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11 正しい人


「ミスターライトハンド、ディナーをお部屋にお運びしても、よろしいでしょうか?」

ニューヨークを一望できる高いビル、その最上階の部屋に男はいた。


「ああ、頼む。」





夕日を浴び、分厚いソファに座っているのは、
グレーのスーツを着た金髪の白人男性。


大きなテーブルには、次々と料理が運び込まれる。

豪華な日本料理だった。

「和食が食べたいとおっしゃられたので、今朝、日本からヘリで新鮮な食材を空輸し、
 当ホテル一流の料理人達に作らせました。」

女はそう言いながら、料理人達と一緒に、男の前に料理を並べた。


一通り並べ終えると、料理人達は部屋を出ていき、
広い部屋には、男と女だけになった。



男はしばらく並べられた料理を見ていたが、ふーっとため息をついた。


「バター、ちょっと来なさい。」

部屋の隅に立ち、手を前に組んでいる女を呼ぶ。


「いかがなさいました?」


「なんだ、あの料理人は。右端にいた男からはタバコのニオイがした。
 禁煙もできない料理人など、即クビにしろ。」

「もっ、もうしわけありませんでした。徹底させます。」



「それとお前だ、和食という文化では汁物は右手側に配置するのが基本だ。
 なぜ、左手側に置いた?」

「それは・・・」

「正当な理由があるなら許可しよう。無いなら許さん。」

「・・・知りませんでした。」


「ルールなんてものは先人が勝手に作ったもので、
 時代に大きく合わなくなった場合は、変えていくべきものだ。

 だが、そうでないなら、ルールは守るべきものだ。それが正しい人の生き方だ」


「もうしわけありません!
 普段、私は日本の料理を食べないため、知りませんでした。
 昨夜、調べはしたのですが、勉強不足でした。」


「次からは気をつけろ。人は間違いをおかす。
 だが、罪を悔い改め、正しい行いをすることができるんだ。

 Do the right thing それを忘れるな。」

「はい。Do the right thing ・・・ドゥ・ザ・ライト・シング・・・
 人として正しいことをする、ですね。」


「そうだ。では、いただきます。」

モグモグ


「うん、味はいいじゃないか。良い食材を探してくれたことがわかる。」

「ありがとうございます。」



完璧な箸使いで食事を終えた男は、窓からニューヨークの夜景を静かに眺めた。




「Do the right thing・・・」




コンコン

「失礼します。ミスターライトハンド、ヘリの準備が整いました。
 現在深夜0時です。放送開始まであと6時間ほどありますが、
 FBCテレビの方へはいつでも出発できます。」


「まだ時間があるな・・・ドクターは来ないって?」

「ドクターはデートを優先するそうです。」


「ははっ、彼女らしいな。とりあえず、シャワーを浴びて、音楽を聞いてから考えよう。」

「かしこまりました。」


男はバスルームへと向かおうとした。


「あの、紙袋は本当に前回のままで良いのでしょうか?」


ネクタイをほどきながら男は言う。



「ああ、どうせすぐ取って顔を出すんだ、前のままで問題ない。」



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12 おとぎばなし


シャー

男がシャワーをあびている。



「失礼します。バスローブ、こちらに置いておきますね。」

ガチャ

「あっ!」


「バター、少しワインが飲みたくなった。用意しておいてくれ。」

「かっ かしこまりました。ミスターライトハンド・・・」


ガチャ シャー


「・・・見ちゃった・・・・すごい・・・右まがり(ドキドキ)」 
 
 




男はシャワーを浴び終わると、

バスローブを着て、ソファに座った。


「ふぅ・・・」


ピッ


巨大なスピーカーから流れてくるのは、

ノイジ・スピカの歌声だった。



男は目を閉じ、指揮者のように手を振り始めた。



序盤は静かで、小鳥のさえずりが聞こえる。

ノイジのハイトーンが気持ちよく響く。


曲調はしだいに重く悲しくなり、詩も孤独を歌いはじめる。

生きる苦しみ、愛する人との別れ、切ないバラード。

そこに、キーンとベルが一音、高く鳴る。



ベルの音の後、10秒ほど無音がある。



かすかに、囁くようにノイジ・スピカは歌いはじめる。

だんだんと、明るいメロディへ転調、

ギターに、ピアノ、バイオリン、クライマックスへと盛り上がっていく。

永遠の愛を力強く歌い上げ、

綺麗なリフレインを残し、曲が終わった。



男は余韻をかみしめ、ゆっくりと手を下ろし、首を振りながら拍手をする。

「ブラボー!実に素晴らしい!」


「ミスターライトハンド、私はノイジ・スピカのファンで全作品を持っておりますが、
 今の曲は初めて聴きました。」

「そりゃそうだ、未発表の新曲だからな。」



コンコン  

「ノイジ・スピカ様がお見えになりました。」


そこには、白いシンプルなドレスを着た、ノイジ・スピカがいた。


「早かったな。
 ちょうど、きみの新曲を聴かせてもらったところだ。」

「嬉しい。どうだった?」


「オペラの雰囲気を取り入れたのは正解だと思うよ。」

「ありがとう。テーマは何十億人の永遠の物語でしょ? 
 そこには群像劇のイメージが欲しかったから、オペラを取り入れてみたの。
 クイーンのボヘミアン・ラプソディなんかも参考にしたけどね。」


「私は断然、きみの新曲、
 アップルスネークの方が好きだな。」


「ほんとうに今夜、これを歌うの?」


「ああ、お願いしたい。」

「わかった、任せて。
 あなたは私の夢を叶えてくれた人だから、恩返ししなくちゃ。」


2人にワインを運びながら女が言葉を発した。


「ノイジさんの夢ってなんだったんですか?」


「おい、バター!

 私と客人が会話している中に割り込むだけの、正当な理由があるなら許可するが、
 無いなら許さんぞ。」


「も・・・もうしわけありません! つ、つい、憧れの方が目の前にいたもので・・・」

「さっき怒られたばかりだろうが、正しいことをしろ。
 Do the right thing を忘れるな。」

「は、はい!」

「まったく・・・」


「ミスターライトハンド、私は大丈夫よ。あなた、お名前は?」


「はい、私は秘書をさせていただいております、バターと申します。」

「そうなんだ。ミスターライトハンドにも、こんな秘書がいるのね。」


「どういう意味だ?」

「だって、あなたは優秀でしょ。そして完璧主義な男。」


「優秀と言ってもらえて嬉しいな。」


「言ってもいい?」

「なんだ?」


「このバターちゃんに関しては、優秀じゃないわ。
 優秀だったら馴れ馴れしくボスの会話に入ってきたりしないものね。」

「・・・」


「それに、私はこのあと歌うのよ? 聞きもしないで、ワインを出すのはミスじゃない?
 つまり、この子は天然で、おバカちゃんなところがあるわ。」


「はははっ! 確かにそうだ。バターはバカだ。」



「疑問なのは、あなた程の優秀な実力者が、
 なぜ、こんなおバカな子を秘書として雇い、
 あえて一番身近においているのかってこと。

 もっと頭が切れて、マナーも完璧な秘書なんて、いくらでもいるはずなのに。」



「なんでだろうな。」




「予想だけど、あなたは自分が正しいと自信をもっている。
 だけど、心の奥には大きな不安を抱えているわ。
 
 自分は正しい! 本当に正しいのか? いや自分は正しい!ってね。


 だから、無条件に自分がやることは
 正しいと信じてくれる従順な人間がそばに欲しい。」


「・・・」



「そして、これが正しいことなんだぞって、教えることで自信を保っている。

 中途半端に優秀な人間は持論をもっているから、噛みついてきてウザいもの。
 反抗してこない、従順で、すこしバカな人間をあなたはまわりに置きたかった。

 Do the right thing 人として正しいことをする。


 アメリカでは有名なこの格言を引用して、

 自分は正しいことをしていると
 思いこもうとしている。 

 違う?」



「ふっ、きみはミュージシャンだけでなく、心理カウンセラーもできそうだな。
 だが、ひとつ間違っている。」

「?」


「Do the right thing ・・・この言葉は、ただ有名だから使っているわけではない。」

「・・・」



「両親が、私を殴りつけながら

 いつも使っていた言葉だからだ。」



「・・・」



「信心深くて、普段はとても優しいまじめな両親だったよ。何不自由なく育てられた。

 大好きだった。

 でもある日、私の通う小学校で銃の乱射事件があったんだ。

 犯人は近くに住むアジア系移民の中年男だった。

 自分が仕事を解雇されたのは、人種差別、格差社会のせいだと恨み、
 白人、特に裕福な家の子どもが多く通う、私の小学校を狙った。」


「・・・・・・」


「教室では、理科の授業をしていた。
 私は先生にあてられ、前にでて黒板に解答を書いていた。

 すると、

 銃を手にした男が前の扉から入って来て、
 
 いきなり先生を撃った。

 先生は、私にもたれかかるように倒れてきた。 


 先生の長く綺麗な金色の髪のむこうに、男の姿が見えた。

 子ども達の悲鳴が聞こえる。すぐ近くなのに、とても遠くに悲鳴を感じた。

 私は身動きができなかった。

 
 悲鳴はどんどん少なくなっていった。

 そして、犯人は最後に自分を撃って倒れた。

 教室の中で生きているのは、私だけだった。」




「ひどい・・・」





「警察がきて、助け出された。私を抱きしめる両親に聞いたんだ。

 なんで、

 罪のない友達が殺されなくちゃならないの? ってね。

 両親は黙っていた。

 信心深い両親は、神様が見ている。罪には必ず罰があり、

 正しいことをすれば、神様が幸せにしてくれるといつも言っていたから。」


「・・・・・」


「だから言ってやったんだ、

 神様なんか嘘っぱちだよ、誰も助けてくれない、くそったれだって。

 汚い言葉で、役立たずの神だとさんざん罵ったよ。

 すると両親は、神を侮辱するなと私を殴りつけたんだ。」


「え・・・」



「私は心に決めた。神など信じない。神など弱い者へのまやかしだと。

 自分の力で、強く生き、本当に正しい行いをしようと決めた。


 神が、弱い人を見捨てるのなら、

 私が、弱い人を救える存在になろうと決めたのだ。」



「・・・それであなたは、アップルスネークを撒いたのね。」



「ああ。そして、もうすぐ私がやったと公表する。
 あそこにある、ナンバー1が書かれた紙袋をかぶってね。」



「私も紙袋をかぶるべきかしら?」

「いや、きみはいい。ノイジ・スピカは象徴、不老の女神になってほしい。」


「わかりました。あ、そうそう、
 バターちゃん、あなたの質問に答えてなかったわね。」


「あ、いえ、そんなすみません!」



「私の夢はね、ずっとずっと、楽曲を作って、歌い続けることなの。

 若く美しいルックスのまま、

 音楽の才能が枯れないまま、永遠にね。」


「その夢を叶えてくれたんですね・・・」




「そう、彼の作ったアップルスネークがね。」


「ノイジ、私は約5000社のトップだが、ドクターではない。

 正確に言えば、ウイルスを作ったのは16年前に出会った女性の博士、

 ドクターデーモンだ。

 本当は、今夜一緒にくるはずだったんだが、彼女は気分屋でね。」



「ドクターデーモン・・・
 神を憎むあなたには、ピッタリのお仲間ね。」



「ドクターデーモン・・・・

 ドクターデモン・・・・・

 ドク・・・タデモン・・・・

 ぼく、ドラえも・・」


「おい、バター!」


「あっ・・・も、もうしわけありませんっ!
 昨夜、日本食の勉強をしたときに、日本のアニメジョークの情報があったもので。」



「ははは、バターちゃん面白い! バターちゃんって、いくつ?」


「はい、26歳です。」

「若いねー!」


「え? ノイジ・スピカ様のほうが若いんじゃないですか?」



「私本当は、39歳だから

 正直、限界だったのよね~、若作り。



「ええええええっ!! 見えないですっ!! 本当に17歳位だと思っていました!!」



「ありがと♪ 永遠の17歳とか言って、最初日本のアイドルっぽい売り方しちゃったから、
 その時に応援してくれたファンをがっかりさせたくなくてね。

 栄養管理して、運動して、頑張ってはいたんだけど、流石にすこしヤバくなってたの。

 老化を止めてくれて、本当に感謝してるわ。」


「林檎に・・・ヘビ・・・悪魔に・・・美魔女・・・まるで、おとぎ話ですね。」



「さあ、そろそろ行くか。バター、ヘリと、テレビ局に伝えろ。
 全ては予定通り正しく進んでいるとな。」


「はい、かしこまりました!」



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13 父親って稼げばいいんですか?


「ねぇサイダー・・・」

「ん?」

「ありがとうね。」

「な、なんだよ、急に・・・」


「私達が出会ったのって、ほんのちょっと前なのに、
 こうやって一緒に遠いアメリカまで来てくれて、本当にありがとう。」


果実は大きな瞳で、俺を見つめてそう言った。
夕日を浴びながら、髪の毛がオレンジ色に輝いていた。


「まだ、俺なんもしてないよ。」



そうだ、何もしていない。

なんで、俺がアメリカにいるのか。

なんで、果実の父親の帰りを待っているのか。



すべてはあの夜だ。

命を簡単に捨てようとした果実を、
俺はただ、止めたかった。






果実がどんな苦しみを抱えているか、
俺には本当の所は、わからない。

なにが正解かもわからないけど、

泣いてる果実を見て、助けたい、幸せにしたいって思った。


そして、

果実がこんなに思いつめている原因のひとつ、
両親にむかついたんだ。


だから、

どういうつもりなのか、会って聞いてやる! って言って、そして本当に会いに来た。


・・・俺はなんて言えばいいんだろう?



ケンカ腰に言葉をぶつけたら、解決するのか? 違う気がする。

冷静に話せば、果実と家族の関係は良くなるのか? ・・・それも違う気がする。



ここにきて、ちょっと不安になってきた。



そして寒い。

冬のニューヨークがこんなに寒いとは知らなかった。
風が冷たすぎる。


「さっっむ! 松山より、寒い気がするんだけど。」

「うん、ちょっと寒いね。でも、寒波が来たらこんなもんじゃないよ。
 マイナス10℃とか普通だもん。」

「まじで? 北海道レベルじゃん。」



そんな会話をしていると、一台のドイツ車が近付いてきた。



車は目の前を通り過ぎ、ガレージに入っていった。


「どう?」

果実に確認した。

「うん、パパだと思う。」

「よし・・・行くか。」


庭に入り、ガレージへ向かった。



バタン

だれか降りてきた。




運転席からは男、助手席からはもう一人・・・

その男の3倍は体重がありそうな、太った女が降りてきた。


男は、こちらに気付くと、


「先に入っていて。」

太った女にカギを渡し、ガレージからゆっくりと出てきた。



「パパ、急にごめんね。あのね、友達と・・・」

「なんで来た? 絶対に来るなと言っただろう。」



果実の言葉をさえぎるように、男は強い声を出した。



「・・・ごめんなさい、ちょっとパパに会いたくて。」



「そんな言い方しなくてもいいんじゃないですか?」

俺はちょっと頭に血がのぼってしまい、口を開いていた。




「・・・きみは?」

「果実さんの・・・友達ですよ。このまえ電話で少し話した、斉田です。」

「・・・そうか。」



「他の家庭の事情に、口をはさむのもどうかと思うんですけど、
 ちょっと、果実さんに冷たくないですか?」

「 ・・・」


「海外で、仕事をして、きっとたくさん稼いでるんでしょうし、
 それは立派だと思います。
 だけど、なんか、親として冷たいと思います。」


俺の、素直な気持ちを言った。



果実の父親は俺をじっと見たあと、


「きみに私の家庭について、とやかく言われたくないな。
 言いたい事がすんだなら帰ってくれ。」



男は背を向けて、玄関のほうに向かった。



「ちょっと、おかしくないですか!

 父親って、お金さえ稼げばいいんですか?
 父親って、そんなもんですか!

 お金は大事だけど、もっと・・・

 もっと、進路の心配したりとか、最近どうだって聞いたりするとか、
 なんか親が子どもにすることって、もっと色々あるんじゃないんですか?

 果実は、今、色んなことで、悩んでるんですよ!」


「それは君が思う親の話だ。私は違う。どきなさい。」


「逃げるんですか? じゃあ、あの女は誰です? まさか浮気ですか!」

玄関で腕組みをしている、太った女を俺は指さした。



「・・・私の上司だ。きみには関係ない。」



グイッ


果実がそばに来て、俺の腕を掴んだ。

「もういいよ、サイダー。この人はこういう人なんだよ。もう行こう。」

「でも・・・これじゃあ・・・」


「もういいんだよ。」

果実は俺にほほえんだ。



「これで・・・いい?」

「うん、いいよ。」


「よくないだろ! 何も変わってない!」

「変わったよ。」



「何が!?」


「サイダーがそばにいる!」






その言葉に、俺は少し冷静になった。



男は、女と家の中に入っていった。




俺は黙って扉を見つめたあと、

ゆっくり両手をポケットにつっこみ、後ろを振りかえった。



「あ~あ、腹減った。」

「なに食べる?」


「やっぱり、本場のハンバーガーを食べてみたいな!」


庭から出て、俺達は街へ向かって歩きだす。

タクシーをひろい、乗り込んだ。



タクシーはどんどん小さくなる。



それをこっそりと、

二階の窓、カーテンの隙間から見つめる目があった。


男は見ていた、娘の乗った車が見えなくなるまで。

太った女に、後ろから抱きしめられながら、静かに見つめていた。





「うわっ、でかいな!!」

アメリカのハンバーガーは、日本のよりサイズがでかい。
俺達は、腹いっぱいハンバーガーを食べて、近くのホテルにチェックインした。


部屋からは、ニューヨークの夜景が一望できる。



「ねーサイダー、あのビルでしょ。テロの犯人が記者会見するのって。」


すこし向こうにあるビルには、大きくFBCと書かれていた。


「そうだな。せっかくだし、行ってみようか?」

「でも、あと6時間もあるし、ちょっと寝てから行こう。」



俺達は別々にシャワーを浴びて、眠った。

そして5時間後の、AM5時。

俺達はホテルを出てテレビ局へと向かう。外は当然まだ暗い。




早朝なのに、人混みがすごかった。



「何だこれ? みんな同じこと考えたのか・・・

「ねーサイダー、すれ違った人が、ライブがあるとか言ってたよ?」

「ライブ?」


テレビ局に近づくと、広場に巨大なステージが建設されていた。


「アメリカの記者会見って、スケールがでかいんだな・・・」

「いくらなんでも大掛かりすぎでしょ。」



人混みをかき分けて、
ステージがよく見える場所、正面に移動することにした。



巨大なスクリーンには、
アップルスネークとか、あと色々なにか、読めないけど英語の文字が流れていた。


そして・・・

俺の憧れのアーティスト、

ノイジ・スピカのPVが映し出されていた。




「まじで・・・? ノイジ・スピカのライブ・・・」

「良かったね、サイダー! 好きなんでしょ?」


「そりゃ、めちゃくちゃ好きだよ!!
 やっべ・・・ これって、シークレットライブなんかな?」

俺の心がざわつき始めた。


スクリーンの映像が急に止まった。


あたりが歓声につつまれる。




ステージ

暗転



きたっ!


10

スクリーンに、カウントダウン!



夢じゃない





はじめて・・・ 







本物が








まぶしい光。

その光の奥に、シルエットで誰かが立っている。




静かな、聴いたことが無いイントロがかかる。


小鳥のさえずり、

そして、透き通った歌声。



間違いない。

間違えようがない!

あのステージで歌っているのは

ノイジ・スピカだ!!



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14 不老テロをおこした理由


白いドレスを着た女性が、ゆっくり前に歩み出る。


そして、はっきりと歌いはじめる。


歓声が響く、やっぱり本人だ! 夢にまでみたノイジ・スピカが目の前にいる。
ほんの50メートル先にいる!



知らない歌だ、きっと新曲だろう。

オペラというか、プログレというか、複雑で壮大な、そういう歌だった。

じっくりとヘッドホンで聞きこみたい・・・



「歌なんかいらないんだよ!

 さっさと袋の男を出せー!!」


なんだ? 後ろのほうが騒がしい。
紙袋をかぶった大勢の白い服装の集団が、なにか騒いでいる。





「果実、あの後ろの奴ら、英語でなんて言ってるの?」


「えっと・・・歌をやめろ、騒音は帰れ、はやく袋の男を出せって。
 それで、まわりにいる彼女のファンが怒ってて、揉めてるみたい。」


「あーなるほど。ん?袋の男って呼ばれてるのか。」


「テロリスト達は紙袋かぶってたでしょ。
 だから、ネットとかでは、袋の男って呼ばれてるみたいだよ。

 袋の男のコスプレしてる人達は、熱狂的信者なのかもね。」




なんだか悲しかった。



ノイジ・スピカの歌が、

俺にとっては、最高のアーティストが歌うその曲が、

興味無い人には騒音扱いされる現実が悲しかった。

音楽は世界をひとつにする、平和にするって、よく聞くじゃん。

本当に? 嘘じゃない?

音楽は本当に世界をひとつに、平和にできるのか?




おっと、

俺は、なに考えてんだ!

せっかく目の前で、ノイジ・スピカが歌ってるのに、
雑音を気にしている場合じゃないだろ。




長い曲が終わった。

テロリストの記者会見なんてどうでもよくて、
彼女の歌をずっと聴いていたい、そんな気分だった。



彼女は歌い終わると、何か言って、そでにひっこんだ。


「今なんて言ったん?」

「新曲アップルスネークを聴いてくれてありがとう。
 もうすぐ、親友が登場するから、楽しみにして待っていてねって。」


「親友か。へー、じゃあ、ノイジ・スピカと、
 袋の男って、元々知り合いだったのかもな。」

「そうかもね。」




ステージ中央の床が開き、白い何かが上がって出てきた。

椅子だ。


大きな白い椅子。

そして、座っているのは白いスーツを着て、紙袋に「1」と書かれた人物。



袋の男だ。





「うおおおおおおおおお!!」 「きゃああああああああ!!」


騒がしい。ライブの歓声とはまた違う、狂気に満ちた歓声。

そして、いろんな声が飛び交っていた。



袋の男は足を組んで座ったまま、じっとしている。



「果実、みんななんて言ってるか聞こえる?」



「うーん・・・

 あなたは救世主だ、世界を平和にして欲しい、
 不老にしてくれてありがとうって、称賛してる声と・・・」

「うん。」


「独裁者を逮捕しろとか、英雄気取りとか、
 子どもの未来を返してとか、非難の声・・・だね。」



そりゃそうだ。



アップルスネークの不老テロで、幸せを感じた人もいるんだろう。

死ななくてずっと生きられる、

病気にもならず、大好きな家族と幸せに暮らせる。
それが最高だって思う人はいる。


だけど最低だって思う状況の人もいる。




2013年1月1日の肉体を、ずっと繰り返すんだ。

老化せず、成長せず。




たまたまあの日、ケガをして苦しんでいた人は、ケガが複製され続け、
永遠にケガに苦しむ。

赤ちゃんだって、大人になれない。


あと人が死なないのなら、墓石屋さんや葬儀屋さんは仕事がなくて困るんじゃない?

それに、武器が禁止なら、軍隊や、武器を作る会社、
全米ライフル協会とかも当然反発するんだろう。




いまここに堂々と出てきているけど、

なんで警察は逮捕しないんだ?

いや・・・できないのか?



あたりは、ザワザワしている。

罵声も飛んでいる。

ステージ上の男は喋らないで、まだじっと座っていた。



しかし、じょじょにザワザワがおさまって、静かになってきた。


みんな、この男が何者で、
何を言うのかが気になってきたんだ。




シーンとなった。



小学校の時、校長先生が全校集会で、

「静かになるまで、1分もかかりました。」 とか言う、あの状況を思い出した。



ニューヨークの早朝のビル街は、いつもの静けさに包まれた。

ようやく、袋の男は立ち上がり、スタンドマイクの前に進んだ。





「アップルスネークを撒き、

 人類を不老にした理由を今から話そう。

 大きく分けて2つある。」



「少し長い話しになる。リラックスして聞いて欲しい。

 だが、私達がこれから過ごす長い時間と比べれば、ほんの一瞬だ。」



「果実、あいつがなんて言ってたか、後で教えて。」
果実に耳打ちをして、俺は袋の男を見つめる。

袋の男は喋り始めた。





「1つ目だ。

 24時間前、私は世界中の国にネットを通して呼びかけた。

 武力を放棄しろ、そして、
 世界を平和にするため、我々ヘブンに協力しろと。

 もし協力しない国があれば、世界の平和を乱す敵とみなし、

 ウイルスに感染した人間を一瞬で消滅させられる、
 このアップルボムで、消し去るぞと言った。

 言うなれば、脅迫をした。」




袋の男はポケットから、赤い金属でできたリンゴを取り出した。



「たったの24時間しかなかったが、

 すべての国の政府から公式に、我々ヘブンに協力すると連絡がきた。
 感謝している。無駄な争いはしたくない。アップルボムを使わないで済んだ。


 だが、これはあくまでも脅迫をしたからであろう。


 権力者たちが、死の恐怖に脅え、その場しのぎに出した答えにすぎない。
 
 

 私に対しファシズムという声があるが、その通りだ。 私は独裁をしようとしている。
 
 子ども向けアニメの悪役くらいしか言わない言葉だが、
 私は世界征服をしようとしている。





 まずはそれでいいのだ。 まずは『独裁』をする! 

 そして、世界中の国を『管理・マネジメント』する。


 自分の保身しか考えない政治家や、

 国民のことを考えていない無能な指導者のかわりに、



 飢えも、戦争も、食糧危機もない、
 平和な世界へと我々が導こう。

 これが1つ目の理由だ。



 その為には、今までの武器は全て廃棄させ、
 平和を守るための力、我々ヘブンには抑止力として、
 強力な力が必要だった。

 だから、
 アップルボムや、アップルレーザーといった、
 ウイルスを使用した新しい兵器を作ったのだよ。」



男は紙袋をゆっくりと、頭から抜きとった。

そこには、金髪の白人男性が立っていた。



あたりがザワザワして、なにか言っている。



「え? なに? どうしたの?」

俺はまた果実に聞いてみる。英語力がないのが、ちょっと恥ずかしい。



「あいつの正体が、ちょっとした有名人だから、みんな驚いてるみたい。
 ミスターライトハンドっていう・・・ サイダーは聞いたこと無い?

 数々の大企業の経営者で、大富豪の。」


「・・・知らない。」



ステージ上の男は、また静かになるまで黙っていた。そして口を開く。




「アップルボムは、射程範囲内のすべての感染者を消滅させられる兵器だ。

 いくつかの国は、テロには屈しない、アップルボムには屈しないと言っていたが、
 アップルレーザーについて説明すると、おとなしくなった。


 アップルレーザーは、世界中どこにいても、
 ボタン一つで対象者を消すことができる
 
 究極の兵器だったからだ。」


ざわざわ

シーン


「いいかな?

 例えば、アメリカ大統領のDNAを事前に取得しておく。
 我々が開発した、特殊な機械にセットすれば、DNAの型番が出る。

 それが仮に

 fgdfsajkffdsa1231324564:afdjklsghrrgji465312 だったとしよう。

 そして、同時にウイルスに感染した場合のDNAの型番も検出できる。じつに簡単だ。

 applesnake://www.fgdfsajkffdsa1231324564:afdjklsghrrgji465312

 と型番の最初に付ければ良い設計にしている。

 同じ型番のDNAを持っている人間は存在しない。
 
 特殊な磁力レーザーで地球を包みこめば、

 核シェルターに隠れていようが一瞬で届き、その対象者を消滅させることができる。
 最前線にでない権力者にそんな平気は脅威だろう。」



ザワザワ

シーン


「いいかな?
 
 信じない国がほとんどだったが、我々は事前にほぼ全人類のDNAを採取している。
 だから、各国の死刑囚数人を指示してもらい、レーザーで消滅させてみせた。

 それだけ見せても信じない国もあった。

 あらかじめ、死刑囚に何か仕込んでいたんだ! 
 消せるものなら、私を消してみろ! と。

 大きな目的の為、ちいさな犠牲はやむを得ない。
 人類の平和の為に、その政治家は消させてもらった。」





「自己紹介がまだだった。

 私は、ミスターライトハンドとよく呼ばれる。
 
 このあだ名が気にいったので、自分でもこの名前を使っている。



 私は学生時代、経営不振の会社にアポを取り、
 給料はいらないから協力したいと言って参加していた。

 いつ倒産してもおかしくない会社だったので、
 簡単に入ることができた。

 翌年、その会社は私のマネジメントにより立ち直り、莫大な利益をあげ、
 いまだ業界ナンバーワンだ。

 
 それにより、私は給料を得ることはなかったが、実績と信頼を得た。

 すると、

 多数の会社から、
 コンサル、マネジメントの依頼が入った。学生だろうと、実績を出せば良かったからだ。


 私は必死に働いた。
 そして、全ての会社を経営不振から立ち直らせ、利益を上げることに成功した。
 その頃から、会社に欠かせない、『右腕』と呼ばれるようになった。

 5000社の右腕となった私は、自然と

 5000社のリーダーとなっていた。」
 


「私は富豪、成功者と呼ばれる立場になった。

 いまテレビの前の、イギリスのきみが見ているこのテレビ局も、
 実は、私がトップとして経営している。

 そして、ネットで私の名前を検索した、ブラジルのきみが使っている、
 その検索サイトも私の子会社だ。

 航空業界トップの会社も、
 大手医薬品会社も、大手食料チェーンも、小売最大手も、自動車も、金融も、教育も
 
 あらゆる分野で、私は力をもった・・・」



「失礼、ちょっと水を飲ませてくれ。」

男がそういうと、奥からスーツ姿の女性が水を持ってきた・・・が、
途中でつまづいて、水の入ったグラスを盛大に落とした。

シーンとしていた会場から笑いが起きた。

女性は慌てて、もう一度取りに帰り、また持ってきた。
今度は落とさないでちゃんと、テーブルへ運んだ。

今度は、拍手が起きていた。

女性は顔を真っ赤にして、そでへひっこんだ。



ゴクゴク


「失礼。 どこまで話したかな?

 ああ、そうだ。

 ビジネスの世界で私は力を持った。
 だが、ニュースを見ると、世界中でいまだに戦争がおこなわれ、
 
 飢餓はあり、子どもが日々死んでいる。

 私は金と力を手に入れた。つもりだった。だが、実際は無力だった。

 戦争を止められないし、飢餓を救うといって、物資を送るだけでは、
 その国の子どもたちが置かれる現状はたいして変わらない。

 その場しのぎにしかならない事を知った。

 そんな時、
 
 16年前のある日、

 私達のある研究機関で、ひとつのプロジェクトが始まったのだ。

 それが、アップルスネーク計画だ。」



「アップルスネークウイルスを撒いた理由のひとつはさっき言ったとおりだ。
 
 世の中の政治家や、権力者のかわりに力をもち、世界を支配し、平和にしたかったからだ。

 そして、ふたつ目の理由を今から話そう。」




まわりは

オーとか、

オーマイガとか言っていた。


やっぱり、英語の授業、真面目に受けてたら良かったかな~と、


俺はのん気にそんなことを考えていた。



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15 太陽を超えて どこまでも


「人類を不老にしたふたつ目の理由だが・・・」


不老テロの首謀者、大富豪のミスターライトハンドは、話しを続ける。

「私達ヘブンの目的は、誰も苦しまない平和な世界をつくることだった。
 最初は、それだけが目的だった。

 だが、アップルスネークという、新種のウイルスと出会ってから、新しい確信を持った。


 私達ヘブンこそが、今まで人類が後回しにしてきた

 大きな問題に、ついに向き合う時がきたのだ・・・と。」




俺は、横にいる果実を見る。


・・・真剣に男の話を聞いていて、声をかけづらい。

言葉がわからないし、俺はかなり退屈だった。


退屈なので、キョロキョロする。


近くのニューヨークのビル街や、
ドーナッツ屋のかわいいポスター、
コーヒーチェーンの緑色したロゴマーク、

まわりの人の服装を見たりしながら、時間を潰していた。

アメリカ人でも、やっぱりダウンジャケットは黒色が多いんだなとか。




ん?

遠くの空が、うっすら明るくなってきている。

もうすぐ朝だ。

太陽がのぼり始めている。

どんなに暗い夜も、明るい光で照らしてくれる太陽。
あけない夜は無いって、多くのアーティストが歌っている。

それだけ多くの人が、かならずのぼってきてくれる太陽に、
もう一度頑張ろうって励まされ元気をもらっているからなんだろう。


吐く息が真っ白、今は寒いけど、太陽がでたら少し、暖かくなるはず。

「はやく太陽でんかな。」

俺は小声でつぶやいた。




「私達人類は、いずれ太陽に殺される。」



ミスターライトハンドは演説を続けていた。

テーマは、太陽についてだった。





「古代の皇帝や、学者、宗教家は知らなかったことだが、
 科学が発展した現代では、常識になっていることが沢山ある。

 そのひとつは、幼い子どもでも知っている。

 ここは地球という星で、

 太陽のまわりを回り、宇宙に浮かんでいるということを。」



ステージ上の男は、腕を上げ合図をする。


すると、スクリーンに宇宙のCG映像と、年表が映し出された。






「46億年前、地球が誕生した。

 45億年前、月が誕生した。

 41億年前、海が誕生した。

 39億年前、最初の原始生命が誕生した。

 27億年前、地球に強い磁場がうまれた。
 これにより、宇宙線などの有害な光から生命は守られた。
 ・・・もしかしたら、地球自身が生命を守る選択をしたのかもしれないな、続けよう。


 5億年前、魚類がうまれる。

 2億年前、この頃、世界はひとつの超大陸パンゲアだった。それがこの頃、分裂を始める。

 1億年前、恐竜が地球を支配し、哺乳類が繁栄する。

 180万年前、人類の祖先が火を使いはじめる。繰り返される氷河期を祖先は生きのびた。
 
 1万年前、農耕や牧畜が始まり、文明がうまれ、産業革命がおこる。


 ・・・そして、いまの現代がある。」




果実の奥にいる人達が、急に大声で叫び出した。



「なぁ、果実。あの人達はなんて言ってるの?」


「人が猿から進化したと言う進化論は嘘だって、怒ってる。

 神を侮辱するな。特別な存在として神が、我々人類を作ったんだって。」



テレビで聞いたことある。

日本だと、学校でダーウィンの進化論が、
常識として教えられているけど、
進化論を認めてない国や学校も、世界には多いって。



ステージ上の男は、騒いでいる人達を指差して言う。

「黙ってくれないか? 私は正しいことを言っているだけだ。
 邪魔するなら容赦はしない。

 消すぞ。」


騒いでいる人達は、急に静かになった。






「さて、話しの続きだ。

 ここまでは、よく聞く話だが、この後、
 地球がどうなるか考えている人は少ないのではないだろうか。
 
 仮説はいくつかあるが、そのうちの有力なひとつを紹介しよう。

 
 大陸は今も移動し続けている。

 5000万年後、アフリカ大陸はヨーロッパ大陸と合体、地続きになる。

 1億年後、日本は韓国・中国と合体、アジアはひとつの大陸になり、
 南極大陸はオーストラリアに合体。

 3億年後、全ての大陸はふたたび一つの超大陸になる。




 そして、10億年後だ・・・


 膨張する太陽の熱により、地上の生命は絶滅する。




 悲しいが、これが現実だ。






 実際は、10億年を待たずして、巨大隕石が何度かおち、
 生命は絶滅の危機を迎えるだろう。
 



 つまり、時間がないのだ。


 隕石が落下しなかったとしても、
 
 人類に残された時間は、最長で10億年しかない。

 
 もういいだろう? 

 人同士が争う時代は、もう終わりにしよう。」


・・・パチ

パチ パチ


聴衆から、ゆっくりと、拍手がおきた。

同時に、少ないがブ―イングも起きていた。
俺にはまだ、この光景が何を意味するか、わからなかった。

演説は続いた。





「いままで、人の一生はせいぜい100年程度だった。

 その短い一生でできることは限られている。

 だが、これからの人類は、死にゆく地球を後にし、宇宙へと旅立つ。

 光の速さでさえ何万年もかかる惑星間飛行をしながら。

 想像してみてほしい。

 今までの100年周期の人生のまま、宇宙船の中で、生活し、結婚し、家庭を作り、教育し、
 子孫を作りながら何万年と繰り返す事が、

 効率的で正しいことだと、きみは思うか?

 それに変わる、新しい人体、倫理観、が必要だとは思わないか?」



男は水を飲んだ。

ゴク


「今、私は水を飲んだ。たくさん話しているから喉が渇いたからだ。

 だが、この現象は、昔のなごりでしかない。


 私を含め、アップルスネークウイルスに感染した、新人類は

 
 もうじき、水も食料もいらなくなる。


 まだ、体が慣れていないから水分を欲しがる錯覚をおこし、食事をしているが、
 ウイルスが細胞を複製維持し、エネルギーを生み出してくれる。




 レトロな趣味、嗜好品としてのみ、食事が存在する世界になるだろう。

 来年にはそれが普通だ。



 そうそう、
 太陽の熱を克服する科学力が今後生まれたとしても、宇宙に出ないかぎり、

 地球自身が、いずれ爆発するから、どのみち人類は全滅する。

 偉大なる祖先が築いた文化も、文明も、子孫も、
 生きた証もすべて宇宙のチリになる。
 私はそれを阻止したい。人の生きた証を守りたい。



 自然が好きな人達は、私に言うだろう。 

 母なる地球とともに、

 人類も、文明も文化も、滅びるのが正しい運命だと。


 
 That, I think the right thing as a human?

 それが、人として正しいことだろう?




 あなた達はどう思う?

 私は違うと考える。

 


 学者Aは、ガン細胞の繁殖力を有効活用し、人類の不老化を研究している。

 学者Bは、人類をサイボーグ化、電脳化することで、
 地球から羽ばたける体を作り、宇宙へ進出する研究をしている。

 各分野の優秀な人と、動物を、宇宙船にのせ
 冬眠技術を使い、地球を離れる研究をしている学者Cもいる。

 あるドクターDは、クローン技術をつかい、宇宙で生きられる人を作っている。

 学者Eは、魂と呼ばれるものが本当にあるのか、
 あるならばそれは、複製し運べるか研究している。

 

 全て、我々ヘブンのチーム内にいる。

 私は、それらすべての計画を全力で支援している!

 そして、さらなるすぐれたアイデアを持つものが、現れる事を期待している!


 アップルスネークウイルスによる、

 人類の不老化は、第一段階に過ぎない!」



ミスターライトハンドは、手を広げて言う。


「この星の沢山の人達が、他の惑星へと移住し、

 平和に、豊かに暮らしていく技術を、哲学を、法を、共に作ってゆこう!

 今、この星に生まれた全ての人の命を、私達ヘブンは見捨てない!」




また拍手が起きた。

ブーイングはほとんど聞こえないほど、大きな歓声と、拍手が起きていた。





「私のスピーチはこれで終了だ。長い時間ありがとう。

 新しい国家、法、仕事、倫理、宗教、恋愛、

 すべてヘブンが今後、しっかりと管理・マネジメントするから安心してくれ。
 国民ひとりひとりの声にも、ちゃんと耳を傾ける。

 近日中に、現アメリカ政府を通して、ヘブンの意思を伝える。

 それをもって、政府は解体する。


 もう一度言う。私はこの宇宙に人の楽園を、天国を作る。
 
 その活動を邪魔する者には、容赦はしない。
 人類の未来のため、アップルボムとレーザーを使用する。


 新しい子どもが育たない等、
 いくつかウイルスには問題がある。そこは認めよう。申し訳ない。

 人口バランスを調整しながら、改善策をいずれ出す。約束しよう。


 この宇宙に、できるだけ多くの人類と、
 祖先の生きた証を残すため、

 地球を離れ、宇宙が終わるまで、私達は平和に暮らそう!」


 
大きな歓声に包まれる中、男は白い椅子に座り、

もう一度、紙袋をかぶり、ゆっくりと降りていった。







「・・・果実、あの椅子、ウィーンって、上がって登場はかっこいいけど、
 降りていく姿は、ちょっとシュールだな。」

「ふふっ、言われてみればそうね。」


会見は終わった。みんな歩きだし、その場を去り始める。



「それで、あのテロリストはなんて言ってたの?」



「うーん・・・スケールが大きすぎて、一言じゃ話せないかな。

 たぶん、ヘブンっていう組織が、世界征服しちゃったんだと思う。
 どの国の軍隊も刃向えない武器を作ったから。

 スピーチっていうか、

 勝利宣言だもん、あれ。」


「まじで?」 



「うん、世界征服。裏ではアメリカ政府とも話ついてるんじゃないかな。 

 徳川家康が戦だらけの戦国の世を天下統一して、平和な江戸時代を作ったでしょ、


 それの 地球規模の天下統一してみました みたいな話。」


「・・・・スケールでっかいな。

 あれ? でもさ、戦国時代が終わって、江戸時代になるんなら、
 武士は仕事が無くなって困るけど、庶民は平和でハッピーじゃない?」


「そうかもしれない。でも、難しいな。

 素直にハッピーとも思えないし・・・ 

 日本に帰ったら、ノイマンの感想を聞いてみたいな。


 ねーサイダー、お腹空かない? 朝ご飯食べにいこ!」



「俺、昨日ハンバーガー食べ過ぎたせいか、あんまり腹減ってないな~
 でも、軽くなら食えるよ
 
 あと今日さ、せっかくニューヨークなんだし、自由の女神が見たいな。」

「じゃあ、ご飯食べたら、自由の女神に会いにいこっか!」




ニューヨークのビルの陰から、まぶしい太陽がのぼってきた。

朝日が、俺達の笑顔を照らしていた。









その頃、テレビ局の最上階では・・・




「ふー」

「ミスターライトハンド、お疲れ様でした。」



「バター、あそこでなぜ転ぶ・・・ わざとか?」

「い、いえ、すみませんでした。 つ、つい、緊張していまい・・・」


「まったく、まあいい。」


男は紙袋を秘書のバターに渡し、

白いネクタイをゆるめ、ワイシャツのボタンをふたつはずし、髪をかき上げた。




「あの・・・ミスターライトハンド、疑問だったのですが、

 どうして紙袋なんですか?」



「あ?」


「す、すみません。」






「・・・落ち着くんだ。」


「はい?」




「神様を否定するお前みたいな出来損ないの人間は、
 神様が作った、この世界をその目で見る資格が無いって言われてな。

 家では、いつも紙袋をかぶされていたんだ。」


「・・・」


「殴られた後でかぶせられると、頭の中がグワングワンして吐きそうになる。
 俺は何度も吐いたな・・・」


「ミスター・・・」



「バター、お前もかぶってみるか?

 目の前にはかすかに漏れる光だけ、あとは壁だ。 闇だ。

 外の声、雑音が遠くに聞こえるようになる。

 その分、

 自分の息づかいと、心臓の鼓動だけが、とても鮮明に感じられる。



 闇の中に、自分だけが孤独に浮いている感覚だ。

 まるで、

 宇宙の中に、地球が孤独に浮いているように。


 真っ暗な宇宙になぜ生まれなくてはならなかったのか、
 
 紙袋のなかで、幼い私は両親に殴られながら、ずっと考えていた。」




バターは、ハンカチで男の涙を拭いた。

男は、気付かないうちに涙を流していた。



「すまない。

 ん? バター、なんでお前が泣いてるんだ?」


「ず・・・ずびばせん・・・」




まぶしい朝の太陽の光が、ニューヨークの街にふりそそぐ。




貧富の差も、国籍も、性別も、宗教観も関係なく、

すべての人を、太陽は平等に照らしていた。




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