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聖元のピオン・エピソード2竜神の涙~蘇りしの水~

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聖元のピオン・エピソード2竜神の涙~蘇りしの水~

『聖元のピオン・エピソード2

 竜神の涙 ~蘇りしの水~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作.東雲ひむ

 

 

 

 

 

目次.

 

 かつては美しき水の楽園と呼ばれた大陸。

そこは、もはや楽園ではなかった。

 突然の天変地異が、わずか七日間で、大陸から水を奪った。

 飢餓が襲い、つながった他大陸から、言語も習慣も違う人種が、わずかに残った水を求めて、武器を持ち攻めて来た。

 枯れ果てた土地には、巨大化した生物達が巣を作り、生息している。

 それでも、このSEEの国の人々は、必死に生きていた。

 

 この物語は、勇敢な少女、リー・チンチンが経験することになった、「竜神の涙」を再現した物語である。

 

『 聖元のピオン・エピソード2

     竜神の涙 ~蘇りしの水~ 』

 

作.東雲ひむ


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聖元のピオン・エピソード2竜神の涙~蘇りしの水~

 一.ワン・ピー

 

 リー・チンチンが生まれた年。

その年は、特に水不足が深刻だった。

 

 枯れ果てた土地には。おどろおどろしい生物達が巣を作っている。

巨大化したその生物達は、オシャ毒の混ざる乾いた土地でのみ生きることが出来る。

 オシャ毒は、オシャ虫と呼ばれる硬い甲羅の虫の死骸から放出する緑色の毒。

それは、人にとっては、猛毒な物質となる。

人がオシャ毒を吸い込むと、まず目が緑色になり失明し、唇が緑色になり、体中が緑色になり、激痛の中、死んでしまう。

 ある理由があり、オシャ虫の発生を食い止めることも出来ず、人々の住む場所を着実に奪って行く。

 かつては、豊かな水により、雨が降ることにより、土は潤い、オシャ毒は浄化されていた。

オシャ毒を浄化するには、水が必要である。

しかし、今は、わずかな水しかない。雨もほとんど降らない今、人々はただ、わずかな水源を守り、オシャ毒の広がりを見守ることしか出来なかった。

 

 水がなくなったため、当然多くの人々が死んだ。

生き残った人々も、他の生物達に追いやられて、今まで住んでいた土地を捨てるしなかった。

 オシャ毒の混じる土地に生きる生物達は、悪意を持つ程、賢くはない。

彼らは、生きるために必死なのだ。

オシャ毒がないと生きられない彼らは、生きるために、オシャ毒を運ぶだけなのである。

 人々には知恵がある。

他の生物達を裂けるように、オシャ毒の影響の出にくい、岩山などに移り、岩を削り、地面に敷きつめ、町を作り、生き延びてきた。

 ここ、SEEの国の北端にあるIの村。

ここもまた、岩山にある小さな村である。

場所に恵まれ、他の生物達からの影響も少ない。

 岩山の奥。

昔、滝のあった場所。

大きな岩の上にひざを抱え、座っている着物を着た少女。

年齢は、十代前半のよう。

 もう水の落ちてこない滝の上の方を見ながら、何かを考えている。

「春にオシャ虫降って来て…」

 この土地に伝わる童謡を無心に口ずさんでいる少女。

その顔はどことなく悲しそう。

「へぇ、これかー!」

少女の後ろから男の声が聞こえる。

 驚きもせずに、その声の方を見ると、荷物を背負った男が滝を見上げている。

どちらかというと、やせていて、三十代前半といった感じ。

「これが、この岩山自慢の滝ですね!」

大きな岩の上に座る少女に近寄り、話しかける。

「自慢…って、水が流れていた頃の話。ずっと昔の話…」

 少女のいる近くの突き出た岩に腰かけ、荷物から画用紙と筆を取り出す男。

それを不思議そうな顔で見ている少女。

「あたし、ワン・ピー。おじさんは?何してるの?」

「ぼくは、リー・ミョンという絵描きです。遠くの町から、いろいろな場所の滝の絵を描くために旅をしています」

実に丁重に優しい言葉づかいのリー・ミョンという男。

「へぇ」

大きな岩から飛び降り、リー・ミョンの後ろに回り、絵を覗き込むワン・ピー。

まだ下書きで、何を描いているのかすらわからない。

「でもさ、おじさん…。こんな水のない滝を描いても、つまらなくない?」

「楽しいよ」

実に楽しそうに、そう言う。

「変なの…」

相変わらず不思議そうな顔で、絵を覗き込んでいるワン・ピーに、

「君こそ、どうしてこんな岩山の奥に、たった一人で来ているんだい?」

「考え事する時は、いつもここに来るんだ。ところで、おじさん。おじさんには奥さんはいるの?」

「あぁ、妻も子供もいるよ」

「へぇ、そうなんだ」

「子供は、今年生まれたんですよ」

「へぇ」

「そこの荷物の中に子供の絵があるから、よかったら顔を見てください」

 ワン・ピーが、近くに置かれた荷物の中から、その絵を抜き出して見る。

単色で描かれた、笑顔の赤ん坊の絵。

母親に優しく抱きかかえられ、母乳を飲んでいる。

 それを見て、自然に笑顔になってしまうワン・ピー。

「かわいいね。男の子?女の子?」

「女の子だよ」

「そう…」

それを聞いた途端、また悲しそうな顔になるワン・ピー。

それに気付き、

「どうしたんですか?」

「ううん…何でもないよ…元気に育つといいね…」

子供の絵を荷物の中にしまうと、またリー・ミョンが今、描いている絵を覗き込む。

「わー!」

口に手をあて、感嘆の声を出すワン・ピー。

何度も、滝と、絵を交互に見比べる。

「きれいでしょ」

「うん…」

 次第に形作られて行く絵の中の滝は、美しい水が、勢いよく滝から落ち、そして下には水がいっぱい溜まっている。

「おじさん、妖力使い?」

「妖力使いか…それはいい」

笑うリー・ミョン。

ただただ感心して、絵の完成を待つ。

「この滝はきっと、こんなふうに水が流れていたんだなー、って想像すると、見えるんだよ。それを絵に残したいと思って…」

「想像か…」

「君…」

何か、ひらめいたようなリー・ミョン。

「え?」

「水浴びしてみないか?この滝で」

「水浴び?水…ないよ」

不思議そうなワン・ピーに、

「目を閉じて想像してごらん!」

「え…うん…」

言われるまま、目を閉じ、想像する。

そして、静かに目を開けるワン・ピー。

「わー!」

「見えるかい?」

「見えるよ!水!」

ワン・ピーには今、水が見えている」

「そうだろ!」

嬉しそうに、リー・ミョンが別な画用紙を取り出す。

水のない滝に入って行くワン・ピー。

その姿を、絵に描き始めるリー・ミョン。

まるで水があるかのように、水を手で汲み上げて飲むふりをする。

「おいしい…。そうだ!」

ワン・ピーも何かひらめいたように叫ぶ。

「おい、君!」

突然ワン・ピーが帯を取り、着物を脱ぎ捨て裸になる。

それが当たり前のように。

「だって、着物を着て水浴びするなんて変でしょ!」

「そうか!」

驚いていたリー・ミョンもすぐに納得して、滝の中で無邪気に遊ぶワン・ピーを一生懸命描く。

 二人には、この滝に水があるように見えている。

 

 絵も完成して、帰り支度をしているリー・ミョンに近付いて来るワン・ピー。

「今日はありがとう。これは、楽しい時間を過ごせたお礼です」

「え…これ、くれるの?」

 ワン・ピーに、滝の中で遊ぶ自分が描かれた絵を差し出すリー・ミョン。

「何枚か描いたからね。それよりも、早く、着物を着なさい…」

まだ、裸のままのワン・ピー。

自分の描かれた絵をジッと見ている。

そして、悲しそうな目になる。

「気にいらないのかい?」

不安顔のリー・ミョン。

目に涙があふれ、何度もかぶりを振る。

「素敵だから…本当にこんなに水があったら素敵だから…」

リー・ミョンに抱きついてなくワン・ピー。

ワン・ピーの身長は、ちょうどリー・ミョンの胸の下あたり。

「君…」

困惑顔のリー・ミョンに、

「抱いて…」

「え…」

ワン・ピーを優しく抱きしめる。

「違うの…。今だけ、奥さんのことも子供のことも忘れて、私を抱いてください…」

「抱くって…」

「して…」

ワン・ピーの突然の言動に当惑するが、見つめ合い、しばらく沈黙の後、ワン・ピーは静かに後ろに倒れるように、そしてそれを優しく支えるように重なるリー・ミョン。

「ありがとう…」

そう言い、目をつぶるワン・ピー。

静かに、そして優しくキスをするリー・ミョン。

 

 夜。

Iの村の広場。

円形に石が組まれ、その中央は、祭壇のようになっていて、食料や貴重な水が祭られている。

周りにたいまつがたかれ、村の人々が集まっている。

かなり厳格な雰囲気が漂っている。

「さぁ、祈りの時間じゃ!」

杖を持った白装束に身を固めた老婆が現れると、その緊張は更に高まる。

 老婆は、この村の祈祷師。

これから、古くからSEEの国に伝わるという儀式により、雨乞いをしようとしている。

 それは、SEEの国の現皇帝クー・オーにより禁止されている宗教的儀式だが、それを破ってまで雨乞いをするのは、今年の水不足がかつてない程、深刻であることを意味している。

 老婆は天に向かって叫ぶ。

「天空の神、竜神よ!今よりあなたに聖なる乙女を捧げます!その力を持って雨の恵みをさずけたまえ!」

その言葉が広場に響くと同時に、夜空にわずかに暗雲が立ち込め出す。

それを見て、どよめく村の人々。

「静かにせい!」

老婆の叫びにすぐに静かになる。

 再び天を見ながら、

「竜神よ!聖なる乙女は永遠にあなたの者!我々はそれを喜び、永遠にあなたを称えることでしょう!さぁ、娘をこれに!」

老婆の合図で、男達に両腕をつかまれながら一人の少女が、祭壇の中央まで連れて来られる。

その少女はワン・ピー。

「春にオシャ虫降って来て…」

 抵抗もせず、無表情のまま、童謡を口ずさみながら歩くワン・ピー。

「夏にオシャ虫降って来て…」

 祭壇の上の台に寝かされる。

「秋にオシャ虫降って来て…」

 ワン・ピーを連れて来た男達が、急いで祭壇から離れる。

「冬に少女を差し出すと…」

 祭壇の前の老婆は、ゆっくりとワン・ピーに近寄る。

「雨の恵みが訪れた…」

「竜神よ!どうぞ、この聖なる乙女を!」

老婆は胸元から、紙に包まれた白い粉末の薬を取り出し、それをワン・ピーに飲ませる。

 無抵抗にそれを飲むワン・ピー。

白い粉末のそれは、いけにえの儀式には欠かせない薬という。

成分は不明だが、劇薬である。

 突然、雷鳴が轟いた。

今にも雨が降り出しそうな雲行きになる。

 手を合わせ、狂ったように祈り出す祈祷師の老婆。

村の人々も必死の思いで祈る。

「雨よ降りたまえ…」

 薬が効いてきたようで、目の焦点が合わないまま、祭壇の台の上で天を見ているワン・ピー。

涙があふれ出ている。

 祈り続ける祈祷師の老婆や村の人々の気持ちをよそに、雨は降らず、にわかに立ち込めていた暗雲も、次第に消え、星が見え出す。

 ざわつき出す村の人々が、祈祷師の老婆に注目する。

「なぜじゃ…竜神よ…」

老婆は天を見続けている。

そして、何かに気付いたようにワン・ピーを怒りの目で見る。

「娘…」

祈祷師の老婆は、突然、ワン・ピーの髪をわしづかみにすると祭壇から引きずり降ろす。

 フラフラの状態でワン・ピーは立つことも出来ない。

老婆の前で、座り込むような形。

「…」

何も言わないワン・ピー。

薬のせいで喋れる状態ではないのだ。

「娘…おまえ…まさか…」

ワン・ピーの着物を破るように無理やり脱がせる。

驚きの表情でそれを見ている村の人々。

「うっ…」

うつろな目のワン・ピーの顔が、一瞬苦痛で歪む。

老婆の持っていた杖が、ワン・ピーの下半身の股の間に滑り込み、中に突っ込まれる。

「汚れたか…」

「…」

視点の合わない目で、老婆をにらむように見るワン・ピー。

そこから抜いた杖で、ワン・ピーの頬をはたく老婆。

勢いでワン・ピーが転がる。

「この娘は、掟を破り、男と関係を結び、汚れた!竜神はお怒りになり、雨を降らせずマホロバへ帰られた!」

老婆の叫びを聞き、騒ぎ出す村の人々。

「誰じゃ!この娘を汚したのは!」

老婆が広場に集まった村の人々に叫ぶと、その中の一人の男が、

「ワン・ピーが昼間、山奥の滝に出かけるのを見たぞ!」

それを聞き、別な男が、

「そういえば、旅の絵描きが、滝の場所を聞いていた!」

「そいつなら、宿屋に泊まっているぞ!」

 意識もうろうのワン・ピーが必死に、

「おじさんは…何も関係ない…みんな私が悪いの…あ…」

「おまえ達のせいで、竜神は怒り雨は降らなかった!」

「……」

老婆が叫ぶと同時に、ワン・ピーに力がなくなった。

老婆は胸元から短刀を取り出し、ワン・ピーの胸に突き刺しだのだ。

 ドクドクと胸からあふれ出る血。

死の直前、昼間に滝で水浴びした風景が、ワン・ピーの頭の中を駆け巡る。

一瞬笑顔を見せ、そして絶命する。

「おまえは、どっちにしろ死ぬ運命だったんだよ…」

吐き捨てるようにそう言う老婆。

 ワン・ピーに飲ませた薬は劇薬である。

麻薬的成分も多く含まれているようで、初めは意識もうろうとして心地よい状態が続くがやがて全身に激痛が走り、たちまち死を迎える。それは、全身の細胞が一気に爆発するような激痛で、オシャ毒にも匹敵する程だという。

 この薬の神秘的な部分は、薬を飲んだ者は必ず、死ぬまでのわずかな時間の間に、生まれた時から、現在までの人生を走馬灯のように振り返るという。

 摂取量が少なく、運よく命は助かったとしても、精神に著しい支障をきたし、普通の生活を送ることは不可能である。

「この娘の親は?」

「家で祈っています!」

「竜神を冒涜した者の親族は全員、罪人だ。罰せねば村は滅びる!始末するのじゃ!」

 

 マホロバという地に住むという竜神。

聖なる乙女、処女の少女を竜神に捧げるといういけにえの儀式。

それは、SEEの国の古くからの宗教的な神話である。

 祭壇に祭られた乙女は光に包まれ、天に浮かび消える。そして、その代償に、竜神は、マホロバより水を運び、それを雨として、人々に恵まれる。

 その神話は、その地が田舎であればある程信じられ、非常に根深く浸透している。

 だが近年、その儀式によって雨が降ったという記録は残っていない。

幾例か、天空を舞う竜神の目撃例はあるが、それが本当に竜神であるという証拠もなく、その存在自体の真偽も定かではない。

ただ、劇薬により少女達が死ぬ、という事実のみが残っている。

 現皇帝のクー・オーは、その儀式を禁止した。

 いけにえとなる少女には死が待っている。

いけにえにされるのを恐れ、親自らが娘を犯したり、幼い頃から不特定の男性と関係を持つ者も多かったという。

そのため人口が爆発的に増え、その数と同じくらいい生まれる前に処分される子供も多く性が乱れた不幸な時代でもあった。

 ただ、現皇帝がそれを禁止したのは、死を持って祈祷する行為が野蛮であるからでもなく、人口問題でも倫理上の問題でもなく、己の権力欲が、己よりも、竜神たる不明確な存在を崇めるという行為が許せないためだという噂である。

 

 その日、いけにえの儀式のために殺害された罪もない人達がいた。

 ワン・ピーはその場で、ワン・ピーの両親は自宅で、そして、絵描きのリー・ミョンは宿屋で寝ているところを襲われ、ただちに殺害された。

 リー・ミョンの荷物から住所を割り出し、その家族の殺害も計画されたが、SEEの国は広く、移動手段が発達していないことや、いけにえの儀式が違法行為であるため、発覚するのを恐れ、それは断念された。

 だが、仮にそれが実行されても、もうその住所にはリー・ミョンの家族は、住んでいなかった。

家族は、すでに引っ越していた。

 ちなみに、その家族。

妻の名は、リー・ハルミン。

そして、子供は、リー・チンチンという名前であった。


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