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”ワタシ”の名は…(2011年初稿) <3.11シリーズ Ⅰ>

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建物の外壁には、大きな穴が開いていた。
穴からは、白い気体が、勢いよく噴き出している。

‥‥‥大きな揺れがあった。大きな波も押し寄せてきた‥‥‥。

”ワタシ”は、同胞たちが集まるはずの部屋へと、建物の内部を、急ぎ進んで行った。

 

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爆風で歪んだその扉は、開けられることを拒み、壁の一部と化していた。
が、壁と扉との境目に出来た、わずかな隙間から”ワタシ”は、身体をねじり込ませ、室内へと入り込んだ。

灯りの消えた室内は、意外にも明るかった。天井に開いたひび割れから、外の光が入り込んでいる。
剥がれ落ちた天井、その瓦礫の下に、押し潰された同胞の、身体の一部が見えた。
動かないモノ、まだ、生きている気配がするモノ‥‥‥。

難を逃れた同胞たちは、部屋の片隅に集まり、身を寄せ、遠巻きに、その惨状を見つめている。
不思議な事に、瓦礫のごく近くに倒れた同胞の中には、身体に傷一つ見当たらないにもかかわらず、息絶えているモノが、数多く見受けられた。

 

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ドオオ~ン!!
再び、大きな爆発が、室内を揺さぶった。
天井の裂け目が大きくなり、落ちてきた瓦礫が、”ワタシ”が入ってきた扉と壁の、わずかな隙間を塞いだ。

出口が‥‥無くなってしまった‥‥。

絶望の静寂の中、大きくなった天井の裂け目から、染み出すように、白い気体が入り込んでくる。
高温に熱せられた『ソレ』は、天井伝いに広がり、冷えて水滴となって、同胞たちの頭上に落ちてきた。

 

‥‥‥どれくらいの時間が経ったのか‥‥‥。

 

「カリカリカリ‥‥‥」
空腹に耐えかねた同胞が、瓦礫の下から突き出た足を、齧る音だった。
「カリカリ」「ガリガリ」「ボリボリ」「グチュグチュ‥‥」
しだいに音が、増えていく。

空腹を満たし、満足した同胞が、壁を背に座り込んだ”ワタシ”の前に立ち、手に持った『ソレ』を突き出した。
だが、”ワタシ”は知っていた。『ソレ』を口にしたら、どうなるのかを‥‥。

突然、同胞の口から、大量の液体が吹きこぼれた。
倒れこんだその身体は、細かく震え、しかし、しっかりと”ワタシ”を見据えるその目は、こう叫んでいた。


「ナゼ、ホントウノコトヲ、オシエテクレナカッタノデスカ‥‥‥!?」


ボキッ!!
”ワタシ”は、倒れた同胞の腕をもぎ取った。
瓦礫に染み込んだ『ソレ』に殺されたモノたちの身体よりも、この腕のほうが、いくらかは『ソレ』が、薄められているように思えた。

「カリカリカリ」
”ワタシ”は、同胞の腕を食べ始めた。

 

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「おおお~~~い!!」
遠くから、声と共に、刺激を含んだ匂いが漂ってくる。
そういえば、この建物は、建設当初から常に、色んな匂いに取り囲まれていた。

ハンバーガー、フィッシュ&チップス。最近は、高級なワインの香りもしていたようだ。
”ワタシ”をサカナに、そいつらは、いつも宴会をやっていた。

‥‥食ってやる‥‥。
”ワタシ”は、近付いてくる足音に、息を吸い込んだ。
今度こそ、食ってやる‥‥。口の端から、苦い液体が滲み出してくる。

‥‥いや‥‥、この弱った身体では、やっぱり食われるのは”ワタシ”か‥‥‥。

 

「ここだあぁ~」
死なばもろとも、”ワタシ”は声を上げた。


「ここだ!!
‥‥”ワタシ”の名は‥‥‥」

 

 


補足:”ワタシ”の名は…(2011年初稿)

『”ワタシ”の名は…(2011年初稿)』は、行間の変更以外、某ブログにアップした当時の原稿のままで、公開しています。

「小説」という形では、初めて書いた作品…とはいえ、独りよがりと説明不足の感は、否めません。

脱稿から数年経ったいま、読み返してみて、「これって…どんな意味だっけ?何の比喩で、この表現を使ったのか…?」と、自分自身解らない部分も…現在、何箇所か存在します。

 

そんなわけで、初公開当時の、読者からのコメントの一部…と、その返答を、下記にまとめてみました。ほんの少しでも、本作品の理解の助けとなれば幸いです。

 

 

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☆コメント:1
もしかして バ〇〇ン の話ですか? 違うのかな?

なんだか 原発事故後に読むと 余計シリアスに感じますね…
毒となるものの恐ろしさを 実感いたしました。

 

★コメント:1 への私からの返答

お!〇〇さん、鋭い!!
「この文章を視覚化するなら、某建物内に住む、ゴキブリ目線で‥‥」と、考えながら書いていましたので、ある意味、正解です~!

”ワタシ”の名は、「原発利権」でも「電力利権」でも「日本の原発」でも、「バルサ〇」…それに追われた「ゴキブリ」でも‥‥、お読みになった人の、受け取り方次第‥‥だと思っています。
ラスト辺りの「ハンバーガーうんぬん」は、角が立つなあ~と思って、ワザとぼかして書いています…ので、その「物」が象徴する国の名を、そこに当てはめてみて下さい。

 

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☆コメント:2

前のコメント(への返答)を見てやっと理解できました~。
たくさんの解釈があるんですね~。


★コメント:2 への私からの返答
判り辛い‥伝わらない‥。「造り手の自己満足」でしかない‥かもしれない作品は、読んでいて辛いということ‥。
重々承知してはいましたが、今回は、それを意図的にやってみました。

この作品は、自分の非力さを、実感するために書き上げた‥のかもしれません。
日々侵されていく命を前に、何もできない歯痒さ。以前と何も、変わらないかのような、毎日の繰り返し。
‥しかし、確実に「そこにある」危機‥。

そんな「焦燥感」が伝われば、この作品を書き上げた意味も、出てくるのかなあ‥‥と、思っています。

 

 

2011年9月2日記入


奥付

 



2011年8月27日 第一稿(旧著者名:夏樹)

2013年7月27日 第一稿〔ママ〕(著者名:咲.)

 

 

”ワタシ”の名は… (2011年初稿)


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著者 : 咲.
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