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21 決戦前夜・前編


衝撃的な話だった。

まるで、頭を殴られたような感覚。 ボーっとする。

 



立っていた果実が、

ヘタッ  と座った。




果実は、あの注射を打たなかったら、たった1年も生きられない病気・・・。



だけどクスリはある。

年に1回打てば、死ぬことはない。大丈夫だ。

ただ、

アップルスネークに抗体ができてるのか、不老になれないだけだ。

2012年以前の、普通の人並みに生きることは可能だ。


大人になって、
おばさんになって、
おばあさんになって、そして死ぬ。

以前はごく普通のことだった。


でも、不老があたりまえの今の世界では、異常なことなんだ。



俺は聞く。

「果実を不老にできないんですか? 大門さんだったら・・・」


「・・・医学が進歩すればできるかもしれない。けれど、
 それは100年後か、200年後かもしれない。

 その子は老いて、死んでるわ。」


「そんな・・・じゃあ、せめて俺も一緒に歳をとりたい・・・」




「残念だけど、そう簡単には不老を解除できないの。

 というかね・・・

 一番の問題はそこじゃない。

 だから、この憎い女とも協力するしかなかった。」


大門さんは、果実の母親を睨んだ。




果実はかならず、俺より先に死ぬ。

それは俺にとっては大問題だ。


だけど、それを伝えに大門さんがわざわざ来るのは、変だった。



大門さんにとっては、ここにいる果実の母親は大嫌いな存在。

それなのに、このふたりが今一緒にいる。


なにか別の理由があるのか?




「ウチは、ヘブンのトップ6のひとり。世間では、紙袋の男達と呼ばれているわ。」




「!!」



「ウチは女なのに・・・ 

 ・・・まぁ、それは別にどうでもいいけど・・・ 問題はここから。

 先日、トップ6全員が集まって会議をした。




 絶対的リーダーは、ミスターライトハンド。

 ウチは、研究開発部のリーダーで、

 あとは、兵器部、経済部、政治部、文化部、それぞれのリーダー4人。



 今後の政策や、反ヘブン対策について話した。



 会議後、ウチは、ライトハンドだけに残ってもらい、
 
 ウイルスの元となった少女の父親が、日本で事故にまきこまれ、亡くなったと報告した。

 ちなみに、少女の血が元だと知っているのは、ヘブンでもライトハンドとウチだけ。



 ライトハンドは言ったわ。 

 後回しにしていたが、そろそろ隔離するか、

 いや・・・ かわいそうだが殺す必要があるな・・・ って。



 その子が、ウイルスの鍵だと世間が知ったら、どうなるかわかる?



 ヘブンを消そうとしている組織が、その子の血を狙いにくる。
 アップルレーザーを防ぐ兵器や、アーマーを研究、開発するためにね。

 そんなものができれば、ヘブンは崩壊する。
 彼はそれを恐れているの。

 不安の種は、完璧に始末すべきと考えている。」



果実はぼうぜんと、黙って聞いていた。


確かにそうなるのだろう。


この世界で、成長している人間がいると知ったら、反ヘブンのテロリストや、
元権力者達は、果実を誘拐して、実験に利用するだろう。


だからといって、どこかへ逃げても、ヘブンは強大な組織だ。
徹底的に探して、かならず見つけるだろう。


警察に相談にいっても、
国家権力も結局は、その上層部がヘブンなんだから、

助けるどころか、ヘブン反逆罪で逮捕される。



どうしたらいいんだ・・・


なにもできない。 絶望しかないのか・・・  


ん? ちょっと待て・・・




「なんでヘブン側のあなたが、それを教えてくれるんですか?」


大門は何か言おうとしたが、急に黙って、

静かに・・・


泣きだした・・・


ハンカチで涙を拭きながら、ゆっくりと、話し始めた。




「彼が死んだと 知ったとき・・・ 

 もう、ウチは何もかも、どうでもよくなった・・・


 こんな世界、消えればいいと思った。




 彼のいない世界で、永遠の長生きなんてしたくない・・・

 いっそ、自殺しようと思った・・・



 17年前・・・



 アップルウイルスを作ったことで、ウチと彼は一緒に暮らすことになった。
 
 それはウチにとっては、夢のような時間だった。



 ライトハンドが言う、人類を救うなんて説教、ウチは興味ない。

 でも、彼との永遠の時間だけは夢に見た。欲しかった。


 だから、

 研究して、スネーク磁場を見つけて・・・ ウイルスを進化させた。


 不老になったら苦しむ人がでる?

 そんなことはわかっていたわ。


 でも、他人の苦しみなんて、どうでもよかった。

 誰かが作ったモラルも、ルールも、法律もくそくらえよ。



 彼との永遠が手に入るなら、

 悪魔に魂を売ってもかまわない。

 
 ウチは彼との永遠だけが欲しかった・・・」




俺は、聞いていて思った。

 
太っていて、

香水くさくて、

ふてぶてしい態度の、

この大門という女は、反道徳的で、

すごく自分勝手で、エゴイストな人間だって。




だけど、そんな彼女の感情は、俺の心の中にもある感情だった。

大門のは一方通行だけど、



素直で、ピュアで 黒く澄んでいた。



俺が果実に向ける、

ずっと一緒に幸せに暮らしたい想いと、色はきっと違うけど、形は同じだった。



大門は話を続ける。


「死んで・・・ ラクになろうと思った・・・


 でも・・・ 彼は最後にウチに言った。 その子を守ってくれと。

 それが、彼の最後の願いだった。


 だから・・・

 ウチはその子を、彼が残した最後の願いを守るために、

 
 
 ヘブンを裏切る。」




・・・ようやくわかった。



大門さんがここにいる理由。

憎んだ女である果実の母親と会ってでも、
愛した人の願いを叶えるために、


果実に危険がせまっていて、時間がなくて、

それが彼女にとっての最優先事項だから、ここにいるんだ。




「大門さん、さっきは・・・ ひどいとか、言ってすみません。


 あなたは、それでも、今のあなたは、俺にはまるで・・・


 果実の命を守るために現れた、天使のようです。」



「・・・・・・」

「・・・・・・」




「・・・ぷっ 


 あはははははっ!!  なに? あなた、そのロマンチストな言い方。


 ふふふふふ

 天使って・・・



 ウチは、もう、どうしたって悪魔よ。

 ヘブンが天国なら、ウチは天を裏切った・・・そうね  ユダか・・・堕天使?

 ふんっ それもキザな言い方ね。」




「そんな、笑わないでくださいよ。ちょ、果実まで・・・」


重いムードが一瞬だけど、和んだ。

バカにされた気もするけど、
でも、みんなが笑っていたから、ちょっと嬉しかった。



「それで大門さん、

 どうやって、ヘブンから果実を守るんですか?」




「ヘブンを壊滅できる作戦があるわ。


 だけど、うまくいく保証はないし、準備時間も10日ほどしかない。

 それに、仲間が足りない。

 仲間は誰でもいい訳じゃない。本当に信頼できて、優秀な仲間じゃないとダメ。
 ヘブンに密告する者が一人でもまぎれたら、

 計画は失敗。 全員、殺されるわ。」




「そ・・・ その作戦って・・・?」



俺達はその作戦内容を聞いた。


それはとても危険で、果実も最前線で戦う必要があった。

だけど、いまここで俺達が何もしなかったら、

果実はもっと危険な目にあう。





この作戦が成功すれば、アップルスネークは消滅し、ヘブンは力を失う。

人類の不老も解除され、半年前のあの日、2013年1月1日以前の世界に戻る。


俺達が不老を解除することで悲しむ人、喜ぶ人がでるだろう。




果実は言った。

「信頼できる、仲間がひとりいます。しかもとびきり優秀です。」

そうだ、ひとりいた。

これ以上ない、最適な仲間がひとりいる!



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22 決戦前夜・後編

時間が無い。

さっそく、その俺達が信頼できる仲間を、大門さんに紹介することになった。

 



果実の母親が、そこへ向かう前に、骨壷を家に置きに一度帰りたいと言った。

果実も着替えに一度帰りたいと言う。




なので、夜7時に現地集合となった。



火葬後、


父親の遺灰が納められた骨壷は、葬儀場の祭壇の場所に置かれていた。

俺は手をあわせた。



彼は、自分の人生の多くを、子どものためにささげた。


愛する奥さんとの時間を捨て、

子どもを守るために、悪魔のような契約にサインをした。

悪魔は契約をまもり、子どもを救った。



そして今、



悪魔は 「契約」 ではなく、

最後の 「約束」 のために、

もう一度、彼の子どもを救おうとしている。





彼の覚悟と、残した想いに、俺は敬意を感じていた。


あなたとはやり方は違うけど、あなたの遺志は、俺も受け継ぎます。




死んだ彼の魂へ届くように、語りかけた。

魂が存在するかなんて、俺にはわからない。だけど、

彼に届くことを願って、心の中で語りかけた。


どんなに遠く離れても、生きる時代が違っても、人の想いは伝わるって、信じたくなった。





松山、

夜の大街道、

午後7時。



俺達は、ノイマンさんの店の地下に集まった。



「はじめまして、野井です。」


「紹介します。この人が信頼できる仲間、元凄腕ハッカーの、ノイマン。」

「ノイマン? それは・・・ニックネーム?」



大門さんが不思議そうに尋ねる。

「ええ、果実様が名付け親です。気にいっています。」


そんなやりとりをみて、果実はニヤリとほほえんだ。



「そしてノイマン、こちらの女性が、世界を不老にしたウイルスを作った人で、
 私の命の恩人でもある、

 天才博士の・・・ 大門さん突然だけど!

 あなたのこと・・・ ドクターデーモンって呼んでもいいですか?」



「ドクターデーモン?」


「ダ イ モ ン って、 デ ー モ ン みたいでしょ? かっこいいし♪

 あ、ダイヤモンドのほうが良かったですか?」



「・・・ふんっ。好きに呼べば。
 ウチをそう呼ぶのは、あなたで二人目だけどね。」



俺達は、ノイマンさんに事情を説明した。


「はい。もちろん協力させていただきます。

 ですが、大門様に聞きたいことが、二点ございます。」



「なにかしら?」



「まず、ウイルスをどうやって進化させたのか、

 そして、アップルレーザーの秘密についてです。

 
 通常の、電波兵器なら、遮断出来る装置や、軍事施設があります。
 
 ですが、アップルレーザーはそれらを無力化して、
 ピンポイントにターゲットを殲滅しています。
 いったいどんな仕組みを使っているのでしょうか?」


確かに。 それは俺も気になっていた。




「・・・いいわ、教えてあげる。

 アップルウイルスを逆の効果へ変質させるため、ウチは色々な実験をした。

 土に埋めたり、深海に持って行ったり、別の生き物の遺伝子を組み込んだり、

 電気ショック、放射線や紫外線を照射したり・・・

 そんな実験の中で、ひとつ面白い反応を示す事象があった。

 なんだと思う?」



「え、なんだろう・・・」



「それは単純で、普通はあり得ないこと。

 場所を変えただけで、ごく微妙ではあったけど、ウイルスに変化があった。

 それに気づいたのが、1998年。
 ニューヨークの研究室から、イエローストーン国立公園に向かう途中。

 あそこの土には珍しい成分があると聞いたから、土の採取に向かっていた。

 そうしたら突然、彼が車の中で言ったのよ。

 数値が変化してるってね。」




「パパが・・・」


「最初は原因わからなかった。でも途中で確信したわ。

 アップルウイルスは、大地から出ている何らかのエネルギーに反応しているって。


 ウチらは、アメリカ中を走り回った、

 そして、一番反応が大きくなる場所を見つけた。聞いたことあるかしら?


 セドナ っていう場所。」




「セ・・・ セドナって・・・

 俺達が、このまえ行ったとこだよな!

 なんか、パワースポットとか言われてるところでしょ?」


果実もうなずいた。



「セドナの大地からは、特殊な何かが出ていた。
 ウチと彼はその正体を、論理的に、科学的に探った。

 そして、いままで誰も発見していない、特殊な磁力線を検知した。 

 それは、ヘビのように波打っていたから、

 スネーク磁場 と呼ぶことにしたわ。」



キュ キュ  キュー


大門さんは、ホワイトボードに丸を描いた。



「この円が地球。この地球を取り囲むように、ぐるっとスネーク磁場は発生している・・・」



円の外側に、もう一周、円を描いた。

丸い目と、口をつけたから・・・ヘビのつもりらしい。


 
「ウチらは、セドナよりもっと、スネーク磁場が強力に

 大地から噴き出している場所がないか探した。 そして、見つけた。 どこだと思う?

 サイダーわかる?」



「俺っすか!? うーん・・・・・・ 実は日本だったりして・・・富士山とか?」




「じゃあ、果実ちゃんはどこだと思う?」

「えっと、パワースポット繋がりで・・・ エジプトのピラミッド!」




「ノイマンは?」

「そうですね・・・ 磁場というぐらいです・・・ 地球は大きな磁石ですから、
 
 北極か南極のどちらかでしょうか?」



「さすがね、正解。」



キュ キュ キュ キュ キューッ



大門さんはそう言うと、

円の中央、つまり地球の中心から上方向に、突き抜ける、太い線を描きくわえた。



「地球上でもっともスネーク磁場が強かった場所は、


 北極点。 

 もうわかるでしょ? その北極の磁場を利用し、ウイルスは変質していった。


 そして、

 アップルボムも、アップルレーザーも原理は一緒。

 地球を覆っているスネーク磁場に、特殊な信号を乗せて、発動させている。

 まぁ、兵器のほうはウチより、兵器部が詳しいけど。

 ノイマン、これでOK?」



「はい、とても詳しい説明、ありがとうございました。

 では、私は当日までに、掃除機内に隠せるPCと、プログラムを準備しておきます。」



ドクターデーモンが考え出した作戦、

果実と、俺達、そして、人類の運命を左右する作戦。


それは・・・



ワクチンレーザー作戦・・・!!




難しいことは俺にはわからないけど、

簡単に言えば、アップルレーザーにウイルスを消滅させる、
ワクチンプログラムをこっそり仕込む ・・・ってことだ。


障害が山のようにあるけど、ギリギリ超えられるって教えてくれた。





まず前提として、

レーザーの発動は、ライトハンドにしかできない。


発射自体は、ライトハンドに、やってもらう。

だから、ヘブンに怪しまれないように、
こっそりと、ワクチンプログラムをセットする必要がある。




その、レーザーを管理している部署は、ヘブン本部にあって、当然のこと警備は厳重。

まぁ、トップ6である大門さんなら、
最深部のレーザールームまで余裕で行けるけど、

それでも、

肝心の操作パネル周辺には、アップルバリアが張られていて近づけない。
バリアの解除キーも、ライトハンドが持っている。




アップルバリアというのは、スネーク磁場を使ったバリアで、
触れればその人間は消滅するそうだ。

だから、操作パネルに近づけるのは、ロボットか、犬や猫といった動物、

そして、地球上で唯一ウイルス感染していない果実だけになる。


ワクチンプログラムは、果実がセットする。





そして、監視カメラで、操作ルームの様子はモニタリングされているから、

ノイマンさんが、監視カメラをハッキングする。

果実がパネルを操作している姿が映らないように、
監視カメラの通常映像を録画し、警備室のモニターにループ再生させなければならない。


ループ再生切り替えの瞬間は、大門さんと果実は、カメラの死角に移動する。




セキュリティはインターネットに繋がっていない、スタンドアローン状態なので、

ハッキングは直接、廊下の隅にある極秘のUSBポートを使って、侵入する。

そのUSBポートは緊急用で、トップ6レベルにしか、教えられていない。




ノイマンさんと俺は、大門さんの手配で、
清掃業者の格好でビルに入る。

廊下の掃除をしているようにみせかけて、ハッキングをする。






正直、成功の鍵は、俺以外の3人だ。


① 大門さんが、怪しまれないように、果実を最深部へ連れていく。

② ノイマンさんが、掃除をしながらも、監視カメラをハッキングする。

③ 果実が、ワクチンプログラムをセットする。






どれかひとつでも、怪しまれたらダメだ。騒ぎを起こしたらまずい。

不審な侵入者がいたとわかったら、用心深いライトハンドは、レーザーもチェックするだろう。

そうなったら、すべてが失敗に終わる。




作戦開始日は、約10日後。

時間は、午後15時30分。 理由がある。


テレビの生中継で、捕まえた反ヘブンの大物テロリストを、

レーザーで公開消滅することが、先日のトップ6会議で決まったからだ。




だから俺達はその日の、午後15時に、ワクチンをレーザーにセットし、

30分後、気付いていないライトハンド自身の手で、発動してもらう寸法だ。



いちど、ワクチンプログラムがスネーク磁場に広まれば、
アップルスネークウイルスは消滅し、

もう二度と復活はできない。



アップル兵器が使えなくなったとなれば、
どっかのテロリストや、警察、復権を狙う過去の権力者達の手によって、

ヘブンは壊滅させられるだろう。



それは俺達の仕事じゃない。

俺達は、果実のために、アップルスネークウイルスを消滅させるだけだ。






いったん、大門さんはアメリカに戻り準備をすることになった。

次に会うのは決戦の日、当日のニューヨークだ。



ノイマンさんは、お店を臨時休業にして、地下でプログラム作りに入った。


果実は、操作パネルにワクチンを流す方法を暗記していた。


俺は、・・・掃除のテクニックを勉強していた。





あと、ヒカルに電話した。


半年ぶりにちゃんと会った。


堀之内公園のいつものベンチで。




俺は正直に言った。 もう一度バンドがやりたいって。



そして、やるならヒカルと一緒に、もう一度やりたいって言った。

音楽の方向性が違って、いつか解散するかもしれないし、そんな日がくるかもしれない。

そうなったら・・・ごめん。 って言った。



だけど今は、今の気持ちは、ヒカルともう一度やりたい。

ヒカルの鍵盤じゃなきゃ嫌だって   ・・・正直に言った。


ちょっと旅行に行くから、

帰ったら、一緒にまた音楽をやろうって、言った。




ヒカルは、笑顔でうなずいてくれた。




数日が過ぎた。




ノイマンさんは先にアメリカに渡っていた。



俺と果実はふたりで、後からニューヨークに飛ぶことになった。



半年前みたいに、また、親に内緒でこっそり家を出ようとしていたら、

夜中、両親にみつかった。



母さんは言う。
「あれ、どしたん? 夜出るのは最近危ないのに・・・」

父さんは言う。
「こんな時間にどこ行きよんぞ。」 



俺は玄関を出ながら、ゆっくり閉まる扉越しに言った。



「ちょっと・・・世界を救いに行ってきます。」



「なに言いよん? 用事すませたら、はよ帰っておいでよ。」


母さんの声がすこしだけ聞こえた。




フライブルク通りを歩きながら、俺は泣いていた。


怖い。失敗したら殺されるんだろうとか考えてしまう。


きっと、いや、絶対に、無事に目的を達成して、あの家に帰りたい。


この街に帰りたい。 



果実といっしょに。




しばらく、こっそり泣いた。



涙は止まった。



よし・・・・・・ 行こう。







決  戦  前  夜






ふたりで、ニューヨークのホテルに泊まった。

懐かしい。ここは半年前にも泊まったホテルだ。あのテレビ局が見える。



俺がベットで寝ていると、シャワーを浴び終わった果実が、白いバスローブ姿で出てきた。



「とうとう、明日だね・・・

 失敗したら、私達きっと・・・」


「大丈夫さ。こっちには、ノイマンさんと、
 大門さんがついてるん  だっ   ・・・  か・・・  ら・・・」



果実が、俺に抱きついてきた。



彼女は震えていた。





・・・俺は、そっと抱きしめた。



「サイダー 抱いて・・・」


「もう抱いてるよ」



「違う、そうじゃなくて・・・」




はじめて会った夜が、脳裏にフラッシュバックした。


俺は、もう一度、今度は強く抱きしめて、キスをした。



「焦らなくていい。俺たちなら、絶対大丈夫。

 ・・・帰ってきたら、終わったら、ゆっくり続きをしよう。」


果実はうなずいた。





夜があけて、運命の日がはじまった・・・




果実は朝食を食べた。 俺は食べなかった。

待ち合わせ場所の廃工場へ向かうと、


清掃員の服を着た、細くて長身のノイマンさんと、

白衣姿の、丸くて太った大門さんが、すでに待っていた。




俺は清掃員に着替え、ノイマンさんが運転するワゴン車に乗り込んだ。


果実は白衣に着替え、大門さんが運転するドイツ車に乗り込んだ。


2台の車が、廃工場を出発する。


それぞれ別のルートを通って、

ひとりひとり別々の使命を背負って、同じ場所を目指した。





ヘ ブ ン 本 部 へ 。



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