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16 人類出現の地 セドナ


「はぁ? すべての人間を地球から逃がすのが、
 
 不老テロの目的だって!?」


「うん。」


「壮大というか、なんというか・・・
 そんな、ぽかーんとしちゃうような計画、よく言えるよな。 人類ぽっかーん計画だわ。


 だいたいそんな発想、
 俺が小学生の時にした妄想レベル。

 でっかいノアの箱舟作って、クラスのみんな乗せて、いじめっこは乗せてやらない。
 好きな子だけ乗せるんだ。そして、地球は大爆発するけど友達を守って、俺はヒーロー!

 とか、

 地球にでっかいジェットエンジンつけて、
 地球まるごと宇宙船にして、宇宙の果てまで旅するぜ! みたいなさ。」



ここは、自由の女神が立っている島、
ニューヨークのリバティーアイランド。

俺は自由の女神を見上げながら、
テロの犯人、ミスターライトハンドが喋ってた演説のすべてを果実から聞いていた。
「サイダーって小学生の頃そんなこと考えてたんだ。ちょっとかわいいね!」


「なんだよ・・・男だったら誰でもする妄想だろ?
 
 教室に悪い奴が入って来たから戦うとか、
 学校が巨大ロボットに変形して怪獣と戦うとか、

 そういうの、だいたいの男子が通った道だよ。」


「ふーん、戦ってばかりだね。乙女にはわかんないなー。」


「でも、スゲェというか、怖いというか・・・
 あのおっさんはそんな妄想みたいなもんを、ガチでやってんだよな。」


「普通はやれないし・・・やらないよね。

 私だったらやらない。
 大変そうだし、苦しむ人がたくさん出るんだし、やりたくない。

 よっぽどの情熱や執念がいると思う。」
 


俺は、ホットドッグを食べながら言う。


「あと・・・ 

 んぐ んぐ ゴクン 

 あと、アップルスネークウイルスがさ、兵器になるんだろ?

 それも、ピンポイント暗殺が可能ってチートすぎ、ヤバいわ。

 米軍だろうと、テロリストだろうと、
 ヘブンがその気になったら一瞬で全員消滅。

 そりゃ、だれも刃向う気なくして降参するな。
 今は表向きだけでも、どの国も従うふりはするよな・・・怖いもん。

 どうなるんだろう、これから世界は・・・」


と、

ちょっと考えて、でもすぐ、俺は考えるのをやめた。

いま考えてもしょうがないし、なにより時間がもったいない。


アメリカ滞在日数は限られている。
旅の目的だった、父親との話しはもう終わった。 

完全に納得はいってないけど、それでも一応ミッションクリア。


残った時間は、アメリカを楽しむべきだ!


国際政治なんて、普通の高校生には、どーすることも、どうせ出来ないんだ。

政治家とか、頭のいい人達がきっといいようにしてくれるさ。



ということで、俺達は次の場所へ移動することにした!



俺が「ナイアガラの滝」が観たいと言うと、近いよと果実が言う。
タクシーで行ける距離か聞くと、車で7時間位らしい。


車で7時間が近いという感覚・・・


やっぱり、アメリカ大陸はメチャクチャ広い。
ナイアガラの滝がある場所、バッファローまでは飛行機で行くことになった。



バッファローに着いたのはその日の夜だった。
ホテルで一泊して、翌朝から見に行くことに。

でかい!

滝のまわりには、ホテルやビルがあって
大自然!! × 大都会!! みたいな不思議な感じだった。



次はどこに行きたい? と聞かれたので、

定番スポットしか思いつかないんだけど、
『グランドキャニオン』が観たいと言った。


グランドキャニオンに行くなら、
ラスベガスに先に行った方がいいよと言うので、

ラスベガスに飛んで、その後グランドキャニオンを観に行くことになった。


ラスベガスからは、セスナで行くか、バスで行くか迷ったけど、
昔果実が乗った時、セスナは乱気流で揺れて怖かったらしいから、

今回は、のんびりバスで行くことにした。


が・・・

途中でバスのタイヤがパンクして、
修理がくるまで2時間は動かず。のんびりすぎるバス旅行になった。


到着後、展望台から見たグランドキャニオンは、
日本にはない赤い岩の谷で、すごかった。


でも、個人的には、その後に行った「モニュメントバレー」のほうが雄大に感じた。


果実がオススメしてたから行ったんだけど、
広い荒野に、高い岩山。長い一本道。 最高にアメリカって感じで感動した。



その次も果実のオススメで、
近くの「セドナ」っていう場所に行った。



俺はよく知らなかったんだけど、

果実が言うには、セドナは超パワースポットらしい。

女子は好きだよね。

パワースポットとか、占いとか。



正直、俺はうさんくさいと思ってる!



あんなもん、金儲けの道具じゃん。

目に見えないのをいいことに、
悩みを抱えた人の不安に付け込んで、人を操ってるだけじゃん。

詐欺みたいなもんだって、思ってる。俺はね。



でも、

それで、癒される人や前向きになる人もいるんだろうから、
カウンセリングとしてなら、そこまで否定するつもりはないけど。
・・・なんかダイエット食品の時も同じこと言ったな。

まぁ、俺は好きじゃない。

たぶん、いろいろ見てきたからだ。




去年、親戚のおばさんが入院した。
おばさんは病気で余命1年と言われた。


入院費とか生活費は、おばさんの兄である俺の父さんが払っていた。

おばさんはお金が全然ないって言っていた。
でもそれは嘘だった。お金は本当はあったんだ。


だけど、その貯めたお金を全部、カルト宗教に渡したから無くなった。

お祈りすれば病気が治るっていう、知人からの言葉を信じて、
ワラにもすがる思いで、それを信じたんだ。


おばさんは半年ほどで亡くなった。


父さんが宗教のことを知ったのは、
おばさんが病気で亡くなった後だった。



おばさんの葬式には、その勧誘した知人のおばさん、勧誘ババアも来ていた。

父さんは勧誘ババアに家の裏で「うちには来るな」と言った。


帰りぎわ、勧誘ババアは大きな声で叫んだ。


信じる心が足りなかったから病気が治らんで、ばちが当たって
はやく死んだんや! と。


父さんは塩をもってこいと母さんに言って、
玄関先にこわい顔で撒いていた。



冷静に考えれば、

おばさんが亡くなったのは、病気になったからだ。
勧誘ババアでも、宗教のせいでもない。

父さんは辛かったんだ。
妹が亡くなったし、宗教の事を秘密にされたことも。

妹を宗教に勧誘して、全財産もっていくような奴が来たら、
しかも信心が足りないから早死にしたとか言われたら、あたりたくもなる。




嘘みたいな話しだけど、

その勧誘ババアも、葬式の翌月に交通事故で亡くなったんだ。


勧誘ババアは信心が足りなかったのか?


・・・そんな訳で、

身内にそういうこともあったし、俺は宗教だとか、占い師だとか、

パワースポットだとかは、あまり信じなくなった。



なんでだろう。

ああいう、非科学的なもんって、女のほうがハマりやすい気がする。


パワーを込めたパワーストーンや、高額のブレスレット売る占い師や、
自称超能力者、あんなのが商売として成り立つのが。

俺には不思議でならない。


ネットで調べてみ。

それ、原価300円の石だぜ?



そんなブレスレットしてるほうが、幸運が逃げちゃうんじゃないか? って。

俺は思う。


うーん・・・


原価、原価言うのも、
器が小さくてカッコ悪い気もするな。
価値の感じ方は人それぞれだもんな・・・





思いだした。



俺はあんまり夜遊びしない、健全な高校生だけど、

ちょっと前、クラスの肉食系男子こと、ヤリチン君に誘われてコンパに初めて行った。




一次会は居酒屋だった。もちろん俺はお酒は飲まなかった。
ソフトドリンク飲み放題で4000円だった。


高かった。

俺には4000円はかなり高かった。

でも、コンパが・・・というか、誰でもいいからエッチがしたかった。




コンパに来た女は、他校のケバい女子高生だった。


厚化粧でバッサバサのつけま、
デカ目カラコン入れてて、目の周り真っ黒で・・・


心の中でパンダかよ! ってつっこんだ。



正直いって、化粧とったらブサイクな予感がする顔だった。

しかも友達の愚痴ばっかずっと喋ってくる。


4人の中に1人だけ、ちょっと可愛い子がいた。


俺は、その子とエッチがしたくて、
その子の友達に、悪く思われるのはマイナスだから、我慢して


パンダ顔の愚痴ガールズの愚痴を聞いていた。
そうだね、わかるよって。



・・・我ながら、情けない。下心がプライドに勝っていた。



二次会は、松山の三番町にあるヤリチン君の友達が経営してるという、バーに行った。



その店は1杯ごとにお金を払うシステムで、
俺はコーラを1杯だけ飲むことにした。



「700円」 って言われた。



えっ!?

コーラ1杯が700円・・・!? 



思わず声が出た。


いちおう700円払った。コーラがきた。
でも、あんなのグラスに氷がいっぱい入っていて、

ちょっとしかコーラ入って無かった。

ファミレスでドリンクバーなら、何杯飲んでも300円とかなのに。



「ぼったくりじゃん。200円あれば、スーパーで2L買えるやん。」
俺はつい、そんなこと言ってしまった。


すると女達は俺に、「え、きもいんだけど」とか「ガキかよ」とか、
「ムード代って知らないの?」と言ってきた。



「ボクちゃ~ん、
 女子高生といっしょに飲めるだけで感謝しろ~♪

 たかが700円だぞ~
 キャバクラとか考えてみ~ 知ってる? キャバクラ~

 あのね~


 若い女の子はね、ただいるだけで

 メチャクチャ価値があるのよ~

 童貞くさいバカ男子とは 命の価値が違うのよ~


 考えてみ~

 若い女と飲んで、セックスできるかも~ってだけで~
 オヤジ達が何万円も払ってるでしょ~

 女には価値があるからなのよ~

 そうやってね、経済は回ってるの。 ボクちゃん考えてみ~?」


「ちょっとマユミ~言いすぎ! マジウケるんだけど~www」


愚痴ガールズは俺に説教してきた。
もちろん、ヤリチン君は女の肩をもった。


「ごめんねー、こいつクソ真面目で~。

 チッ

 おまえホントありえないから、 マ ジ で

 こういう店で原価がどーのとか、言うなバーカ
 大体、マー君の店だっつったろ?

 俺の仲間の顔にドロぬる気か?

 ぜってー、ゆるさねーぞコラ」



「かっこいー! 仲間を大事にするって、ワンピみたいー!」

「俺ヤバくな~い? ヤバいっしょ~!
 飲み飲みの実の能力者っ なま中持ってきて勝負すっか!」

「キャハハハハハハッ」

俺は、なんかバカバカしくなって、コーラも飲まず帰った。




翌日、学校でヤリチン君が、

クラスの男達に、ハメ撮り写真を自慢していた。



「ほーら守、うらやましいだろー♪」

ヤリチン君が俺に写メを見せてきた。


写っていたのは、昨日の合コンで唯一、
ちょっとかわいいなって思っていた、あの女の子だった。



あの子の無修正画像だった・・・・・・。



ヤリチン君とセックスしている写真が、そこには何枚もあった。




「お前、女の扱い方、ぜんぜんわかってねーわ!

 お前にも、この写真送ってやろっか♪」





「・・・くれんの?」

俺は下心に負けて、欲しいと思った。





「誰がやるか、ばーーーーーーーかwwwwwwww」
 
 
俺はヤリチン君を殴った。



まわりの奴らに止められて、職員室に呼び出された。


教師は俺をビンタして、

「暴力はよくない!

 言い訳するな、先に手を出したお前が完全に悪い!」 

とか言ってきやがった。



俺は黙っていた。


俺だけ、一週間自宅謹慎になった。





・・・・・・という風に、

長々と昔の事を思いだすくらい、アメリカは広大で、バス移動は時間がかかる。
(あー、思いだしただけでムカついてきたわ・・・)


果実は占いとか好きで、
パワースポット巡りとかしちゃうタイプの女子だった。



愛媛にあるパワースポットについても、いろいろ教えてくれた。

今治の大三島だっけ? そこにある、おおやまずみ神社? ってところは、
日本最古の樹齢3000年越えるクスノキがあったりで、パワースポットらしい。

他にも、東温市の桜三里とか、伊予市の・・・なんだっけ・・・忘れた。

ま、

いろいろあるらしい。俺はそんなとこ、どーでもいいし、行く気もない。



そして、アメリカのセドナ。


セドナは、世界的な超パワースポットだそうだ。

大地から強いエネルギーが、グルグル渦を巻くように放出されている場所を、
ボルテックスとか言うらしく、



セドナは、めっちゃボルテックスしてるらしい。


ボルテックスには2種類あって、男流と、女流があるそうだ。


『男流』は、大地から空へ向かう上昇エネルギー。
宇宙の偉大な知恵と繋がれて、前進するパワーをくれる。


逆に、

『女流』は、大地へ引き込むエネルギー。
疲れとかを吸いとってくれる癒しのパワー。

・・・そんなことを果実は教えてくれた。


正直言って、俺には山とか、木を見ても、そんな超常現象は感じなかった。

でも、広大な赤土の大地と、
荒野で暮らしていた、昔のインディアン達の力強さを想像して、それに感動していた。


そうそう、

セドナに暮らしていたインディア・・・ いや、ネイティブアメリカン・・・・

いや、最近はネイティブアメリカンって言うほうが差別を助長するとも聞いたし・・・
インディアン自身も「インディアン」って、誇りを持って呼んでいるって聞いたし・・・



なので、その、うん、

インディアン。



セドナあたりに住んでいるインディアン、確か名前が、ヤバパイ族。


ヤバパイ・・・噛みそうな名前だ。ヤバイおっぱいって思えば覚えやすい。




ヤバパイ族には興味深い伝説があって、

3億年前はセドナは海の底だった。

それが地殻変動によって隆起して、
聖なる山々、現在のセドナが200万年前に出来たそうだ。



ヤバパイ族の神話によると、
人類は創造主と共に幸せに暮らしていたが、

創造主に逆らう悪行を行ったため、
世界は大洪水に飲まれてしまう。

全員が生き残るのは不可能だと悟った人類のリーダーは、
1人の少女に、人類の存続を託したそうだ。

その少女は、残り少なくなっていた食料全てと一緒に、
丸太の中に入れられ、蓋をして、海に流される。

何日も何日もプカプカ浮かび続け、

ようやく海水が引いた。

大洪水のあと、地球上にはただひとり、少女だけが生き残った。

その少女が降り立った場所が、ここセドナ。


インディアンの伝承では、

セドナこそが、人類出現の地。母なる大地。



俺は果実のその話しを聞いて、言った。


「キリスト教にある大洪水とか、ノアの箱舟とストーリー被ってない?

 インディアンを撃ち殺して、
 アメリカ大陸に住みついた、白人達の創作っぽい気がする。」

って。




果実は、

「伝説なんて、すべて作り話かもしれないし、
 同じことが世界で起ったのかもしれないし、

 わかんないよね。」


と言っていた。


わからないことばかりだ。

ただ、

その夜、セドナで一緒に見た夜空はとても美しかったことは、よくわかったし、

大昔にインディアンが観た夜空も、同じように美しくて、
感動していたんだろうなということは、わかった。

そんな記憶は、全員のDNAに刻まれてるのかな?





うまいものを食べて、

美しい自然を目にして、

最高に楽しいアメリカの数日間だった。




でもふと、

帰りの飛行機でちょっと考えた。



この旅行費も、

果実の父親のサイフから出ているんだ・・・ってこと。



「金稼げばいいのか!」 とか俺は偉そうに言った。

だけど、

そのお金があるから、果実や俺まで楽しい旅行ができたんだから、

お金も大事だって思った。


お金、それも、

親の愛情表現のひとつ。


お金がすべてじゃない。
だけど、お金も大事なんだ。


お金。

もし、あの合コンの時、俺がお金いっぱい持っていたらどうなっただろう?


一杯700円のコーラが高いなんて、きっと言わなかった。

むしろ、女子高生たち、みんなの食事代をおごって、
高いプレゼントもしたりして、

そしたら感謝されたかもしれない。



ステキ♪ とか、優しいとか、男らしいとか言われて、

あのちょっとかわいい子とも、エッチできたかもしれない。

ヤリチン君にバカにされないですんだかもしれない。


・・・・・


バカらしい。

やめやめ。


隣で果実が寝てるんだぜ、

そんな下品で卑しい、くそったれな妄想をしてんじゃねーよ。 バカか俺は。





単純じゃないな、生きるって。



ミスターライトハンドや、
ヘブンって組織は、お金がいらない、新しい価値観の社会を作る気なんだろう。


・・・


移動時間が長いと、自分の人生を見つめ直したり、社会の難しいことや

色んなことを考えてしまうな。

いや、不老になったんだ。

移動時間はこれから10時間どころじゃなくなるんだ。



10時間なら、雑誌を一冊、機内で読んだり、音楽を数曲聞いたり、うたた寝すれば
やりすごせる時間だ。



でも、本当にヘブンの計画通りになったら、

いずれ、移動は星間飛行になって、
片道10万年とかになるんだ。


10万年の移動時間で、

俺達は何を考え、何をするんだ?







飛行機は東京に着いた。


そして、愛媛へ飛び、10日ぶりに松山へ帰ってきた。




俺達は家に帰らないで、まず、ノイマンさんの店へ向かった。



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17 心の穴


カラン

「ノイマンただいまー♪」

大街道近くにあるノイマンさんの店に入った。

 



「ああ、おふたりとも、お帰りなさいませ!」


「パスポートありがとうございました。
 おかげで無事、旅行できました。」

「いえいえ、お安いご用です。さ、お茶でもどうぞ。」



旅の思い出を、楽しそうに話す果実。

ノイマンさんも楽しそうに聞き、微笑んでいる。


だけど、果実は父親に会いに行ったことは言ってない。

一番の目的だったけど、秘密にしているみたいだ。



一瞬、

ふたりが親子のように見えた。



親がかまってくれなかった、
親の愛情に飢えて育った果実と、

裏の世界で生き、表の明るい世界や、光に飢えていたノイマンさん。


ふたりの心に空いた穴は、

大きさや形は違うんだろうけど、どこか似ているのかもしれない。

だから、ふたりは仲がいいのかな・・・



なんて思ったけど、本当の所は本人にしかわからないし、
本人だってわからないだろう。



じゃあ、俺は? 心にぽっかり穴みたいなものが空いてるのか?



平凡な家庭で、平凡に生きてきた俺だ。

ふたりに比べたら、
たいした苦労も壮絶な痛みも経験していない。


親に守られ、健康体で、

ミュージシャンになるなんて夢をみちゃって、友達も少ないけどいて、

ごく平凡だけど、幸せに暮らしてきた。




こんな俺が、果実の心を本当に理解してあげられるのか?

果実の親のかわりになって、彼女がツライ時、心の穴を埋めてやれるのか?




・・・なれない。


っていうか、違う。


そういうんじゃない。親のかわりになろうとするとか、それは違う。


俺は俺だ。


まだまだ何ができるかわからないけど、

俺は俺で、俺のやり方で、果実と向き合って、一緒に、

ずっと一緒に幸せに生きていければいいんだ。
それがきっと果実の為にもなるし、俺はそうしたい。


前向きにいこう!




ノイマンさんにちょっと聞いてみる。

「あの、ヘブンって組織は、裏の世界では有名だったんですか?」


ノイマンさんは、少しだけ渋い顔になった。



「テロ前は全然知りませんでした。

 リーダーがミスターライトハンドということも知りません。
 彼は、マフィアなどの裏世界とは違う、表世界の人間です。

 堂々と健全なビジネスをされています。 

 普通に、そこにあるペンも、そこのハンガーも、窓ガラスも、
 この部屋にあるいくつかの物も、彼の関連企業が製造していますし、

 とても大きな企業グループです。

 その健全なビジネスの一部には、
 新薬の研究施設があり、軍事産業があった。
 豊富な資金と、政財界にきく人脈もあった。

 どうやったかは知りませんが、そこで生まれたのが、

 アップルスネークウイルス。

 彼は、ウイルスを人類の進化に役立てているつもりでしょうが、
 かなり強引な行動をしています。」



「あの兵器、欲しがる人いますよね」


「ええ、すでに裏では色々な動きが始まっています。
 各国の軍部、マフィア、テロリスト・・・みんな狙いにいっています。

 ミスターライトハンドは、それらすべてを抑えながら、
 全人類を管理して、彼の考える良い方向へと導かなくてはいけません。

 ですが、そんなことが、
 いくら優秀な経営者とはいえ、はたしてできるでしょうか・・・」



「難しいことはわからないけど、平和になってほしいね!」

果実が言った。

本当にそうだ。悲惨な事件や、争いが起らなかったらいい。
無責任に俺も同じことを思っていた。


俺達はノイマンさんの店を出て、それぞれ家に帰る。



街から家まで徒歩で40分、夕暮れの中、
俺は歩いて帰ることにした。



ヘブン反対! 人権をとりもどせ!


そんな張り紙が電柱に貼られていた。




「ただいま」

玄関を開ける。


母さんは晩御飯の準備をしていて、
父さんはテレビでニュースを見ている。


「守、ちょっと来い」

父さんに呼ばれる。


「ちゃんと説明もしないで、黙って10日間も・・・お前はどこいっとったんぞ。
 わしらがどんだけ心配するんか、わからんのか。」


「・・・・・・ごめん。」


フワッといい香りがする。


「お父さん、もういいじゃない。無事に帰って来たんだから。
 守も高校生なんだし、いろいろと自分でやりたい時期なんよ。 ねぇ

 はい、ごはんごはん! 今晩はカレーやけん!」


母さんが気をきかせて、はりつめた空気をゆるめてくれた。




家族三人でカレーを食べる。

たった10日ぶりなのに、とても懐かしい。



そして思うのは果実のこと。

ひとり、あの大きな家で食べてるのかな。

果実に会いたい。

また、明日会おう。

時間はたっぷりあるんだ。

いろんな所へ行こう。いろんなことをして遊ぼう。




時間って不思議だ。


楽しい時間はあっという間で、退屈な授業は長く感じる。

慣れた通学路を歩く10分と、
初めての道を歩いて感じる新鮮な10分では、

時間の密度が違う。



俺が果実と出会ってから、もう半年の月日が流れていた。



そんな、2013年、夏。


事件が起きた。



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18 永遠の17才 Ver.2.0


世界は、本当に「平和」になったのか?




2013年1月1日、ヘブンと名乗るテロリストによって、

不老ウイルスが世界中にばら撒かれた。

俺たちは歳をとらなくなり、

約半年が過ぎた。



2013年 8月。 例年より暑い夏だった。



「平和」と「人類保護」を目的とするヘブンは、世界政府となり、
管理という名の支配をおこなっていた。

まるで、よくある設定の漫画のような現実。


憲法や、国の役割がガラッと変わるなんて、想像もしていなかった。


最初はテロリストと呼ばれたヘブンだったが、権力の中心となった今ではそれは逆転、

反ヘブンを唱える者こそが、テロリストと呼ばれるようになっていた。
たった半年で。


3月、4月、5月、この3か月の大きなニュースは、

強力な兵器である 「アップルボム」 & 「アップルレーザー」 関連ばかりだった。

反ヘブンの人々は兵器を奪おうと試みるが、
作戦はことごとく失敗、ひとり残らず消滅させられた。


ヘブンの統率力、軍事力の高さを見せつけられ、反ヘブン勢力は戦意を喪失。
夏になると、もう目立った活動は、聞かなくなっていた。



世界の軍隊は解体され、ヘブンの指揮下に編入され、
銃や戦車、核ミサイルなんかも、すこしづつ解体、処分されていった。

あるコメンテーターは、「現代の刀狩り」と、うまいことを言ったつもりだったが、
そんなことは視聴者もとっくに思っていたわけで、


ツイッターでは

「あの程度のコメントでお金貰えるなんて羨ましい職業だ」 と、揶揄されていた。





戦争は、確かに地球上から消滅した。


一部、民族紛争を続ける地域もあった。

何度やめるよう忠告しても、争いをやめなかったので、ヘブンは予告通り、
その一帯にアップルボムを使用した。

争う者達は一瞬で消滅、結果、民族紛争もなくなった。

地球上から戦争はなくなった。



昔、ミュージシャンや、ヒッピー達は音楽にのせて歌った。


NO WAR

戦争を無くそう

国境を無くそう

飢餓を無くそう

みんなで平和にハッピーになろう、と。



ヘブンは戦争をなくした。

国境を無くし、乱暴者を排除し、飢餓を無くした。


飢餓や、戦争で苦しんでいた人々は、涙を流して喜び、感謝した。

ヘブンを称賛する世論が高まっていった。


いっぽうで、

従来の人権や倫理観に反するヘブンの行動に、恐れをもつ人々も増えていった。



日本国内のメディア世論調査によると、


ヘブンを支持する   55%
ヘブンを支持しない  30%
どちらともいえない  15%

という結果になった。



世界が良くなったのか、悪くなったのか、俺はどちらともいえなかった。

・・・けど、確実にわかるのは自分のことだ。



ヘブンとか関係なく、

いま超しあわせだった!!

毎日がメッチャ楽しい!!


俺は、あれからバイトを始めたんだ。


やっぱりさ、

果実に無関心のオヤジが稼いだ金で遊ぶのは、ムカつくってことで、
果実とも話して、とりあえずバイトをすることにした。

これが正解だった♪


家から近いって理由だけで、テキトーに空港通にある
カラオケ&ネットカフェのお店で働くことにしたんだけど、

果実もいっしょに働きたいって言うから、いっしょに面接に行って。


バイト楽しいわー!

働くってしんどい、ブラック企業、死にたいって情報ばかりネットで目にするけど、
いざ働いてみたら、仕事って案外楽しかった。


その店は結構ゆるくて、

客がこない時は、カラオケルームでこっそりギターの練習OKだったりで、



俺はもう、

音楽でプロになるって夢は諦めたから、

なんていうか、すごく心が軽くて!



やっぱり

この音楽不況の時代に、どうやって売れる音楽を作ったらいいんだろう!!
って考えるのは、すんごいプレッシャーだった。

気にしてないつもりだったけど、俺にもプレッシャーがあった。


音楽ってさ、もう今時は違法だろうとネットにアップされて、タダで聞けちゃう。

いや・・・俺も聞いちゃってるんだけど・・・



だってだよ!

アルバムを3000円で買ってきてパソコンで聴くのと、

動画サイトで、どっかのファンであり犯罪者が違法に同じ曲アップロードしてて、

無料で同じ曲聴けるんだったら、どっち選ぶ?

しかもファンがアップしてるから、公式よりもかっこいい動画作ってたりする。


そりゃ、稼いでたら買うけど、俺みたいな貧乏学生は、小さな罪悪感を抱えながらも、
動画サイトで聴いちゃうよ!



よっぽど好きなアーティスト、俺だったらノイジ・スピカとかなら、
絶対アルバムも買うけど。

応援したいし、コレクションとして、物も欲しいから。



社会がどんどん景気よくなったらいいけど、

ヘブンで混乱ぎみの変化している時代に音楽作っても、
よっぽどいい曲じゃないと売れない。

っていうか、


いい曲作れば売れるわけでもない。

ドラマ・アニメ・映画・CMの主題歌タイアップとか、宣伝も大事だろうし。


悩んでいたんだけど、プロにならないって決めたらさ、

もー、純粋に好きな音楽をやって、

自分の好きなように楽しめばいいだけだから、気持ちが楽になるね♪


音楽に興味無い、とにかく金儲けにしか興味無いレコード会社の奴らに、

「今売れてるあの曲の真似しろ!」 とか、エラソーなことを言われないでいいし、最高だ。

むしろ、金が儲からない時代になったほうが、
売れ線の音楽ばっかじゃなくて、もっと純粋な音楽が生まれるんじゃない?

って、それはノイジ・スピカが言っていたんだけどさ。






前は、時間があいたらギターの練習、音楽の勉強しなくちゃダメだって思ってた。


他のやつらが遊んでる時間に、こっちは勉強しなくちゃ勝てないって思ってた。
昔の名盤聞いたり、クラシックのメロディパターンを自分なりに研究したりして。

あと、


どこの音楽事務所が業界で権力があって、
どのプロデューサーが実力あって、だれに気にいられたら成功できるかとか、

どの賞をとったら評価されるとか、ミリオンとれるとか・・・

そういう打算的な、営業戦略も考えてたけど、
そんな音楽で勝つだ、負けるだ、売れるだ、考えないで良くなったから、


前より音楽が、演奏が、歌が、純粋に楽しい!!



果実も結構センスがあって、ちょっとギター教えたらすぐ覚えてひいてた!


あー、またバンドしてーなぁ・・・

でも、ヒカルは俺と違ってプロ目指してるし、連絡するのは迷惑だろうな。
「方向性の違い」で、どうせケンカするだろうし。



いまは、果実といっしょにいられるだけでいいや。

くだらなくて、つまらない退屈な日常だって思っていたものが、
こんなに輝いて感じられるんだから。

ミュージシャンは恋や愛ばっかり歌いやがる、

年中発情期かよって馬鹿にしていたけど、その気持ちが少しわかってきた。


この恋しい気持ちがあれば、すべての問題は解決するって気持ちになれる。

音楽をやめて、母さんとの安定をした結婚生活を選んだ父さんの気持ちも、
こんな感じだったのかもしれないな・・・。




いっしょにバイトして、

いっしょに夕焼けみて、

いっしょに歩いて、

いっしょに街で遊んで、

いっしょに綺麗な星空見て、



休日にはデートして。



衣山に映画を見に行って、パスタ食べながら語り合ったり、

砥部の動物園に行って、動物の足跡パネルをたどったり、

愛媛FCの応援でサッカーを見に行って雨にうたれて、ずぶ濡れになったり、
今治や宇和島、西条や新居浜に行ったり、

高知にはカツオ食べに、香川にはうどん食べに行ったり、

海外旅行にも何度か行った。


もちろん、バイト代だけじゃ外国は無理だから

瀬戸内海を越えて、広島や大分の由布院へ遊びに行っただけだけど(笑)




ずっと、ずっと、こんな日々が続けばいいのに。




ニュースでは難しいこと言ってる。

社会派の友人も、フェイスブックやツイッターで難しいことばっか言ってる。



固定された格差だとか、法律の整備が遅れてるとか、

赤ちゃんが生まれないのは問題があるとか、

それは本当にすごい深刻な問題なんだろうとは思う。だけど、


ごめん!

俺にはわからない! 頭のいい人にまかせた! って気分になる。





学校や、バイト終わったらどこで会うか、

休日はどこに遊びに行くか、そっちのほうが俺には大事だ。


学校といえば、ずっと高校生やってるのはバカらしいって言って、
俺のクラスでも5人、自主退学者がでた。


だって、ヘブンの政策でしばらくは学生はそのまま、

高校2年生なら、高校2年を繰り返すようにという指示だから。


ずっと高校生だ。 エンドレス高校生。 


エンドレスワン

エンドレスツー

エンドレススリー・・・・・・ エンドレスエイト・・・ エンドレステン・・・ 
エンドレスワンハンドレット・・・

100年かもしれないし、
ヘブンの方針次第では、1万年続くのかもしれない。






世界中が完璧に機能する、最高の社会システムをヘブンが構築するまでは、

とりあえず学生は現状維持だそうだ。





だけど、誕生日はくるわけで、俺は18才になった。

まぁ、体は2013年1月1日の、17才のままだけど。


これって、本当に18才になったって言えるのかな?


17才をもう1回繰り返しただけ、

つまり、17才・・・バージョン2 とか、呼んだ方がいいんじゃないの?



17才 Ver.2.0 

あぁ・・・本当に永遠の17才に、なっちゃった。



俺達は若い姿のままでいいんだけど、子どもやお年寄りは可哀想かもしれない。


だって、

10才が10年たったって、20才にはなれない。
いくら知識を詰め込んでも、きっと頭脳は10才のままだから、



10才 Ver.11.0 になるだけ。

10才 Ver.11.0 は、体は10才だから酒もタバコもダメだし、
エッチな事もしたらダメだろうし・・・



難しい。


でも、俺はヘブンにちょっと感謝している。



好きな人と永遠に生きられるチケット をプレゼントしてくれたから。


プレゼントというより、押し売りだけどさ。


だけど、

子どもや、子どもを持つ親の気持ちを考えると、
ヘブンがやった事は、ひどい、最低のことだとも思う。


2013年1月1日、

あの日、たまたま病気になった人、ケガをした人は、永遠にそのままだ。

治ろうとするカラダの免疫力を超えた、ウイルスの自己保存能力・・・
そんな偶然で、いまも苦しんでる人がたくさんだ。

・・・可哀想すぎる。

そこらへんを、早くヘブンにはどうにかしてほしい。



と、いろいろ考えていたら家についた。




「ただいま」

「お、守君! バイト始めたんだってね。」


そうか、今日はお盆だった。 
正月ぶりに、姉夫婦が実家に来ていた。


姉の旦那は公務員で28才の・・・

やっぱり、まだ名前を覚えてないんだけど、彼も来ている。


姉は自分の赤ちゃんを抱いている。俺も抱かせてもらった。


正月にも抱かせてもらった赤ちゃん。

赤ちゃんはあの頃のまま、ちっちゃくて、柔らかくて、甘い匂いがする。


「この子は、おとなしくて、手がかからなくてね、
 ずーっと、可愛い赤ちゃんのままでも嬉しいんだけど・・・」


姉が言ったのは、他のママ友の話し。

夜泣きが激しい赤ちゃんもいて、お父さんやお母さんが育児に疲れて、

そこまでは誰でも経験する普通のことだけど、
これが一生、いつまでもずっと続くと考えちゃって、

育児ノイローゼが増えている、って。



母さんは、親戚の家の 『介護の問題』 を話した。

おばあちゃんが痴ほう症になって、共働きだから家じゃ見ることができなくて、
老人ホームに入居してもらったんだけど、

不老ウイルスのおかげで、ずっと元気で。

それは、おばあちゃんが元気でいいことなんだけど、
介護費用が毎月何万円も必要で、これが永遠に続くと思うと、気が滅入ると。

だからといって、尊厳死だなんて口にしたら、
まわりの人から優しさが無いとか、育ててもらった恩が無いとか、みんなやってるとか、
色々言われちゃうから・・・って。



姉の旦那さんも言う。


愛媛県庁だったか、松山市役所だったかで働いている公務員の彼。


日本国も、ヘブンの管理下に入ったので、
彼もある意味、ヘブンの末端といえる存在になったわけだけど・・・


「誹謗中傷がひどいんですよ。
 公務員は安定してていいなって、生卵ぶつけられたり、

 さっき言った介護の問題とか、どうにかしろって言われるんですけど、

 僕らがどうこうできるレベルを超えている話で、

 国やヘブンからはまだ、対策も指示もこない状況ですからね・・・大変です。」

姉の旦那は苦笑いをした。


そうか、

世間の不満は、公務員に向かっているんだ。
ヘブンにぶつけると、テロリスト認定されて、アップルレーザーで消される可能性があるから、

不満をぶつけやすい人間に向かっているんだ。


まさか、この日本が一党独裁のヤバい国みたいになるなんて。

いや、日本だけじゃないか。世界中がヘブンの王政独裁国家になった感じか。



食事が用意された。

だけど、みんなあまり食べない。 食欲がわかないんだ。
最近じゃ、食事はまるで儀式のようになっていた。

食べなくても、体は維持される。
エネルギーも水分も、細胞が生み出してくれる。

もう、太らないし痩せない。

食べたらウンコしたくなるから、それも面倒くさくて。
食べなきゃ、ウンコでないし。


アイドルは永遠に17歳で、

アイドルはウンコしないという都市伝説が、これも現実になったわけだ。


味覚も落ちてきた。

おいしいって感覚を、ちょっと忘れてきている。



家畜への虐待をやめろ!
野菜への虐待をやめろ! ・・・文化人や芸能人が最近よくテレビで言っている。

食べなくても人間はもう死なないんだから、畜産も酪農もするなと言いだした。


ツイッターでもよくRTされて、まわってくる。

食事する奴は弱者の魂を食う鬼、そんなムードが作られつつある。


そんな社会になったから、食品業界はボロボロになり利益が出ない。

父さんもリストラされた。


食品関係の会社で働き、

「命を繋ぐ大切な仕事」 と、プライドを持って、一生懸命働いていた父さんなのに。


母さんや姉が励ますと、大丈夫やって笑ったけど、
その顔はちょっと無理をしているように見えた。



試し読みできます

19 血まみれの手と 嘘にまみれた愛


戦争はなくなった。



貧困と飢餓もなくなった。

平和になった。


本当に?

これで、平和になったの?



良くなっていっているのか、

悪くなっているのか。



夕飯後、俺は自分の部屋に入る。


相変わらず、洋楽アーティストのポスターだらけ。
特にノイジ・スピカのポスターが壁にたくさん貼られている部屋だ。


だけど、半年前とは大きく変わった部分がある。



果実ゾーンができた。


コルクボードを買ってきて、
果実と行った旅行の写真とか、プリクラを貼っている。

ちょっと恥ずかしくて、部屋に友達を呼べなくなったけど。

でも、俺にとってここは大切なゾーン、



果実風に言うなら、パワースポットだな。



まぁ、いまだに俺はみんながありがたがる

パワースポットなんてものは信じない。


聖地セドナにも行ったけど、そんな場所より断然、この果実ゾーンのほうが、

俺にとってはパワースポットだ。



ま、一番のパワースポットは、果実の隣だけどさ。




・・・・・・



あかん、いや、いいんだけど、

果実病、カジツウイルスに侵されている。 これが 恋の病 ってやつか?





果実、今なにしてんだろ?

今夜はお盆だから、
年に1回の、あの無関心オヤジが帰ってる日か・・・ ちょっと電話してみるか。




プルルルル   プルルルル




「はいはーい」

果実は元気に電話に出た。


「こんばんは。無関心オヤジは帰ってきた?」



「ふふふっ 無関心オヤジは下で、無関心ママとテレビみてるよ。」


果実は、左手で推理小説と、グラスにアイスレモンティーを持ち、

右手で携帯を持って、お尻と足で、自分の部屋の扉を器用に閉めた・・・


「あっ!」

ゴッ バシャ


「うわっ!!」

「果実どうした!?」


「あちゃー ごめん、なんでもない。ちょっと飲み物落としちゃった。

 タオル、タオル・・・

 よかった、グラス割れてない。」



フキ フキ

フキ フキ



「でも、お盆にだけは帰ってくるの不思議だよなー。
 もしかしてオヤジさん、幽霊なんじゃない?」


「 あ り え る 」



「幽霊も、晩ゴハン食べてた?」

「うん、お寿司とか食べてたよ。」



「お寿司かー、いいな! あ・・・でも最近、俺ぜんぜん食欲が湧かないわ。

 うちの家族も、ほとんど食べなくなってる。」


「私のところもそう。ママもパパもちょっとしか食べない。
 おかしいなー

 私は、昔と同じでお腹すごく減るけどな~。」


「テレビで個人差があるって言ってたし、そのうち果実も食欲なくなるよ。」

「だとしたら寂しいな。私、食事って好きだから。

 それに、食事って先祖から受け継がれてきた、その国の文化でしょ?」



30分ほど世間話をして、俺達は電話を終えた。




俺は机のパソコンの電源を入れて、エロサイトでも見て、

オナニーをしようとした。

だけど・・・

なんかつまらない。チンコがたたない。

OLもの、熟女もの、女子高生もの、乱交もの、外国人もの、SMもの、などなど・・・

あかん、ピクリともしない。



ウイルスで食欲が激減したんだ、性欲だって減っているのかもしれない。



パソコンの電源を切って、ベットに入る。

寝ころんで、携帯機でゲームをする。


「くそっ、もうちょっとで、このボスを倒して攻略でき・・・  zzzzzz・・・」



ガンッ!


「はうっ!」


うとうとして、顔面にゲーム機を落としてしまった。

そろそろ寝ることにするか。




その頃、



果実はベットに入って、推理小説を読んでいた。


物語はクライマックス。
探偵がトリックをあばき、真犯人を指差すシーンだった。



犯人は・・・お父さん、アンタだ!


犯人は身近な人物、ヒロインの女子高生の父親だった。

青春を楽しむ若者への嫉妬が動機で、
それが、引き金となり、

医者であった父親は、注射器と毒物による、
カップルばかり狙った連続殺人事件を引き起こしたのだった。




ふー

パタン

読み終わった。



果実は、本を枕元に置いて、枕元の電気を消し、

静かに目をつぶった。




1時間




2時間




・・・眠れない。





妙に、クライマックスが気にかかる。


親が連続殺人鬼 と知った時の、娘の心境が、気になって眠れないでいた。



すると、


カチャ


と、ちいさな音がした。





誰かが・・・ 部屋に入ってきた?




果実はこっそり薄く目をあけて見る。




そこには、父親と、母親がいた。

さっきまで目をつぶっていたから、暗闇の中でもハッキリと見えた。


父親の手には、注射器がある。



ふたりはゆっくりと果実に近づき、母親がタオルケットをめくり、

父親が果実の手を掴もうとしてきた。



果実はビクンと震えた。


それに気付いた父親は、小声で言った

「・・・起きていたのか?」


果実は暗闇の中、起き上がり、掴もうとする父の手を振りほどいて、
枕元の携帯電話を掴んだ。



「果実ちゃん、冷静になって。パパとママの話を聞いて・・・」

母親がゆっくりと話しかける。


「・・・私を ・・・殺すの? ・・・ふたりには私はやっぱり邪魔だから

 永遠に面倒なんかみたくないから ・・・殺すの?」



果実は震えていた。



「違う。聞いてくれ、これは、どうしても必要なことなんだ・・・」



果実は飛びあがり、入口に向かって走り出した。


「きゃっ!」

捕まえようとする母親を突き飛ばし、玄関へと走った。


「くそっ!!」

父親は果実を急いで追いかけた。リビングにはいない、どこだ・・・玄関の扉が開いていた。

「なんてことだ、外に出たのか・・・」





プルルルル   プルルルル


ピッ


「・・・・・・はい・・・・・・斉田です・・・」



「サイダー!! サイダー!! 助けて!!」


「ん? 果実? ・・・いま何時?」



「ハァ ハァ 寝てたのに起こしてごめんね。

 あのね、いま私 ングッ 逃げてるの。 ハァ ハァ やっぱりパパとママが変なの!」



「ごめん・・・え、どういうこと? なんかされたのか?」


果実は走って、建物の陰に隠れ、腰をおろした。


「ハァ ハァ 寝てたら、なにか注射を打たれそうになって・・・ ハァ ハァ

 だから逃げたの、今は近所にある・・・潰れたガソリンスタンド ハァ ハァ

 あそこの裏に隠れてる・・・」


「警察には電話した?」



「まだしてない。充電してなかったから携帯のバッテリーが少ないし、
 でも警察よんだら・・・もっと家族がバラバラになっちゃうし・・・」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!
 俺もそっちいくから、そこで黙ってじっとしてて。警察には俺が電話するから

 いいな!!」


「わかった・・・待ってる。」 


ピッ



俺は寝ぼけた頭に、グッと力をいれて血をのぼらせる。

いま大事なことはなんだ?

優先順位は?



チャリで行くには遠すぎる、

親を起こして説明するのは時間がかかりそうだし、
こんな深夜にタクシーを捕まえるのも時間がかかる。


まず警察に電話して・・・
あーでも信じてくれるか? 説明に時間がかかるのはマズイんだ・・・


そうだ! パトカーで現場に向かいながら、警察官に説明すればいい。

必死に頼んだら、きっとパトカー出してくれるはず・・・

よしっ! 俺は交番に走った。






潰れたガソリンスタンドの裏、果実は電話を切って、

靴下のまま、息をひそめてうずくまり、サイダーが来るのを待っていた。



ジャリ…     ジャリ…



足音が近づいてくる。



果実は、そばにある武器になりそうなものを探した。

すみに置いてある鉄パイプを掴んだ。



角を曲がって現れたのは、父親ではなかった。

街燈に照らされた黒い影、小太りの男のシルエット。


果実は一瞬ホッとしたけど、それは間違いだった。

男の手には、包丁が握られていた。


「シーーー。」

男は左手で、人差し指を立てて声を出すなという合図をする。


小太りの男は言う。

「どうしたの? こんな夜中に、こんな所に逃げ込んで・・・ 悪い夢でもみたの?」


小太りの男は、にやついた笑みを果実に向けた。


「このあたりは高級住宅街だよね

 きみが走って出てきたおうちも、すごく立派だよね。セキュリティも万全そうだ・・・」




男はゆっくり果実に近づいてくる。

「お金持ちって、いいよねー

 どんだけ悪いことしたら、
 あんなおうちが買える、大金を稼げるんだろうねー

 きみも、お金持ちの家に生まれた・・・ お嬢様なんだろ?

 いいね、たまたま生まれた家が金持ちでさ。」



腰が抜けて、果実は立てない。



「僕はね、金持ちが大嫌いだよ。
 
 どうせあいつらは、悪いことをして、人をダマして金を儲けているに決まってるんだ。

 だってそうじゃない?

 僕は真面目にがんばって働いてるのに金持ちじゃない、

 いつまでたっても金が貯まらない・・・ 金がないから恋人もできない・・・

 正直者がバカを見る世の中だ・・・」



小太りの男の不気味さに、果実は鉄パイプを強く握った。



「世の中おかしい、不平等だ・・・

 僕みたいな真面目で性格のいい人間が、しあわせになるべきなのに、

 悪い奴ばかりが得をしている・・・

 腐ってやがる・・・ 

 プフッ

 腐ってやがる 早すぎたんだ・・・ わかる? プフッ

 しかも 

 しかもだよ、ミスターライトハンドとかいう金持ちが不老にしやがった。

 ありえないでしょ?

 金持ちや権力者はずっと、その権力を手放さない。

 僕みたいな心の優しい社会的弱者は、いつまでたっても這いあがれない。

 ずっと弱者のままじゃないか・・・

 平等じゃないだろ そんなの。

 金持ちだとか、政治家とか、官僚とか、ヘブンとか、
 あいつらも苦しい目にあわなくちゃいけない。」


包丁を見せつけながら近づいてくる小太りの男に、

果実は持っていた鉄パイプをチカラいっぱい、全力で叩きつけた。



バシッ!  グイッ  ポイッ

カランッ! カラン カ  ラ    ン・・・


男は簡単に鉄パイプを掴み、奪って後ろに投げ捨てた。




「よっわww 女のチカラ、よっわwwwwwwwwww」


果実は、恐怖から声が出ない。


「おまえが死んだら、金持ちの親も少しは悲しむかな? ぷぷっ、いい気味だ。

 死ね!」


ガンッ!!



ドサッ




小太りの男は前のめりに、果実の真横に倒れた。

そこには、鉄パイプを持った、果実の父親が立っていた。


「ハァ ハァ 大丈夫か?」


「パ・・・パパ・・・?」



父親は果実のそばにかけよる。

「大丈夫、家に帰ろう。」





グサッ


「!!」



「プ・・・プホォ・・・」 ドサッ


小太りの男は、父親の胸を刺すと、力尽きてその場に倒れこんだ。



「パ・・・ パパ・・・」



父親の服が、みるみるうちに血で真っ赤に染まる。


「ぐっ・・・ 心配いらん・・・」



「救急車、呼ばなくちゃ!」


果実は急いで携帯を取り出すが、バッテリーが切れて使えない。
 


「いいんだ・・・ この傷だと私は助からないだろう・・・ ハァ ハァ

 だから この注射を・・・ うっ  最後に・・・」



「パパ? 何を言ってるの?」



「パパを信じてくれ・・・ 危険は・・・ ないから・・・」


父親の真剣な、でも優しい目を見て、果実は静かにうなずいた。



左腕に注射器を刺し、なにかの液体が注入された。


「これは・・・ アップルウイルスだ・・・ 

 正月に・・・ 私が日本中に撒いたもの・・・ とは違う・・・

 お前だけの・・・」


「え?」



「だ・・・ 大門さん・・・ 聞いてますか? 

 約束   やぶります・・・ だけど・・・ この子を・・・ 

 これからも・・・ 守ってください・・・」



「パパ、意味がわからないよ・・・! 喋ったらだめだよ!!

 救急車呼んでくるからっ!!」


立ち上がろうとする果実の腕を、父親はグッと掴んだまま離さない。




「あとのことは・・・ ママに・・・ 

 ごめん  な か じつ・・・ いま まで あ り   が       と  う    ・・・・・・」




果実を強く掴んでいた父の手が、

ゆっくりと果実から離れていった。





ダダダ・・・


「果実!!」

血の中に倒れる2人の男を見て、何が起ったのか理解ができなかった。
現場をみた警官が無線を使う。

「こちら現場、大至急救急車を2台手配してください。」




「サイダ・・・ パパが・・・ パパ・・・ パパがぁ・・・」




果実は父親を見つめ、血まみれの手を、ただ無言で握りしめていた。



10分後、救急車が到着し、果実はそれに乗り込み病院へと向かった。



俺は警官にお願いして、パトカーで果実の家に向かった。

チャイムを押すと、綺麗な女性、果実の母親らしき人がでてきた。

事情を説明して、一緒に病院へ向かった。






手術中のランプが赤く光っている。



果実はうつむいて、廊下の椅子に座っていた。

母親は黙って隣に座り、そっと、手を握った。



俺は、少し離れた窓際に立って、手術が終わるのを待つことにした。



どれくらいの時間がたったんだろう。

赤いランプが消え、医者がでてきて、ふたりになにかを告げて、

頭を深々とさげた。




果実の母親が、果実を抱きしめて泣きだした。

果実はただ、茫然と前を向いていた。



俺は、


俺は・・・ かける言葉が見つからなくて


動けなかった。



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20 死ぬほど愛した 男   死ぬほど憎んだ 女


わからないことだらけだった。



① 父親を刺したのは誰だ?

② 父親は果実を襲っていたんじゃないのか?

③ いっしょに倒れてた男は?


・・・果実に聞こうか、


いや、ちょっと待て。 



あんな、娘に冷たくて無関心で、仕事しか興味のない父親でも、果実にとっては実の父親だ。

こんな事になって、すごくショックだろう。

今はそっとしてあげるべきか・・・




あ~! でも! 落ち込んでる果実をおいて、帰りたくない。
でも、声かけづらいし!



・・・・・・



とりあえず、缶コーヒーでも飲むか。

待合スペースに置いてある、自動販売機へ向かった。


警官がふたり立っていた。 
俺は気にせず、コーヒーを買って座る。


カシュ

ゴクゴク



警官に聞いてみた。


「あのぉ、刺した犯人って・・・倒れてた小太りの男ですよね?」


「ああ、娘さんが言うことが事実ならそうですね。

 ケンカをして家を飛びだしたところで、知らない男に襲われ、お父さんがかばった。」


「そうですか・・・」


だったら、倒れていた男は、通り魔かなにかか。




・・・それでも謎が残る。



両親が注射器で襲ってきたという

あの電話はなんだったんだ?




コーヒーを飲みほすと、果実と、母親がこっちにくるのが見えた。

母親は警官と何か話し始め、果実が俺のとなりに座った。



「果実・・・大丈夫か? なんか飲む?」

「ううん、いい。 ありがと。」




「さっきの男・・・いや、ごめん、なんでもない・・・」


なに聞いてんだ俺は、

さっき襲われたばかりだぞ、犯人のことなんて聞いたら、トラウマとかそういう

フラッシュバックとかして、傷をえぐるかもしれんのに・・・。



俺は、となりに座る果実の手を握った。




「サイダー、ありがとう。

 私は大丈夫だよ。平気。あんまり実感がないんだ・・・

 怖い夢をみてた感じで・・・ これ、夢じゃないよね?」



「うん、夢じゃない。 無事でよかった。
 
 ・・・オヤジさんが助けてくれたって、ほんと?」


「うん・・・パパは、私を守ろうとして死んじゃった。」

「そうか・・・」




果実の母親がやってきた。深く頭を下げた。 目が真っ赤だった。




「サイダーさんですよね?

 こんなことに巻き込み、すみません。 また後日、連絡いたします。

 いまから私達は警察署で取り調べがありますので・・・」
 
 

俺もパトカーで簡単に取り調べられ、その後、家まで送ってもらった。

そして、もういちど眠り、目が覚めると夕方だった。



事件は、地元テレビのニュースが大きく報じていた。



裕福な世帯を狙った、通り魔の凶悪な犯行!!

社会に不満をかかえた若者の暴走!! ・・・と。




その夜、果実から電話がかかってきた。


葬儀が来週あって、
ママさんが、俺にも来てほしがってるようだった。 行く約束をした。


えっと・・・お葬式って黒い服で行くべきだっけ?



母さんに聞いてみたら、学生は制服でいいんよ、と言っていた。

誰のお葬式? と聞かれたので、バイト先の先輩とテキトーに言う。

母さんが今、テレビを見ながら怖いわーと言った被害者の葬儀です。

・・・なんて言えない。
真実を言っても、変に心配させるだけだ。




そして当日。





午前10時、松山市内にある大きな葬儀場へ着いた。


当然、知らない人ばかり。受付に果実がいたから、会釈をした。

俺は後ろのほうの席に座った。



あれ? 

左にやたら目立つ、見覚えのある女性がいた。

体重が余裕で150キロはあるだろう、相撲取りみたいな女・・・ そうだ!


半年前見た、アメリカで父親と一緒にいた女が出席していた。


親族のスピーチを聞いていると、父親の仕事が少しわかってきた。
予想通り、アメリカで遺伝子の研究をしていた。


献花をすることになった。
白い菊の花を、棺の中のご遺体を飾るように入れていく。


列に入って待つ。 俺の番が来た。


棺の中には、果実の父親が静かに、安らかな表情をしていた。

鼻に綿がつめられている。

俺は、右肩に花をそっとのせた。





12時前、出棺。

バスに乗って火葬場へ出発した。

俺の横には果実が座ってくれた。




12時30分、火葬が始まった。

13時すぎには、もう骨と灰になっていた。



みんな黙々と、遺骨を容器に木の箸で納めていた。

人って、最後はこんなに小さくなるんだ・・・。



果実は俺が守るから、天国で安らかに。 そんなことを心の中でちょっとだけ言う。

宗教は嫌いなんだけど、死者の魂の平安を祈ったりして・・・

俺は矛盾しているのか? いや、人としてただ自然な感情なのか。







バスはもう一度、式場へと戻った。

14時30分、豪華なお弁当が出された。


親族でもないし、そんなに親しかったわけじゃないのに、ここにいていいのかな?
と、いまさらながら思いつつ、弁当を食べた。

食欲が湧かないけど、残すのは失礼なので、頑張って食べた。

けど、量が多いのでやっぱり持って帰る事になった。




酒を飲んで、明るく笑っている人がいる。

静かに食べている人もいる。


故人のことを懐かしむ人がいる。

関係ないギャンブルの話をする人もいる。



これが現代日本の、ありふれた、普通の人のよくあるお葬式だ。

100年前、200年前はもっと違っていたし、
100年後だって、ルールは変わっているかもしれない。


亡き人との最後のお別れの儀式。

俺もいま死んだら、こういう風に見送られるんだろう。





15時30分、解散時間となり、みんな帰っていった。



俺も帰ろうかなと思っていると、果実に呼ばれた。



「ママが、私達に大事な話があるって。」

「どんな話?」

「さあ・・・」




さっき食事した部屋とは違う、また別の部屋に案内された。

この部屋も借りたのかな? まぁ、お金持ちだからこのくらい余裕なんだろう。




果実と座っていると、母親が入ってきた。

その後に、なぜか、あの太った女も入ってきた。



広い会場に、4人だけが座った。




「サイダーさん、葬儀に出席してくれて、
 なにより、果実と仲良くしてくれてありがとうございます。」


母親が俺に話しかけてくる。

「え? いや、こちらこそです。」




「サイダーさん。そして、果実。

 いつか、話さなくちゃいけない日がくると思っていました・・・。


 サイダーさんが、果実のことを真剣に想ってくれているなら、
 なおのこと、これはツライ話かもしれません。


 果実にだけ告げることも考えましたが、
 彼が亡くなったことで世間の目がこの死に注目し、

 万が一、果実の 『成長している秘密』 に早く気付く可能性を考慮し、


 ミスターライトハンドは、

 果実を、早急に隔離するようです。


 ・・・ですので、ふたりの為にも、サイダーさんには全てお話しします。」



「私が・・・隔離される?」

俺も意味がわからなかった。
そして、なんでミスターライトハンドの名前がここで出るんだ?


 
「ミスターライトハンドにとって、果実は世間から本当は隠したい存在なのです。

 ですが、研究の功績により、しばらくは現状のままの生活を許されていました。
 しかし彼が亡くなった以上、そろそろ動くようです。
 
 果実の存在が、ヘブンを崩すきっかけになるから。

 ・・・ふたりとも、心の準備は大丈夫ですか?」



俺と果実は、黙ってうなづいた。


少し離れた席に座っている太った女は、ジッと果実だけを見つめていた。




「17年前、私達のあいだに女の子が生まれました。

 それが果実です。

 嬉しかった。彼と一緒にすごく喜びました。

 でも、早産で未熟児だったのでNICUに入ることになりました。

 NICUとは、何らかの疾患がある新生児を治療するところです。

 そこで、果実に病気がみつかりました。」



「私、どんな病気だったの?」




「赤ん坊のまま、成長しない病気です。」



「えっ!?」

「・・・」



「私達は、大学で遺伝子研究をしていたから、多少は知識があり、

 赤ん坊が成長しない病気にいくつか症例があることを知っていました。

 例えば、重度の甲状腺ホルモン欠乏症です。

 ただ、

 果実は染色体の異常、
 それも、いままでに無い、未知の遺伝子異常でした。

 いつ死んでもおかしくない状態で、
 私達は必死に治せる医者を探しました。99%治らない、どのドクターも無理だと。

 自分達で研究もしましたが、どうしようもできなかった。」




「でも・・・ 私は生きてる・・・」


「そう。あなたは助かりました。
 あそこに座っているドクター、大門さんのチカラで。」



「大門さんが、私を救ってくれた・・・」




「大門さんとは、大学のクラスメートでした。
 在学中に世界的発見をいくつもされた、とても優秀な研究者です。

 私達は大門さんなら治せると信じて、アメリカへ会いに行きました。

 事情を説明すると、彼女は断りました。でも、

 ありがたいことに、条件をのむなら研究しようと言ってくれて、

 その条件が・・・」



「いいわ! そこからは、ウチが話す。」


奥に座っていた太った女、大門が急にくちを開いた。



「ハッキリ言っておくけど、ウチ、

 あなたのママ、大嫌いだから。」



腕組みをして、果実の母を睨みつけ、大門はふてぶてしい態度で話し始めた。



「昔話からしてあげようか? 亡くなった彼の話し。」


「パパの・・・」



「彼とウチは小学校からの幼馴染。

 彼は、運動も勉強もできて人気者だった。


 逆に、ウチは、地味で運動も勉強もできなくて、よくいじめられた。

 でも、あなたのパパだけは、優しく接してくれた。

 ウチは彼を好きになった。



 聞いたのよ、どんな女の子が好き?って。

 そうしたら、頭がいい子が好きって彼は言った。



 彼に好きになってもらうために必死だった。

 彼は理科が好きだったから、ウチも理科を特に勉強した。


 遺伝子研究の為に大学へ進学すると聞いたから、
 ウチも、彼と同じ大学を選んだ。

 けなげな乙女心でしょ。


 大学では研究の成果が認められ、『世界の大門』とよばれた。

 勿論、セカイノダイモンって呼び方の中には、嘲笑が入り混じっているのは感じたわ。

 でもいいの。

 他人にバカにされても、彼さえそばにいれば。

 これでウチは頭のいい女になれたと思った。 告白すればうまくいくと思った。




 でも、彼はウチを選ばなかった・・・。




 そこにいる、ちょっと顔がいいだけの、たいして勉強もできない女を選んだ。


 ウチは絶望した。


 結局、男なんて女の見た目しか見てないんだって思った。
 もう、男や恋愛なんかどうでもいい。仕事に生きることを決心した。

 日本を離れ、アメリカの研究所で働き始めた。



 平穏な日々だったわ。



 なのに!

 この女は、図々しく訪ねてきた。

 しかも、難病の子どもを抱えて。



 ウチはお人好しじゃないからね!

 断ったのに、ふたりとも何度も何度もしつこく頼みに来た。



 受けるなら条件がある。
 無茶な要求を言えば、諦めて帰ると思った。」


「条件・・・?」




「成功したら、あなたはウチの男になって、妻と娘には会うなって。」



俺は声が出た。

「ひどい条件・・・」




すると大門は言った。


「ひどい?

 ウチの気持ちがわかる?

 死ぬほど愛した男を奪ったこの女への嫉妬に憎悪、

 しかも、その女の子どもを救わなくちゃいけないのが、どれだけ苦痛だったか・・・」
 


「そんな言い方ないだろ!!」


「サイダー!」


感情的になった俺を、果実はとめて、首をふった。






「大門さん、ありがとうございます。」



果実は立ち上がって頭を下げた。





「ママ・・・

 私、パパとママのこと、ずっと誤解してた。

 いらない子どもだって、思って生きてた。


 お金なんかいらないから、

 普通の家庭に生まれて、仲良い家族で暮らしたかったって・・・



 でも、ぜんぜん



 不幸じゃなくって・・・



 すごく

 愛されてた・・・


 ごめんなさい。気づいてなかった・・・・・・」




果実はポロポロと涙をこぼした。



「私を助けるの、すごく嫌だったと思います。

 それでも頑張って助けてくれた。
 だから、大門さんはすごく優しい人だと思います。

 ありがとうございます。」




「フンッ・・・ 誰かさんとそっくりね・・・

 勘違いしないで。あなたを助けたかったんじゃない。

 その女の家庭をボロボロにしたかっただけよ・・・」


大門はプイッとそっぽをむいた。





今度は果実の母親が話し始めた。




「大門さんのおかげで、病気を治す薬ができた。

 でも、その薬は年に1回、注射が必要だったから、

 お願いして、お盆の時だけは、三人で会う事が許されたの。」



すると、また大門が口をひらく。



「その女は薬と言ったけど、毎年、あなたに注射されているのは薬じゃない。

 ウイルスよ。

 あなたの血からウチが作った、特殊ウイルス。最初のアップルウイルス。」



「アップルウイルス・・・ パパが最後に言っていた名前だ・・・」



「ふん。

 ガキの名前が果実って聞いたからね。

 確かキリスト教で言うでしょ?
 創世記だっけ? 林檎説、ザクロ説いろいろあるけど。



 人の原罪。


 アダムとイブがエデンの園で、蛇にそそのかされて禁断の果実を食べてしまう。

 そのせいで、人間には知恵がつき、神の怒りをかい、楽園エデンを追放される。

 
 死ぬはずの子どもを、遺伝子操作までしてむりやり生かしているウチの行動は、
 この原罪のように思えてね、

 アップルウイルスと名付けたわ。

 まぁ、そんなことを原理主義的にいってしまえば、

 医療行為全てダメだし、科学文明を否定することになるんだけど。

 
 とにかくウイルスは完成して、あなたは、人並みに成長、老化できるようになった。」




「あの・・・大門さん。 

 俺、いまなんとなく予想できたんですけど・・・

 もしかして、不老テロのアップルスネークウイルスって・・・」




「ふんっ、私の遺伝子研究所のオーナーは、この研究にとても注目していた。

 莫大な予算をウチに与えてくれた。


 実験が成功して、彼は言った。

 成長しない細胞を、成長させられるのなら、

 逆に

 成長をとめるウイルスだって作れるだろう? と。」



「やっぱり。

 あれ? でも、それじゃあ、果実はもしかして・・・」



俺がそう言うと、母親が静かに言う。


「果実は、

 いま地球上でたった一人の、

 不老になっていない人間よ。」




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