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Epilogue

Epilogue

 ……だが、一度逃げたことが後々ついてまわる屈辱と忍従の最初の環だとエルシアンはまだ知らない。
 アスファーンの理不尽な行為に流された短い期間は確かに一度幕を閉じた。だがこの半年で二度と抜けぬ楔を打ち込まれたことをエルシアンはまだわからない。一生エルシアンの中から傷は癒えず、何度も蘇っては苦しむことなどまだ知る術もなかった。
 けれどその傷がやがて彼を未曾有の歴史を誇った大帝国の創始者にする。エルシアンの決して長くはない生涯に落ちる影をアスファーンと呼び、二人は終生寄り添わず、憎しみあいながらお互いの運命の輪転車を食い合った挙げ句エルシアンは「兄殺し、一族殺し」の代償に登極者としての栄光を戴冠することとなる。
 だが、それはまた別の機会の話だ。今のエルシアンは年若く実績も後背もない王子であり、ただ安穏に暮らせることだけを望むだけの存在であった。
 エルシアンの人生の中で、最も温かく柔らかな追憶に彩られたたった半年の休暇が今、始まろうとしている。