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ミエナイヒカリ <一日目>  3.11シリーズ Ⅲ

<一日目>

 

 

 

昔ながらの商店街の一角に居を構える、こじんまりとした質屋…は、古びてはいるが、几帳面な店主の手によって、丁寧に磨き上げられていた。

躊躇う客が入店しやすいように、と、身体一つ分開けられた引き戸の隙間から、傾いて、赤く染まり始めた陽の光が差し込む、夏の夕暮れ時……。

 

遮られた陽光に、カメラレンズの保護フィルターを拭く手を止めた店主は、上げた視線の先に、汚れた灰色の作業服を見とめ、目を細めた。
小さくめくられた暖簾の隙間から覗く男の目線が、落ち着き無く、店内を物色する。
「ふんっ」
大きく息を吐き出すと、男は、店の中に足を踏み入れた。

 


ガラスケースに整然と並べられている、流れて売りに出された流質品には目もくれず…男は、店の奥で自分を凝視している店主の、前に立った。
「見てくれ」
店主と男を隔てた、奥行き50センチほどのカウンターの上に、上着のポケットから取り出された布袋の中身が、ジャラジャラッ!と、ぶちまけられた。


……それはパッと見、値打ちの有る宝飾品の数々…に見えた、が、なんとも…とりとめが無かった。
最新の、ブランドのネックレスに絡まった、古いデザインの指輪。見るからに、安物のブローチの下に、大粒のダイヤのピアスが輝いている。

盗品か……?

内側に布を張った、接客トレーにそれらの宝飾品を移し、店主は、白髪交じりの髪を掻きあげると、細かい細工物の指輪を、無骨な指先で摘み、ルーペ越しに覗き込んだ。
プラチナの台の内側に”E to T”の文字と、日付が刻まれている。ピジョンブラッドのルビーを、グレードの高い小粒のダイヤモンドで囲んだデザインは、趣味が良い一品、と、言えた。

給料の、三か月分、か…。
これが婚約指輪であれば、新郎は、かなりの高給取りのはずだ。店主は、上目遣いにそ…っと、男の容姿を値踏みする。

年齢は、二十代前半。脱色された髪は、ダラリ…と、片目を覆い隠している。
作業着の袖口には泥が付着し、何に引っ掛けたのか…作業着のそこここに、穴やカギザギが無数に空いていた。その足は、苛立ちを抑えきれずに、細かくリズムを刻んで揺れている…。

無理無理無理……。

後日、警察が、聞き取り調査に来るかもしれない。その時、手がかりになるような特徴…を、この指輪から探し出しておこう…。店主は再度、ルーペを覗き込んだ。

ダイヤの周りの、細かく立てられたツメの間に、粘土のような物が付着しているのが見える。泥に埋まっていた物を掘り起こし、水洗いして持って来た…そんな印象だった。


「この指輪に、鑑別書は……」
品質の良い宝飾品には、大抵、鑑別書が付けられている。それが婚約指輪であれば、なおさらの事…であった。
店主がさらに、言葉を続けようと顔を上げる、と
「もう、いい!」
トレーの上の品々を鷲掴みにして、乱暴に布袋に放り込むと、男は、きびすを返した。
「くそっ…」小さく舌打ちの音が聞こえ、壊れんばかりの勢いで開けられた引き戸から、男は、小走りに立ち去っていった。

「君、扉を…」
閉めていく、わけが無い、か……。
少し離れた路上から、咳き込むようなエンジン音が聞こえ、急発進の気配と、微かな排煙の匂いを残して、車が遠ざかっていった。

 


まったく、礼儀を知らない若造は…。
店主は、カウンターを出ると、引き戸を閉めるついでに、よいしょ!と、暖簾を仕舞いこんだ。
少し早かったが、今日はもう、店仕舞いにしよう。部屋に戻って、ビールを飲みながら、昨日流れた交換レンズを磨くとするか…。

カメラ好きの店主の顔が、ニンマリとほころぶ。手入れが悪く、カビだらけになった品だった…が、上手くクリーニング出来れば、貸し付け金にゼロをプラスして店頭に並べられる程の、それはかなり、希少なレンズであった。

なに、売れなくとも良い。その時は、「俺が、大事に使ってやるから…」
ガラスケースの下にある引き出しから、流質の交換レンズを取り出し、立ち上がろうとした店主の視界に、キラリ!と、小さな光が飛び込んできた。

 


カウンターの手前、さっきまで、作業服の男が立っていた辺りに”それ”は転がっていた。
拾い上げてみると、派手なデザインの指輪、であった。
小粒のダイヤに囲まれた、カボション・カットのオパールは、かなりの大粒だった…が、台が、ホワイトゴールドなのを確認した店主は、安価品、と、それを査定した。

覗き込んだルーペを通し、細工の間に付着した、泥が見える。
やはり、あの男が落としていった物、か……。
「ふっ…」
小さくため息をつくと、店主は、カウンターの引き出しの鍵を開けた。

領収書や印鑑の間に混じる、ゼムクリップなどの小物入れに再利用された、複数のフィルムケース…。その中から、空のケースを手に取り、ティッシュに包んだオパールの指輪を入れると、再び、引き出しの中に、それは戻されかけ…手が止まる。

引き出しの隅に、剥き出しの、使用済みのフィルムが転がっていた。数日前に行われた、町内会の、お祭りの様子を映したフィルム…。その内容の殆んどは、彼が、町内会から頼まれたスナップであった…が、中に数枚、彼が密かに憧れている、近所の女性の浴衣姿…も、写されていた……。

「現像…出さなきゃな…」

指輪のケースと使用済みフィルムが、隣り通しに並べられ、そっ…と、引き出しは閉じられた。

 


表のセンサーライトの作動を確かめ、店内の照明を落とした後、ほんのしばらく、店主は、あの、咳き込むような車のエンジン音が聞こえてこないか…と、耳を澄ましてみた。
「あの指輪…明日、現像ついでに、警察に届けておくか…」
カウンターの後ろにある扉を開けて、奥の住居へと、店主は、ゆっくりと歩き出ていった。


ミエナイヒカリ <二日目>  3.11シリーズ Ⅲ

<二日目>

 

 

 

フィルムを現像に出し、数時間後、食料品の買出しなどの用事を済ませて、戻ってきた質屋の店主の前に……
「フィルムに、最初から付いていたキズ、だと思うんですが…」
申し訳無さそうに、青年は、現像の終わったフィルムと、写真の入った袋を差し出した。

 

隣町にある、そこは、店主の行きつけの写真館だった。
つい最近、息子に代替わりをしていたが、写真の専門校を卒業した青年は、父親と大差ない腕を、持っているように見受けられた。
何より、デジタル処理の知識は今の若者らしく、つねに、最先端のモノを仕入れている。

最近、銀塩カメラのフィルムを、デジタルデータで管理し始めた質屋の店主にとって、この写真館の青年は、良き相談相手…となっていた。


質屋の店主と青年の手で、カウンター兼用のショーケースの硝子の上に、広げられた写真…。

その幾枚かの画面の、同じ高さあたり、に…ぼんやりとした、縁のボケた白い光が写り込んでいた。フィルムを灯りに翳すと、なるほど、反転した黒い影が、写真と同じ位置にあるのが見てとれる。

夜景撮影用の、高感度フィルムなのが原因…ではないだろう……。

「何だろうねぇ…」
さりげなく、店主は、例の女性の写真を探す。幸い、それらは、大きなダメージを受けてはいないようであった。
…その写真は、思いのほか、彼女の艶っぽい表情を捉えていて、数秒、彼女の写真の上で視線が留まる。


「あ!その…奥さんの写真!」
青年が、声を上げた。

「奥さんの写真ね、オレ、今日、暇だったんで、デジタル処理して、その白い光…取ってみました~!!」
デジタル化したフィルムの、画像データを入れたディスクを自慢げに振り回し、「修正済みの画像は、全部のデータの最後の部分に、追加で入れてありますから…サービスですっ!!」と、青年は、小声で質屋の店主に囁いた。

「奥さん」とは、おそらく、リップサービスであろう。被写体が、撮られたことに気付いていない…それは、隠し撮りの匂いが濃厚な数枚…だったのだから……。
「…ありがとう」
ディスクと、写真の袋を手に、質屋の店主は、こわばった表情で軽く頭を下げ、店を後にした。

 

町内会の、ウェブサイト用の写真は、管理担当の酒屋の主人に写真を選ばせた後…白い光の写り込みがあれば、デジタル修正かトリミングで対応、するとして…。

「あいつ…、彼女の画像でアイコラとか…やってないだろうな……」
青年の、いつになく浮ついた態度…が、店主の不安を煽っていた。
もし、エロティックなアイコラ画像が、ネットにアップされでもしたら……。

隠し撮りの後ろめたさと、画像流出の不安から、ついついオーバーするスピードを持て余しつつ…店主の車は、傾き始めた陽の光の中…帰路を急いだ。

 


店舗兼住居の近くに借りた、駐車場に着く頃には…さすがに、店主の頭も冷えていた。
途中、寄り道をして家電量販店で集めた、デジタルカメラのカタログを小脇に挟み、両手に食料品の袋を下げ…質屋の店主は、落ちかけた陽光に照らされた引き戸を、しばしの格闘の末…開錠した。
引き戸に掛けていた”本日休業”の札はそのままに、彼は、店内へと入っていった。


汗に濡れた開襟シャツを脱ぎ、ランニング姿になった店主は、脱いだ服を無造作に、カウンターの上に放った。と…「カラカラッ」…乾いた音が、ポケットからこぼれ出た。
「あ…ちゃ……」
オパールの指輪が入ったフィルムケースが、カウンターの上を、コロコロと転がっていく。
例の写真のことで頭が一杯になり…警察に寄るのを、すっかり、失念していたのだった。

 


カウンターの上…広げたティッシュに乗った、オパールの指輪を前にして…店主は腕を組んだ。
何かが…彼の、記憶の扉を、内側から引っ掻いていた。
写真に写りこむ、光…。
確か……。

「チェルノ…」

がちゃり!名を呼ばれた鍵は、鍵穴に滑り込み…封じられた記憶の扉を解放する。

細く空いた隙間から、禍禍しい爪先が、現れた。

扉の隙間は、溢れ出る記憶の濁流に圧され…みるみる大口を開けた…。

 

 

新婚旅行だった。妻の希望で、二人は北欧を廻る旅、を、選んでいた。

食事と共に飲んだ強い酒で、ウトウトし始めた彼を、ホテルの部屋に残し…「お土産を探してくるね」と、出かけて行った彼女…。

椅子に凭れた彼を、シャワーの音が揺り起こす。

「雨に、降られちゃってさあ~、もぉ、ずぶ濡れだよぉ~」

妻のバスローブ姿が新鮮で…彼は、濡れた髪を気に止める余裕もなく、彼女を抱きしめる。

「この…酔っ払い…」

笑いを含んだ妻の声。

手にしたタオルは、彼女の髪の水分を含むことなく…ハラリ、と、床に落ちていった。

 

この時…放射能を帯びたチェルノブイリからの風が、北欧の地に到達していた、のだが…彼らが事故の詳しい内容を知ったのは、日本に帰国してからのこと、だった…。

 

妻の家系は、癌の罹患…死亡率が高かった。

「引き金に、指が掛かっている」…妻は自分の家系を、そう表現していた。

帰国から数年後、彼女は、癌を発症した。

「引き金…引いちゃった…」

諦めの滲む、か細い声は…病室の枕に、涙と共に吸い込まれた。

 

彼は、手当たりしだいに情報を求め、問い合わせた。

専門病院、医者、治療法、新薬、民間療法……。

意識して、探したわけではないのだが…チェルノブイリの情報に、触れることも多かった。

放出された放射能は、北半球のほぼ全域を、汚染したこと…。日本の当時の食材からも、汚染が見つかっていたこと…。

事故現場の映像を、テレビで観る機会もあった、が、それらは…残留放射能で感光し、無数の白点で覆われているものが多かった。

 

「あの時、北欧に行かなければ…」

「帰国後、もっと生活環境に、注意を払っていれば……」

…そも、あんな事故さえ、起こらなければ………。

詮無い問いかけは、日々弱っていく心と身体を、無慈悲に切り刻んでいく。

 

担当医は、あらゆる手を尽くしてくれたと思う。それでも…病状の進行は速かった。

妻の死後、酒浸りの日々を通過した後…、知りえた情報のすべてを、彼は、心の奥底に…後悔の念と共に封印…したのだった……。

 


崩倒れそうになる身体を、カウンターの縁で支え…店主は、呼吸を整えようと、必死に足掻いた。

陸の上で…溺れそうだ……。

記憶の波は、怒涛の勢いで、彼を押し潰そうとする。

浅い呼吸を繰り返す、彼の背後から…オパールの指輪が、見慣れた男の指に摘みあげられ…店主は、心底驚いた。


空気を入れ替えようと、入り口の引き戸は、開けっぱなしになっていた。

引き戸からカウンターまで、数メートルの距離。

パニックを起こしているとはいえ…気配を全く感じ取れなかった、なんて……。

革靴で、Pタイルの床の上を、足音を立てずに歩くのは…かなり難しいんじゃないか…?
とっさに、どうでも良さそうな考えが、店主の心に浮かんだ。

苦笑いが…溜め込んだ息を一気に吐き出させ、呼吸が、楽になった。

 


「これ、いくらだ?」
オパールの指輪を、外の光に翳しながら、ブランドのスーツに身を固めた中年の男が、ダミ声を上げる。
常連…とまではいかないが、時々、流質のブランドバッグや宝飾品を、値切り倒して買っていく彼は、店主にとっては少々、厄介な客、であった。
「それは、売り物では……」
言いかけて、店主は口をつぐんだ。

「◆万円」
質屋の店主の提示した金額は、おそらく、この指輪の価値の、十分の一以下だと思われた。
当然のように、男は、その金額の半値を口にする。

あっさりと了承した店主に、男は、拍子抜けをしたようだった。
「あ…?あぁ……」
いつもならば、この後、カードで支払えないのか?え?現金のみ?いまどき、カードが使えない店なんて…と、お決まりのひと悶着が始まるはず、だったのだが…気を削がれた男は、素直に財布から現金を取り出し、店主に手渡した。


店主の気変わりを恐れたのか、領収書を要求することもなく、そそくさと、男は店を後にした。

「はあぁ~~っ」
大きなため息が、店内に響く。
昨日の作業服の男は、二度と、この店には来ない…。それは、質屋の店主の、長い経験に基づく勘、であった。
もし、警察が来ても、そんな男は知らない…と、言い切ってしまおう。
…いや、来店はしたが、何も預けずに出て行った…と、本当のことを言っても、問題は無い…か……。

 


オパールの指輪など、最初から無かったのだ。見てないし、触ってもいない。

この日本でも起きた、原子力発電所の炉心溶融と建屋爆破の事故…。

警戒区域での窃盗被害が、後を絶たない…とのニュースが、先日も流れていた、が……。

 

 

 

 

係わりたくない………。

 

 

 


酒屋の主人に、祭りの写真をメールしたら…強めの酒を飲んで、今夜はさっさと寝てしまおう。

酒の力にすがる日々の、再来の予感…に、彼は、唇を噛んだ。

「かまわないさ、もう……こんな………」

店の引き戸の施錠を確かめ、住居に続く扉の取っ手に指をかけた店主、は…背後から

迫る、何者かに怯える逃亡者のように、定まらない視線で振り向いた。


薄闇に青白く浮かんだ彼の顔は、まるで…寄る辺無き亡霊のように、見えた…。


ミエナイヒカリ <三日目>  3.11シリーズ Ⅲ

<三日目>

 

 


「う~れ~し~い~~っ!!」

クラブの、きらびやかな店内に…若い女の声が響く。
そう叫びながら、男の腕にしがみついた女の目は、冷静に…渡された指輪の、品定めをしていた。

大粒のオパール、遊色効果に偏りあり、ホワイトゴールドの台、そして、何よりも…。

「いや~ん!この指輪、おっきい~っっ!!」
こいつ…また、中古品を買ってきやがったな…。
しかし…学生のバイトとはいえ、最近は、指名も取れるようになったホステス、である。
掛けていた、細いゴールドチェーンのネックレスを外すと、それに指輪を通して、再び、首に掛け直す。

オパールの指輪は、女の…艶やかな胸の谷間に鎮座した。

「今夜は、目一杯サービスするわね~っ!!」
ご満悦の男から、さっそく、新しいボトルの注文が入った。

 

…さて…、この後の誘いを、どうやって切り抜ける、か…。

今夜は…久しぶりに来店する、大口の客の指名が入る予定もあって…明日の大学の講義には、代返を頼んでいた。…だから今夜は、残業OK、アフターOK…。

だが…この成金風中年男との深入りを、女は…極力避けていた。
ぼちぼち、鼻薬を嗅がせてやらないと、ヤバイかなあ……。
太ももからスカートの中へと、滑り込もうとする男の手を、ピシャリ!と叩きながら、女は、この席からを離れる算段を、思い巡らせていた。

 


賑わい始めた店内が、突然、静かになり…数人の男たちを引き連れた、着物姿の老人、が、店の中へと歩を進めてきた。
老人…といっても、足腰はまだしっかりとした、某大手企業の会長、である。
噂では、あっちの方はもう駄目…らしかったが、代わりに、彼の性癖を満足させる手段を、この店の女たちは、充分に心得ていた。

「会長さん!お久しぶりですわぁ~!」
チイママが、いそいそと出迎える。
「ひいのふうのみぃ…と、女の子、十人でいいかしら…」
連れの男たちに二人ずつ、ホステスを割り当て、老人の横にはチイママと、酒に強い、オパールの指輪の女…が、座った。

 

その席は、緊張した雰囲気に包まれていた。

酒の席を楽しむ…というより、これから一戦始まる…そんな空気だった。特に、初見の男たちの顔は強張り…悲壮感すら漂っている。
ボトルとグラスを乗せたトレーを持つ、ボーイを従え…ママが、短い挨拶を終える。
最初の酒が、ママの手で、小さなグラスに波々と注がれ……。

男と女たちの、ウォッカの飲み比べ、が、始まった。

 

 

女は、自分の部屋のベッドの上で、差し込む陽光に目を覚ました。

酔いの残る浮遊感の中で、昨夜の出来事を思い出そうとする、が…記憶が飛んでいた。

会長の、秘書を名乗る男が…べらぼうに酒に強く、自分と一騎打ちになったことだけ、は…かろうじて覚えていた、が…。

で…その後は……?まさか…成金男と…この部屋、に…?!
だが、その心配は、マンションの扉の郵便受けに入れられた、この部屋の鍵、と、某会長の秘書の名刺で…簡単に消え失せた。

 

「昨夜も、札束が山、に、なってたなあ…」
ウォッカのボトルが一本空くたびに、百万円の札束が、テーブルに積まれていくゲーム…。

酔ったふり、を許さない老人は、毎回、吐くか昏倒するまで…若い男女に、とことんまで飲ませ…醜態をさらさせた。
限界まで苦しめて楽しむ…それが、最近の、老人の遊戯…なのであった。

どうやら今回は、会長側の勝ち、だったみたいだなぁ…。
どちらにしても、積まれた札束はいつも…迷惑料の名目で、お店の取り分、と…なっていた。

 


「▼ちゃ~ん、ゴハンよぉ~」
まだ、酔いの残った口調で…女は、愛犬の名前を呼んだ。
ドッグフードを入れた皿を手に、姿の見えない、シーズーを探す。
「まだ、寝てんのかなぁ…」
ベッドの足元に、茶色と白色の、斑の毛玉が見えた。
「み~っつけたぁ~♪▼ちゃ~ん、ゴ・ハ・ン、だよぉ…」

……………
「…?……!?…き…きゃあああ~~っっ!!」

女のほろ酔い気分は、グッタリと横たわった犬の姿、で…跡形も無く吹っ飛んだ。

抱きかかえたシーズーの口の隙間から、細い、ゴールドチェーンの切れ端が垂れ下がり…陽光にキラキラと揺れている。
ハッとした女は、胸元に手をやった。例の指輪が…無くなっていた…。

 


健康診断やらワクチン接種やら…で、頻繁に通っていた動物病院は、インターホンで女の名前を確認すると、まだ、開院には早い時間にもかかわらず…すんなりと、扉を開けてくれた。

 

ワイヤーカチューシャで、ざっくりと持ち上げられた獣医の髪は…いつもより、さらにボサボサ感が増して見えた。オシャレ…などではなく、単に、髪の手入れが面倒なだけ、なのだろう。

実際、以前、シーズーの定期健診に訪れたときに…診察中、パラパラと目の上に落ちてくる前髪を、鏡も見ずに根元からバッサリ…と、事務用のハサミを使って、獣医が切り落とすのを目撃し…その無頓着さに、度肝を抜かれたこと、を…女は、鮮明に覚えていた。

あの後…カットされた前髪部分が、ハゲのように見えて…笑いをこらえるのに、苦労したよなぁ…。

獣医と看護師が、レントゲン室に移動し…待合室で結果を待つ間に、女は、ふと、そんなことを思い出していた。

次に訪れたとき…獣医の頭は、高校球児のような丸刈りになっていた記憶、が、さらに…女の思い出し笑いを誘う…

 

撮影が終わり、PCのモニターに表示された、X線の画像を前にして…獣医は、外したメガネのレンズを拭き始めた。

考え事をするときの…それは、彼の癖だった。

まだ三十路過ぎ…にもかかわらず、そんな仕草が彼を、年齢以上に老けて…見せていた。

 


獣医は、困惑していた…。口から食道にかけての白い線は、ネックレスの影だろう。胃の辺りに見える白い環が、指輪であるのは間違いない。
だが……白い環の周りに出ている、この、黒い点々は…何だ…?

以前、同じような黒い点が、X線画像に表れたことが、一度だけ…あった。
原因は、空気中を漂い、撮影器具に付着した…微量の放射性物質、だったのだ…が…。

メガネを掛け直し、天井を仰ぐと…獣医は、深く息を吸い込んだ。


犬の処置が終わり…女は、診療室兼処置室に、案内された。
指輪とネックレスは、内視鏡を使い、シーズーの腹部から、問題なく取り出されていた。

胃洗浄を済ませ、全身麻酔から醒めたシーズーは…入院用のゲージの中でうずくまり、目だけをキョロキョロと、せわしなく動かしていた。

「この指輪…使われます、か…?」
処置台の上、金属トレーの中に入った…犬の体内から摘出後、丁寧に洗浄された指輪から、視線を移し…獣医は、女に問いかけた。
立場上、行き過ぎた問いなのは…良く解っている。

だが…黒い点の原因を推察した彼には…この事態を、黙って見過ごすことは出来なかった。

獣医の、視線を逸らさぬ目の厳しさに、ただならぬ気配を感じた女は、思わず「い…いえ…、もう…」と、答えを返していた。
もしかして、呪いの…指輪…とか?!
…まさか…ね、そんな、非科学的な……。

 

外したメガネのブリッジを、指先で摘まみ、ぷらぷらと揺らしながら、またも考え込んだ獣医の前、で…女は、そっと息をついた。

苦手…というわけではない。こちらの目を凝視して、逸らさぬ彼の視線は…嘘の多い夜の世界を知る彼女にとって、むしろ…心地よくもあった。

彼の、形のよい指先が、メガネのテンプルを弄ぶ。

…あの指先で、触れて、欲しい……。

ぼんやりと浮かんだ、自分の思考に気付いた瞬間…女の顔が赤く染まった。

 

慌てて、獣医の指から、視線を逸らそうとした、そのとき…。

両手の指先で摘まんだテンプルを、開いたり閉じたり…軽い力で行われていた動作、が…突然、テンプルを強引に、左右に大きく広げようとする行為に、変化、した。

…壊れるっっ!!

女が、声を上げるより一瞬速く…それまで、使用した処置道具の片付けを、黙々と進めていた看護師が、獣医の手中から、素早くメガネを取り上げ…代わりに、針金ハンガーを、その手の中に押し込んだ。

ぐいっ…!捻じ曲げられたハンガーに、この病院のコート掛けのハンガーが、なんで、ああもデコボコなのか…女は、瞬時に理解した。

 

獣医の手から取り上げたメガネを、優しく折りたたむと…看護師はそれを、彼の診察衣の胸ポケットに滑り込ませた。それから彼女は、診療机の傍に置いてあるスツールを持ち上げ、女の前に運んで来て、いった。

「先生…ああなっちゃうと、長いですから…。これ、どうぞ…」

中年の、ぽっちゃりとした小柄な女看護師は、犬猫の多頭飼いで、仲間内では有名人なのだと…猫のワクチン接種を受けに来ていた飼い主から、以前、聞いたことがあった。

興味を持った女は、帰宅後、看護師のブログを覗いてみた。

保護動物の、一時預かり所…。『里親募集』の記事が、最初の画面に置かれていた。

…被災動物……。

被災?あの…震災の…?だってもう、あれから何ヶ月…。

しかし、考えてみれば、動物だって数年は生きる。子供も、生まれてくるだろう。

急な避難で、取り残された動物たち…。そんな彼らを訪ね、保護するボランティアに、彼女の家族は協力をしていた。保護した動物の、健康を取り戻させ、各種ワクチン、不妊手術、躾け、里親探し等々…。

「乙……」

女は呟き、ブログを閉じた。

再度、ブログに興味を持つことはなかった、が…病院の、受付の前に置かれた募金箱の中に、気付かれぬようこっそり、と…浄財を入れるのが、それからの…女の習慣になった。

 

 

「痛っ…!!」

メガネを掛けるつもり…で、顔面に、針金ハンガーを叩きつけた獣医は…状況が飲み込めず、数秒…固まった。

看護師は、黙々と、開院の準備をしている。

女は…スツールの座席の端を両手で掴み、足を踏ん張って…必死に笑いを堪えていた。

ことの成り行きを把握した獣医は、胸のポケットからメガネを取り出し、針金ハンガーの修復を試みる。…が、すぐに諦め、折れ曲がったハンガーを、診療机の上に置くと、机の引き出しに、手をかけた。


「気にし過ぎ、かも、知れませんが…」

獣医は、机の引き出しから鉛の板を取り出すと、オパールの指輪を、その板で、丁寧に包み始めた。釣りが好きな彼は、自作で、釣りの道具を造るのが趣味、で…鉛の板は、その材料の一つ、で、あった。

鉛の塊に化けた指輪を、封筒に入れる、と…。

「これ…放射能測定に出したいのですが…。検査結果によっては、ワンちゃんの治療方針も、変わってくると思います、ので…」

「その検査って、あの…お幾らくらい…」女が聞き返す。

「検査方法によって、差があるか、と…。ただ、ヨウ素やセシウム以外の核種を検査する場合は…万円単位に…なるんじゃないか、な…」

 

僕個人の興味もありますので、費用は全額、こちら持ちで…と、続けようとした会話、を…マニキュアの指が、乱暴にさらっていった。

「け…検査は!こんなモノを渡した…あの男に受けさせますっ!!」

獣医の手から、奪い取った封筒を握り締め…シーズーの入院手続きを済ませると、深々と頭を下げ、女は、病院を後にした。
封筒を、路上に叩きつけ…渋々と、拾い上げる女の姿を、ブラインドの隙間から見送った獣医は、再び、メガネを外しかけ…看護師の視線を察知し、手を止めた。

「先生は、ガイガーカウンターをお持ちでしたよね。それで測ってみても…よかったのでは?」

その手があったか!

……だけ、ど……

「宝飾品が…ベタホ石みたく反応するとしたら…それは…どれだけ高レベルの、ホットスポット、に……」

「置かれていたか…ですわ、ね…」

 

仮定だけでは…夏の怪談話となんら、変わりがない。

手が空いたら、犬の胃洗浄で出た液体と、指輪の洗浄に使った水を、ろ過しておいてくれないか。ろ紙に残った物質を、測定に出してみたいから…。

獣医の頼みに、看護師はうなずき、

「ろ過後の液体も、結果が出るまでは、保存しておきますか?」…と、聞き返してきた。

いや、そこまでは…と、いいかけ「お願いします」…獣医は、頭を下げた。

 

 

「正しく怖がる……正しさとは……なんだ?」

独りごち、て…彼は、放射性物質の体外排出の方法を、ネットで探し始めた。


ミエナイヒカリ <ミエナイアシタ>  3.11シリーズ Ⅲ

<ミエナイアシタ>


「放射線何とかの、検査をしろって言われたわよっ!」

投げつけられた封筒を、危うく取り落としそうになりながら、男は、それを両手で受け止めた。
彼の事務所が入った自社ビルの前で、出社してくる男を、女が待ち伏せをしていたのは、これが…二回目だった。
前回は、クラブのツケの支払い日に、カフェでの待ち合わせをすっぽかした…次の日、だった、か…。
「検査が終わるまで、お店には入れないから…ねっ!!」
タクシーを呼び止め、乗り込む女の後姿を、わけも分からず見送る男…に、頭上で勢いよく閉められた窓の音が、追い討ちをかける。
振り仰ぐと、二階の事務所の窓の奥に、専務=妻の、後姿が見えた。

社長の椅子に座った専務=妻は、無言で、男に向かって手のひらを突き出した。
渋々、男はポケットから封筒を取り出し、その手の上に乗せる。
今まで、男が女に贈った宝飾品の数々が、封筒の中から、机の上に転がり出た…。

机上の宝飾品を再び封筒に戻し、手元に用意していたバッグに押し込むと、妻は、ホワイトボードの自分の名前の横に、”外回り・直帰”と書き込んで、足早に扉を開け、廊下へと出て行った。

そろそろ十二時になろうか…という時間帯。営業の男たちは、全員、外回りに出ていた。

貸しビルが主業務のこの会社は、男が一代で築いたモノ…だったが、不況のあおりで顧客の転出が相次ぎ、収入はここ数年下がり気味、であった。
…リサイクルショップで、アレを売り飛ばした後、その金で、新しい指輪でも買うんだろうなあ…。
ぼんやりと考えながら、社長の椅子に腰を下ろした男の前に、入れたてのお茶が、差し出された。

お茶を運んできた事務員は、最近雇った、妻の親戚の娘…である。
男のお手付きになった、以前の事務員を首にして、妻が替わりに連れて来たのが、まだ子供っぽさが抜けないこの少女…だった。
「なんだぁ、これ?」
熱くて濃すぎるお茶の横に、奇妙な塊が、鎮座していた。
少女の細い指が、それを摘み上げる。
「おっも~いっ!」
何のためらいもなく、少女は、謎の物体の金属製の皮を、剥がしていく。
無骨な鉛の板の中から、オパールの指輪が姿を現すと、少女は歓喜の声を上げた、が、それはすぐに、落胆の声音に変わった。
「デカ~っ!!」
少女は、右手の人差し指に通した指輪を、指先でグルグルと回しながら、眼鏡越しに、男の顔を覗き込んだ。
「おじさんの浮気相手って…男?」
意外な問いかけに、思考停止に陥った彼は、無意識に湯飲みに手を伸ばし、そして…盛大に、緑色の熱湯を口から吹き出した。
「ポポポポ~ン♪だおー!!」
奇声を発しながら、机上に撒き散らされた緑の液体を、ティッシュで拭う少女…。

その姿を見下ろしながら、男は、なんで熱々の緑茶ばかり出すんだ?!夏の飲み物といえば、よく冷えた麦茶だろうがぁ…!!と、怒鳴りかけて…やめた。

どうせ、妻の差し金だろう。帳簿の記入も電話の受け答えもままならない少女を雇う理由は…税金対策と、俺への嫌がらせくらいしかない、のだから…。

 

少女の仕事は現在、部屋の掃除と、管理ソフトへの簡単な数字入力…。

だが、空いた時間も机の上で、なにやら熱心に書いている少女の手元を、男は、以前、覗き見たことがあった。

ノート大の紙に書きなぐられた文字と、縦線横線丸描いて…チョン…???

「ネームだよ~ん!」

歌うように答えた少女は、どうやら、漫画の下描き…のようなモノ、を、書いているらしかった。

「ねぇねぇ!おじさんは…黒髪メガネと金髪アホ毛の、どっち萌え~?」

……意味不明……。

中年男の目に、少女が…どこか遠くの星から来た宇宙人に見えた瞬間、だった。

 


十二時を回り、椅子の背に掛けたトートバッグから、カップ麺を取り出して、給湯室へ向かおうとする少女を、男は呼び止め、食事へと誘った。
食事をしながら、漫画のネームを描き進めようと予定していた少女は、一瞬、膨れっ面をしたが、すぐに”社長との豪華な食事”を心に思い描いて…ついて行くことに決めた。

ビルの管理人室に、事務所の鍵を預け、炎天下の街中へと二人は、歩き出した。
途中、近くのリサイクルショップに寄り、男は、オパールの指輪を査定に出してみた。
驚いた事に、指輪には、質屋で購入した金額の、十倍以上の値が付いた。
安物の指輪である事を示し、妻に、いらぬ疑いを吹き込まないように…と、牽制する目的で、食事を名目に少女を連れ出したのだった…が、とんだ、やぶ蛇である。
背後から、興味津々で覗き込む視線に気付いた男は、妻には内緒のお小遣い…と称して◆円を、口止め料として少女に手渡した。
「やたっ!これで次の同人誌、カラーページ増量~っ!!」
無邪気に喜ぶ少女を横目に、ファミレスでの安い食事を諦めた男は、飛び込みが出来る一流レストランの名前を…記憶の中に探った。


タクシーを停めながら、一瞬、クラブの女の姿が思い出された…が、たった今、手にした現金で、別の店の女を口説く算段に入った男の脳裏には、「検査」の二文字など、微塵も残ってはいなかった。


夕刻…リサイクルショップの前に、少女は立っていた。店頭の目立つ場所に、例の指輪が展示されている。
値札を覗き込みながら、「もうちょっと、おねだりしても良かったかなあぁ~」と、手に持ったアイスキャンディーを舐めながら、少女は呟いた。
クラクションの音に振り向くと、待ち合わせ場所の路上に、見慣れない車が停まっている。
「車、替えたんだぁ~?前のより、ボロいんでやんの~!」
以前の車は借金のカタに消え、でもって、こいつは盗難車…とは言えない少女の彼氏、は…「飽きたんで、売った」と、ぶっきら棒に答えながら、助手席に置かれた布袋を、慌てて、グローブボックスに放り込んだ。

車に乗り込もうと身を屈め、トートバッグを胸の前に持ち直した少女の、バッグの中から、突然、鋭い警報音が鳴り響く。

「え~!何?なに?!ケータイ?地震速報?!」

少女の手で、バッグから掴み出されたモノは…外国製の放射線測定器、だった。

それは、3.11から一週間ほど経って…やっと、海外の赴任先から、一時帰宅を許された少女の父親が…勤務地で急遽、購入してきた物、だった。

 

 

父は、妻と娘に、帰国中…熱心に、海外移住を勧めてきた。

帰国直後に報道された、米軍の、事故原発から半径80キロ圏内立ち入り禁止…のニュースに、危機感を触発された結果、のようだった。

原発の、爆発シーンの映像は、何度もテレビで流れていた、が…

「テレビの人たちは、普通に放送に出てるじゃないの。そんなに危険なら、真っ先に、逃げ出すんじゃないかなぁ…?」

地震で、机から落ちて壊れたパソコンから、夏コミ用の漫画原稿のデータが取り出し可能かどうか…が、目下の心配事の娘、と…ガソリンスタンドが在庫切れ、か、長蛇の列で給油ができず、車での外出もままならない…と、嘆く母親……。

放射能漏れの危険など、遠方の話…と、母娘の二人にはいまいち…実感が湧かない、のであった…。

 

心残りのまま…数日後、父親は赴任先へと戻っていった。

その後しばらくは、移住を促す電話やメールが、毎日のように届いていた、が…やがて、数日置きとなり…最近では、週に一度の電話で、家の様子をを聞いてくる程度、になっていた。

 

 

父親が、出国した同じ日…横須賀基地で定期修理中だった米空母が、修理を切り上げて、出港した。

事故原発から、300キロは離れているのに、どうして…?

不安になった少女は、父が置いていった放射線測定器のスイッチを入れてみた。

画面には、0.1マイクロシーベルト超えの数値が表示されていた、が…それがどういう意味なのか…少女には解らなかった。

ニュースでは、東北4県で、ホウレンソウとカキナから、暫定基準値越えの放射性物質が検出され、出荷制限…と報じていたが、官房長官は、これを数回口にするだけでは健康に影響はない、と、強調していた。事故原発の2号機と3号機から煙が出て、放射線量が上がったといってたけれど……海外メディアでは『フクシマ50』と、電力会社の社員らの行動をたたえる報道が、相次いでいた。

 

ダイジョウブダイジョウブ

 

雨の滴が、窓を伝っている…。

少女は、放射線測定器を、近くにあったトートバッグに放り込むと、その存在を…忘れた。

同じ日、東京では雨やチリなどの降下物の中から、1平方メートル当たり3万ベクレル超えの放射性ヨウ素が、計測されていた…。

 


「うわぁ~っ!忘れてた!なに?故障?いつスイッチが入ったのぉ~!?」
鳴り止まない放射線測定器を持て余し、少女は、それを歩道の植え込みに投げ捨てる、と…車に乗り込み、叫んだ。
「…出して!!」

男の、脱色した髪が揺れ…咳き込むようなエンジン音をたてて、車が、走り出す。



……やがて訪れる暗闇に、最後の戦いを挑むか…のように、晩夏の夕日に照らされたビル街は、燃えるような紅に、輝いていた……。

 

 

 


補足:ミエナイヒカリ  3.11シリーズ Ⅲ

<一日目>…の補足

★オパール:宝石の中で、唯一水分を含む(成分中の、約10%)…ということで、放射性物質を、吸着しやすいのでは…と憶測し(間違いの可能性あり)、作品中で、使用しました。

 

 

<二日目>…の補足
★銀塩フィルムの被曝感光:実は、”現像前の、ケースに入ったフィルムは、被曝感光するか…”の確認は、取れていません。ネットで色々と検索してみたのですが、「空港のX線で、高感度のフィルムが感光してしまう」及び、「高感度フィルムは、長期間の放射線照射下では、ガラスバッジの代用品となりうる」事くらいしか、情報が拾えませんでした。なので、仮に、被曝感光が起こるとしても、それが、点状なのかハレーション状なのか…不明です。ましてや、たった一晩で被曝感光する、放射線量とは…論外な線量なのではないか…と、推測します。
ですので、文中の出来事は、絶対にありえない、嘘の現象…かもしれません。

 

★被曝物質の持出し:放射性物質で汚染された物を持ち出せる、合法的な基準値は、現在100,000cpm(2011年9月現在)…だそうです。(これを超えたら除洗します)シーベルト換算で、1ミリ弱(これは、セシウム換算と思われます)になるようです。
1ミリシーベルトって、3.11以前の、1年間の許容量の上限ですよね…。そんなモノを、身近に置いていても大丈夫なのでしょうか…。

 

★★北欧の黒い雨:このシーンは、フィクションです。放射性物質の到達後…北欧(の観光地)に、雨が降ったかどうかの記録は、未調査です。

 

 

<三日目>…の補足
★X線画像の被曝感光:3.11以後、コンピュータX線撮影(CR)の画像に、黒い点が認められる…という情報が、関東周辺の医療機関から、相次いで報告されました。この話は、それに基づいています。ただ、「金属に付着した放射性物質を撮影」したときに、どのような画像が現れるのか…については、確認できませんでした。ですので、画像の説明のくだり、は、私の想像に過ぎません。本当は、全く違う画像が映し出される…のかもしれません。

 

★★ベタホ石:放射能鉱物の一つで、ウランを主成分としている天然石。ガイガーカウンターのテストサンプルとして使用できるようです。

 

★★ろ過物の放射能測定:Qベク(放射能市民測定室・九州)さんでは、独自開発の『エア・サンプラー』でフィルター(ガラス繊維、GB100R)に捕捉した放射性浮遊物を、NaIシンチレーションにて、計測をしていらっしゃいます。よって、ろ紙の測定も可能ではないか、と、判断しました。

 

 

<ミエナイアシタ>…の補足

★ポポポポ~ン:某CMの歌の歌詞。放映当時の社会情勢から、トラブルが連鎖して状況が悪化していく…の、ネットスラングとしても使われていました。

 

★夏コミ:東京国際展示場(東京ビックサイト)で夏に開催される、日本最大の同人誌即売会のこと。

 

★★米空母:空母ジョージ・ワシントンは、3月21日の午後1時過ぎに、定期修理を途中で切り上げて横須賀基地を出港しました。当初は20日昼頃の出港予定でしたが、直前に延期され、21日朝8時の予定がさらに変更されました。この二度の延期と、20日朝からの3号機格納容器の圧力上昇との関係が、様々な推測を呼びました。

 

★★0.1マイクロシーベルト超え:3月21~23日の降雨後、関東での放射性物質の濃度が増加しました。

※以下の数値は『J-CASTニュース 2011年4月2日【東京の放射線量 埼玉、神奈川、千葉より高いのはどうしてか】』の記事より、一部転記しました。

 

 ◆3月15日  東京 0.809マイクロシーベルト(最大)

  ※爆発時   埼玉 1.222マイクロシーベルト(最大)

 

 ◆3月20日  東京 0.044マイクロシ-ベルト

  22時時点  埼玉 0.059マイクロシーベルト

  ※降雨前   千葉 0.031マイクロシーベルト

 

 ◆※降雨後のピーク

  23日1時  東京 0.154マイクロシーベルト

  23日2時  埼玉 0.134マイクロシーベルト

  22日21時 千葉 0.125マイクロシーベルト

 ◇※気象庁による降水量:21~23日の合計

   東京都で35mm  埼玉県さいたま市で38.5mm  千葉県千葉市で39mm

 

 ◆文部科学省による降下物中の放射性ヨウ素の計測値

  (採取された雨やちりなどの降下物から、1平方メートル当たり)

 

 ◇21日~22日 東京 3万2000ベクレル

   ※9時~9時  埼玉 2万2000ベクレル

             千葉 1万4000ベクレル

 

 ◇22日~23日 東京 3万6000ベクレル

            埼玉 2万2000ベクレル

            千葉 2万2000ベクレル

 

 ◇23日~24日 東京 1万3000ベクレル

            埼玉 1万6000ベクレル

            千葉 3100ベクレル

 

 

 

2011年9月24日記入 ※★★部分は2013年8月14日に追加記入



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