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証言①

【証言①】

「あのガード下の通路は、駅からの帰宅にいつも通る道で、もう20年も毎日通い続けています。」

「昨日は仕事が速く終わって、6時には駅まで帰り着いていたんです。」

「周りは夕暮れの光がまだ残っていたんですが、あそこはもう真っ暗で・・・何か変だなとは、思いました。」

「丁度、真ん中辺りまで来たときだったと思います、いきなり目の前に蓋をされたようで・・・どっちを向いても何も見えません、全身が何かにゆっくり包まれていくようで・・・でも、危険は感じませんでした、むしろそれまで味わったことのない安心感に浸っていました。」

「なんというか・・・闇の中に自分自身が染み出しているみたいで、手や足の感覚はちゃんとあるんですが、そのずっと先に神経が伸び出ているようで、今まで経験したことのない感覚が、遥か遠方から入ってくるんです。」

「行ったこともない建物の中の様子や、見たこともない機械の仕組みなんかが――こう、ぎゅっと集積されて頭に入ってくるんです。」

「その量が膨大で、印象も強かったものですから、20年勤めている会社の人間関係だとか、養子の自分の自宅での立場とかいったごちゃごちゃしたことが、足の小指の爪の垢みたいに感じてきて・・・。」

「――そう思うと、急に自宅に帰ってビール飲みたくなりましてね、耳元でなんだか囁かれている気もしましたが、気がつくとこの黒いベタベタにまみれて、通路の真ん中に倒れていました。」

「人に襲われた気はしませんね、何も盗られていないし、以外に後味爽快ですから。」