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中洲門司港今昔物語
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嵐を呼ぶ姫君襲来
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豊西戦争 そのはじまり
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豊西戦争 北浜夜戦と杉乃井攻防戦
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豊西戦争 別府湾海戦
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太刀洗合戦
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戸神尾合戦
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ヴェネツィア共和国十人委員会
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中洲門司港今昔物語 11

 博多の華が欲しかった所だ。

 門司が栄えても博多が負けぬ華がな」 

 この島井茂勝の発言は本人の感嘆でしかないが、その後に冷徹な商人の顔に戻って本題に入る。

「これを姫様に届けてくれ。

 門司の街造り、毛利の邪魔がまったく入らなんだ。

 毛利は、九州の拠点を大友が作った事を喜んでいるのだろうよ」

 目の前に赤間関や彦島を抱える毛利の邪魔が入らなかったという事実だけでなく、門司の街の建物の幾許が、屋紹策(かみや しょうさく)をはじめとした毛利側商人の手によって購入されている事実を掴んでいた。

 もちろん、それはこの二人は知らないが珠とて想定済みである。

 というか、この門司を餌にして上陸してきた毛利軍を殲滅する手筈を整えて、大友義鎮をはじめ重臣連中からドン引きされていたなんて知られたくもない。

 毛利は九州側拠点の確保と珠姫内通を餌に、大友は博多―府内の南蛮船直通航路と門司を餌にした毛利殲滅戦の準備という、にこやかに手を握りながら足を踏みつけあう戦国時代ならではの光景がそこに存在していたのであった。

「で、だ。

 その華の味は味わっても構わんのだろう?」

 大商人となったからこそ、一流のものを味わいたいと思うのは人の性。

 そんな言葉を吐いた島井茂勝に由良も艶っぽく微笑む。

「あら、若芽は咲くまで摘んじゃだめよ」

「誰が摘むか。

 というか、恋殿と一夜を共にすると、いつ無理難題言われるかと安らげぬわ」

 島井茂勝の本音は予言となって的中する。

 あまりに異色で、あまりにどす黒く、ありあまるほどに輝き続けた珠の生き写しゆえに、本当に懐柔したかった大商人達は二の足を踏む事になるのだが、そんな未来を知る由はなく。

 なお、由良と島井茂勝の良い関係はそのままずるずると続き、最終的には彼女は島井茂勝の妾として落ち着く事になるのだが、それは別の話。

 

 門司という新しい街が建設されるに及んで、商人以外に利益を確保したとすれば近くの国人衆をあげる事ができるだろう。

 資材の確保、人足の供出、活性化する流通に伴い落ちる銭。

 それが門司周辺の国人衆の懐を潤していったのである。


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嵐を呼ぶ姫君襲来 1

嵐を呼ぶ姫君襲来

 

 それは、唐突にやってくる春の嵐のように、いきなりやってきた。

「……ここが、あの女の城ね」

「姫様。

 仮にも、これからご厄介になるかもしれぬお方をあの女呼ばわりは……」

 昼の杉乃井御殿の正門前で仁王立ちしている少女が一人。

 傍にたしなめる侍女がいるから身分の高い人なんだろうなととは門番も思ったが、何しろ御殿の主があれである。

 悪さをする様子も無いのでそのまま放置する事にした。

「構わぬ。

 どうせ、閨では取り合うのだ。

 さて、我が君を奪った女に会いに行くとしましょうか」

 付いてきた侍女に言い捨てると、開きっぱなしの門の前であくびをしていた三人の門番娘に言い放ったのだった。

「杉乃井御殿の主に取次ぎを願いたい。

 わらわは、来島通康(くるしま みちやす)の娘、鶴!

 我が君を取り戻しに参ったとな!!」

 

 珠です。

 今、とってもいい笑顔です。

 額に怒マークがついているけどそれは無視の方向で。

「で、わざわざ取り戻しにきたと。

 四郎を」

 お腹をさすりさすり四郎の子がいる事をアピール。

 なお、さり気なく隣に汗だらだらの四郎を座らせてしなだれてみたり。

「うむ。

 元々は、親同士の縁談とはいえ、わらわの所に四郎殿は来る予定だったのじゃ。

 返していただきたい」

 とりあえず、敵の容姿確認。

 年は私より二つ三つ下か?

 船戦を意図したのだろう。黒髪は短く切られ、ほどよく焼けている褐色色の肌が健康的な姿をアピール。

 胸は、うむ。私の圧勝だ。えへん。


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嵐を呼ぶ姫君襲来 2

「四郎がここに来たのは、四郎の意思であって」

「それも家同士の縁談の方が重たいと存じますが、いかに?」

 わからんではないが、毛利と大友という大大名和議の切り札ともいえる、私と四郎の縁談を反故にできるだけのものが毛利と来島にあるのかしら……おや?

「ちょっと話を逸らすけど、鶴姫って、あの鶴姫?」

 あのがついた事で、彼女も自身のことではないと分かっていたのだろう。

 胸を張って、名の由来を語る。

「姫の言う、『あの』鶴姫とは大山祇神社の大宮司・大祝安用(おおほうり やすもち)の娘の事であろう。

 大内から大三島を守りし姫の名をわらわももらったのじゃ。

 父は先ほどから言うた通り、河野一門の来島通康じゃ」

 あれ?

 その名前どっかで聞いたような…………

 来島通康の娘って???

「あああああああああああああああっっっっ!!!

 あんた、本物の四郎の許婚かぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 立ち上がって指差して叫ぶ私に、鶴姫は呆れ顔でぽつり。

「だから、言うたではないか。

 四郎殿はわらわの許婚なのじゃと」

「し、し、し、四郎!

 なんで婚約破棄してこなかったのよ!」

 かっくんかっくん四郎の首を揺らしながら少女妊婦大立ち回り中。

 神力の無駄遣いでお腹の子は無事なので。あしからず。

「ひ、ひ、ひ、姫。

 そ、そ、そ、それがしも、今聞いた次第で……」

「あんたのとこのチートじじいや、チートブラザースがこんな間の抜けた事する訳無いでしょうがっ!」

「で、ですが、尼子攻めや、兄上の逝去など毛利にも色々あった事もまた事実……」

 とりあえず、四郎を揺らす手を止めて深呼吸を二回。

 すーはーすーはー。

 おーけーおちつけくーるになろう。

 問題なのが、あの毛利一門の不手際なのか、策謀の一環なのか分からない所なのよねぇ。

 ちょっと状況を整理してみよう。

「あのさ、四郎の事は何処で知ったの?」


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嵐を呼ぶ姫君襲来 3

 鶴姫に尋ねると鶴姫もあっさりと口を割る。

「知るも何も、お主らこの間まで伊予で戦をしていたではないか。

 四郎殿が豊後であれだけ派手に元服した上、我らの土地である伊予であれだけ派手に戦をしておいて、分からぬと思っておるのか?」

 あ、なるほど。

 伊予の戦で河野ともやっていたわ。

「で、あんたのこの行動って、あんたの父上に了解とっているのよね?」

「……」

 何故黙る。

 とりあえず、鶴姫が連れてきた侍女の夏を睨んでみる。

「…………」

 あ、二人ともなんかいやな汗でてる。

 こう、やっちゃった感が漂う感じの汗がだらだらと。

 ちょっと、突付いてみよう。

「一応聞くけれども、これ、毛利と大友の戦の理由になるけどいいの?

 一部始終ばれたら、うちの軍勢河野に攻め込むと思うけど?」

 あ、侍女の夏さんがつんつんと鶴姫を突付いてる。

(どーするんですか。これ)

(ぅ……)

 小声で言っているんだろうけど、聞こえてますから。二人とも。

 あ、涙目になった。

「わらわのものなのじゃ!

 ずっと来るのを楽しみにしていたのに、残されたわらわがどれほど思うておったか知らぬじゃろう!!

 うえぇぇぇん!」

 あーあ、泣き出したよ。

 どうしましょう、これ?

 深く深くため息をついて、一同夏が鶴姫をあやすのを見るしかなかったのだった。

 

 で、現在鶴姫は泣き疲れてお休み中。

 後に残ったのは、夏と我々なのだが……。

「本当に、お騒がせをしてしまいまして……」

「いえいえ。

 わがまま姫の扱いは、慣れておりますゆえ」


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嵐を呼ぶ姫君襲来 4

 何故、こっちを見る?

 麟姉に瑠璃姫に四郎よ。

「正直、こんなに応対してもらえるとは思っていなかったのです。

 九州まで来て門前払いになったら姫も諦めがつくだろうと」

 そんな事だろうとは思った。

 それならと疑問が湧く。

「もしかして、別の縁談でも上がった?」

 私の言葉に、夏もこくりと頷いたのだった。

 正確には、鶴姫と四郎は正規の許婚ではない。

 毛利家と河野家の縁組であり、それに選ばれたのが四郎と河野家一門の来島家という事である。

 だから、毛利と河野の名前がつくならば、ぶっちゃけると案山子でも構わないのだったりするのだが、四郎が私をたぶらかす為に畿内にあがる時に来島に寄ってしまったらしい。

 で、自分が嫁ぐ毛利の若君と勘違いするという事に。

「よろしければ、私が河野側に連絡をとりますが?」

 考えている私を、どう穏便に送り返すかと勘違いした瑠璃姫が申し出る。

 おそらく、元主君の宇都宮家を使うつもりなのだろう。

 敵対しているがゆえに、交渉のチャンネルは必ず持っているのがこの戦国の武家である。

 異民族戦をほとんど経験せず、同族間での争いに終始していたから、最後は話せば分かるという信頼が残っているのだった。

 けど、考えているのは別の事だったりする。

「私が奪った……か」

 あながち間違いでもないのがまた困る。

 史実ではこの二人が夫婦になっていたのだから。

 私というイレギュラーがこのような結果となって帰ってくるのは、因果応報としか言いようが無い訳で。

 四郎はいい男だ。

 それは認める。

 だから、彼に惚れる女は多いのだが、四郎は生真面目でもある。

 その上、独占欲がかなり強い。

 で、どうなるかというと、困ったぐらいの一穴主義人間に。

 父上並の淫蕩さを出してくれば、私や遊女総出でハーレム奉仕なんてするのに、あまり興味が無いらしい。

 まぁ、私も遠慮なく四郎の肉欲に溺れたのだからあまり強くいえません。はい。


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嵐を呼ぶ姫君襲来 5

 本当ならば、四郎をセフレの一人として扱って、母よろしく四六時中男に嬲られる肉欲生活を送る予定だったのだが……。

 神力、特に地母神系統の力を伸ばすのは数多くの男に抱かれるのは必須だし、そもそもそれを目的としたからこその遊郭なのだし。

 また羨ましいというか、困った事になりつつあるのが、替え玉として吉岡長増達が作った恋という遊女。

 私の代わりに大友家若衆に抱かれているのだが、その人気ぶりに嫉妬と危機感があったりする。

 ぶっちゃけると、恋に抱かれた若衆が私ではなく、恋につくのではと恐れているのだった。

 身分の差なんて無かった前世の考えだと、平等であるという事は、誰にでもチャンスがあるという事でもある。

 となれば、そのリードを保ち、守るのは己の才能でしかない。

 私自身、大友珠という存在が大事なのであって、恋がそれに取って代わるならそれもありよねと吉岡長増に釘をさしたし、恋を種違いの妹として準一門で扱う事が決まっている。

 身分というもので己の安泰を図るつもりは無い。

 だからこそ、恋や、こうして何も考えずに飛び込んできた鶴姫に敬意を持つのだ。

 彼女達の思いに、四郎は答えてあげて欲しいと思う私がいる。

 と、同時に彼女達に負けてなるものかと思う私も確かにいる訳で。

 何言っているんだろう、私。

 考えがまとまらない。

「ちょっと、奥に引っ込むわ。

 とりあえず、二人はしばらく滞在してもらうから。

 いいわね」

 奥に一人入って、ふわふわ布団にぼすんと倒れる。

 妊婦だけど気にしなくていいこの神力はかなり便利だ。

 一人、転寝をしつつ考えると、行き着く所まで考えてしまうわけで。

「私、四郎に相応しい、いい女になれているかな?」

 思わず声を出してしまう。

 

「なれていますよ。姫」

 

「ふぁいっっっっっっ!?」

 

 びっくりして飛び起きましたよ。



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