父
両親の仲の悪さは物心つく頃には解っていた。会話なんかなかったし食事を共にすることもない。家で過ごすことの少ない父だったけれど寝る前の読み聞かせだ けは欠かさなかった。明日から私も中学生。自分で読むよ、と父に言うと消え入りそうな声で「そうか」と言ってフッと宙に消えた。#twnovel
まさか幽霊?思い当たる節はある。「あの人はもういないの」私が父について話そうとすると母はいつもそう言って拒絶した。そんな時には決まって父が、「あ あやって僕を否定するんだ」と悲しそうに肩をすくめるものだから父の言葉を信じたけれど、母が正しかったのだ。私は母に尋ねる。#三連ツイノベ
父は死んでいるの?どうして仏壇がないの?ねえ、答えて!#三連ツイノベ 母は驚いた顔をしてそれから少し言い難そうに語りだす。「お父さんは死んでないわ。もういないと言ってきたのはごめんね、不倫だから。会えない父親はいないのと一緒でしょう?」ショックだった。あの父親ヅラした幽霊は一体。
少女ロボット
喰わせたものが少女ロボットを形作る。本を与えれば思慮深く、靴を与えれば活発に。どうせならば美少女がいい。美しいのは雪月花。月は到底無理だけれど も、ムシャリムシャリ、僕の与えた雪と花とを貪る彼女。やがて少女ロボットは、花のように散り、雪のように溶けた。跡形もなく。#twnovel
#twnvday 『運動会』
毎日が運動会。今日も明日も明後日も。争いごと全てをスポーツに置き換えるようになってから喧嘩も仕事のいざこざも裁判も、全ては運動会でカタをつける。 忙しい。もう三ヶ月先まで我が運動会部に休みなどない。イチニツイテ。誰も傷つけないはずのその銃声に。ヨーイ。僕は。ドーン。#twnvday
母に手を引かれ新しい学校へ向かうとその日はちょうど運動会。どこもそれほど代わり映えしないな、なんて思いながら見上げれば一面の旗。同じ旗。世界にはもうこの国しかない。僕は思い出す。故郷が滅びたこと。新しい両親と暮らしを始めたこと。空は一面のブルー。#twnvday #twnovel
一緒にゴールしようねって言ったのにあの子はいつでも私を置いていった。おかげでいつもあの子に勝てない。今日もこうしてあの子が彼とゴールインするのを 友達の顔して眺めてる。許せない。あの子はいつでも嘘ばかり。一緒に、貴方と一緒にゴールインするのは新郎じゃなくて私なのに。#twnvday
チェッコリ玉入れが流行っている。可愛いだけでなく踊っている間に写真が撮れると保護者にも大好評だ。子を想う親の気持ちを考えたのなら他競技にもこの方式を取り入れるべきだろう。狙うは運動会の花型、徒競走。#twnvday 踊る、走る。踊る、走る。「これ何てダルマさんが転んだ?」「シッ」
走って、走って、走って、走って、ようやく見つけた君にこのバトンを渡したい。渡したい。渡したいのに、どうして君は手を伸ばさないの?#twnvday だってそんなの貰えないわ。貰ったら走りださなければならないじゃない。バトンに書かれた「未来」の二文字。汗ばんだ手のひらに擦れて薄れて。
アンパンマン
いつかこんな日がくることはなんとなくわかってた。顔を取り替えても力が出ない。とうとう魂がちぎれてしまった理由を、けれど僕は知っている。僕の体を揺 さぶるみんな。泣いたり叫んだり。ごめんね。みんなに任せて大丈夫だとわかったんだ。だから眠る。世界はみんなにお任せするよ。#twnovel
実は中身はいつもあんこってわけじゃなかった。チョコの日もあれば高菜の日もあったって知らなかったでしょ。わからなかったでしょ。中身がちょっと変わっ たところで、僕は変わらず僕だった。美味しい時もそうじゃない時も。だから大丈夫。腐らなければ、きっと美味しくなれるはずさ。#twnovel
君はきっとフツウに生きてるだけなんだろう。けれどもそれは僕らのふつうとあまりに違うものだった。いつしか君は悪者にされていたね。僕らと君と。違う普通を曖昧に両立させるためにはただ戦うしかなかった。けれど。#twnovel 例えば君のお腹が空いたら僕は君にもパンをあげる。さ、お食べ。
パンを半分こしてあげる。一個のパンはどこまでもずっと永遠に半分こできちゃうよね。気がつけばとても小さくなって誰の空腹も満せない。だけどいいよ。半 分こしよう。君が、僕が、笑うためにはきっと一個より半分こだ。笑ったら一緒にパンを作ろう。お腹までいっぱいになっちゃおう。#twnovel
やってきたヒーローは何もできなかった。僕と一緒にオロオロしてる。敵から隠れてこれ食べてって、パンをちぎってヒトカケくれた。小さな背中。庇われて食べるパンはことのほかおいしかった。#twnovel あれから困ると彼を呼ぶ。解決しないと分かっているのに、お茶を淹れて、空を見上げる。
操る天気
彼とのデートが雨で流れて膨れっ面の君は、ままならない天気が不満そう。実は天気を操る技術はとっくの昔に存在する。それじゃどうして思い通りにならない かって、そんなの簡単。なってる。但し君じゃない、誰かの思惑。それは誰か。そうだね例えば今日の雨。僕の思惑だとは思わない?#twnovel