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廃炉のしかた~Sea(シー)~ <3.11シリーズ Ⅴ>

20XX年。

この島の原子力発電所が、全基、運転を停止してから〇〇年後…。

 

 

 

「みなさぁ~ん!こちらに集まってくださぁ~い!!」

見学者を呼び集めるガイドの声が、船内の、展望フロアに響いた。

「もうしばらすると、本船は…『廃炉原発の見学ツアー』の、最初の目的地に到着する予定…なんですがぁ~」

タイトなミニスカートのユニフォームに身を包んだガイドが、フロア前方の壁に向かって、右手を大きく振る。

壁一面のスクリーンに、原子力発電所の…簡略化されたイラストが現れた。

「これから、廃炉の手順を説明しまぁ~す!

 

 

ガイドの声に集まってきた、見学者の面子は様々…だった。

老人会の集団、社会見学とおぼしき学生服の集団、ガイドの写真を撮りまくる制服マニア、どこか見覚えのある男…と、その連れの秘書風の女…など等…。

 

「簡単にいっちゃうとぉ…まずは炉の停止…ね。それから炉周りの設備の解体。んでもって、炉本体の解体に取り掛かってぇ…最後に、炉が入っていた建物の解体…」

という手順で、一般的な廃炉は進みます…と、切り替えられるイラストと共に、ガイドは説明を始めた。

 

「原子炉特有の…手順の説明が、抜けていまーす!」

男子学生が手を上げ、指摘する。

「は~い!それは、核燃料のコト、ですねぇ~!」

挑戦的な学生の態度を、笑顔でいなし…ガイドは、スクリーンの画面を替えた。

 

 

それまで静止画だった画面が動画になり…原子炉内部のCGが、映し出される。

「いま映っているのが…核燃料の間に、制御棒を差し込んでるところで~す。下から上…これは、沸騰水型ですねぇ~!加圧水型の制御棒は、逆方向の上から下への差し込み…となりますぅ~!!」

制御棒を挿入してから、核燃料が冷えるまでの時間はどれくらい?…と、ガイドは、見学者に質問を振った。

「は…早くて半年!いっ…一般的には三年後から…使用済み核燃料の運び出しが、始められる、と…聞き及んでおりますーっ!!」 

誰も答えないと見るや…先ほどの男子学生が、直立不動で叫んだ。

 

「せいか~い!冷却された使用済み核燃料は、こうやって取り出して…」

ガイドは…口を大きく開け、上を向く、と…咽喉の奥へと、右手の先を突っ込んだ。

指先に摘まれて…直径1センチほどの銀色の管が、するするする…っと、ガイドの体内から引き出されてくる。

管の長さは4メートルを超え、フロアの天井擦れすれで…やっと、止まった。 

「これが、燃料棒で~す!この中に、焼き固めた燃料ペレットが、こんなふうに封入されていましてぇ…」

 

バキッ!

へし折られた銀色の管の中から、黒っぽい円柱状のペレットが、パラパラ…と、床にこぼれ落ちた。

「ヒイイイィ~!!」…見学者たちの集団から、一歩踏み出していた男子学生が、足元で跳ねるペレットに逃げ惑う。

「この燃料棒を複数本束ねたのが、燃料集合体でぇ~す。その、使用済みの燃料集合体を、専用のカプセルに入れて外部に運び出してからぁ、原子炉の放射線量が下がるのを待って…炉の解体が、やっとこさ…始められるんですねえぇ~!!

 

 

取り出した使用済み核燃料の…その後の処理の方法は…知ってるうぅ~?

ガイドは、男子学生に迫った。 

「そっ…そのまま埋設処分するワンス・スルー方式と、燃料棒を切断して酸に溶かし…ウランとプルトニウムを抽出・分離する、再処理の方法とが、ありますです~っ!!」

 

せ・い・か・い…ご褒美を、あげなくっちゃ、ね…。

折れた管の先を、口の中に突っ込まれた男子学生は…大量のペレットを口内に含み…失神した。

 

 

「再処理の過程では…クリプトン-85やらトリチウムやら炭素-14やらヨウ素やらルテニウムロジウムセシウムバリウムストロンチウムイットリウムプルトニウムセリウムプラセオジムコバルト-60ユウロピウムキュリウムアメリシウムその他の核種やらなんやらが大量に、大気中や海中へと放出される、し…高レベル放射性廃液の保管問題とかも、あるんだけど、ネ…」

 

そんなモンの心配は、孫子の代に任せりゃイイんですよ、ねぇ~~~っっ!!!

パチパチパチ…老人たちが一斉に拍手をする。

どこか見覚えのある男…も、笑顔で両手のひらを打ち合わせていた。

若い秘書風の女と、学生たちだけ、が…釈然としない表情で、その場に…突っ立っていた…。

 

「なお、こちらの燃料棒…中身はチョコレートペレットで~す。子供さんには、ちょっと刺激的なハードビター味!後方の、お土産売り場にて絶賛販売中~!!ただいま、50本、80本など…燃料集合体風に束ねた商品が、割安の、お買い得品となっておりまぁ~す!!…さらに、珍品土産としては、溶融デブリのぉ……」

お土産品の売り込みに、ガイドは、抜かりが無かった。

 

 

 

…閑話休題…

 

 

 

「あちらを、ご覧くださぁ~い」

ガイドが指し示す窓の外に、四角い建物と…その上に起つモニュメントが、遠く霞んで見えた。

「あれが、この島初の商業用原子力発電所…『東海発電所』の…その跡地でございま~す!

フロアがザワつき…

どこか見覚えのある男、が購入して、皆に振舞った燃料棒チョコを…ポリポリと齧っていた見学者たちは、一斉に…船内に据え付けられた、有料の双眼観光望遠鏡に群がった。

準備の良い者は、バッグから自前の双眼鏡を取り出し…眺めの良い窓を求めて、右往左往している。

「あの…建物はナニ?廃炉後は…更地に戻すんじゃなかったっけ…?」

女子学生が呟いた。

 

 

「はぁ~い!注目~っ!!」

ガイドが、再びフロア前方に見学者を集める。

「この島では…当初、廃炉は原子炉施設を完全に解体して、敷地から撤去…更地に戻す…解体撤去方式で進められる予定、だったのよ、ネ…」

でも…

「炉を停止して、燃料棒を抜いて…ここまではさっき、説明したわね。…それから…液体放射性物質…冷却材なんかね…を、すべて取り除いた後で、こうして…」

 

おもむろに、ガイドはユニフォームの上着を脱ぎ始めた。

「こうして、炉に関係のない設備を、解体撤去して…それから…」

次にベストが、ガイドの足元に脱ぎ捨てられる。

「これは、炉に関係のある設備や機器…ね。これも解体して…と、ここまでは計画通り終了したのね。…で…次は、原子炉本体の解体、なんだけど……」

 

ブラウスのボタンを、一つ…二つと、ガイドは外していく。

かぶりつきになった制服マニアが、雨あられとシャッターを切った。

 

 

「…原子炉を解体したらサ、何が出るか…知ってる?」

座り込んで、下方向から撮影をしていた制服マニアに…ガイドは、前屈の姿勢で質問をした。

目の前の、ブラウスから覗く胸の谷間を凝視したまま…

「は…はだか……いえっ!ブッ…ブラジャーがまだ、残っていました、ね…っ!!」

「ふせいか~いっ!!」

ハイヒールに蹴り上げられ、制服マニアは吹っ飛び…壁に頭をぶつけて、気絶した。

 

「正解は…低レベルだけど高レベルな放射性廃棄物、で~す!」

低レベルな高レベル…わしの頭は、どうにかなっちまったのかのう…。老人たちが首を傾げ、互いに顔を見合わせる。

「低レベル放射性廃棄物に、区分されるんだけどぉ…」ガイドは、言葉を続ける。

「原子炉内の、構造物とか制御棒とか…放射化されちゃって、高レベルに汚染されてる廃棄物は…ドラム缶なんかにぶっこんで…50~100メートルの地下に閉じ込めて、数百年…管理しなきゃいけないのよおぉ~~~?」

 

これを、余裕深度処分…っていうんだけど…そんなコトやらせてくれる最終処分場が、この島内に見つけられた、と…思う…?

見学者たちは一斉に、首を横に振った。

 

 

「子孫どころか…曾孫玄孫来孫昆孫仍孫雲孫……”孫子の代まで祟ってやる”…なんて、のたまう怨霊が…可愛く見えてきちゃいますよ、ねえぇ~」  

そ・こ・で…と、ガイドは、つま先立って…クルクルと回り始めた。

回転は急激に速度を増し、老人が数名…目を回して昏倒した。

両手を広げ、優雅なポーズで停止する、と…あら不思議…ブラウス姿だったガイドは、厚手のコートを羽織って、立っていた。

 

「そこで!『解体撤去方式』に替わって採用されたのが…『完全密閉方式』~!!」

「原子炉をカラッポにした後、施設を密閉状態で閉鎖して…安全確保のために…このコートのような外壁で、周囲をスッポリと覆ってから…放射線量が自然に減衰するのを、ただひたすらに、待つ……」

時間が経てば、半減期の繰り返し…で、原子炉圧力容器や遮断材なんかも、本当の意味での、”低レベル廃棄物”になってくれるから……解体作業も簡単になるわけ…だし…。

 

 

「低レベル放射性廃棄物の、低低レベルまで線量が下がれば…それをコンクリートの材料や、廃材再利用ベンチなんかに加工して、公園などで使用できるようになるんだから…廃棄物の減量にも、つながるじゃないか~っ!!」

どこか見覚えのある男、が…握りこぶしを振り上げて叫んだ。

「…そこまで放射線量を下げるには…これまた百年以上、かかるんだけど、ね…」

秘書風の女が、ボソリと呟く。

聞かぬ振り、で…男は、自前の双眼鏡を持ち上げ、窓辺へと進んだ。

 

「ということは…あの構造物は、原子炉建屋を守るシェルターですな。…俗にいう石棺…ですかね」

双眼鏡を覗きながら、どこか見覚えのある男が、大声を上げると…見学者たちが再び、窓際に集った。

一回100秒の時間切れ、で…先刻、お金を入れた双眼観光望遠鏡は、使えなくなっていた。

どこか見覚えのある男の指示で、秘書風の女が…不満を漏らす見学者たちの手中に、硬貨を握らせて回る。

「後で、双眼望遠鏡の管理者から、領収証を貰っておけよ!」

「…無理です」

「ならば…いま使った経費は、君の給料から差し引いておく」

双眼鏡を覗く男の背後から、女は踵落しを仕掛け…寸止めで…引き下がった。

 

 

「シェルターの上の…あの人物像は、ナニ?」

「おっさん二人が、仲良さそうに肩組んで…チョー気持ち悪いんだけど…」

双眼観光望遠鏡をズームにした女子学生たちが、キモ~イ!と、声を上げた。

 

「キモイとは何だっ!あのお二人は、日本の原子力政策推進の両軸となった…ナカソウネ氏とショウキ氏だぞっ!!皆の者、頭が高~いっっ!!!」

どこか見覚えのある男は、フロアの床にひざまずく、と…五体投地を始めた。

「…いやそれ…仏様や高僧に礼拝するときの、お辞儀のやり方だから…」

秘書風の女は、土下座をする男の尻を、蹴り飛ばすフリをした。

 

「鳴曽根氏と正気氏、お二人の足元に、ご注目下さぁ~い!」

ガイドが促す。

「あ…?二人の足が、ヒモみたいなモノで…結ばれている!?」

女子学生の声に、どこか見覚えのある男は跳ね起き

「お二人は、原発推進の旗頭!これぞ…天下無敵の二人三脚!!

『原子力 我も欲すと 日本国 鳴かせてみせよう ポダムとオレで』えええぇぇ~~~っっっ!!! 」

呼吸困難を引き起こし…どこか見覚えのある男は、意識を消失した。

 

 

「あの人物像…かなりの大きさです、が…素材は繊維で強化されたプラスチックなので、意外と軽量~!ヘリウムガスを充填することで、台座のシェルターへの重量負荷は、ほとんどかかっておらず…さらに!」

ガスの量を増やすことで、シェルターに浮力を与え…地震や地下水による地盤沈下、地面の隆起などに、対応することもできま~す!!

 

「つまり…人物像は気球、で…原子炉建屋はゴンドラってこと…ですね?」

ガイドの説明に、学生が呼応した。

「繋留気球…じゃな。いっそのこと、原子炉建屋ごと、宇宙空間まで飛ばしてしまえばエエんじゃ。解体の手間も費用も…かからずに済むじゃろうがー!」

老人が力説する。

「あなたは…アホですかっ!気球が上昇できるのは、成層圏までですよ。宇宙空間まで到達させるには…他の方法が必要なんですっ!!

「ア…アホとはなんじゃ!アホとはっ!!」

「アホはアホですっ!!大気圏を突破するには…いまの人類の技術では、ロケットしか…」

老人と学生が、つかみ合いの喧嘩を始めた。

 

「はいは~い!本船はこれより、次の廃炉原発へと向かいまぁ~す!!

喧嘩の喧騒に負けじ、と…ガイドは声を張り上げた。

 

 

 

「見えてまいりましたのは…『高速実験炉常陽』でぇ~す!」

シェルターの上には、鎌倉大仏のような仏像が建って…いや、座って…いた。

 

「じ…常陽とは…茨城県東部の、昔の呼称ではなかったかの?なのに、なんで仏様…」

「そ…それはっ…『法蔵(阿弥陀如来の菩薩名)』の呼称が、当初は提案されていたからだ…と…思われますーっ!…ちなみに…『常陽』、『もんじゅ』、『ふげん』の、名称発案者は、すべて、動燃の副理事長の、清…」

取っ組み合いながら…老人と学生が、問答を交わす。

 

仏像を前にして…老人は喧嘩を止め、五体投地で拝み始めた。

「これは、正しい…」

秘書風の女が、土下座状態で意識消失している男の上に、足を組んで座り…煙草をふかしながら呟いた。

「実はまだ、2007年の事故の復旧作業が終わってなくて…ナトリウム循環は継続中だワ、廃炉計画は手付かずの状態だワ…って噂も、あるんです…けど、ネ…」

危機的状況は、仏頼み…てか?

 

ガイドの呟きに…老人たちが色めき立った。

「南無阿弥陀仏」

「南無釈迦牟尼仏」

「南無到来導師」

「南無三世諸仏」

「南無三南無三南無三南無三」

「仏法僧仏法僧仏法僧仏法僧」

お唱えの声が、展望フロアに満ちる。

 

老人たちが、息切れするのを待って…ガイドはポケットから、絵葉書を取り出した。

「『高速増殖原型炉もんじゅ』と『新型転換炉ふげん発電所』にも…これこの通り!ありがた~い菩薩像が、建立されてい~ます!シェルターの外装も、それぞれの菩薩名に合せて、獅子と白象という…斬新なデザインになっております~!!」

この、廃炉原発絵葉書は、売店にて一枚から発売中!全種類揃った、セット売りもございまぁ~す!!

 

ガイドの売り込みに、どこか見覚えのある男が土下座姿から立ち上がり…売店へと駆けていくと、絵葉書セットを買い占めて戻ってきた。

見学者全員に、ワンセットずつ配り終える、と…最後に、秘書風の女にもワンセット手渡し、耳元で「いまの人間椅子は良かったよ…次は、ハイヒールで頼む…」と囁いた。

女は…スーツの内ポケットから辞表を取り出すと…男の口内に、ねじ込んだ。

 

 

 

「うわぁー!おっさんの像、ばっか…」

絵葉書をめくりながら、学生が声を上げた。

「その原発に縁のある人物なんか、が…モニュメントの、選定基準になっていましたから…ねぇ~」

ガイドの説明が入る。

「『柏崎刈羽原子力発電所』は、電源三法を制定した田中丸栄氏…。『玄海原子力発電所』は、新川知事、疑似本町長と、そのファミリー企業の疑似本組…とか…」

 

「『玄海原発3号機』の…この人…ちょっと、変…!?」

若くて格好よさげなんだけど…手にはドンブリ、腰には…ドラム缶?…ってナニ…お笑い…???」

女子学生が絵葉書を手に、ガイドに疑問を投げかける。

「あ~それ!山本苦多郎氏だよぉ~!!」

ガイドは、即答した。

 

「ドンブリは、京都名物の”ぶぶ漬け”どすなぁ~。腰に巻かれている筒状の容器は”ドライキャスク(乾式貯蔵容器)”…ね。…彼の像は…設置直後から、浮力がやたら大きくてさぁ…イカリを付けとかないと、身軽に…どこへでも飛んでっちゃう危険が、あったんだってえぇ~!!」

3号機はプルサーマル…発電の不安定さの象徴として、彼が、選ばれたのかしら…ねえぇ……。

 

”ドライキャスク”…と聞いて、学生たちがザワめいた。

「それ…使用済み核燃料とかを保管しとく、貯蔵容器のコト、だよね…」

「あー!各都道府県に公平に、保管場所を設置して…使用済み燃料の保管負担をシェアする…ってやつ、でしょー!!」

「それ!うちの町の採石場跡地に、置いあるヤツ…じゃない!?…なんか…隣りの自治体の分も引き受けちゃってて…代わりに、委託金が万とか、億とか…」

 

これってさ…あくまで中間貯蔵だよ、ね…。まさか…このまま最終処分場、なんてことに、は……。

 

 

…ならば…これはナンじゃ?この…『伊方発電所』の上の、飛行機は…」

「オスプリン…とかいう、未亡人製造機…かのぉ…?」

「未亡人のプリン製造機とは…美味そうじゃのうー!」

別の絵葉書を囲んで…老人たちも、かまびすしい。

 

「伊方原発の近くには、米軍機の飛行ルートがあるし…四国を横切る”オレンジルート”では、低空飛行しているMV-22オスプレイが、何度も目撃されていて…原発近辺での事故が、懸念されていました、けど…そのモニュメントの飛行機は、MV-22でもCV-22でも…そもそも、米軍の機体ではない…のですねー!」

気絶から復活した制服マニア、が…老人たちの理解力など気にも留めず…ミリタリー知識全開で、まくし立てる。

「これは、多目的大型戦闘機スーパーⅩⅢ”ですー!映画”ゴジラvsデストロイア”で、ゴジラが豊後水道に出現し、伊方発電所を襲おうとしたとき、に…それを防いだ日本製の戦闘機、なのですー!!」

制服マニアは…軍事関係にも、精通する者が多い…。

典型的なオタク像が、ここ展望フロアに降臨した瞬間、であった。

 

「型式番号はDAG-MBS-SX3、可変翼V/STOL機、武装は収納式上部ミサイルポッド4連装×2基、1000万ボルト95式超低温レーザー砲、4連装冷凍ミサイルランチャー2基、照明弾ランチャー4基…!その他に、装備可能な武器、は…」

 

「これで…我々の来年度の予算はゼロだなぁ~っっ!!」

マニア垂涎の非売品…”原子力災害ロボットカタログ-最新版”…を、前方の壁に向かって投げながら…ガイドが叫んだ。

「来年度があれば、だがあぁーーーっっ!!!」

制服&ミリタリーマニアは、そう叫びながら飛び上がって、カタログを空中キャッチし…壁に激突して…うめき声をあげながら、さらに…言葉を紡いだ。

「レフトアーム…破損…っ」

「構わんっ!!」

間、髪を容れず…答えたガイドに向けて、右手の親指を立てる、と…マニアは、カタログを強く掻き抱き…沈黙した。

 

「未亡人プリンとは…わしゃこんな感じだと、嬉しいんじゃがのぉー」

何事もなかったように…老人たちは、話の続きを始めた。

 

 

 

「近づいてまいりましたのが…当ツアーのメインスポット…『福島第一原子力発電所』で、ございま~す」

海岸線沿いに…6基の、原子炉建屋を内蔵した…シェルターが見えてきた。

 

「シェルター上部に設置された、モニュメントのデザイン…。6号機は、この地が過去に”東北のチベット”とか”福島のチベット”などと呼ばれていた来歴から…パンダを模したもの、と、なっております~。5号機は…これも、福島の過去の歴史にちなみ、風船爆弾のデザイン…」

実際…福島から届いた放射能の風で、2011年3月18日には、アメリカのカリフォルニア州サクラメントにて…キセノン133が検出された、との、発表がされております~。

ガイドは、モニュメントの由来の解説をした。

 

「アメリカに、爆弾…?」

「えーっ!?日本って…アメリカと戦争した、の…???」

学生たちは、驚きの声をあげた。

そういや…広島長崎の原爆投下は…アメリカが、やったんだよねー!

でもでもっ、福一の原発は…アメリカ製じゃん?!

えーっ?原爆と原発って…英語ではどちらも”nuclear”で……同じモノじゃん!!

……バットで殴ってきた相手から…そのバットを大金で…日本は買い取ったって…ことー??!

 

学生たちのヒソヒソ声に、どこか見覚えのある男は、眉をひそめ…

「パンダは…中国ですよね」…と、ガイドに話を振った。

「チベットです」

「いやぁ…中華でしょう!」

「いいえ、チベットです」

 

「だって…パンダのいる、四川省北部の汶川県、は…」

いいかけて…男は、その地名の過去を思い出し…口をつぐんだ。

「…ち…チベットを辺境地呼ばわりで、福島の引合に使うなんて…チベットに対して、失礼ですよ、ねえ…」

男は、話題を変えた、が…

「福島とチベット…どちらも苦渋の歴史が続いている…。似て…いませんか…?」

返ってきたガイドの言葉に…男は、二の句を失った。

 

 

「1号機は配管氏、ベント問題諸々で選定…。2号機は無能田氏、冷温停止状態による収束宣言等で選出…。3号機はモックス殺到氏…」

絵葉書の表面に印刷された、モニュメントの説明文を…学生が読み上げていく。

「…4号機、は…汚染水処置、炉心溶融物問題、子ども・被災者生活支援法の不備改正、被曝由来の疾病対策…など、そのどれもが後手後手に回り、被害を大きくしたとの理由から…」

 

 

 

「ヴィーヴイーヴィー♪地震です!ヴィーヴイーヴイー♪地震です!」

突然、展望フロア中に、緊急地震速報の専用ブザー音が鳴り響いた。

 

「地震速報が発表されました。本船はこれより、緊急停止いたします。揺れに、ご注意下さい」 

船内放送と同時に、軽い揺れをともなって…船は、ゆっくりと停止した。

窓辺に駆け寄った見学者たちは、息を飲み…外の光景に、釘付けになった。

 

 

眼下に見える風景の、最初の変調は…遠くの高圧線の電線が、強風にあおられるように揺れ始めたこと、だった。

次に、ゆっくり、と…波のうねりのように、木々や建造物が上下し…海岸線の地面が次々と、波間へと崩れ落ちていくのが見えた。

 

4号機が、スローモーションで…前のめりに海側へと、倒れこんでいく…。

続いて、3・2・1号機も、豆腐のように、ぐずぐずに崩れた大地に立っていられず…垂直方向にズブズブと…液状化した地面の中へと、飲み込まれていった。

 

「急激な地盤の変動時には…モニュメントのヘリウムガスが、自動的に追加充填されて…シェルターの浮力が、増加される、はず…」

ガイドの呟きが、凍り付いていたフロアの空気を…融かした。

 

 

「は…配管氏がんばれ…っ!」

「無能田氏…がんばれーっ!!」

「殺到氏!がんばってくれよーっっ!!!」

 

 

見学者の声援に、呼応するように…シェルターの沈み込みの速度は、しだいに遅くなり…やがて、ゆっくり、と…シェルターは、泥沼から浮上し始めた。 

下部がかなり、埋没した状態ではあった、が…シェルターは、その場でユラユラと上下運動を始め…安定した。

その様子はまるで…波に揺られる係留型のブイのよう…であった。

 

「…よ…4号機、は…?!」

海側の土台を、ごっそりと海中に持っていかれ…傾いてしまった4号機は、上手く浮上できない様子で…海岸の際で、ユラユラと揺れていた。

「後手後手で被害を大きくしたとの理由から…※※氏…って…あれ…?なんで…名前が…書いてない…」

説明文を読み進めていた学生は、絵葉書を裏返し…モニュメントの写真の顔を見ようとして…小さく、悲鳴を上げた。

見学者たちは、それぞれの絵葉書セットから4号機を探し出し、そして…絶句した。

 

 

4号機上の人物像は…福島第一原子力発電所特有の、濃霧の中で撮影されたらしく…顔には、モヤが掛かっていた。右手を挙げた男性…しかし、それが誰の像なのか…船内の見学者たちには、判別の術は…なかった。

「無能田氏のあとに、政権交代があって…」

「その後の総理もまた、なかなか落ち着かん、で…何度も何度も…交代劇があったよのう…」

「誰…じゃったかのお…」

 

「波が…引き始めました、ね…」

津波が…来ます。

ガイドの声に…見学者たちは、絵葉書から視線を、外へと向けた。

引き潮に引かれ、シェルターは、沖へと引き流されるかに見えた、が…意外に踏ん張り…その場に、止まっていた。

過去に…地下水の上昇で、浮き上がろうとする建屋を、大地につなぎ止めるため…床下から地中深く打ち込まれた、数十本にも及ぶアンカーが…いま、建屋をこの場に留める巨大な力…と、なっていた。

 

…だが…4号機、は……。

傾いた、自らの重さに耐え切れず…アンカーでつながれた床面を、大地に残し…、大きな飛沫をあげて、海上へと…倒れ込んでいった。

モニュメントの浮力で、かろうじて海面に浮いたシェルターと、それに包まれた原子炉建屋、は…引き潮に乗り、沖へと…流れ出ていく…。

 

「空間放射線量率が上昇中…本船はこれより、放射能回避のため、風上へと移動しつつ、上昇を開始いたします」

船内アナウンスが…展望フロア内に響く。

安全確認のために、停船していた”飛行船”は…急発進急上昇で…移動を開始した。

 

 

 

高濃度に放射性物質で汚染された、島近海の海は…現在、船舶の航行が、極端に、制限されていた。

まず、魚を獲れなくなった漁船が…洋上から姿を消した。

それから…優雅な観光を謳う豪華客船が、就航を取り止め…次いで、客足が減少した定期フェリーの足が、遠のいた。

積荷を降ろしたあとの、空荷の貨物船が積むバラスト水が…船内と排水先の海を、汚染することが国際問題となり…貨物船の出入りが、制限され……。

 

現在では、空輸が…長距離輸送の主体…と、なっている…のであった…。

 

 

……そうして……島近海で”船”と呼称されるとき、それは…”飛行船”を指す…。

いまは、そんな時代……。

 

 

 

『廃炉原発の見学ツアー』の見学者たちは、フラフラと沖へと漂っていく、4号機に向かって叫んだ。 

 

「シーんぞーう!」

「シーげるうぅー!!」

「シーんじーろおーーーおぉぉ!!!」

 

それぞれが、覚えのある歴代総理の名を、口にする。

 

「…ワ…ワタシの名、は…」

数歩、退き…どこか見覚えのある男、が…声をあげた。

「ワタシ、の…」

男の口を、女の指が…塞いだ。

 

 

「シー」

元秘書が…眉をひそめる。

「その名前を口にしては、ダメ…」

その名は禁句、なぜなら…

 

 

 

未来は…まだ、不確定……なのだから……。

 

 

 

溶融デブリがいま、どこにあるのか…答えられる者はいなかった。

汚染水がどれくらい海に流れ…これから…どれくらいの量が流れ出ていくのか……答えは、いまだに見つからない。

時々上がる、空間放射線量の原因を、明確に示す声も…どこからも、聞こてはこなかった。

 

「She knows.」

ガイドが、眼下の海を見下ろして呟いた。

いえ…「Sea knows.」…かしら…ね……。

 

 

 

高く上がった飛行船の窓から、遠く、太平洋沖から…大きなうねりが近付いてくるのが見えた。

波にあおられて、立ち上がった4号機のモニュメントは…挙げられた右腕を、大きく飛行船に向けて、何度も振り…その後、壁のような高波に飲まれ、一瞬で…姿を消した。

 

 

男は、がっくりと肩を落とした。

男も…この島も…すでに、名乗る名前を失って久しい…。

 

 

落日の闇に沈みゆく、難破船のようなこの島が、その昔…”日いづる国”と呼ばれていたことを…遠く深く、世界は……忘れ去ろうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

※”閑話休題”からあとの、廃炉手順等の記述は、作者によるフィクションです。


奥付

 

 

 

2013年9月11日 初稿



廃炉のしかた~Sea(シー)~


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著者 : 咲.
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