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8 パパの部屋、覗いてみない?


アメリカ。

アメリカ合衆国。

日常生活でよくでてくる国の名前。 超大国アメリカ。

 

ハンバーガー。 肥満。 マッチョ。 
洋楽ヒットチャート。 マネーゲーム。 巨大資本。

拳銃。 麻薬。 戦争。 世界の警察。 ヒーロー。 
移民の国。 ハリウッド。 無修正ポルノ。 自由の国。


そして、ノイジスピカ・・・


アメリカと聞いて、そんなワードが俺の脳裏には浮かんだ。


だけど、行ったこと無いから、実感は無い。

United States of America
スペルだけは高校の受験で暗記した。



ハリウッド映画の中に存在するだけの、架空の場所という気さえする国、アメリカ。

そこに果実の父親がいて、俺は会いにいくと言った。


そして、母親がフランスか・・・

フランスのほうは、イメージが湧かない。
フランスパン? ボンジュール? 凱旋門?



「どっちから行く?」

果実が笑顔で聞いてくる。

「果実は、海外旅行したことあるの?」

「ん? ちょっとだけあるよ。」


セレブぎみな家庭に育った果実の言う「ちょっと」は、きっと俺の感覚と違う。

「10回以上?」

「うん。」


・・・やっぱり、セレブの「ちょっと」は、庶民の「たくさん」だった。

おっと、嫉妬してる場合じゃない。
アメリカに行くか。フランスに行くか。
そもそも、高校生がふたりで海外旅行なんて行けるのか?


「ごめん。少し考えさせて、そんなに遠いとは思ってなかったから。」

「いいよ、なにか食べよっか?」



果実はキッチンに立ち、なにか料理を作り始めた。

ジュー 

音が聞こえる。


俺は、昨夜と同じようにソファの隅に座ってテレビをつけた。

もうすぐ11時。
どこも主婦向けのテレビショッピング番組ばかりだ。


「痩せる」

「健康になる」

「美しくなる」

そんなのばっかりでウンザリする。
ショッピング番組の合間にはいるCMまで、そんな商品だ。



占いみたいなもんだ。


「あなた、いい調子よ。もうすぐ幸せになるわ」 と言われたら、
しあわせな夢が見れて、お客はしあわせ。

「あなた、しんどいでしょ。良くない運気になってるわ」 と言われたら、
不安になって占いにすがりたくなる。

そして、どうにか良い運気にして欲しいと願い、甘い言葉を求め、
高価な石を買ったりする。そして安心する。

需要が生まれ、供給し、満たされるサイクル。

別に悪いことじゃないさ。
しあわせになっている人がいるんだから。


この世のすべては、そんなものだろう?



「これを着ないと、ダサいよ。」

「あの映画知らないの? みんな観てるよ。」

「そんな学校じゃ、いい就職できないよ。」

「がんばらないと、結婚できないよ。」

「どうせ失敗するよ。」

「幼い頃から、ちゃんと習い事させないと、子どもがしあわせになれないよ。」

「このままじゃ、戦争になって日本がやばいよ。」

「不景気だよ、危険だよ、いまのままじゃ希望なんて無いよ、しあわせになれないよ。」

「やばいよ。 やばいよ!! やばいよ!!」


・・・そうやって、不安を煽るんだ。 

そして、その不安の穴を埋めるなにかを、
やつらは値札をつけて与えるんだ。



「不安を埋めるなにか」 のひとつがダイエット商品だ。

「9割が驚きのダイエット結果!」と、あおっても、本当かどうかわかりゃしない。

どうせ、1か月もしたら、その驚きの効果があるダイエット商品はメディアに出なくなって、
別の商品が同じように登場している。

そんなもんだ。



「夢をみれたよ、ありがとう」 なのか、
「嘘でだました、このやろう」 なのか。

正反対だが、光と闇は紙一重。
どちらにもなりえるんだ。ほんの一瞬で。



俺はテレビを消した。
5分見ただけで、うんざりした。

とくに、皮肉屋モードにスイッチが入ってしまった俺には、
この時間帯のテレビは地獄だ。


「おまたせ!」

果実がサンドイッチを作って持ってきてくれた。

「うわっ! うまそー 食べていいの?」

「どうぞ♪」

「いただきまーーーふっ」


アムッ

香ばしいパンが、くちびるに触れた瞬間、
鼻の奥へ甘い小麦と、チーズの香りが解き放たれる。


マシュッ

パンにはさまれた、シャキシャキのレタスの心地より食感。


カリニチッ

ベーコンは半分だけカリカリに焼かれ、
肉の旨味と塩味が口の中にひろがり、食欲を刺激する。



「うんまっ!!」

「良かった、うれしい♪」


皮肉屋スイッチの入っていた俺だったけど、
うまいサンドイッチをほおばり、新鮮な愛媛県産オレンジジュースを喉に流し込べば、
そんな思考はどうでもよくて、ぶっとんでいた!

本能のまま
食べるしあわせに、全神経が波打っていた。


「うまかったー! ごちそうさま。こんなにうまいサンドイッチ、はじめて食べた!」

「大げさだなー。」

「いやほんと、激うま! 高級食材とかなの?」

「普通だよ。きっと、サイダーへの愛情がこもっているからおいしいんだよ。」

「ああ、なるほどね!」



果実が、テレビをつける。

うまい食事の後は満たされていて、

さっき、あれだけイライラして見ていたショッピング番組すら、面白く見えてくる。
人間なんて単純なもんだ。



チャンネルを変えると、ワイドショーをやっていた。


「え? なにこれ・・・」

果実が言うの目をやると、テレビには不思議な映像が映し出されていた。



ニューヨークの地下鉄監視カメラの映像と、テロップにはある。

画面中央、グレーのパーカーを着た黒人が、
白煙とともに一瞬で爆発して消え、

パーカーとジーンズと靴だけが、地面に残されていた。


死んだ? トリック? わからない。
ただ、血がいっさい見当たらないので、残酷さは感じなかった。



コメンテーターのアイドルは、
アイドルらしく「わかった! 神隠しですよ~♪」と言い、
アナウンサーは「警察による分析の結果を待ちたいですね。」と答えていた。



「不思議なことがおこるね。」

「まぁ、俺達が不老になっているくらいだから、何が起こっても不思議じゃないわな。」


「アメリカ行くのは、ちょっと怖いかも・・・フランスにする?」

「それだけどさ、もうちょっと詳しく聞かせて。
 お母さんはフランスでなにしてるの?」

「ママは買い物とかだと思う。観光とかバカンス。ずっと旅行してる。」

「うらやましいなー。その費用は全部、お父さんが?」

「そうだよ。」


「なんの仕事してんだろ? すごい金額になるのに・・・」

「パパはずっと外国だから知らない。
 年に一回しか帰ってこないし、仕事好きなんだなってくらいで、興味も無いし。」


「年に一回? いつ?」

「毎年、お盆のときだけ。
 ママと三人でお墓参りにいくの。
 ご飯を食べて、一泊して、翌朝にはもう家にはいない。」

「へー。 家庭はかえりみないのに、お墓参りが目的で帰省するのか。
 古風なタイプなのか、よほど先祖に報告したいことでもあるのか。」



 
「ねー、パパの部屋、覗いてみない?」

「え?」


でた。

果実は優しくてかわいい雰囲気だけど、たまに小悪魔な部分が見え隠れする。
・・・いや、ギャップというか、そんなところも・・・・嫌いじゃないけど。


「2階にパパの部屋があるの。仕事の手掛かりが見つかるかもしれないよ?」

「だけど、勝手に入るのはなー・・・」

「娘の私がいいって言ってるんだから! それに、
 カギ壊しても、来年の8月まで帰ってこないんだから、それまでに直せるよ♪」

「まー・・・そうだけど。」

「いこっ!」


果実は俺の手を引き、2階へあがる。 まるで、昨日の夜だ。


奥の部屋に来た。 ガチャ 当然、カギがかかっている。

「どうやって開けるかだな。」


「サイダー、おもいっきりタックルして!」

「は? 突入したのバレバレじゃん。」

「ほらっ! この家で友達とパーティーしてて、男友達がケンカになって、
 暴れてドアが壊れた、ってことにしたらいいんだよ♪」

「ま・・・まー、ありえなくはない。 よし、やるか・・・ せーの・・・・・」


バゴンッ!!


意外なことに、一発であっけなく、ドアははずれた。


「サイダーすごーい!!」

「音楽より、アメフトの才能があるのかも。」


部屋の中はガランとして、シンプルな部屋だった。



机とパソコン、本棚とレコード、
壁には、赤ん坊を抱いている男と、奥さんの写真が飾られていた。




「なー、これ果実が赤ちゃんだった頃じゃない?」

果実は首をかしげながら写真を見る。

「どうなんだろ? だとしたら、幼い時の写真、はじめて見たよ。
 パパとママ、17年前はこんな感じだったんだ・・・」

「両親の若い頃の写真もはじめて見たの?」

「うん。はじめて見た。 ・・・不思議、ふたりとも幸せそうな顔してる・・・」


果実には複雑な気持ちがあるのだろう。じっと写真を見ていた。

俺はそっとして、本棚を見ることにした。


難しそうな本ばかり並んでいる。

「遺伝子工学」「細胞培養法」「DNA組換え」「バイオテクノロジー」
「製薬会社の真実」「医薬品業界の特許問題」 

・・・・趣味にしては、そっち系の本を集め過ぎている気がする。
製薬会社や、医療関係、大学の研究職とかなんだろうか?


「なー果実、おそらくだけど・・・」


ピコッ


果実は、椅子に座りパソコンの電源を入れていた。



「おいっ! スパイかよ、大丈夫か?」

「やる以上は、徹底的に調べたほうがいいでしょ♪」

「まーそうだけどさ。」


「それに、知りたいの・・・
 写真の中ではあんなに幸せそうなのに、
 私、パパの笑顔、一度も見たことないもん。」




パソコンが起動する。

ブンッ


「パスワード入力・・・」

「まぁそうだよな。なにか心当たりある?」

「うーん・・・・ ない」


「娘の名前は? K A J I T S U 」

「それ、わかりやすすぎない? でも、やってみよっか。」


カカカカッ

高速タイピングで、果実は自分の名前を入力した。

「エラー。うーん、やっぱり私の名前じゃないみたい。」


「誕生日とか?」

「えーパパの誕生日なんて、知らないよ」

「じゃ、果実の誕生日は?」

「私の誕生日? えっと、平成8年・・・あ、西暦かな?
 1996の・・・・あ、やっぱりエラーだよ。」



ブ― ブ― ブ―

果実の携帯が鳴る。




「うそ! ・・・パパからだ!」




「パスワード間違えたら連絡がいく設定か!?」

「パパ、お盆の前以外電話なんかしないから、きっとそうだよ。どうしよう・・・」


「いや、むしろ好都合だ、正面から堂々と聞けばいいじゃん。
 正直に言おう。 あとで、俺に電話かわって!」

「わかった・・・」


ピッ

「もしもし? うん、私。 うん、そう。私がやったの。 うん。
 パパがなんの仕事してるのか知りたくて・・・」

「貸して。」



「ちょっと待って、友達が話したいって・・・」


俺は果実から携帯を受け取った。



「初めまして。果実さんの友達の斉田って言います。
 勝手にお父さんの部屋に入って、すみません。」

「・・・・・・」



「あの、もしもし? 聞こえてますか?」

「・・・・・・」

「なにか言ってくださいよ。 俺まだ学生だから、転勤だとか、
 仕事の厳しさとかわからないですけど、

 でも、もうすこし、家族とか、娘とのコミュニケーションを、
 大事にしてもいいんじゃないですか?」



「・・・きみは、果実のことを心配しているのか?」


「え? ええ。 はい。そうです、すごく心配してます!」

電話の向こうの声は、落ち着いていた。


「・・・・・・」

「あの・・・・」



「今、こちらからの操作で、そのパソコンにあるデータはすべて消去した。」

「えっ?」


「私に二度と関わらないでくれ。」


「は? ちょっと説明してくだ・・・・!!」

「サイダー、どうしたの?」




「・・・切られた。 パソコンのデータも消したって。」


「そっか。ありがとう。 そっけないでしょ、うちのパパ。 
 自分のことか、仕事のことしか考えてないんだ。 お金はくれるけど、本当最低。
 サイダーの家のパパとは違うんだろうな。」


確かに冷たい対応だった。だけど、なんだろう・・・
彼の言葉にはなにか、ひっかかるものを感じる。




「ねーサイダー、ゴミ箱あさってみる? なにか仕事の手掛かりが見つかるかも。」

確かに机のわきにはゴミ箱があり、何枚かの紙も見える。

だが、これだけセキュリティをする人だから、
秘密に近い部分は安易に残しはしないだろう。

いったい、彼は何を隠しているんだ? 
何を怖れているんだ?


実際、ゴミ箱を調べたが、去年のお盆の日付が入ったコンビニのレシートと、
チラシ、ティッシュ、後はなにも無かった。


ん?


俺は気になったことがあり、本棚にもういちど向かった。

「サイダー、どうしたの?」



なんだろう・・・・ この違和感・・・・

なにかある。



なんだ・・・・



「なぁ果実、本当に、お父さんは
 年に一日だけしか、ここに帰らないんだよな?」

「うん、お盆だけだよ。」


「俺さ、本屋を歩いてると、たまたま目にした表紙がみょーに記憶に残ることがあるんだ。」

「あ、わかる。 かわいい表紙の本があったりすると、
 買わないし読まないけど、覚えちゃうこと、私もあるよ。」



「そ。で、俺、ノイジ・スピカの今年のカウントダウンライブが楽しみでさ、
 その特集してる音楽雑誌を買いに、空港通りの本屋へ行ったんだよ。

 11月28日水曜日に。」

「日付まで覚えてるの?」

「その雑誌が出るの、楽しみにしてたから、日付覚えてたんだ。」

「よっぽどファンなんだね。」



「その時、俺、この本見たんだよ。」

「?」


「この本棚の右上にある、ほら、真っ赤なデザインの・・・
 林檎のイラストが無数に描かれた表紙の、この本。」


果実が本棚に近づき、タイトルを見つめる。

「タイトルが、 『再生医療は神への冒涜か?』 ・・・か。ふーん・・・それで?」


「わからない? 平積みされてたんだ。普通、こんな難しい本、平積みしないだろ?

 だけど、ほら、日本の大学の先生がノーベル賞を獲ったじゃん。去年の10月ごろ。
 それで、科学に興味無い一般人も、
 再生医療ってなんだろう? って興味が湧いてた時期でさ。」

「そういえば。」


俺は本棚に手を伸ばし、その赤い本をとる。


「あの本屋の店員がさ、つける店内ポップには癖があるんだ。

 売れてます!の時は赤い紙に白い文字、
 通常は黄色い紙に青い文字。

 そして発売されたばかりの新刊は、金色の紙に黒い文字なんだ。
 俺は金色の紙がくっついている、この本を正月に見たんだ。」

「どういうこと?」


本をパラパラとめくり、最後の編集後記に目をやる。

2012年 11月28日 第1刷発行


果実もその一文を目にした。



「な? おかしいだろ。 お父さんが8月のお盆に帰ったのなら、

 この本がここにあるのはおかしいんだ。
 まだ出版されていないんだから。」




「サイダー、どういうことなの?」

「わからない。果実のお父さんは出版業界に繋がりがあって、
 8月にもらったのかもしれない。」


「そうじゃなかったら・・・?」


「お父さんか、または誰かが、
 11月28日以降に本を買って、この部屋に入り、
 本棚にしまったことになる。」



「サイダー・・・・ 私ちょっと怖い。」


そんな推測を言いながら、俺も鳥肌がたっていた。

なにか、怖ろしいことが隠されている、そんな予感がする。



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9 ノイマン


果実の父親はいったい何者だ?
なんで、あるはずのない本が、この部屋にある?

「なぁ。」

「ん?」

「本棚をみれば、その人の全てがわかるって聞いたことある?」

「聞いたことある。じゃあパパは医者とか研究者?」


「たぶん。でも、そういう仕事してるにしても、他の本が無さ過ぎじゃない?」

「仕事以外に興味ない人だからね。」



俺は腕組みをし、部屋の中をゆっくりとまわる。
推理ドラマや、探偵アニメの登場人物になった気分を、
一度味わってみたかったからでもある。


「帰るはずのない父親が、なぜ年末に帰ってきた?
 何者かが入ったのなら、なぜ盗むのではなく、本を置いたのか? むむむ・・・」

「サイダー探偵だ!」


「うーむ・・・そうか! 犯人が・・・わかった!」

「えっ!?」

「犯人はこの中にいる!!」



果実は驚いた顔をしたあと、へなへなと、ひざから崩れ落ちた。


「そうです・・・ 私が・・・ やりました・・・」





「ぷ・・・」

「ふふっ」



「ははっ! んなわけないよなー! 果実だとしたら、
 記憶喪失とか多重人格じゃないと、説明がつかないもんな。」


「仮に私が、夢遊病状態で本を買っても、部屋のカギ持ってないから入れないしね。」

「ということは、一番の容疑者は父親か?」

「気になる。やっぱり、直接会いに行くしかないんじゃない? アメリカに。」

「でも、パスポートとか俺持って無い。」


「パスポートは20歳未満でも簡単に申請できるよ。
 申請から受領までに、だいたい1週間程度かな。
 ただ、親権者の署名がいるけど・・・・」

「あー、うちの親は頭がカタイから、絶対反対するな。」



「・・・じゃあ、ちょっとだけブラックな方法で、パスポートゲットしちゃおっか?」



「そんなのできるの?」

「サイダー探偵、事件の闇を覗きこむときは、
 闇に自らが染まる覚悟だって、時に必要なのです。」


「果実、なんか楽しそうだな。」

「さっきまで怖かったんだけどね、なんだか急にワクワクしてきた♪
 協力してくれる人がいるから、街に行こっか。あと、服も買っちゃお!」



ここ、愛媛県松山市では、「街に行く」とは、
市内中心部にある大街道や銀天街周辺へ行くことをさす。
タクシーを呼び、俺達は「街」に向かった。



タクシーに揺られながら、俺は果実に、天使のようなイメージを見ていた。

それと同時に、その純粋さは、悪魔にもなりうると感じていた。



果実だけ?
いや、俺だってそうかもしれない。

・・・・・・誰だって。




天使と悪魔

正義と悪

希望と絶望

光と闇

天国と地獄       


きっと、表裏一体。 まるで振り子。

振り子の振れる方角がちょっと違うだけ、振れる強さはどちらも同じなんだ。
そんな妄想が頭に浮かんでいた。




旧ラフォーレ前でタクシーを降りる。

学校をさぼり、平日の昼間に大街道を、それも学生服のまま歩くのは初めてだ。


「やっぱ、学生服はちょっと目立たない? 服取りに帰ろうかな。」

「今から服買うのに?」

「お金あんまないし。」

「プレゼントするよ!」



一軒のアパレルショップの前に着いた。

白い壁に、おしゃれなブランドロゴ、
大きなショーウィンドウには、服や靴がシンプルに陳列されている。


・・・正直、入りづらい。 こういうオシャレですってお店は。
「ファッションセンスないガキはくんな」 みたいな無言の圧力を感じるというか・・・

「な、なぁ、こういうオシャ・・・」



カラン♪



いったーーーーー!!
コンビニ入るくらい、気軽にはいったーーーーーーーー!!


俺とは対照的に、すんなり入って行く果実・・・ いかん!
俺が果実を守るんだろ? 幸せにするんだろ? リードできるようにならなくちゃ!!

大きく空気を吸い込んで、俺も急いで後に続く。



「ああ! 果実様、いらっしゃいませ!!」

年齢は50代か? 背が高く痩せている、紳士風な男が声をかけてきた。


「相変わらず、様って慣れないな~ やめない?
 あのね、ちょっとお願いがあって、悪いんだけどお店、すぐ閉めてもらえる?」

「いえ、果実様は果実様です。そして、あなた様の頼みでしたら、なんなりと!」



そういうと、

すばやく歩きだし、ドアにクローズの札をかけ、カギを閉め、
カーテンを引き、外からの店内への視線を完全にシャットアウトした。


細身の黒いスーツを着た彼の身のこなしは、じつにあざやかだった。




「VIPルームの方がよろしいでしょうか?」

そう言うと、果実はコクンとうなづいた。


カッ カッ カッ


時計の秒針のように正確なリズムで男は歩き、奥にある黒い猫のオブジェを掴み90度回す。


カッ カッ カッ


そして、たくさんある服の中から
右端にある赤いワンピースを取り出し、左端に掛け直した。すると、


プシュー ガコン


「えええっ!!」

俺は思わず大声をあげた。 

中央の床が開き、地下への階段が現れたからだ。


「SF・・・秘密基地じゃん・・・」

「おもしろいでしょ! あ、ノイマン! 彼に似合いそうな服を用意してくれないかな?」



「フォーマルでしょうか、それとも、カジュアルで?」

「カジュアルで♪」

「かしこまりました。下でお待ちくださいませ。」

「いこっ、サイダー!」




階段の足元は、黄色と紫の照明に照らされていた。
地下におりると、そこはコンクリート打ちっぱなしの広い部屋だった。



中央にはテーブルといくつかのソファ、
左奥にはバーカウンター、右奥にはパソコンやハイテクっぽい機械が何台もあった。


「座ってて。」

果実が自分の部屋のように、バーカウンターに入り、飲み物を用意してくれる。

昨日の夜の出来事が一瞬フラッシュバックした。

俺は、ソファに座る。



「はい。」

渡されたドリンクを飲む。  ゴクッ 


うっま!! 

炭酸水にレモン? オレンジ? 何かの果汁が入っていて、でも、飲んだことがない味だ。



プシュー ガコン



「おまたせしました。こちらなどいかがでしょうか?」

さっきの紳士が服を持ってきてくれた。


シンプルな型の、どこにでもある服のように見えた。
だけど着てみると、それはすごく軽くて動きやすく、着ていてとても気持ちがよかった。


「ねーノイマン、ニューヨーク行きのチケットの手配と、彼のパスポート申請お願いできる?」

「チケットは、潜らせるんですか?」

「ううん、普通に。合法的に予約してほしいんだ。」



「パスポートも合法的に?」

「うん、こちらも合法でいきたいんだけど、できるかな?
 彼のご両親はご存命なんだけどね、署名してくれなさそうで。
 だから、こっそりパスポートを作りたいの。」

「なるほど。親権者又は後見人の署名を得ることができない、という事情を合法的にねつ造し、
 申請書の代理提出なども、合法的にやってほしいと・・・そういうことですね?」

「うん♪」

「お安いご用です。明後日にはパスポートをお持ちいたします。」

「ありがと♪」

そう言うと、ノイマンと呼ばれる男は、カメラを取り出して俺を撮影し、住所や生年月日を聞きくと、奥のパソコンの前に座り、キーボードを猛烈なスピードで叩き始めた。

カチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャ



「彼はね、このお店の店長、ノイマン。元凄腕ハッカー。
 で、ノイマン、こちらがサイダー。」

「サイダーさん、どうも、野井と申します。」

「あ、どうも・・・・・・・・・って、 え? ハッカー・・・・ だったんですか?」



「ええ、まあ・・・お恥ずかしい話です。
 そのせつは、果実様には大変お世話になりました。」


「果実・・・な・・・・なにしてたの?」

「ちょっとノイマン! その言い方だと、私が裏の世界のボスみたいでしょ!
 何もしてないよ、常連客になっただけ。」


「そうです。たしかに常連客として、果実様はお店に多額のお金を落として下さいました。
 でも、それ以上に、私の夢を手伝ってくださいました。」

「夢?」



「ろくでもない親に育てられた私は、
 幼い頃からアンダーグラウンドな世界の教育を受けました。」


「法学、言語学、暗殺の基礎、
 さまざまな中でも、機械工学やコンピューターに適性があると判断された私は、
 公文書を偽造したり、ハッキングをかけ機密情報を盗んだり、小型盗聴器を作ったり、
 闇の仕事をしていました。

 しかし、私はそんな仕事などやりたくなかった。
 やりたかったことは、そんなことでは無かったんです。」



「野井さ・・・ノイマンさんは、なにがやりたかったんですか?」


「ファッションです。ファッションの世界で生きたかった。
 パリコレだとか、一流デザイナーとしての称賛ではなく、小さな店でいいんです。
 
 自分の信じるファッション、衣服を詰め込んだお店をやりたかった。
 
 私が親に閉じ込められた部屋はとても薄暗く、
 部屋には工具とパソコンと本とベッド、あと、とても小さな開かない窓だけでした。

 その窓が四角く切り取っている外の世界だけが唯一、私の光でした。

 そんな日々の中で、私の一番の娯楽は、ちいさな窓から外の景色を眺め、
 行き交う人が着ている服を観察し、それを自分が着たり、作ったりしている空想でした。

 私は服が作りたかった。その服で世界と繋がりたかった。

 いまが57才、裏の世界を抜ける決意をしたのが50才頃。気付けば年齢も年齢でした。」



「裏の世界って、すんなり抜けられたんですか?」

「いえ、逃亡の機会をうかがい、もう必死になって逃げました。顔も戸籍も変え、
 東京から必死に離れ、気付いたらこの愛媛にきていました。」


「たまたま愛媛に?」

「ええ、たまたまです。四国に逃げ、松山に来て、本当になんとなくです。
 でも、運命だったのでしょうね。
 この街の、のんびりとした空気が好きになりました。」


「それでこのお店を?」

「ええ。業務用ミシンを買い、見よう見まねで自分の理想の服をデザインし、作り始めました。
 奴らもまさか私が服を作っているとは思っていないでしょう。」


「すごい! この服、全部ノイマンさんがご自分で作ったんですか。」

「ええ、ありがとうございます。理想の生地を探し、
 着心地を重視して作ったどれも愛する服です。
 見た目は地味ですが、品質には自信があります。ですが最初は全然ダメでした・・・」




「お客さん、こなかったんですか?」

「有名なブランドでもなく、見た目も華の無い服、私も無愛想ですからね。
 服作りに3年、店を始めて3年、お客はほとんど来ませんでした。

 店の準備資金は裏の仕事の隙に目を盗み、光への足がかりに組織から奪った金でした。
 やりくりしましたが、当時、金は尽きかける寸前で。

 結局、私を必要としてくれる場所は、闇の世界しかなかったのか?
 もう一度、裏の仕事をすれば金は手に入ります。ですが、それはしたくなかった。

 大好きだったファッション業界で働く自信もなくなりかけ、悩んでいました・・・

 そんな時です。ひとりの少女が、お店にやってきてくれたのは。」





~ 3年前 ~


「あ、いらっしゃいませ (ん? 子どもか・・・)」

「いかがですか?(ずいぶん熱心に見る子だな)」



「試着室はどこですか?」

「こちらになります(あんなに沢山持ちこんで・・・)」



シャー

「いかがでした?」




「丁寧ないい服ですね。聞いたこと無いブランドだったんですけど、
 どこのメーカー系なんですか?」

「私が作っています。」



「お一人だけで?」

「ええ。」

店内を見回す少女



「失礼ですが、お客さん、入ってないでしょう?」

「え? ・・・ええ、そうですね。」


「もったいない。」

「はい?」


「もったいないです! おじさん、いい服作ってます!

 惰性でやってる一部の有名ブランドなんかより、何倍もいい服を作ってますよ。
 ただ、ディスプレイ、陳列が下手すぎです!」

「陳列ですか?」


「ほら、例えばこのハンガー、素材も色もバラバラ、適当に買ってきたんでしょ?
 この部屋だって、色やデザインの統一感がまるでない。」

「た・・・たしかに。」



「このコートの掛け方、マフラーの置き方・・・もったいないです!
 もっと洗練された高級な見せ方をすれば映えるのに。

 価格はちょっと高いんですから、服を買ってくれそうな層である、
 すこしお金持ちの方が喜ぶ雰囲気をつくるべきでしょう? この陳列じゃ服がかわいそう。」


「学生さんですよね? なんでそんなに詳しいんですか?」





「はい学生です。ちょっと服を買うのが好きで、
 小さい頃から世界中のお店を見てまわってるから、詳しくなったのかもしれません。
 でも、身近にこんな素敵な服を作ってる人がいたなんて・・・知りませんでした。」


「お客さん、ありがとうございます。
 そんなに言っていただける方は初めてで、私、最近自信がなくなっていて・・・うう・・・」

「あ、泣かないでください! すみません・・・大丈夫ですよ、自信持って!
 えっと・・・・そうだ! 服、買っていいですか?」

「あ・・・ぐす・・・ありがとうございます!
 どの服になさいますか?」



「えっと、その・・・・もし、よければなんですが、このお店の服全部・・・というか・・・」

「え?」


「このお店、全部買ってもいいですか?」


「お・・・お店ごとですか!?」


「失礼になったらすみません。はい、お金はあるので、全部買わせてください。
 1億円で足りますか?」
 
「そりゃあ・・・でも、店は私の命ですから・・・」


「そうですよね、だから条件があります。」

「はい?」


「私がオーナーということで、
 このお店のディスプレイ、陳列を全部、私に任せてください。

 外観もリフォームして、ロゴもかっこいいのに変更します。
 あとセレブよりのファッション雑誌に広告を少しくらい出すべきです。
 そしたら、きっとお客さんくると思います。駄目ですか?」

「ど・・・どうして、あなたは・・・そこまでしてくれるんですか?」


「えっと、うーん、おじさんの作る服が好きだから♪」



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 



「そうして、果実様の指示通り陳列を変え、店の何もかも変えたところ、
 無名ブランドで、地味な服ですが、
 少しづつ、私の服を好きになってくれる方が、増えていきました。
 
 私のような人間が作った服が、人に笑顔をうみだすことができたんです。

 だから、私にとって、果実様は、
 闇の世界から、光の世界へ救い上げてくれた神様みたいな存在です。」
 

「ノイマン、大げさだよ~。私のお金なんて、親のお金だし、
 なにより、ノイマンの作る服が素敵だからだよ!」





お店を出たら夕方になっていた。

果実と別れた俺は、堀之内公園にチャリを取りに行った。

倒されもせず、盗まれもせず、チャリはそこにあった。



いつもどおり、学校から帰った感じで、自分の部屋に入る。


母は夕食の準備をしていた。




さっき決まったこと。出発は3日後、旅行期間は10日間。

行き先はニューヨーク。

昨日出会ったばかりの、果実と一緒に・・・なんて、言えないよな。

事後報告になるけど、置き手紙にするか。


「自分探しの旅に10日間ほど出てきます。
 かならず帰ってくるので、心配しないでください。 守」


うん。

17才、自分探しの旅っていう口実なら、それっぽいし、信じてもらえそうだ。
帰ったら殴られるかもしれないけど、その時はその時だ。


俺は、果実を幸せにするって決めたんだから。





~ 3日後 ~



衣類などは現地で買うと言っていたので、ぷらっと街に行くような格好で
俺は松山空港にいた。

横には果実がいて、手にはノイマンさんがどうにかして手に入れてくれた、
俺のパスポートがある。


松山空港の窓口でパスポートを出す俺を見て、果実が隣で爆笑していた。

国内旅行ならパスポートはいらないって。そりゃそうだ。



飛行機はあっというまに成田空港に着いた。

成田からニューヨーク、JFケネディ空港までは、約13時間のフライトだそうだ。

日本はいま昼の12時。

13時間後のアメリカもだいたい昼の12時頃だそう。不思議だ。



飛行機が飛び立つ。


さらば日本、しばしのお別れだ。





上空で飛行機は安定姿勢になった。

俺達はニューヨークまでひと眠りすることにした。


俺達が太平洋の真ん中でスヤスヤ眠っている頃、






アメリカは朝を迎え始めていた。

そして、

日本は夜を迎え始めていた。

そして、

世界中のインターネットがジャックされ始めていた。


ハイジャックでも、バスジャックでもない、ネットジャック。
映し出されたのはどこかで見た光景。

パソコンの画面には、「1」という紙袋をかぶり白いスーツを着た男が一人だけで映っていた。

男の手には、メタリックな赤い林檎が、にぶい光を放っていた。



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10 センソー と ヘーワ


昼過ぎ、ニューヨークのJFケネディ空港に、俺達は到着した。

初めての海外旅行だ。


英語の看板と、たくさんの白人と黒人とアジア人。
空港のガードマンは銃を持って立っていた。


「本物の銃だ・・・」

日本の、愛媛県に住んでる普通の高校生にとって、
銃を見る機会なんて、いままで無かった。外国人だって珍しい。



アメリカの見慣れない光景と、気持ちの良い晴れた天気に

俺の心は少し浮かれていた。

少し?

いや、かなり浮かれていた。



「うわぁ、本当に、ガチでアメリカに来たのか。すげーアメリカだ~!」

「サイダー、江戸時代の人じゃないんだから。いくよー、あっちのゲートから出るよ!」


海外慣れした果実はスタスタと歩いていく。
俺はキョロキョロしながら、後ろをくっついていく。


めちゃ太ったおばさんや、マッチョな大男とすれ違う。


「アメリカはスケールがでかいな。 
 なあ、俺達、はたから見たら、新婚旅行とかに見えちゃったりするかな?」


「しっかり者の姉と、弟に見えるんじゃない?」


「そ、そりゃあ、初めての海外で、勝手がわからないから頼ってるだけで、
 いざとなったら、俺が、果実をひっぱるよ!」

「ふふふ♪」




空港を出ると、黄色いタクシーがたくさん並んでいた。イエローキャブってやつだ。
いろんな車種があった。日本車のタクシーもある。

果実は英語で話しかけ、イエローというより、少しオレンジ色のタクシーに乗った。
運転手は黒人のおじさんだった。



「やっぱり、愛媛県人なら、オレンジ色だよな!」

「え? なにが?」

「いや、なんでもない。」



タクシーは、ビル街を抜け、大きな橋を渡る。
橋の上に、でかい鳥がとまっているのが見えた。コンドル? ワシ的な鳥だった。


車は住宅街を走る。

窓の外を眺めながら、俺はつぶやいた。


「アメリカって銃社会だから、そこ歩いてる人達も銃もってるのかな?」

「持って無いと思うよ。
 州にもよるけど、ニューヨークは厳しくって、
 許可なく個人が拳銃所持できないもん。」


「え? まじで!」



「でも、ほとんどの州で、簡単に購入できるから、
 ニューヨークにも、裏で流れてるんじゃないかな。」
 


「銃って怖いよな。こないだもまた、学校で銃乱射事件あったし。
 犯人はなんで、自分より弱い子ども狙ったり、路上で通り魔とかするんだろ?

 誰でも良かったとか言うなら、マフィアとか悪い奴んとこ行けよって思うわ。」

「だよね。」


「アメリカも、日本みたいに銃を禁止にすれば、
 平和になる気がする。果実はどう思う?」


「私もそう思うけど・・・わからない。難しいとも思うな。
 犯罪者は銃をもってるのに、こっちは丸腰でって、
 
 それで愛する人や、家族をいざというときに守れるか? ってことでしょ。」



「もう全員がいっせーので、武器を捨てる法律にしたらいいのにな。」


「でもそれって、普通の人は銃を捨てても、悪い奴は捨てないから、
 結局、悪い奴がトクで、まじめな市民はバカを見るだけになりそう。」



「果実は、銃つきつけられたらビビる?」

「どうだろ。あ、死ぬんだ、それもいいや~、って思うかもしれないし、
 そんな経験ないから、わからない。」



「俺はたぶん、すごくビビる。
 撃ち殺されたくないから、裸踊りしろって言われたらするし、
 靴をなめろっていわれたら、屈辱だけどきっと、なめると思う。」

「うん、普通は死にたくないもんね。」



「だから、銃はすごいチカラなんだ。
 殺傷能力や暴力はすごいチカラをもっている。

 高学歴だろうと、金持ちだろうと、
 美女だろうと、悪人だろうと、
 どんな人だって、簡単に操れちゃう。」

「うん。」


「つまり、死への恐怖心は、ほとんどの人を動かせられる。
 お金や、説得で動かない強い人でさえも、
 意のままに動かせてしまう。」

「うん。」



「ゲスな考えだけどさ、
 大好きなアイドルがいて、好きで好きで、セックスしたくてしたくて、恋人になりたくて
 年収のほとんどをそのアイドルに使うような、熱狂的ファンがいたとしてさ。」

「うん。」


「それだけなら趣味だし別にいいけど。だけど、
 そいつの精神が悪い方にいっちゃったら・・・・

 普通に付き合ってとか、結婚してってお願いしても、絶対無理ってわかるから、
 甘くない現実に気付いて。ファンタジーとして遊ぶ余裕もなくなってさ。

 アイドルなんて、出会いが無いから、どうせドラマで共演した俳優とか、
 ちょっと頼りになりそうなスタッフとくっついて結婚するわけでさ。

 ファンが、死ぬほど願って、いくら欲しいと思いつめても手に入らない幸せの形を、
 あっさりと手にしていく人間がいて。

 生まれ持った幸運の差と、環境の差で・・・


 なんていうか、その平等じゃない感じ。

 そこに不満をめちゃくちゃ持った時、

 目の前に銃があったらって考えると怖いよな。」
 


「語るねー、サイダー。」


「あ、ごめん。長話すぎだな。」




「あーあ、すべての国が一緒にさ、
 ミサイルや武器捨てたら、世界は平和になるけど、個人の拳銃すら捨てられないんだから、
 簡単じゃないよなー。」


「そうだろね。聖者みたいな人ってそんなにいないと思うし、

 武器や軍需産業で働いてるから、食べていける人もいるわけだし。」



果実の携帯が鳴った。


「ん? あれ? ノイマンからだ。しかもこっちの携帯・・・・あ、切れた。」


「携帯、二つ持ちなんだ。」


「携帯はいくつか持ってるけど、この携帯はノイマンが渡してくれた特別製。

 普通の携帯電話は、通話が記録されているから、
 この携帯だと暗号化して、記録されずに話せるって。」


「なにそのスパイ映画状態。
 時計型の麻酔銃作ってって言ったら、作ってくれそう。」



「たぶん作れるよ。 ちょっとノイマンに掛け直すねー。」

ピッ


「もしもし、ノイマンどうしたの? うん、無事着いたよ。
 え? まだテレビとか見てないよー。
 
 なにそれこわい・・・」


「なんだって?」


「あ、ちょっとノイマン待って。

 なんかね、私達が飛行機に乗っている間に、世界中のパソコンが操られたんだって。
 
 すべての政府機関は、軍事力を放棄しろ みたいな映像が勝手に流されて。」


「・・・すごくタイムリーだな。」





「で、それを言っているのは、あのテロ組織だって。
 24時間以内に各国の首脳は、平和の為に武力を捨てると回答しろって。

 もし逆らったら、人を消すって。

 あ、スピーカーにすれば二人で話せるね。ちょっと待って・・・」



ピッ

「あ、ノイマンさん、サイダーです。パスポートありがとうございました。」


「ご無事なようで良かったです。念のため、連絡を差し上げました。
 少々、世界がキナ臭くなっておりますから、お気を付け下さい。」


「どういうことですか?」



「お時間大丈夫でしょうか?」

「はい、いまは移動中でめっちゃ暇です。」



「2013年1月1日、不老ウイルスを撒くという、
 いままでに無かったテロ事件がおきましたよね。」

「はい」


「殺すではなく、生かす。という、それはいままでに無いテロの形でしたが、
 今回は、殺すぞ。という通常のテロ予告、脅しでした。」


「生かしといて、今度は殺すって・・・」




「彼らには、この順番が必要だったようです。主張はこうです。

 国という枠組みがあるから、戦争が起こる。だから、国を無くす。

 武器を無くして、平和な世界にする・・・と。ある種の理想主義者達です。」


「でも、そんな命令を聞く国なんてないですよね?
 日本だって、アメリカだって、中国やヨーロッパも、北朝鮮だって聞かないでしょ。」



「それがですねサイダー様、
 彼ら、ヘブンの持っている武器が今までに無い厄介な物のようでして。」

「え?」


「銃でも、核ミサイルでもなくて、リンゴの形をした爆弾が映っていました。

 それを使えば、半径10メートルから最大約千キロ範囲の、
 人間だけを一瞬で消せるそうです。」



「人間だけ消す? ・・・そんなの無理でしょう。」

「わかりません。ただ、不老が現実になったくらいですから。」




「どういう仕組みかわかってるんですか?」


「彼らが言うことが真実ならば、人類の細胞にはすでに、
 不老ウイルスである、アップルスネークが入り込んでいます。

 それを利用するようです。

 リンゴ爆弾からは熱も、爆風も出ませんが、
 特殊な電波信号が飛ぶのだそうです。

 その電波信号が、ウイルスに感染した細胞に触れると、

 細胞を不老にするために働いていた、
 自己保存エネルギーの流れが反転し、逆流・・・

 一瞬で、細胞が消滅、人が煙のように消えるのだそうです。

 わかりやすいイメージで例えるなら、
 くっついた磁石を裏返すイメージだと。」


「うーん、理屈はなんとなく、わかりますけど・・・」



「あと、例外として、精子と卵子にはウイルスが入り込めないとか
 ご丁寧に色々説明していましたよ。時間があれば映像をご覧ください。」



「わかりました。でもムカつきますね!

 いっつも勝手に人の体を操作しやがって・・・誰なんだよまったく。」


「それが、もうすぐわかります。」
 
「え?」

「約16時間後にテレビメディアに生出演し、自ら正体を明かすと言っていました。」

「テレビで?」


「ええ。次はテレビ局へ現れるそうです。

 絶対の自信があるのでしょう。誰も自分達を殺せない、逮捕できない。
 そして、世界中の国が、自分達の支配下になるという自信が。」



「ノイマンって、元凄腕ハッカーだよね?
 世界中のパソコンをジャックして映像流すってできるものなの?」


「・・・それなんです。

 実は、私が元いた闇の組織の仕事で、そういうプロジェクトも実際にありました。
 ですが、失敗に終わりました。

 世界中のインターネットは繋がっている。とはいえ、
 大手サーバーは、世界中に分散しています。セキュリティも当然されています。

 検索サイト大手のサーバーを乗っ取るだけでも、
 複数のセクションに別れており、ひとつ侵入しても、異常があればそこだけ切られます。

 ウインドウズアップデートに仕込むという手もありますが、ほぼバレますし、
 アップデートしないパソコンもありますし、マックもありますし、同時には無理です。」


「なるほど。」


「直接侵入して占拠する方法もありますが、施設の警備は厳重で、
 指紋認証、眼球認証、さらに内部には沢山の人間がいて、スパイとして潜り込むのは難しい。

 
 ですが、クラッシュさせるだけなら比較的簡単ではあります。」


「クラッシュ?」


「強力なウイルスプログラムを作り、同時タイミングでチェック機能をすり抜けて、
 ただ壊すんです。ワクチンを作られる前に。

 ただ、それだと社会システムの混乱を起こすだけで、愉快犯はまだしも
 犯罪組織にはデメリットしかないので、普通はやりません。」


「じゃあ、ノイマンさんみたいな凄腕ハッカーチームが、
 超強力なウイルスを作って、世界中のネットを同時に乗っ取ったとかは?」


「うーん・・・正直、考えられません。
 動画を流す、しかも長時間というのは・・・」


ノイマンが映像を見て伝えたかった情報は以上だった。


「果実様、私は心配です。相手はただのテロ組織などでは、ないかもしれません。

 どうか、くれぐれも、お気を付けください。

 この世界には、あなたが想像も出来ない深い闇さえありますから・・・」


「心配してくれてありがとう、ノイマン、また連絡するね!」


ピッ



タクシーは、果実の父親が住んでいるはずの家、

ニューヨーク郊外の住宅街へ近付いていた。



俺は携帯をいじり、調べてみた。

「ヘブンのリーダーの生中継がおこなわれるのは、
 ニューヨークのFBCテレビか・・・ うわ、近いじゃん!」


「ねー、サイダー。」

「ん?」


「黒幕の正体を、見に行きたいと思わない♪」




「確かに、俺も気になるけど、まず果実の父親に会ってから考えよう。
 俺達が来た一番の目的はそこだろ?」


「えー ・・・・・・わかった。」

「ノイマンさんが心配するわけだなー。」




しばらく走ると、

タクシーは、一軒のちいさな家の前で停まった。


「ここのはずなんだけど、パパの家・・・」

「初めて来たんだろうけど、庭にある物とか、なにか見覚えない?」

「うーん・・・まったくない。」



この辺りの家は、どれも似たようなデザインの家ばかりだった。
アメリカのホームドラマで見たことがある感じ。


でも、この家は他の家よりもなんだか・・・生活感がない。
ちゃんと掃除はしているし、人が住んでいる感じはあるんだけど、

でも、なにか違和感を感じた。



ガレージは、ただ車を入れるだけの必要最低限って感じでそこにあった。

カーテンも無地で、庭に花なんかは植えられていない。



記号。


俺は、記号だと思った。


「家」という記号

「庭」という記号

「ガレージ」という記号


ただ、寝泊まりするだけの場所、
ただ、現状を維持するだけに存在する場所。

感情がすべて押し殺された・・・ 楽しむことを諦めているような・・・


そんな印象。

あの父親の部屋で感じた印象と似ていた。


だからやっぱり、この家に果実の父親は住んでいると思う。



俺達は、父親の帰りを待つことにした。



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11 正しい人


「ミスターライトハンド、ディナーをお部屋にお運びしても、よろしいでしょうか?」

ニューヨークを一望できる高いビル、その最上階の部屋に男はいた。


「ああ、頼む。」





夕日を浴び、分厚いソファに座っているのは、
グレーのスーツを着た金髪の白人男性。


大きなテーブルには、次々と料理が運び込まれる。

豪華な日本料理だった。

「和食が食べたいとおっしゃられたので、今朝、日本からヘリで新鮮な食材を空輸し、
 当ホテル一流の料理人達に作らせました。」

女はそう言いながら、料理人達と一緒に、男の前に料理を並べた。


一通り並べ終えると、料理人達は部屋を出ていき、
広い部屋には、男と女だけになった。



男はしばらく並べられた料理を見ていたが、ふーっとため息をついた。


「バター、ちょっと来なさい。」

部屋の隅に立ち、手を前に組んでいる女を呼ぶ。


「いかがなさいました?」


「なんだ、あの料理人は。右端にいた男からはタバコのニオイがした。
 禁煙もできない料理人など、即クビにしろ。」

「もっ、もうしわけありませんでした。徹底させます。」



「それとお前だ、和食という文化では汁物は右手側に配置するのが基本だ。
 なぜ、左手側に置いた?」

「それは・・・」

「正当な理由があるなら許可しよう。無いなら許さん。」

「・・・知りませんでした。」


「ルールなんてものは先人が勝手に作ったもので、
 時代に大きく合わなくなった場合は、変えていくべきものだ。

 だが、そうでないなら、ルールは守るべきものだ。それが正しい人の生き方だ」


「もうしわけありません!
 普段、私は日本の料理を食べないため、知りませんでした。
 昨夜、調べはしたのですが、勉強不足でした。」


「次からは気をつけろ。人は間違いをおかす。
 だが、罪を悔い改め、正しい行いをすることができるんだ。

 Do the right thing それを忘れるな。」

「はい。Do the right thing ・・・ドゥ・ザ・ライト・シング・・・
 人として正しいことをする、ですね。」


「そうだ。では、いただきます。」

モグモグ


「うん、味はいいじゃないか。良い食材を探してくれたことがわかる。」

「ありがとうございます。」



完璧な箸使いで食事を終えた男は、窓からニューヨークの夜景を静かに眺めた。




「Do the right thing・・・」




コンコン

「失礼します。ミスターライトハンド、ヘリの準備が整いました。
 現在深夜0時です。放送開始まであと6時間ほどありますが、
 FBCテレビの方へはいつでも出発できます。」


「まだ時間があるな・・・ドクターは来ないって?」

「ドクターはデートを優先するそうです。」


「ははっ、彼女らしいな。とりあえず、シャワーを浴びて、音楽を聞いてから考えよう。」

「かしこまりました。」


男はバスルームへと向かおうとした。


「あの、紙袋は本当に前回のままで良いのでしょうか?」


ネクタイをほどきながら男は言う。



「ああ、どうせすぐ取って顔を出すんだ、前のままで問題ない。」



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12 おとぎばなし


シャー

男がシャワーをあびている。



「失礼します。バスローブ、こちらに置いておきますね。」

ガチャ

「あっ!」


「バター、少しワインが飲みたくなった。用意しておいてくれ。」

「かっ かしこまりました。ミスターライトハンド・・・」


ガチャ シャー


「・・・見ちゃった・・・・すごい・・・右まがり(ドキドキ)」 
 
 




男はシャワーを浴び終わると、

バスローブを着て、ソファに座った。


「ふぅ・・・」


ピッ


巨大なスピーカーから流れてくるのは、

ノイジ・スピカの歌声だった。



男は目を閉じ、指揮者のように手を振り始めた。



序盤は静かで、小鳥のさえずりが聞こえる。

ノイジのハイトーンが気持ちよく響く。


曲調はしだいに重く悲しくなり、詩も孤独を歌いはじめる。

生きる苦しみ、愛する人との別れ、切ないバラード。

そこに、キーンとベルが一音、高く鳴る。



ベルの音の後、10秒ほど無音がある。



かすかに、囁くようにノイジ・スピカは歌いはじめる。

だんだんと、明るいメロディへ転調、

ギターに、ピアノ、バイオリン、クライマックスへと盛り上がっていく。

永遠の愛を力強く歌い上げ、

綺麗なリフレインを残し、曲が終わった。



男は余韻をかみしめ、ゆっくりと手を下ろし、首を振りながら拍手をする。

「ブラボー!実に素晴らしい!」


「ミスターライトハンド、私はノイジ・スピカのファンで全作品を持っておりますが、
 今の曲は初めて聴きました。」

「そりゃそうだ、未発表の新曲だからな。」



コンコン  

「ノイジ・スピカ様がお見えになりました。」


そこには、白いシンプルなドレスを着た、ノイジ・スピカがいた。


「早かったな。
 ちょうど、きみの新曲を聴かせてもらったところだ。」

「嬉しい。どうだった?」


「オペラの雰囲気を取り入れたのは正解だと思うよ。」

「ありがとう。テーマは何十億人の永遠の物語でしょ? 
 そこには群像劇のイメージが欲しかったから、オペラを取り入れてみたの。
 クイーンのボヘミアン・ラプソディなんかも参考にしたけどね。」


「私は断然、きみの新曲、
 アップルスネークの方が好きだな。」


「ほんとうに今夜、これを歌うの?」


「ああ、お願いしたい。」

「わかった、任せて。
 あなたは私の夢を叶えてくれた人だから、恩返ししなくちゃ。」


2人にワインを運びながら女が言葉を発した。


「ノイジさんの夢ってなんだったんですか?」


「おい、バター!

 私と客人が会話している中に割り込むだけの、正当な理由があるなら許可するが、
 無いなら許さんぞ。」


「も・・・もうしわけありません! つ、つい、憧れの方が目の前にいたもので・・・」

「さっき怒られたばかりだろうが、正しいことをしろ。
 Do the right thing を忘れるな。」

「は、はい!」

「まったく・・・」


「ミスターライトハンド、私は大丈夫よ。あなた、お名前は?」


「はい、私は秘書をさせていただいております、バターと申します。」

「そうなんだ。ミスターライトハンドにも、こんな秘書がいるのね。」


「どういう意味だ?」

「だって、あなたは優秀でしょ。そして完璧主義な男。」


「優秀と言ってもらえて嬉しいな。」


「言ってもいい?」

「なんだ?」


「このバターちゃんに関しては、優秀じゃないわ。
 優秀だったら馴れ馴れしくボスの会話に入ってきたりしないものね。」

「・・・」


「それに、私はこのあと歌うのよ? 聞きもしないで、ワインを出すのはミスじゃない?
 つまり、この子は天然で、おバカちゃんなところがあるわ。」


「はははっ! 確かにそうだ。バターはバカだ。」



「疑問なのは、あなた程の優秀な実力者が、
 なぜ、こんなおバカな子を秘書として雇い、
 あえて一番身近においているのかってこと。

 もっと頭が切れて、マナーも完璧な秘書なんて、いくらでもいるはずなのに。」



「なんでだろうな。」




「予想だけど、あなたは自分が正しいと自信をもっている。
 だけど、心の奥には大きな不安を抱えているわ。
 
 自分は正しい! 本当に正しいのか? いや自分は正しい!ってね。


 だから、無条件に自分がやることは
 正しいと信じてくれる従順な人間がそばに欲しい。」


「・・・」



「そして、これが正しいことなんだぞって、教えることで自信を保っている。

 中途半端に優秀な人間は持論をもっているから、噛みついてきてウザいもの。
 反抗してこない、従順で、すこしバカな人間をあなたはまわりに置きたかった。

 Do the right thing 人として正しいことをする。


 アメリカでは有名なこの格言を引用して、

 自分は正しいことをしていると
 思いこもうとしている。 

 違う?」



「ふっ、きみはミュージシャンだけでなく、心理カウンセラーもできそうだな。
 だが、ひとつ間違っている。」

「?」


「Do the right thing ・・・この言葉は、ただ有名だから使っているわけではない。」

「・・・」



「両親が、私を殴りつけながら

 いつも使っていた言葉だからだ。」



「・・・」



「信心深くて、普段はとても優しいまじめな両親だったよ。何不自由なく育てられた。

 大好きだった。

 でもある日、私の通う小学校で銃の乱射事件があったんだ。

 犯人は近くに住むアジア系移民の中年男だった。

 自分が仕事を解雇されたのは、人種差別、格差社会のせいだと恨み、
 白人、特に裕福な家の子どもが多く通う、私の小学校を狙った。」


「・・・・・・」


「教室では、理科の授業をしていた。
 私は先生にあてられ、前にでて黒板に解答を書いていた。

 すると、

 銃を手にした男が前の扉から入って来て、
 
 いきなり先生を撃った。

 先生は、私にもたれかかるように倒れてきた。 


 先生の長く綺麗な金色の髪のむこうに、男の姿が見えた。

 子ども達の悲鳴が聞こえる。すぐ近くなのに、とても遠くに悲鳴を感じた。

 私は身動きができなかった。

 
 悲鳴はどんどん少なくなっていった。

 そして、犯人は最後に自分を撃って倒れた。

 教室の中で生きているのは、私だけだった。」




「ひどい・・・」





「警察がきて、助け出された。私を抱きしめる両親に聞いたんだ。

 なんで、

 罪のない友達が殺されなくちゃならないの? ってね。

 両親は黙っていた。

 信心深い両親は、神様が見ている。罪には必ず罰があり、

 正しいことをすれば、神様が幸せにしてくれるといつも言っていたから。」


「・・・・・」


「だから言ってやったんだ、

 神様なんか嘘っぱちだよ、誰も助けてくれない、くそったれだって。

 汚い言葉で、役立たずの神だとさんざん罵ったよ。

 すると両親は、神を侮辱するなと私を殴りつけたんだ。」


「え・・・」



「私は心に決めた。神など信じない。神など弱い者へのまやかしだと。

 自分の力で、強く生き、本当に正しい行いをしようと決めた。


 神が、弱い人を見捨てるのなら、

 私が、弱い人を救える存在になろうと決めたのだ。」



「・・・それであなたは、アップルスネークを撒いたのね。」



「ああ。そして、もうすぐ私がやったと公表する。
 あそこにある、ナンバー1が書かれた紙袋をかぶってね。」



「私も紙袋をかぶるべきかしら?」

「いや、きみはいい。ノイジ・スピカは象徴、不老の女神になってほしい。」


「わかりました。あ、そうそう、
 バターちゃん、あなたの質問に答えてなかったわね。」


「あ、いえ、そんなすみません!」



「私の夢はね、ずっとずっと、楽曲を作って、歌い続けることなの。

 若く美しいルックスのまま、

 音楽の才能が枯れないまま、永遠にね。」


「その夢を叶えてくれたんですね・・・」




「そう、彼の作ったアップルスネークがね。」


「ノイジ、私は約5000社のトップだが、ドクターではない。

 正確に言えば、ウイルスを作ったのは16年前に出会った女性の博士、

 ドクターデーモンだ。

 本当は、今夜一緒にくるはずだったんだが、彼女は気分屋でね。」



「ドクターデーモン・・・
 神を憎むあなたには、ピッタリのお仲間ね。」



「ドクターデーモン・・・・

 ドクターデモン・・・・・

 ドク・・・タデモン・・・・

 ぼく、ドラえも・・」


「おい、バター!」


「あっ・・・も、もうしわけありませんっ!
 昨夜、日本食の勉強をしたときに、日本のアニメジョークの情報があったもので。」



「ははは、バターちゃん面白い! バターちゃんって、いくつ?」


「はい、26歳です。」

「若いねー!」


「え? ノイジ・スピカ様のほうが若いんじゃないですか?」



「私本当は、39歳だから

 正直、限界だったのよね~、若作り。



「ええええええっ!! 見えないですっ!! 本当に17歳位だと思っていました!!」



「ありがと♪ 永遠の17歳とか言って、最初日本のアイドルっぽい売り方しちゃったから、
 その時に応援してくれたファンをがっかりさせたくなくてね。

 栄養管理して、運動して、頑張ってはいたんだけど、流石にすこしヤバくなってたの。

 老化を止めてくれて、本当に感謝してるわ。」


「林檎に・・・ヘビ・・・悪魔に・・・美魔女・・・まるで、おとぎ話ですね。」



「さあ、そろそろ行くか。バター、ヘリと、テレビ局に伝えろ。
 全ては予定通り正しく進んでいるとな。」


「はい、かしこまりました!」




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