色
しろねこは黒い月を見ると銀の瞳をすうと細めた。逃げなければ。紫の夜を駆け抜けると追いすがる青い鳥。幸せにしてあげるわと黄色い嘴で囀る。愛している からと続く赤裸々な告白もしろねこにとっては茶番でしかない。瞳に月光を飼っている。あの日奪った愛する月光。幸せはもうここにある。#書き出し
缶詰
私が缶詰になる時がきた。宇宙の彼方へ移住するには人の寿命は短すぎる。そのため人を缶詰加工し移送することが決められた。またあとで。にこやかに手を振 る貴方。けれど知ってる。工場は今日でおしまいということ。残された人々と貴方を思いながら私はきっと世界で一番塩辛い缶詰になる。#書き出し
写真立ての裏
写真立ての裏に書き込んだメッセージには気づかなくていい。こっそり書き込み旅立つ君に贈る。毎日は会えない。毎週は会えない。毎月だって会えない君とのお別れはすんなり訪れた。#書き出し 君の写真は捨てがたい。けれど新しい彼女の手前、写真立てから取り出したならメッセージが。「ありがとう」
さよならのかず
さよならの数を、数えてみたの。片手じゃとても足りないくらいでどうにかなりそうな気分なのに、どうにかなることもできずにきっとまたさよならを繰り返す の。指折り数える鬱陶しい君の背中を撫でる。さよならを増やさない方法がすぐ側にあると、あといくつ数えさせたら言えるのだろうか。#書き出し