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放射戦士”シーベル”と”ベクレル” <3.11シリーズ Ⅱ>

ヒーローの決め技は、一話1回……と、それは、業界の暗黙の了解事…だった。

 

「100回に増やすぞ!決め技!!」
監督のヤマシは、事もなげに言い放った。
スタッフ達は、驚きを隠せない。
「100回…!?いくら、なんでも……」

いくらなんでも、それでは【敵】に過酷すぎる……。

だが、相手は業界でも有名な、ヤマシ監督である。反論を口にする者は、誰一人いなかった。
「100回…ですね?主人公シーベルの決め技は、100回…。即刻、脚本の先生に書き直しの連絡を…!」
助監督の声に、ロケバス内は、急に慌ただしくなった。

 

 

『ホウシャ戦士シーベル』は、三月から始まった、特撮ヒーロー物である。
その道では大御所の、ヤマシを監督に起用したにもかかわらず、視聴率は低迷していた。

「華が、無いんだよなあぁ」
ロケバスの天井に貼られたポスターを見上げながら、ヤマシは呟いた。
「こう…変幻自在の、技の多い味方キャラが、欲しいよなあぁ…」

 

「内部破壊専門の、”ベクレル”ってのは、どうっすかあぁ?」
耳ざといコハシが、声を上げた。
「”シーベル”の技は、外部攻撃だけじゃないっすか!【敵】は、超大型なんですよ?
体内に入り込んで攻撃…ってのも、アリじゃないっすかねぇ…」

CG担当のコハシは、リアル重視のヤマシの仕事に、不満を持っていた。
(アクションシーンなんざ、CG使えばもっと、ありえねーっ!!て迫力、出せるのによぉ…。ロートル野郎の頭の硬さには、辟易するぜぇ……)

「それで…ですね!」
聴いているのかいないのか、無表情のヤマシを前に、コハシは話を続ける。
「攻撃場所によって、技を使い分けるんですよ!
【敵】の骨格には、スト〇ンチウムボンバー。動力部には、セ〇ウムビーム。プルト〇ウムは…そうだな。直接攻撃ばっかじゃ能が無いから、ミスト噴射で排気システムを、じわじわと破壊する、とか…」

これだけ多彩な攻撃シーンを映像化するには、実写では、機材や撮影時間に無理が生じる。
そう…今度こそオレの、CGの出番だ…!!
コハシは、心の中でほくそ笑んだ。

 

「そんなに攻撃をかけたら…シーベルの出番を待たずに、【敵】は倒れてしまうのではないかね?
【敵】を倒すのはあくまでも、主人公であるシーベルでないと、視聴者は、納得しないと思うのだがねぇ…」
しまった、調子に乗りすぎたか…。

鼻白むコハシを一瞥しながら、ぼそり、とヤマシは呟いた。
「だがまあ…【敵】にも回復や防御のチャンスを、与えればいいだけの話、だな。
ジト〇バリアーとかアエント〇バキュームとか…」

 

ベクレルは、妖艶な美女がイイな。
幾人かの女優の名前を、口の中で転がしながら、ヤマシはロケバスから降りていった。

 

 

女戦士ベクレルの登場で、『ホウシャ戦士シーベル』の視聴率はグン!と跳ね上がった。
華やかな、CG合成の攻撃色も話題となった。

「スト〇ンチウムは深赤、セ〇ウムは青紫。プル〇ニウムは透明の揺らぎで表現……。
技の名を声高に叫ばないのに、なんの攻撃かが目に見えて判るのは、イイねぇ~!!」

ベクレルの、静かな攻撃……。
”くの一”をイメージしたベクレルの妖艶な魅力は、じわじわと、ファンの数を増やしていった。
同時に採用された、敵キャラの”ドクターマッチポンプGE”が、ベクレルの技を絡めとり、彼女を痛めつけるシーンも、コアなファンを虜にした。

 

 

DVDの売り上げも好調で、番組の延期も、検討され始めた頃……。
好事魔多し。クレームは、意外な所から入って来た。

「F国で、DVDの発売が中止?ベクレルの、攻撃シーンの淫靡さが、クレームの原因だって…!?」

海外の表現規制が厳しいのは、日本でもよく知られていた。海外用に、攻撃シーンを抑えたバージョンが作成されていた筈なのだが、なぜか、日本版がF国に、輸出されてしまったようであった。

「まずいなあ…海外でのクレームは、作品の印象が悪くなる…。
これは…厄介な事になるぞ……」
案の定、日本での規制は緩過ぎるのではないか…との書き込みが、ネット上で増え始めた。

 

 

「これは…スポンサー様!!いつも御世話に…。
えっ?…こ…攻撃の回数を、ですか…!?」
番組大手のスポンサーから、攻撃の回数を減らすように…と、ヤマシに電話が入った。

 

ベクレルのシーンは、視聴者の受けがいい。
シーベルの見せ場を減らすしか、批判を逸らす方法は無い…と、ヤマシは判断した。
100回攻撃への視聴者の反応を、もう少し見たかったが、スポンサーの命令では従うしかない。

20回に減ったシーベルの攻撃は、それでも多すぎる…との、謗りの声を受け続けた。

「ヒーローの決め技は、一話1回で充分だ!」
「そう決まっていたんだ!昔からな!!」

 

 

 

「ホウシャ戦士”ベクレル”……」
監督のヤマシは、口元を歪め、煙草に火を点けた。

「本当の主役は、シーベルじゃない。そう…ベクレルこそが、真の……」
ロケバスの天井に伸ばしていた手を下ろすと、ヤマシはライターの火を、剥がしたポスターに近づけた。

 

視聴者が、いつ、その事に気付くのか……。

ヤマシの足元で、火の点いたポスターが、チリチリと炎を上げる。

ポスターの端に、【敵:人間】の文字が微かに見え…それは白く炭化し、ホロホロと燃え落ちていった……。

 

 

 

 


補足:放射戦士”シーベル”と”ベクレル”

本文中の、比喩や伏字部分の補足です。

 

 

★ヤマシ監督:「年間100ミリシーベルトまでOK」と発言した某教授から。
(2011年9月現在)外部・内部被曝を合わせた世界基準値は、年間1ミリシーベルト(外部被曝と内部被曝と自然放射線の影響を合計して)です。現在の日本は「暫定基準の20ミリシーベルト」を使用。これは、原子力事業従事者の本来の基準値にあたります。「100ミリシーベルト」は、癌が発症する可能性が出てくる、とされている数値です。

 

★コハシCG担当:「プルトニウムは飲んでも大丈夫」と発言した某教授から。

プルトニウムは、肝臓に蓄積されるという指摘が有ります。粉塵状のものを吸い込むと、肺に蓄積し、肺癌の危険性が出るとも言われています。

 

★ジト〇…&アエント〇…:ジトリ&アエントリ、のこと。体内に入った放射性物質を、対外排出させるための薬の名称(の一部)です。

 

★ドクターマッチポンプGE:「原子炉を作った会社」(放射能を作り出す側)と、上記の、「”超ウラン元素体内除去剤”を販売している会社」(放射能を除去する側)への出資元が、「同じメーカー」なのを揶揄しています。

 

★F国のクレーム:日本からフランスに輸出されたお茶が(当時)、基準値超えで、フランスの検査で弾かれたニュースのもじりです。

 

 

以上、記憶を頼りに書き出してみました。

間違い(もしくは2011年9月以後、変更や改定になった事柄)があるかもしれません。

気付かれたことなど御座いましたら、御指摘いただければ幸いです。

 

 

2011年9月4日記入


奥付

 

 

 

2011年8月31日 第一稿(旧著者名:夏樹)
2013年7月24日 改訂稿(著者名:咲.)


 

放射戦士”シーベル”と”ベクレル”


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著者 : 咲.
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