神様は二つの耳を与えた。犬は街の喧騒を、兎は狼の息づかいを。それぞれに伝えようと耳を 澄ます。本当は知っていた。繋がってなどいないこと。楽園に帰りたがる僕らに神様がくれた生きる理由に、優しい嘘に粛々と従う。#twnovel