恋の化石
重くなって捨てちゃった。そう言って彼女は久方ぶりの笑顔を見せた。転がった化石はきっと僕への恋心。時間を戻すことができない僕に息を吹き返させる術はない。ああだけど。僕は不謹慎にも感動しているのだ。君を失わなければお目にかかれなかったこの成果に。何より美しい恋の化石。#twnovel
必要と点灯虫
点灯虫は人生に必要なものを照らしてくれる。指先から飛ばせば君の頭に髪留めのように止まった。僕は君が必要だ。君に恋して、されて、色々あって今日でお別れ。そんなはずないのにと考えていると点灯虫はふわりと飛んだ。新たに照らされたその人の手をとる。必要だから、必要なのだ。#twnovel
最果て食堂
最果ての食堂で少女はほかほかご飯を作る。毎日羊角の紳士がやってきて食事をし帰る日々がもう何年も続いていた。そろそろ私を食べないかしら。おいしそうに食事する彼を少女は愛していた。この地に贄として捨てられた自分と今日のスープの具の違いが解らぬまま食べられる日を夢見る。
最果ての食堂で少女はほかほかご飯を作る。
陽が落ちた頃から客足がのび、夜が更けるにつれお客の姿はどんどんヒトから遠ざかる。
けれど今宵の最後のお客は綺麗なヒトの形。
脅える瞳に覚えがあった。
これは贄。
贄なら仕事はたったの一つ。
貴方はどうやってあの方々の空腹を満たしたい?
宇宙船オレ
地球へ帰りたい。そう呟いたきり目覚めぬ主のため苦慮して参りましたがポンコツ船は悲鳴をあげています。これは修理が必要です。左肩から螺子を、腿から鉄板を剥がすなどして運行を守りやがて地球へ。主を助けてくれませんか。すっかり船と混じり合い動けぬ私の上でリスが首を傾げる。#twnovel
紅茶姫
紅茶姫の缶を開けるとよい香りがした。淹れるとふわり、湯気の向こうでお辞儀する美しい姫君。飲まれるまでの命ですわと言われ飲めずにいると姫はすくすくと育っていく。一番美しい温度のうちにという姫の願いはもう聞けない。缶には最後の一杯分。老いていく君とも過ごしてみたくて。#twnovel