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20 死ぬほど愛した 男   死ぬほど憎んだ 女


わからないことだらけだった。



① 父親を刺したのは誰だ?

② 父親は果実を襲っていたんじゃないのか?

③ いっしょに倒れてた男は?


・・・果実に聞こうか、


いや、ちょっと待て。 



あんな、娘に冷たくて無関心で、仕事しか興味のない父親でも、果実にとっては実の父親だ。

こんな事になって、すごくショックだろう。

今はそっとしてあげるべきか・・・




あ~! でも! 落ち込んでる果実をおいて、帰りたくない。
でも、声かけづらいし!



・・・・・・



とりあえず、缶コーヒーでも飲むか。

待合スペースに置いてある、自動販売機へ向かった。


警官がふたり立っていた。 
俺は気にせず、コーヒーを買って座る。


カシュ

ゴクゴク



警官に聞いてみた。


「あのぉ、刺した犯人って・・・倒れてた小太りの男ですよね?」


「ああ、娘さんが言うことが事実ならそうですね。

 ケンカをして家を飛びだしたところで、知らない男に襲われ、お父さんがかばった。」


「そうですか・・・」


だったら、倒れていた男は、通り魔かなにかか。




・・・それでも謎が残る。



両親が注射器で襲ってきたという

あの電話はなんだったんだ?




コーヒーを飲みほすと、果実と、母親がこっちにくるのが見えた。

母親は警官と何か話し始め、果実が俺のとなりに座った。



「果実・・・大丈夫か? なんか飲む?」

「ううん、いい。 ありがと。」




「さっきの男・・・いや、ごめん、なんでもない・・・」


なに聞いてんだ俺は、

さっき襲われたばかりだぞ、犯人のことなんて聞いたら、トラウマとかそういう

フラッシュバックとかして、傷をえぐるかもしれんのに・・・。



俺は、となりに座る果実の手を握った。




「サイダー、ありがとう。

 私は大丈夫だよ。平気。あんまり実感がないんだ・・・

 怖い夢をみてた感じで・・・ これ、夢じゃないよね?」



「うん、夢じゃない。 無事でよかった。
 
 ・・・オヤジさんが助けてくれたって、ほんと?」


「うん・・・パパは、私を守ろうとして死んじゃった。」

「そうか・・・」




果実の母親がやってきた。深く頭を下げた。 目が真っ赤だった。




「サイダーさんですよね?

 こんなことに巻き込み、すみません。 また後日、連絡いたします。

 いまから私達は警察署で取り調べがありますので・・・」
 
 

俺もパトカーで簡単に取り調べられ、その後、家まで送ってもらった。

そして、もういちど眠り、目が覚めると夕方だった。



事件は、地元テレビのニュースが大きく報じていた。



裕福な世帯を狙った、通り魔の凶悪な犯行!!

社会に不満をかかえた若者の暴走!! ・・・と。




その夜、果実から電話がかかってきた。


葬儀が来週あって、
ママさんが、俺にも来てほしがってるようだった。 行く約束をした。


えっと・・・お葬式って黒い服で行くべきだっけ?



母さんに聞いてみたら、学生は制服でいいんよ、と言っていた。

誰のお葬式? と聞かれたので、バイト先の先輩とテキトーに言う。

母さんが今、テレビを見ながら怖いわーと言った被害者の葬儀です。

・・・なんて言えない。
真実を言っても、変に心配させるだけだ。




そして当日。





午前10時、松山市内にある大きな葬儀場へ着いた。


当然、知らない人ばかり。受付に果実がいたから、会釈をした。

俺は後ろのほうの席に座った。



あれ? 

左にやたら目立つ、見覚えのある女性がいた。

体重が余裕で150キロはあるだろう、相撲取りみたいな女・・・ そうだ!


半年前見た、アメリカで父親と一緒にいた女が出席していた。


親族のスピーチを聞いていると、父親の仕事が少しわかってきた。
予想通り、アメリカで遺伝子の研究をしていた。


献花をすることになった。
白い菊の花を、棺の中のご遺体を飾るように入れていく。


列に入って待つ。 俺の番が来た。


棺の中には、果実の父親が静かに、安らかな表情をしていた。

鼻に綿がつめられている。

俺は、右肩に花をそっとのせた。





12時前、出棺。

バスに乗って火葬場へ出発した。

俺の横には果実が座ってくれた。




12時30分、火葬が始まった。

13時すぎには、もう骨と灰になっていた。



みんな黙々と、遺骨を容器に木の箸で納めていた。

人って、最後はこんなに小さくなるんだ・・・。



果実は俺が守るから、天国で安らかに。 そんなことを心の中でちょっとだけ言う。

宗教は嫌いなんだけど、死者の魂の平安を祈ったりして・・・

俺は矛盾しているのか? いや、人としてただ自然な感情なのか。







バスはもう一度、式場へと戻った。

14時30分、豪華なお弁当が出された。


親族でもないし、そんなに親しかったわけじゃないのに、ここにいていいのかな?
と、いまさらながら思いつつ、弁当を食べた。

食欲が湧かないけど、残すのは失礼なので、頑張って食べた。

けど、量が多いのでやっぱり持って帰る事になった。




酒を飲んで、明るく笑っている人がいる。

静かに食べている人もいる。


故人のことを懐かしむ人がいる。

関係ないギャンブルの話をする人もいる。



これが現代日本の、ありふれた、普通の人のよくあるお葬式だ。

100年前、200年前はもっと違っていたし、
100年後だって、ルールは変わっているかもしれない。


亡き人との最後のお別れの儀式。

俺もいま死んだら、こういう風に見送られるんだろう。





15時30分、解散時間となり、みんな帰っていった。



俺も帰ろうかなと思っていると、果実に呼ばれた。



「ママが、私達に大事な話があるって。」

「どんな話?」

「さあ・・・」




さっき食事した部屋とは違う、また別の部屋に案内された。

この部屋も借りたのかな? まぁ、お金持ちだからこのくらい余裕なんだろう。




果実と座っていると、母親が入ってきた。

その後に、なぜか、あの太った女も入ってきた。



広い会場に、4人だけが座った。




「サイダーさん、葬儀に出席してくれて、
 なにより、果実と仲良くしてくれてありがとうございます。」


母親が俺に話しかけてくる。

「え? いや、こちらこそです。」




「サイダーさん。そして、果実。

 いつか、話さなくちゃいけない日がくると思っていました・・・。


 サイダーさんが、果実のことを真剣に想ってくれているなら、
 なおのこと、これはツライ話かもしれません。


 果実にだけ告げることも考えましたが、
 彼が亡くなったことで世間の目がこの死に注目し、

 万が一、果実の 『成長している秘密』 に早く気付く可能性を考慮し、


 ミスターライトハンドは、

 果実を、早急に隔離するようです。


 ・・・ですので、ふたりの為にも、サイダーさんには全てお話しします。」



「私が・・・隔離される?」

俺も意味がわからなかった。
そして、なんでミスターライトハンドの名前がここで出るんだ?


 
「ミスターライトハンドにとって、果実は世間から本当は隠したい存在なのです。

 ですが、研究の功績により、しばらくは現状のままの生活を許されていました。
 しかし彼が亡くなった以上、そろそろ動くようです。
 
 果実の存在が、ヘブンを崩すきっかけになるから。

 ・・・ふたりとも、心の準備は大丈夫ですか?」



俺と果実は、黙ってうなづいた。


少し離れた席に座っている太った女は、ジッと果実だけを見つめていた。




「17年前、私達のあいだに女の子が生まれました。

 それが果実です。

 嬉しかった。彼と一緒にすごく喜びました。

 でも、早産で未熟児だったのでNICUに入ることになりました。

 NICUとは、何らかの疾患がある新生児を治療するところです。

 そこで、果実に病気がみつかりました。」



「私、どんな病気だったの?」




「赤ん坊のまま、成長しない病気です。」



「えっ!?」

「・・・」



「私達は、大学で遺伝子研究をしていたから、多少は知識があり、

 赤ん坊が成長しない病気にいくつか症例があることを知っていました。

 例えば、重度の甲状腺ホルモン欠乏症です。

 ただ、

 果実は染色体の異常、
 それも、いままでに無い、未知の遺伝子異常でした。

 いつ死んでもおかしくない状態で、
 私達は必死に治せる医者を探しました。99%治らない、どのドクターも無理だと。

 自分達で研究もしましたが、どうしようもできなかった。」




「でも・・・ 私は生きてる・・・」


「そう。あなたは助かりました。
 あそこに座っているドクター、大門さんのチカラで。」



「大門さんが、私を救ってくれた・・・」




「大門さんとは、大学のクラスメートでした。
 在学中に世界的発見をいくつもされた、とても優秀な研究者です。

 私達は大門さんなら治せると信じて、アメリカへ会いに行きました。

 事情を説明すると、彼女は断りました。でも、

 ありがたいことに、条件をのむなら研究しようと言ってくれて、

 その条件が・・・」



「いいわ! そこからは、ウチが話す。」


奥に座っていた太った女、大門が急にくちを開いた。



「ハッキリ言っておくけど、ウチ、

 あなたのママ、大嫌いだから。」



腕組みをして、果実の母を睨みつけ、大門はふてぶてしい態度で話し始めた。



「昔話からしてあげようか? 亡くなった彼の話し。」


「パパの・・・」



「彼とウチは小学校からの幼馴染。

 彼は、運動も勉強もできて人気者だった。


 逆に、ウチは、地味で運動も勉強もできなくて、よくいじめられた。

 でも、あなたのパパだけは、優しく接してくれた。

 ウチは彼を好きになった。



 聞いたのよ、どんな女の子が好き?って。

 そうしたら、頭がいい子が好きって彼は言った。



 彼に好きになってもらうために必死だった。

 彼は理科が好きだったから、ウチも理科を特に勉強した。


 遺伝子研究の為に大学へ進学すると聞いたから、
 ウチも、彼と同じ大学を選んだ。

 けなげな乙女心でしょ。


 大学では研究の成果が認められ、『世界の大門』とよばれた。

 勿論、セカイノダイモンって呼び方の中には、嘲笑が入り混じっているのは感じたわ。

 でもいいの。

 他人にバカにされても、彼さえそばにいれば。

 これでウチは頭のいい女になれたと思った。 告白すればうまくいくと思った。




 でも、彼はウチを選ばなかった・・・。




 そこにいる、ちょっと顔がいいだけの、たいして勉強もできない女を選んだ。


 ウチは絶望した。


 結局、男なんて女の見た目しか見てないんだって思った。
 もう、男や恋愛なんかどうでもいい。仕事に生きることを決心した。

 日本を離れ、アメリカの研究所で働き始めた。



 平穏な日々だったわ。



 なのに!

 この女は、図々しく訪ねてきた。

 しかも、難病の子どもを抱えて。



 ウチはお人好しじゃないからね!

 断ったのに、ふたりとも何度も何度もしつこく頼みに来た。



 受けるなら条件がある。
 無茶な要求を言えば、諦めて帰ると思った。」


「条件・・・?」




「成功したら、あなたはウチの男になって、妻と娘には会うなって。」



俺は声が出た。

「ひどい条件・・・」




すると大門は言った。


「ひどい?

 ウチの気持ちがわかる?

 死ぬほど愛した男を奪ったこの女への嫉妬に憎悪、

 しかも、その女の子どもを救わなくちゃいけないのが、どれだけ苦痛だったか・・・」
 


「そんな言い方ないだろ!!」


「サイダー!」


感情的になった俺を、果実はとめて、首をふった。






「大門さん、ありがとうございます。」



果実は立ち上がって頭を下げた。





「ママ・・・

 私、パパとママのこと、ずっと誤解してた。

 いらない子どもだって、思って生きてた。


 お金なんかいらないから、

 普通の家庭に生まれて、仲良い家族で暮らしたかったって・・・



 でも、ぜんぜん



 不幸じゃなくって・・・



 すごく

 愛されてた・・・


 ごめんなさい。気づいてなかった・・・・・・」




果実はポロポロと涙をこぼした。



「私を助けるの、すごく嫌だったと思います。

 それでも頑張って助けてくれた。
 だから、大門さんはすごく優しい人だと思います。

 ありがとうございます。」




「フンッ・・・ 誰かさんとそっくりね・・・

 勘違いしないで。あなたを助けたかったんじゃない。

 その女の家庭をボロボロにしたかっただけよ・・・」


大門はプイッとそっぽをむいた。





今度は果実の母親が話し始めた。




「大門さんのおかげで、病気を治す薬ができた。

 でも、その薬は年に1回、注射が必要だったから、

 お願いして、お盆の時だけは、三人で会う事が許されたの。」



すると、また大門が口をひらく。



「その女は薬と言ったけど、毎年、あなたに注射されているのは薬じゃない。

 ウイルスよ。

 あなたの血からウチが作った、特殊ウイルス。最初のアップルウイルス。」



「アップルウイルス・・・ パパが最後に言っていた名前だ・・・」



「ふん。

 ガキの名前が果実って聞いたからね。

 確かキリスト教で言うでしょ?
 創世記だっけ? 林檎説、ザクロ説いろいろあるけど。



 人の原罪。


 アダムとイブがエデンの園で、蛇にそそのかされて禁断の果実を食べてしまう。

 そのせいで、人間には知恵がつき、神の怒りをかい、楽園エデンを追放される。

 
 死ぬはずの子どもを、遺伝子操作までしてむりやり生かしているウチの行動は、
 この原罪のように思えてね、

 アップルウイルスと名付けたわ。

 まぁ、そんなことを原理主義的にいってしまえば、

 医療行為全てダメだし、科学文明を否定することになるんだけど。

 
 とにかくウイルスは完成して、あなたは、人並みに成長、老化できるようになった。」




「あの・・・大門さん。 

 俺、いまなんとなく予想できたんですけど・・・

 もしかして、不老テロのアップルスネークウイルスって・・・」




「ふんっ、私の遺伝子研究所のオーナーは、この研究にとても注目していた。

 莫大な予算をウチに与えてくれた。


 実験が成功して、彼は言った。

 成長しない細胞を、成長させられるのなら、

 逆に

 成長をとめるウイルスだって作れるだろう? と。」



「やっぱり。

 あれ? でも、それじゃあ、果実はもしかして・・・」



俺がそう言うと、母親が静かに言う。


「果実は、

 いま地球上でたった一人の、

 不老になっていない人間よ。」



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21 決戦前夜・前編


衝撃的な話だった。

まるで、頭を殴られたような感覚。 ボーっとする。

 



立っていた果実が、

ヘタッ  と座った。




果実は、あの注射を打たなかったら、たった1年も生きられない病気・・・。



だけどクスリはある。

年に1回打てば、死ぬことはない。大丈夫だ。

ただ、

アップルスネークに抗体ができてるのか、不老になれないだけだ。

2012年以前の、普通の人並みに生きることは可能だ。


大人になって、
おばさんになって、
おばあさんになって、そして死ぬ。

以前はごく普通のことだった。


でも、不老があたりまえの今の世界では、異常なことなんだ。



俺は聞く。

「果実を不老にできないんですか? 大門さんだったら・・・」


「・・・医学が進歩すればできるかもしれない。けれど、
 それは100年後か、200年後かもしれない。

 その子は老いて、死んでるわ。」


「そんな・・・じゃあ、せめて俺も一緒に歳をとりたい・・・」




「残念だけど、そう簡単には不老を解除できないの。

 というかね・・・

 一番の問題はそこじゃない。

 だから、この憎い女とも協力するしかなかった。」


大門さんは、果実の母親を睨んだ。




果実はかならず、俺より先に死ぬ。

それは俺にとっては大問題だ。


だけど、それを伝えに大門さんがわざわざ来るのは、変だった。



大門さんにとっては、ここにいる果実の母親は大嫌いな存在。

それなのに、このふたりが今一緒にいる。


なにか別の理由があるのか?




「ウチは、ヘブンのトップ6のひとり。世間では、紙袋の男達と呼ばれているわ。」




「!!」



「ウチは女なのに・・・ 

 ・・・まぁ、それは別にどうでもいいけど・・・ 問題はここから。

 先日、トップ6全員が集まって会議をした。




 絶対的リーダーは、ミスターライトハンド。

 ウチは、研究開発部のリーダーで、

 あとは、兵器部、経済部、政治部、文化部、それぞれのリーダー4人。



 今後の政策や、反ヘブン対策について話した。



 会議後、ウチは、ライトハンドだけに残ってもらい、
 
 ウイルスの元となった少女の父親が、日本で事故にまきこまれ、亡くなったと報告した。

 ちなみに、少女の血が元だと知っているのは、ヘブンでもライトハンドとウチだけ。



 ライトハンドは言ったわ。 

 後回しにしていたが、そろそろ隔離するか、

 いや・・・ かわいそうだが殺す必要があるな・・・ って。



 その子が、ウイルスの鍵だと世間が知ったら、どうなるかわかる?



 ヘブンを消そうとしている組織が、その子の血を狙いにくる。
 アップルレーザーを防ぐ兵器や、アーマーを研究、開発するためにね。

 そんなものができれば、ヘブンは崩壊する。
 彼はそれを恐れているの。

 不安の種は、完璧に始末すべきと考えている。」



果実はぼうぜんと、黙って聞いていた。


確かにそうなるのだろう。


この世界で、成長している人間がいると知ったら、反ヘブンのテロリストや、
元権力者達は、果実を誘拐して、実験に利用するだろう。


だからといって、どこかへ逃げても、ヘブンは強大な組織だ。
徹底的に探して、かならず見つけるだろう。


警察に相談にいっても、
国家権力も結局は、その上層部がヘブンなんだから、

助けるどころか、ヘブン反逆罪で逮捕される。



どうしたらいいんだ・・・


なにもできない。 絶望しかないのか・・・  


ん? ちょっと待て・・・




「なんでヘブン側のあなたが、それを教えてくれるんですか?」


大門は何か言おうとしたが、急に黙って、

静かに・・・


泣きだした・・・


ハンカチで涙を拭きながら、ゆっくりと、話し始めた。




「彼が死んだと 知ったとき・・・ 

 もう、ウチは何もかも、どうでもよくなった・・・


 こんな世界、消えればいいと思った。




 彼のいない世界で、永遠の長生きなんてしたくない・・・

 いっそ、自殺しようと思った・・・



 17年前・・・



 アップルウイルスを作ったことで、ウチと彼は一緒に暮らすことになった。
 
 それはウチにとっては、夢のような時間だった。



 ライトハンドが言う、人類を救うなんて説教、ウチは興味ない。

 でも、彼との永遠の時間だけは夢に見た。欲しかった。


 だから、

 研究して、スネーク磁場を見つけて・・・ ウイルスを進化させた。


 不老になったら苦しむ人がでる?

 そんなことはわかっていたわ。


 でも、他人の苦しみなんて、どうでもよかった。

 誰かが作ったモラルも、ルールも、法律もくそくらえよ。



 彼との永遠が手に入るなら、

 悪魔に魂を売ってもかまわない。

 
 ウチは彼との永遠だけが欲しかった・・・」




俺は、聞いていて思った。

 
太っていて、

香水くさくて、

ふてぶてしい態度の、

この大門という女は、反道徳的で、

すごく自分勝手で、エゴイストな人間だって。




だけど、そんな彼女の感情は、俺の心の中にもある感情だった。

大門のは一方通行だけど、



素直で、ピュアで 黒く澄んでいた。



俺が果実に向ける、

ずっと一緒に幸せに暮らしたい想いと、色はきっと違うけど、形は同じだった。



大門は話を続ける。


「死んで・・・ ラクになろうと思った・・・


 でも・・・ 彼は最後にウチに言った。 その子を守ってくれと。

 それが、彼の最後の願いだった。


 だから・・・

 ウチはその子を、彼が残した最後の願いを守るために、

 
 
 ヘブンを裏切る。」




・・・ようやくわかった。



大門さんがここにいる理由。

憎んだ女である果実の母親と会ってでも、
愛した人の願いを叶えるために、


果実に危険がせまっていて、時間がなくて、

それが彼女にとっての最優先事項だから、ここにいるんだ。




「大門さん、さっきは・・・ ひどいとか、言ってすみません。


 あなたは、それでも、今のあなたは、俺にはまるで・・・


 果実の命を守るために現れた、天使のようです。」



「・・・・・・」

「・・・・・・」




「・・・ぷっ 


 あはははははっ!!  なに? あなた、そのロマンチストな言い方。


 ふふふふふ

 天使って・・・



 ウチは、もう、どうしたって悪魔よ。

 ヘブンが天国なら、ウチは天を裏切った・・・そうね  ユダか・・・堕天使?

 ふんっ それもキザな言い方ね。」




「そんな、笑わないでくださいよ。ちょ、果実まで・・・」


重いムードが一瞬だけど、和んだ。

バカにされた気もするけど、
でも、みんなが笑っていたから、ちょっと嬉しかった。



「それで大門さん、

 どうやって、ヘブンから果実を守るんですか?」




「ヘブンを壊滅できる作戦があるわ。


 だけど、うまくいく保証はないし、準備時間も10日ほどしかない。

 それに、仲間が足りない。

 仲間は誰でもいい訳じゃない。本当に信頼できて、優秀な仲間じゃないとダメ。
 ヘブンに密告する者が一人でもまぎれたら、

 計画は失敗。 全員、殺されるわ。」




「そ・・・ その作戦って・・・?」



俺達はその作戦内容を聞いた。


それはとても危険で、果実も最前線で戦う必要があった。

だけど、いまここで俺達が何もしなかったら、

果実はもっと危険な目にあう。





この作戦が成功すれば、アップルスネークは消滅し、ヘブンは力を失う。

人類の不老も解除され、半年前のあの日、2013年1月1日以前の世界に戻る。


俺達が不老を解除することで悲しむ人、喜ぶ人がでるだろう。




果実は言った。

「信頼できる、仲間がひとりいます。しかもとびきり優秀です。」

そうだ、ひとりいた。

これ以上ない、最適な仲間がひとりいる!



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22 決戦前夜・後編

時間が無い。

さっそく、その俺達が信頼できる仲間を、大門さんに紹介することになった。

 



果実の母親が、そこへ向かう前に、骨壷を家に置きに一度帰りたいと言った。

果実も着替えに一度帰りたいと言う。




なので、夜7時に現地集合となった。



火葬後、


父親の遺灰が納められた骨壷は、葬儀場の祭壇の場所に置かれていた。

俺は手をあわせた。



彼は、自分の人生の多くを、子どものためにささげた。


愛する奥さんとの時間を捨て、

子どもを守るために、悪魔のような契約にサインをした。

悪魔は契約をまもり、子どもを救った。



そして今、



悪魔は 「契約」 ではなく、

最後の 「約束」 のために、

もう一度、彼の子どもを救おうとしている。





彼の覚悟と、残した想いに、俺は敬意を感じていた。


あなたとはやり方は違うけど、あなたの遺志は、俺も受け継ぎます。




死んだ彼の魂へ届くように、語りかけた。

魂が存在するかなんて、俺にはわからない。だけど、

彼に届くことを願って、心の中で語りかけた。


どんなに遠く離れても、生きる時代が違っても、人の想いは伝わるって、信じたくなった。





松山、

夜の大街道、

午後7時。



俺達は、ノイマンさんの店の地下に集まった。



「はじめまして、野井です。」


「紹介します。この人が信頼できる仲間、元凄腕ハッカーの、ノイマン。」

「ノイマン? それは・・・ニックネーム?」



大門さんが不思議そうに尋ねる。

「ええ、果実様が名付け親です。気にいっています。」


そんなやりとりをみて、果実はニヤリとほほえんだ。



「そしてノイマン、こちらの女性が、世界を不老にしたウイルスを作った人で、
 私の命の恩人でもある、

 天才博士の・・・ 大門さん突然だけど!

 あなたのこと・・・ ドクターデーモンって呼んでもいいですか?」



「ドクターデーモン?」


「ダ イ モ ン って、 デ ー モ ン みたいでしょ? かっこいいし♪

 あ、ダイヤモンドのほうが良かったですか?」



「・・・ふんっ。好きに呼べば。
 ウチをそう呼ぶのは、あなたで二人目だけどね。」



俺達は、ノイマンさんに事情を説明した。


「はい。もちろん協力させていただきます。

 ですが、大門様に聞きたいことが、二点ございます。」



「なにかしら?」



「まず、ウイルスをどうやって進化させたのか、

 そして、アップルレーザーの秘密についてです。

 
 通常の、電波兵器なら、遮断出来る装置や、軍事施設があります。
 
 ですが、アップルレーザーはそれらを無力化して、
 ピンポイントにターゲットを殲滅しています。
 いったいどんな仕組みを使っているのでしょうか?」


確かに。 それは俺も気になっていた。




「・・・いいわ、教えてあげる。

 アップルウイルスを逆の効果へ変質させるため、ウチは色々な実験をした。

 土に埋めたり、深海に持って行ったり、別の生き物の遺伝子を組み込んだり、

 電気ショック、放射線や紫外線を照射したり・・・

 そんな実験の中で、ひとつ面白い反応を示す事象があった。

 なんだと思う?」



「え、なんだろう・・・」



「それは単純で、普通はあり得ないこと。

 場所を変えただけで、ごく微妙ではあったけど、ウイルスに変化があった。

 それに気づいたのが、1998年。
 ニューヨークの研究室から、イエローストーン国立公園に向かう途中。

 あそこの土には珍しい成分があると聞いたから、土の採取に向かっていた。

 そうしたら突然、彼が車の中で言ったのよ。

 数値が変化してるってね。」




「パパが・・・」


「最初は原因わからなかった。でも途中で確信したわ。

 アップルウイルスは、大地から出ている何らかのエネルギーに反応しているって。


 ウチらは、アメリカ中を走り回った、

 そして、一番反応が大きくなる場所を見つけた。聞いたことあるかしら?


 セドナ っていう場所。」




「セ・・・ セドナって・・・

 俺達が、このまえ行ったとこだよな!

 なんか、パワースポットとか言われてるところでしょ?」


果実もうなずいた。



「セドナの大地からは、特殊な何かが出ていた。
 ウチと彼はその正体を、論理的に、科学的に探った。

 そして、いままで誰も発見していない、特殊な磁力線を検知した。 

 それは、ヘビのように波打っていたから、

 スネーク磁場 と呼ぶことにしたわ。」



キュ キュ  キュー


大門さんは、ホワイトボードに丸を描いた。



「この円が地球。この地球を取り囲むように、ぐるっとスネーク磁場は発生している・・・」



円の外側に、もう一周、円を描いた。

丸い目と、口をつけたから・・・ヘビのつもりらしい。


 
「ウチらは、セドナよりもっと、スネーク磁場が強力に

 大地から噴き出している場所がないか探した。 そして、見つけた。 どこだと思う?

 サイダーわかる?」



「俺っすか!? うーん・・・・・・ 実は日本だったりして・・・富士山とか?」




「じゃあ、果実ちゃんはどこだと思う?」

「えっと、パワースポット繋がりで・・・ エジプトのピラミッド!」




「ノイマンは?」

「そうですね・・・ 磁場というぐらいです・・・ 地球は大きな磁石ですから、
 
 北極か南極のどちらかでしょうか?」



「さすがね、正解。」



キュ キュ キュ キュ キューッ



大門さんはそう言うと、

円の中央、つまり地球の中心から上方向に、突き抜ける、太い線を描きくわえた。



「地球上でもっともスネーク磁場が強かった場所は、


 北極点。 

 もうわかるでしょ? その北極の磁場を利用し、ウイルスは変質していった。


 そして、

 アップルボムも、アップルレーザーも原理は一緒。

 地球を覆っているスネーク磁場に、特殊な信号を乗せて、発動させている。

 まぁ、兵器のほうはウチより、兵器部が詳しいけど。

 ノイマン、これでOK?」



「はい、とても詳しい説明、ありがとうございました。

 では、私は当日までに、掃除機内に隠せるPCと、プログラムを準備しておきます。」



ドクターデーモンが考え出した作戦、

果実と、俺達、そして、人類の運命を左右する作戦。


それは・・・



ワクチンレーザー作戦・・・!!




難しいことは俺にはわからないけど、

簡単に言えば、アップルレーザーにウイルスを消滅させる、
ワクチンプログラムをこっそり仕込む ・・・ってことだ。


障害が山のようにあるけど、ギリギリ超えられるって教えてくれた。





まず前提として、

レーザーの発動は、ライトハンドにしかできない。


発射自体は、ライトハンドに、やってもらう。

だから、ヘブンに怪しまれないように、
こっそりと、ワクチンプログラムをセットする必要がある。




その、レーザーを管理している部署は、ヘブン本部にあって、当然のこと警備は厳重。

まぁ、トップ6である大門さんなら、
最深部のレーザールームまで余裕で行けるけど、

それでも、

肝心の操作パネル周辺には、アップルバリアが張られていて近づけない。
バリアの解除キーも、ライトハンドが持っている。




アップルバリアというのは、スネーク磁場を使ったバリアで、
触れればその人間は消滅するそうだ。

だから、操作パネルに近づけるのは、ロボットか、犬や猫といった動物、

そして、地球上で唯一ウイルス感染していない果実だけになる。


ワクチンプログラムは、果実がセットする。





そして、監視カメラで、操作ルームの様子はモニタリングされているから、

ノイマンさんが、監視カメラをハッキングする。

果実がパネルを操作している姿が映らないように、
監視カメラの通常映像を録画し、警備室のモニターにループ再生させなければならない。


ループ再生切り替えの瞬間は、大門さんと果実は、カメラの死角に移動する。




セキュリティはインターネットに繋がっていない、スタンドアローン状態なので、

ハッキングは直接、廊下の隅にある極秘のUSBポートを使って、侵入する。

そのUSBポートは緊急用で、トップ6レベルにしか、教えられていない。




ノイマンさんと俺は、大門さんの手配で、
清掃業者の格好でビルに入る。

廊下の掃除をしているようにみせかけて、ハッキングをする。






正直、成功の鍵は、俺以外の3人だ。


① 大門さんが、怪しまれないように、果実を最深部へ連れていく。

② ノイマンさんが、掃除をしながらも、監視カメラをハッキングする。

③ 果実が、ワクチンプログラムをセットする。






どれかひとつでも、怪しまれたらダメだ。騒ぎを起こしたらまずい。

不審な侵入者がいたとわかったら、用心深いライトハンドは、レーザーもチェックするだろう。

そうなったら、すべてが失敗に終わる。




作戦開始日は、約10日後。

時間は、午後15時30分。 理由がある。


テレビの生中継で、捕まえた反ヘブンの大物テロリストを、

レーザーで公開消滅することが、先日のトップ6会議で決まったからだ。




だから俺達はその日の、午後15時に、ワクチンをレーザーにセットし、

30分後、気付いていないライトハンド自身の手で、発動してもらう寸法だ。



いちど、ワクチンプログラムがスネーク磁場に広まれば、
アップルスネークウイルスは消滅し、

もう二度と復活はできない。



アップル兵器が使えなくなったとなれば、
どっかのテロリストや、警察、復権を狙う過去の権力者達の手によって、

ヘブンは壊滅させられるだろう。



それは俺達の仕事じゃない。

俺達は、果実のために、アップルスネークウイルスを消滅させるだけだ。






いったん、大門さんはアメリカに戻り準備をすることになった。

次に会うのは決戦の日、当日のニューヨークだ。



ノイマンさんは、お店を臨時休業にして、地下でプログラム作りに入った。


果実は、操作パネルにワクチンを流す方法を暗記していた。


俺は、・・・掃除のテクニックを勉強していた。





あと、ヒカルに電話した。


半年ぶりにちゃんと会った。


堀之内公園のいつものベンチで。




俺は正直に言った。 もう一度バンドがやりたいって。



そして、やるならヒカルと一緒に、もう一度やりたいって言った。

音楽の方向性が違って、いつか解散するかもしれないし、そんな日がくるかもしれない。

そうなったら・・・ごめん。 って言った。



だけど今は、今の気持ちは、ヒカルともう一度やりたい。

ヒカルの鍵盤じゃなきゃ嫌だって   ・・・正直に言った。


ちょっと旅行に行くから、

帰ったら、一緒にまた音楽をやろうって、言った。




ヒカルは、笑顔でうなずいてくれた。




数日が過ぎた。




ノイマンさんは先にアメリカに渡っていた。



俺と果実はふたりで、後からニューヨークに飛ぶことになった。



半年前みたいに、また、親に内緒でこっそり家を出ようとしていたら、

夜中、両親にみつかった。



母さんは言う。
「あれ、どしたん? 夜出るのは最近危ないのに・・・」

父さんは言う。
「こんな時間にどこ行きよんぞ。」 



俺は玄関を出ながら、ゆっくり閉まる扉越しに言った。



「ちょっと・・・世界を救いに行ってきます。」



「なに言いよん? 用事すませたら、はよ帰っておいでよ。」


母さんの声がすこしだけ聞こえた。




フライブルク通りを歩きながら、俺は泣いていた。


怖い。失敗したら殺されるんだろうとか考えてしまう。


きっと、いや、絶対に、無事に目的を達成して、あの家に帰りたい。


この街に帰りたい。 



果実といっしょに。




しばらく、こっそり泣いた。



涙は止まった。



よし・・・・・・ 行こう。







決  戦  前  夜






ふたりで、ニューヨークのホテルに泊まった。

懐かしい。ここは半年前にも泊まったホテルだ。あのテレビ局が見える。



俺がベットで寝ていると、シャワーを浴び終わった果実が、白いバスローブ姿で出てきた。



「とうとう、明日だね・・・

 失敗したら、私達きっと・・・」


「大丈夫さ。こっちには、ノイマンさんと、
 大門さんがついてるん  だっ   ・・・  か・・・  ら・・・」



果実が、俺に抱きついてきた。



彼女は震えていた。





・・・俺は、そっと抱きしめた。



「サイダー 抱いて・・・」


「もう抱いてるよ」



「違う、そうじゃなくて・・・」




はじめて会った夜が、脳裏にフラッシュバックした。


俺は、もう一度、今度は強く抱きしめて、キスをした。



「焦らなくていい。俺たちなら、絶対大丈夫。

 ・・・帰ってきたら、終わったら、ゆっくり続きをしよう。」


果実はうなずいた。





夜があけて、運命の日がはじまった・・・




果実は朝食を食べた。 俺は食べなかった。

待ち合わせ場所の廃工場へ向かうと、


清掃員の服を着た、細くて長身のノイマンさんと、

白衣姿の、丸くて太った大門さんが、すでに待っていた。




俺は清掃員に着替え、ノイマンさんが運転するワゴン車に乗り込んだ。


果実は白衣に着替え、大門さんが運転するドイツ車に乗り込んだ。


2台の車が、廃工場を出発する。


それぞれ別のルートを通って、

ひとりひとり別々の使命を背負って、同じ場所を目指した。





ヘ ブ ン 本 部 へ 。



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