目次
もくじ
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原色宇宙人大図鑑
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祝辞
先生からの祝辞イラスト その1
先生からの祝辞イラスト その2
先生からの祝辞イラスト その3
先生からの祝辞イラスト その4
先生からの祝辞イラスト その5
先生からの祝辞イラスト その6
「未来アイテム研究所」大友そーりん
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「未来は既に腐っている」 諸星ゆびわ
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「 宇宙についての6つの物語」 松田リアル
「宇宙についての6つの物語」
1<ふたご座流星群>
2<不穏色の空>
3<夕暮れの流れ星>
4<流線型アリス>
5<夏の椿>
6<宵待月>
「美女」画ギャラリー Mono-Chrome 氷魔
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スタッフ募集
めさき出版スタッフ募集のお知らせ
第四回新脈文芸賞
トビラ
「恋人」夢沢怪奇
「恋人」の選評
「黒い葬式」北橋勇輝
「黒い葬式」の選評
「魔女の森」松田リアル
「魔女の森」の選評
「知らぬが仏、知ったが仏」林ノ池
「知らぬが仏、知ったが仏 」の選評
「猫の檀家さん」小島パブロン
「猫の檀家さん」の選評
「時をかける脱衣」遠藤玄三
「時をかける脱衣」の選評
めさき文庫のおしらせ
めさき文庫、第一弾「二十五度サマー」遠藤玄三
編集後記
編集後記
奥付
奥付

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めさき出版スタッフ募集のお知らせ

 
 めさき出版では一緒に雑誌を作っていくスタッフを募集しています。
 
■応募資格
 
 インターネットに接続できること。
 これだけです。
 
 経験などは不問です。一応、プロやセミプロの方も参加していますが、編集長自体は素人そのものだし、基本的には素人のために作られた雑誌です。やりたいことや、経験してみたいことをどんどんやってください。
 
 ちなみに、現在の参加メンバーの年齢は10代〜60代とかなり幅広い感じになってます。
 年とか経験なんて飾りです! なにを作るかだ!
 
■投稿作品について
 
 基本的に、ジャンルや量は問いません! しん宇宙は何でも受け入れます! 作品の形式はテキストか画像にて投稿してください。
 それと合わせて、ちょっと無理そうだけどやりたいこと、手が必要なことがあればどんどん相談してください。めさき出版編集部が出来る限りのお手伝いをさせて頂きます!
 さらに、現在めさき出版では雑誌に掲載された原稿が一定量たまり、規定を満たした方のものを電子書籍化する「めさき文庫」を立ち上げています。
 その際には参加メンバーみんなでお手伝いし、個人ではなかなかできないクオリティのものを提供できると思います。
 
 記事の投稿は jii_syuppan@mail.goo.ne.jp にお願い致します。 
 
 よくわからない時は気軽にコメントしてください。
 Twitterで質問してくれてもかまいません。
 編集長のTwitterアカウントは@yes_ksです。
 

「恋人」夢沢怪奇

「恋人」 夢沢怪奇

 

 

 私はここ最近、生まれてはじめて恋をした。

 何せはじめての感情だから、私自身どういう風にこの胸の高鳴りや不安定な気持を制御すればいいのか、皆目見当がつかない。

 友人に答えを求めてみたが一笑されるだけだった。こんなやつ友人ではないと思ったが、しかし考えてみると無理もない。

 私は大学を卒業するとすぐに一介のサラリーマンとして仕事をし、女性ともあまり関わらず十年間、真面目に生きてきた。

 そんなやつが突然、恋をしたんだ、なんていっても現実味がわかない。きっと冗談だと思って取り合わなかったんだろう。

 いやそう考えてみても友人の対応は友人らしからぬものか、と私は思った。では何だ? そうだ! 友人ではなく、詐欺師と呼ぼう。ヤツは私のことを友人と呼ぶが、私はヤツのことを詐欺師と呼ぶ。純朴な人間を馬鹿にした罰さ……。

 友人が助言してくれないとなると、私は誰をあてにすればいいのだろう……親は病気で死んだ、兄弟はいない、仲のいいやつなんて詐欺師の他にいない。

 となると占い師やその他諸々が思い浮かぶが、いくら私とてそんな馬鹿なことはしない。どうせ誰にでも言えそうなお決まりの文句をいわれるだけさ、ならばどうするか? やはり孤独に黙然と歩を進めるしかあるまい。

 まず何をすればいいのだろう? ラブレターか、話しかけるか、いやどれにしても私のような不器用な人間には出来そうにない。やったとして気味悪がれるだけであろう。ならばどうすればあの麗人と添遂げられるんだ。いや結婚まで行かなくとも、せめて一遍話をしたい。

 麗人宅は、私の家の向かいにある。いつも二階の窓が開かれていて、薄地の白いカーテンが小さな風にはためいている。夕方になると、はためくカーテンに小柄な人の輪郭が浮び上って、時折カーテンの隙間から美しい顔が、密雲に隠見する蒼褪めた月のようにして確認出来る。

 それがまた憎くて憎くて、ずっと麗人の顔をみていたい私は、夕方になると密かにカメラを設置し、麗人がいる窓辺を撮るのだ。

 そして夜な夜なカメラにおさめた麗人の顔をみてはニヤニヤしていた。

 実にむなしく変態的だ。ところがそんな私にある日、一条の希望が射込む。

 それは暖かい春の午後だった。その日休暇だった私は家のなかで本を読んでばかりいて、これではストレスが溜まるうえに非健康的だと判断し、着の身着のまま靴を戛戛鳴らして外に出ると、あにはからんやあの麗人が私の家のブロック塀に寄りかかり、気分悪そうに俯いているではないか!

 これは僥倖だと思って麗人に声をかけた。

 しかし応答がない。

 もう一度声をかけると、麗人宅から女中が出てきて私に一礼、続いて流れるように謝罪を示すと、麗人を引き連れ、麗人宅に引っ込んでしまった。

 一人取り残された私は、あの麗人の虚ろな瞳を思い出した。映像のなかではわからなかったが、あの虚ろで仄白い瞳は、盲の瞳である。加えて話しかけても応答しなかったあたり、聾であるかもしれない。

 私は初恋の人の不幸を推測して元気を無くしてしまった。仕事は捗らなくなり、詐欺師もそんな私をみて幽かに心配の色をみせた。だから相談してみると、詐欺師は意外にも真剣になって応えてくれた。私は嬉しくなって洗いざらい話してしまうと最後にこういわれた。 「心配するな、なんとかする」

 私はこれを機に詐欺師を改め友人と呼び直すことにした。

 それから一週間、私は真面目に仕事をしていたのだが、日曜の朝、あらぬ光景を私の家の窓辺から目撃して、私は驚きとともに激甚な精神的ショックを受けた。

 目眩を感じながらも寝室まで駆け込み寝台に飛び込むと、あの呪うべき光景が頭のなかで浮かぶ。

 友人――いやあのどうしようもない詐欺師は、私を裏切り、私が見初めた麗人を奪ったのだ。詐欺師は麗人と抱き合ったまま麗人の家から出てきて、私が見ていることに気がつくと、微笑を! いや違う! 憎むべき嗤笑を! 私に差向けたのだ!

 私はショックのあまり、仕事へも行かなくなり、詐欺師をどうやって殺害しようか、そういう陰険なことばかり考えていた。詐欺師はなぜ私が仕事を休んでいるのか、訳をしっているくせして見舞いにもきてくれない。

 憎しみをあたためあたため、そうしているうちに私は、ある考えが思い付いた。

 やつとともに、死んでしまえばいい。詐欺師を踏切までつれてきて、轢死してやるのだ。見初めた女を奪われたんだ、それくらいしなければ罪は償われないだろう。

 実行する日は日曜日、やつが羨ましくも麗人とデートをする際に通るどこにでもありそうな踏切で、やつの躯を抱きしめ、私もろとも走っている電車に飛込むのだ。

 その日は実に静かに訪れた。空は澄んで空気は暖かい、眩しいくらいの陽光が私の不気味な雪白の肌を射抜く。何ということもない平穏な一日、二人のバラバラの死体が宙を舞う惨劇が起こること、私はそれを想像する度、今まで経験したことがないほど足や手が震え、氷刃で撫ぜられているかのような限りなく痛みに近い悪寒を背中に感じていた。

 そんな状態で踏切前の空家で麗人と詐欺師が来るのを息を潜めて待ち構えていた。

 しかしいつまでもたっても麗人と詐欺師が来ず、ついに夕方になった時分、帰ろうかとも思ったが、その時は不意に訪れた。

 しかも丁度よく警報機が鳴り、遮断機が降りた。

 夕陽に赤らみ、ぼんやりと霞んだ麗人と詐欺師は仲良さそうに腕を組み、遮断機が上がるのを待っている。その姿がまた羨ましくて羨ましくて、何も考えなしに空家から出ると、やにわに詐欺師に向かって突進した。

 そして詐欺師の目の先まで来た時、ハッとして驚く。  詐欺師では、ないのだ。

 しかしすでに時遅く、見知らぬ男は遮断機から飛出して踏切まで転がり込んでいた。そして助けだそうと足を動かそうとした刹那、物凄い速さで電車が走り去って行く。

 後ろから聞いたこともない不気味な悲鳴が上がった。振り返ってみたが、私が好きな麗人ではなかった。しかし雰囲気だけはなんとなく似ていた。

 何も罪のない人間を殺してしまったことに絶望していると、私は気付いた。視界の奥で、麗人と詐欺師が冷たい視線を私に送っていることに、そしてまた、麗人は軽やかに瞳を動かしたり指をさしたりして、詐欺師と喋っているところから、麗人がカタワではないことが、今さらわかった。

 私に勝ち目はない。そう思って轢死しようと踏切に向き直るが、電車はすでに止まっている。

 私は溜め息を吐いた。私は直に捕まるだろう。確かに悪いことはした。しかしなぜ私ばかり不幸な目に遭わなくてはいけないのだ? こんなこと不公平に相違ない。

 こうして私の恋は惨澹と幕を閉じた。

 ハハ、最高の恋だったよ。


「恋人」の選評

「恋人」の選評


大友宗麟 

 「私」の内と外をめぐる物語。救いが無く、また主人公の吐露が言いようも無くグロテスクである。怪作だ。
 この小説には成長や教訓と言った正の要素がまるでなく、読む者は地中に首だけ晒した、底の見えぬうっ蒼とした壷に返ることの無い呼びかけをしているかの錯覚をする。「私」の思考はそれほど、我々のそれとはかけ離れていて、常ならざる人間の闇がかいま見える。それを描ききった作者の手腕もそうだが、冷静に俯瞰した語り口が、「そこ」で行われていることがいま「ここ」にあるものと、我々のそばに臨場させている。
 私はこの小説を、「四コママンガの五コマ目」と感じた。まとめるとこうだ。
 1コマ目:僕には友人がいるが純朴な人間を馬鹿にした詐欺師だ!
 二コマ目:美しい人を見つけた。麗人だ。好き。
 三コマ目:友人改め詐欺師に相談だ。なんとかしてくれるって。良いやつだ。友人改め詐欺師改め友人だ。
 四コマ目:寝取られた! ギャフン!
 物語はここでも終われるが、こう続く。
 五コマ目:殺してやったら、別人だったよ…… 友人&麗人「ニヤリ」
 今回はたまたまこの結末であったが、分枝は限りなく考えられる。実に広大な懐を持つ作品だ。

モチヲ

「恋人」夢沢怪奇 選評

「『後味の悪さの中毒性』を評価」

 一読して思ったのは、「なんて『後味の悪い』作品なんだろう」ということである。そしてまた、私の精神にある防衛本能だろうか、「こんな『後味が悪い』はずはない」という思いもあった。それでもう一回読み直したのだが、やはり「後味が悪い」作品であった。
 小説ではギミックとして、いろいろなトラブルが引き起こる。やれ離婚だ、やれ子どもの非行だ、やれ恋人が不治の病だと、現実ではありえない量とタイミングで「悪いこと」が引き起こる。
 しかしそれは、結末、終局の、まさに「ハッピーエンド」をより強烈なものにするための、言わば料理のスパイスのようなものではないか。少なからず、一般的な創作技法論でいうとそうなるはずである。
 しかしこの話は、湿気を帯びた雰囲気のまま、最終的に報われない。もうこうなるとまたもや、こんな救われないわけがない、これはきっとバッドエンディングではなくて……。ははーん、そうか、これは最初から夢なのであってだな……。などと深読みの三読目に入り、またもやこの救われないオチに肩を落とす。
 しかし……、とここで、私は考え直した。
 なるほど、そういうことか、そう考えて合点がいった。
 私は、この「後味の悪さ」の虜となり、それを「うわあ」と忌避しつつ、その「うわあ」を言いたいがために、何度も読み直したのである。この中毒性……。これはすごい。
 私はラーメンが好きなんだが、あの「二郎」だけはどうもいただけない。そう、「ラーメン二郎」である。
 ぎとぎとのとんこつ醤油に太麺、これはいい。私は横浜出身。「横浜家系」で慣れた口には何の問題もない。
 しかし、生野菜を山盛りでラーメンにのせる意味がわからない。野菜を炒めも煮もせず、生でのっけたら、ラーメンの味になじまないし、そんなもやしや野菜が麺が見えぬ程に山に盛られていたら、麺に行く前に飽きる。「いや、野菜はいったんどけて、麺を先に…」などと言う「ジロリアン」もいるが、なぜ客にそんな二度手間をかけさせるのか…。
いや何度手間でもいい。はっきり言おう。うまければいいのだ。しかし、私は何百のジロリアンを敵にしても言える、「まずい」のだ。
 しかし、なぜそんなまずいラーメンがこんな人気になるのだろう。いや、ただまずいだけではないはずだ。何かあるに違いない。たとえばにんにくの量とか……そういうことで味が変わったりするのではないか?そうでなければ、みんな、あんなにまずいものを大量に食べるはずないと。
 それを確認するために、私は何度となく「二郎」に足を運んだ。しかし、いつも「まずい……言った通り、行かなけりゃよかった」という悔恨の念で終わるのだった。
 しかし、ある日、はたと気がついた。それは、この状態が既に「二郎」に魅せられている、ということではないか。このように、「まずい」と思わせつつも、客が何度も足を運ぶ事実を作った。これは、すでに私の中で「アリ」になってきているのではないか……。
 この作品は、そんな「二郎」のように、ありえないと思いながらも、何度も読みたくなる、そんな作品である。(※注:この作品が「二郎」のように「まずい」と言っているのではありません。)

佐藤家清

 「奇譚」という言葉が似つかわしい作品。
 完全なる主人公の主観からなる物語であり、彼の視点によって登場人物の名前や役割まで変わってしまうサイケデリックな味わいがあり、ストーリ構造の中にエロ・グロ・ナンセンスが含まれてないのにも拘らず、奇妙な退廃的な雰囲気と、どこにもいけない息苦しい閉塞感を出している。
 また片思いの情熱によるひとり相撲や、嫉妬心というものもよく書けていて、結局のところ友人も麗人も主人公には直接、何もしておらず、2人とも主人公とは別のところで行動を起こし、それを覗いていた主人公が勝手に自爆するという内容は、今まで恋をしたことのない人間が急に自分の中の感情に戸惑い、そのまま溺れて行くさまが描かれている。
 ラストの解釈は色々な見方があると思うが、踏切という『向こう側』と『こちら側』を分け隔てるものでクライマックスを迎えるところに着目したい。
 友人と麗人がどこへ行こうとして、主人公はそれをどうしたかったのかを考えると、この物語の本質が見えてくる。

「黒い葬式」北橋勇輝

 「黒い葬式」 北橋 勇輝

 

 

 

 学校から帰宅してリビングに向かうと、母が深刻な表情で誰かと電話をしていた。井畑賢介は傷だらけの黒いランドセルを床に下すと、母がそれを見計らったかのように受話器を置いて賢介の顔を見ながら、

「じいじ、亡くなったって。明日、お葬式するから学校休みや」

 祖父が亡くなったことに特別悲しさを感じたわけではないが、賢介は学校を休めることに嬉しさを感じ得なかった。

 三ヶ月前、賢介は家族と一緒に祖父の見舞いに行った。白いベッドに寝ながら呼吸器を付けている祖父を見た賢介は頭の隅っこで、もう長くないなとぼんやり思った。恐らく家族全員がそう思っただろう。祖父の顔からは生きる光が見えなかった。あの時、祖父は生きたいと思っていただろうか。祖父は八十歳だったが、そのぐらいの年齢になると、もういつ死んでもいいと思うものなのだろうか。

 二年前、賢介は父に連れられて、よく祖父の家に行った。賢介が物心ついたときから祖父は痴呆になっていたので賢介は祖父と会話らしい会話をしたことがない。だからだろうか、母から祖父が亡くなったことを告げられても悲しくなかったのは。その時、賢介は命日を予言していたかのようにその死を静かに受け入れた。

 

 

 翌日、賢介は母から黒い服とズボンを手渡され、

「これ着なさい。もう少ししたら行くから」

 賢介はそれに着替えると、不快な匂いが鼻先を掠めた。

 賢介が先に玄関で靴を履いていると、喪服を着ている家族がリビングのドアから出てきた。

 家族全員が車に乗り込むのを確認した父は何か考えているような表情で、運転をし始めた。偶然にもその車は黒色だった。

 助手席に乗った母は地図を見ながら、父に葬儀場の場所を教えている。

 賢介は車内を見渡しながら、自分を含め家族全員が黒い服を着ていることに薄暗い闇が立ち込める未来に突き進んでいるような不安を感じた。賢介がそう感じたのは家族全員が黒い服を着ているせいか、この車が黒色だからか、祖父が死んでしまったせいなのか分からない。

 賢介は母に焼香のやり方などを教わった。

「分からんかったら目の前の人の真似すればいいから」

「うん」

 賢介はこれから何かを選ぶとき、黒色の物を選ぶのは止めようと窓の外を見つめながら決意した。

 葬儀場に到着して中に入ると、静かな音楽が流れていて、もう親戚たちは席に座っていた。

 親戚たちは賢介の両親たちと目が合うと席を立ち、深々とお辞儀をして小さな声で何かを話し合っていた。やはり葬儀場の中にいる人は皆、黒い服を着ていた。

 賢介は街を守った英雄のように飾られている祖父の遺影をじっと眺めた。その遺影に使われている写真は賢介も見たことがある写真だった。

「じいじの顔、見るか?」と父は言い、返事をしていないのに、賢介を棺の所まで連れて行った。

 父が棺の上にある小窓を開けると、祖父の顔が見えた。その顔を見た賢介は死んでいるというより眠っているように思えて、不思議でならなかった。だが、すぐに賢介はじいじの顔を見つめながら、「初めて見た死体だ」と強く意識した。恐らく死体を見るのはこれが最初で最後かもしれない。

 気が付くと賢介と父の周りには、黒い服を着た人たちがいた。その人たちは賢介が初めて見る人しかいなかった。

 その人たちは祖父の顔を見た後、隣にいる人と小さな声で喋り合っていた。賢介の隣にいる父はその会話に耳を傾けるように祖父の顔を優しく見つめていた。

 

 

 賢介は不慣れな手つきで焼香を終わらせ、自分の席に戻った。ちゃんと出来ているかどうか不安だったので、賢介は母の顔を窺ったが母は違う方を見つめていた。

 賢介はまだ焼香をしていない黒い人たちの姿を見ながら、葬儀場の中に入った時から流れている音楽と葬式が始まった時から読み上げている坊さんのお経に少し飽きていた。

 火葬場に移動すると、黒いスーツを着たニ十歳後半ぐらいの若い男が灰になった祖父の骨を長い箸でつまみ、周りの黒い服の人たちに、これはどこの骨であるとか、これはそこの骨であるなどと小さく落ち着いた声で言っている。

 賢介は祖父の骨を見つめながら、祖父が棺に入れられて燃やされるところを想像した。

 賢介はその若い男の話を黙って聞いていると、すすり泣く声が聞こえてきたので、そちらに首を向けると、黒い服を着た五十歳くらいの女がハンカチを目に当てて泣いていた。この女は祖父とどういう関係だったのだろうかと賢介は思った。

 葬儀場に戻ると、たくさんあった椅子と棺は綺麗に片付けられ、代わりに横長のテーブルが横一列に三台並べられている。そしてそのテーブルの上には五人前の寿司が四個置かれ、それぞれの席に割り箸と小皿なども用意されていた。

 黒い服の人たちは祖父の葬式が面倒だったとでも言うように深い溜め息を吐きながら席に着き、寿司を食べ始めた。

 賢介はさっきまで葬式が行われていた場所で寿司を食うことに疑問を感じながらも、自らの空腹を満たすために小皿に取った寿司を割り箸で掴み、口の中に入れた。

 葬儀場から自宅に帰るため家族全員が黒い車に乗り込んだ。車内には若干、焼香の匂いが漂い、賢介はそれを匂いながら車の窓の外を見つめた。時刻は十八時を過ぎていて、空はこれから何かが起きるように赤かった。

 賢介は黒い車が道路を走る音に耳を澄ませながら、自身が小学三年生の時に行った運動会のことを思い出した。

 賢介は昼休み、家族と一緒に母が作った弁当を急いで食べた後、アイスクリームを買うための小銭をもらった。賢介はその小銭を握りしめ、同じクラスの岩井に会いに行った。岩井はまだ家族と一緒に、昼御飯を食べていた。

 賢介に気が付いた岩井が、

「あっ、もうちょっと待って。もう食べ終わるから」

 賢介は手の平にある小銭を岩井に見せながら、

「俺、アイス買うわ」

「えっ、コンビニ行かれへんで?」

「知らんの? グラウンドにある懸垂のとこで売ってんで」

 そう言うと岩井が母親の方を見て、

「母さん、俺もアイス買っていい?」

「しょうがないなあ」

 と岩井の母親は鞄から財布を取り出し、岩井に小銭を手渡した。

「ありがとう」

 岩井は玄関のようにブルーシートの外に置かれた靴を急いで履いた。

 グラウンドに行くと、さらに気温が上がったような気がした。地面を見ると二人の黒い影がはっきりと出ている。空を見ると太陽が雲に隠れておらず、自らの存在を見せつけるように輝いていた。

 アイスクリーム売り場に着くと、賢介たちの他にも体操服を着た生徒が四、五人ほど並んでいる。懸垂の傍でアイスを舐めている生徒やジャングルジムに登ってアイスを舐めている男子生徒もいた。

 賢介と岩井はアイスを買った後、それを舐めながらグラウンドの周りを喋りながら歩いた。すると岩井が突然、立ち止まり雑草が生えている場所を見ながら、

「うっわ。えっぐ。賢介、見てみ」

 賢介は岩井が指差した方を見てみると、そこには大群の黒い蟻が、もう死んだと思われるカマキリを取り囲んでいた。それを見た瞬間、賢介は鳥肌が立った。

「きもっ」

「これ食ってんのかな。カマキリ運んでるんかな」

 賢介は見慣れたせいか、岩井と一緒に食い入るように大群の黒い蟻とカマキリの様子を見ていた。

「いや、運んでるやろ。だって、もし食ってたら蟻、止まるはずやん」

「そっか」

 岩井は大群の黒い蟻がカマキリを運ぶところをずっと見ていたためアイスを舐めるのを忘れていたのだろう、流れ落ちる白いアイスを慌てながら舐めていた。

 賢介は大群の黒い蟻に見飽きて、人差し指で崖を登っているようにふらふらしながら歩く黒い蟻をぐっと地面に押し潰した。人差し指を地面から離してみると、砂だらけになった黒い蟻はびくびくともがいていた。賢介はその遊びを何も考えず、飽きるまでやっていた。

 

 

 翌日、目が覚め、学校に行く準備をし始めた賢介は昨日、祖父の葬式を行ったということが信じられなかった。だが確かに昨日、賢介は祖父が死んだ顔を見たのだった。「もういないのだな」と、賢介は母が作ってくれたトーストを齧った。

 黒いランドセルを背負い家を出ると、あの運動会のような暑さだった。空を見てみると太陽は輝いていて、ずっと見つめていることは出来なかった。

 教室に入ると同級生たちと担任の男の先生が賢介の所に駆け寄ってきた。

 担任は賢介と目を合わせながら、

「昨日、大丈夫か? 元気出していけよ」

 と、賢介の肩を優しく叩き、励ました。すると同級生たちも賢介に励ましの声を掛けていった。

 賢介はその励ましの声に嬉しくなっている状態で授業を受けた。

 

 

 

 



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