瞳水晶
奪った宝石から夜な夜な現われる女は石と同じ瞳をしていた。俺は彼女に溺れる。毎夜逢瀬を重ねるごとに潤む瞳、歪む石。人型をとるには代償がいるのだ。今 にも壊れそうな石を撫でる。もう一度呼べばきっと彼女は。会いたい。愛したい。はじめは道具だった。俺は宝石を海へと捨てる。#twnovel
少女漫画的
雨降り、学校帰り、子猫を撫でる手。少女漫画みたいに落ちた恋だというのに何一つ始まらず、私たち、あっという間に卒業した。ここにくるたび立ち止まる。 ねえどうしたの? 貴方はそのたび尋ねて欲しい。尋ねられると安心する。私の秘めたる彼への恋は、宝物はまだ守られている。#twnovel
二歩目
手品師はふわり、テーブルの上にハンカチを広げた。消しますというがハンカチの下にはそもそも何もない。3,2,1,はい。真面目にやれとヤジを飛ばせ ば、消えておりますと恭しくお辞儀した。ふざけるな。僕は扉を開け一歩踏み出・・・・・・そう言えば家はどこだ。二歩目を失う。#twnovel
白い着物と言霊と
年の初めに白い着物を誂える。鈴の音に呼ばれ願いを聞くが一度に聞ける数ではない。願いは言霊となり着物をじわじわ染めあげる。あたりますようかしこくな りたいなくなれば。絡み合う言霊で重く黒く染まる裾にきらり。今日は寒くないですかあのね。幼い気遣いと少しの願い事をすくう。#twnovel
踵をかえす
君の言葉に耐えきれず僕は踵を返した。ああまただ。いっしょうの間にそんなにたくさん体験すべきではないことをもうこんなにも、5度もしている。返しっぱ なしの踵くるくる。どうしようもない作家のどうしようもない物語の中で踊らされる僕はいつしか空を仰ぐ。神の意図に背けず笑う。#twnovel