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アスカ誕生

 取りあえず、この物語の第一幕を締めくくる情景が広げられている。ネヤガワ工業の応接室にはウルマノフの他、協力メーカーの社長の姿がある。一人、また一人と加わって狭いと感じるほどになった。社内の技術屋から試作船が期待以上の性能を示したという報告をきいて駆けつけてきたのである。互いに笑顔で肩をたたき合ってはいるが、大騒ぎをすると言うより、コーヒーを飲みながらわき上がってくる喜びを噛みしめているのである。
「この男は、」
 クルーガー社長はウルド特殊車両のモーリス社長にウルマノフを指さして言った。
「前から、ひねた奴だった」
 ウルマノフに対して、もう少し素直に嬉しそうに喜んだらどうだと言っているのである。
 ウルマノフはにやりと笑って返事を帰した。
「これからだよ。まだ、これからだ」
 みな、ウルマノフの言葉に頷いた。経営者として現実的な目を持っている。しかし、慎重な言葉と裏腹に、その言葉の語感は先の見通しが付いた明るさを感じさせる。ウルマノフは、ふと思い出したように言った。
「よし、あの女にも知らせておいてやろう」
 ロイドの元に連絡を入れる事にしたのである。ウルマノフはオスマイルを通じてロイドを呼び出して、彼女の映像に向かって言った。
「私たちの新型船MSC─Xは『アスカ』と名付けることに決めました」
 名称が付けられたと言うことは、正式に製造に移ると言うことを示していた。経営者達にとって、こぼれ聞こえた『アスカ』という名は初耳だが、新型船の名称ぐらいはネヤガワ工業に優先権があるだろうと笑ってみていた。
 『アスカ』というのは地球の古い言葉だった。地名を表すこともあるが、もともと「飛翔する鳥」という意味だと、ウルマノフはニシダから聞いていた。ニシダが自分たちの手で開発した船体につけるつもりだった名称である。火星市民の自主開発を振り返ってみれば、ニシダという頑固な小男に行き着いてしまうような気がする。名称だけでも引き継いでやってもいいと考えたのである。なにより、MSC─Xの鳥のように滑らかな外観は、その名にぴったりだった。
 
 運輸交通部本部の部長室で、ロイドの傍らにオスマイルが居る。ウルマノフからの連絡をロイドに引き継いだ。
(開発が成功した。)
 ウルマノフの用件はそういう連絡に違いなかった。オスマイルは電話口から漏れ聞こえる会話からそう判断して、髭を撫でつけた。満足したときのオスマイルの癖である。
 ウルマノフの声が一段と大きくなって、ロイドに語る言葉の内容がはっきり、オスマイルにも聞き取れた。
「ロイドさん。最後に年長者のアドバイスとして聞いてくれ」
 ロイドは突然の提案に面食らったようだ。ウルマノフは続けてロイドに語りかけた。しみじみとした口調で年輩者らしい落ち着きと説得力がある。
「頑固はいけないよ。人間、素直が一番だ」
 ロイドの反論を待つまでもなく、ウルマノフは電話を切ってしまったらしい。ロイドは苦笑いを浮かべるしかない。突然に会話を終えたロイドは、オスマイルに命じて言った。
「たしか、技術供与制限法の追加の通達が来てたんじゃなかった?」
 オスマイルにとって、たしか、どころではない。
「毎日、実施はどうなっているとつきあげられてますが、、」
「あら、大変ね。至急検討するから、私に回してちょうだい」
 新型船について、その開発すら制限しようとする通達を、彼女は今まで、アスカの完成まで握りつぶしていたのである。通達は開発計画途上の船体を対象にしたものだから、試作機が完成して製品になってしまえば規制の対象から外れるのは間違いがないのである。
 オスマイルは思った。
(ホンマ、怖いおばはんやで)
 
 ロイドが立ち上がって窓の外を見ると、人々が見えた。この区画は行政の中心地だった。独立を求める人々のデモ隊と警官隊が衝突していた。道路が封鎖されて火炎瓶が燃え上がり、警官が催涙弾で応射するという激しさである。
(もう、避けられないのかもしれない)
と、独立闘争のことを考えたのである。
 
 格納庫ではいよいよアスカが航行試験のために宇宙空間に移送される準備が進んでいた。宇宙を航行する日が近づいているのである。「アスカ」と名付けられた船は、やがて開発メンバーの想像を超えて、火星市民の誇りと運命を託す船体に育って行くのである。もちろん彼らには、この後まだ、いくつかの難関を抱えている。
 
 しかし、今しばらくは、この連中を喜びの中で、そっといておいてやっても良い。
                                   
 
*カティア・ドノバン : この「アスカ誕生」に登場するドノバンの娘です。最終話では成長したカティアが、ウォルヒとともにヒロインとして登場します。

あとがき

 長い作品に最後までおつきあいいただいてありがとうございました。

 ただ、この物語はこれで終わりではありません。人々の夢や期待を紡いで姿を現したアスカは宇宙空間を航行する許可を得て、いよいよ宇宙空間に運ばれ、この物語の途中に少し登場したジーン・フランクリンとサナカ・オボテの2人のテストパイロットに委ねられます。その二人の物語はまた改めて。
 
また、後にレスキュー仕様に改造されたアスカの物語がすでに公開済みです。もし、よろしければお読みください。
「赤い大地のレスキュー」

キャラクターイメージ資料

  私にとって、長い物語を書き上げるとき、小説では文章で表現する人物を、イラストにしてキャラクターのイメージを固めていることがあります。この作品の資料を整理していて、そんなイラストが数枚出てきましたので公開しますね。

興味がある方はご覧ください。皆様が小説から得ていたイメージと違うでしょうか?

 

パク・ウォルヒ

名前からも分かるとおり、朝鮮半島系の血筋の女性ですが、物語りを描き始める段階では中国系のキャラクターでした。現在の韓国人女性でよく見かける目元がぱっちりした感じはなくて、切れ長のイメージでした。

 

エリック・ドノバン

 

イマムラ

 

エレン・ウィリアムス

 

ニシダ社長

ネヤガワ工業の創業者で先代の社長です。頑固な中小企業のオヤジです。

 

ジーン・フランクリン

今回の物語では姿は見せず、新人社員を呼ぶ声だけの出演でした。続編の「アスカ飛翔」では主役の一人としてアスカのテスト航行を行います。

 

 

 

 

 

とりあえず、出てきたイラストはここまで、他のキャラクターのイラストも出てきたらUPするかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 


奥付

 

アスカ物語 ~アスカ誕生~


http://p.booklog.jp/book/74823


著者 : 塚越広治
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/ken19570420/profile
 
 
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この本の内容は以上です。


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