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1 世界を変える歌と はじまりの不老テロ


俺はボリュームを上げた。




「私は17歳よ。永遠に17歳なの。」




インタビュアーに年齢を聞かれた彼女は、テレビ画面の中、笑顔で答えた。

「カウントダウンライブ楽しんでいってね。」

カメラの前を去り、ライブのスタンバイに入る。


まぶしいフラッシュと、大歓声につつまれながら、

レッドカーペットを、奇抜でセクシーな衣装で歩く。



テレビ画面に映っているのは、
2012年 12月31日  夜11時50分頃のニューヨークだ。




史上最大の動員数を誇る巨大カウントダウンライブが、もうすぐ始まる。

この大舞台で歌うのが、世界中の音楽ファンが虜になっているアーティスト、

ノイジ・スピカ 【Noisy Speaker】


本名や年齢は秘密の、謎だらけのアーティストだ。



永遠の17歳だとか、

まるでアニメ声優のお約束みたいな事をデビュー当時から言っているけど、
彼女の場合、それがジョークには思えない。

本当に、永遠に歳をとらないんじゃないか? ってくらい、
デビューしてから5年、ずっと彼女は若く、美しく、かわいいままだ。



俺が惹かれているのは、ルックスや声だけじゃない。

彼女は、全ての作詞・作曲を手掛け、振り付けやPVも、自分で演出する。

世界中に熱狂を、癒しを、希望を、救いを、夢を、喜びを、音楽を通して生み出し続けている。


才能豊かで、美しくて・・・まるで女神だ。


そんな女神に心を射抜かれた、無数のファンの中にいるひとりが俺だ。

平凡な高校2年男子、斉田守。 
永遠じゃないほうの、ただの17歳だ。

住んでいるのは四国の愛媛県。平凡な田舎だ。

親も平凡、家も平凡。唯一、俺の部屋だけはちょっと変わっているかもしれない。

部屋を見渡せば、そこらじゅう、ノイジ・スピカのCDにグッズ、
天井までポスター貼りまくりだから。


俺は彼女を尊敬している。

でも同時に、嫉妬している。


常に彼女の音やグッズに触れて生活する理由は、好きだってこともあるけど、
彼女のセンスに触れ続ければ、

少しでも彼女がいる世界に自分も近づける気がしたから。


俺は学生で、仲間とコピーバンドをやっているレベルだ。

オリジナル曲なんて作れない。


でも、

彼女みたいに音楽で人を感動させたいし、

欲深く、汚い気持ちかもしれないけど、有名になってお金や名声も欲しい。

そしていつか、彼女と同じステージに堂々と立ちたい。





ニューヨークと日本との時差は、14時間。
日本が14時間、先に進んでいる。


俺のいるこの日本、愛媛県は、もうすぐ午後2時。

外は寒いけど雪は降って無い。明るく太陽が輝いている。


チャンネルを変えると、平和な日本らしい、いつもの正月番組が流れていた。

部屋の下、1階リビングでは、親戚が来ているから、にぎやかだ。
ガキンチョのはしゃぐ声が聞こえる。

が、

俺はそんな家族ダンランや、お正月よりも、
今から始まるノイジ・スピカNYカウントダウンライブ生中継が、なによりも大事!

ツイッター画面も立ちあげているんだけど、
タイムラインはライブへの期待ツイート一色。

まぁ… 俺がフォローしているのは、ノイジファンが多いという事もある。



ステージが急に暗転した。

おっ! きた!


10

カウントダウンが始まる。



いよいよだ・・・





くるぞ! くるぞ!







録画してる。 OK!








まぶしい光の中、新曲 HAPPY 2013 のイントロが流れる。

近未来風の衣装に包まれた百人以上のダンサーを引き連れて、
彼女がステージに登場した。



一糸乱れぬ迫力のダンス!


プロジェクターを使った美しい、光・CG演出!


炎と水、風が吹き荒れる自然と文明の調和をイメージした壮大な舞台!


そして、彼女の迫力の歌声に、俺は鳥肌がたち、
脳内麻薬ドバドバ状態、目が離せない!


2曲目 NEW WORLD
3曲目 Forbidden fruit
4曲目 Love Again
5曲目 Lie

どれも最高にかっこいい。観客の盛り上がりがすごい!


そして6曲目


ん?

突然、巨大スクリーンに、白いスーツを着た6人の映像が映し出された。



顔には、それぞれ 「1」「2」「3」「4」「5」「6」 と書かれた、四角い仮面?

いや、白い紙袋のような物をかぶっている。



「これは何をテーマにした演出だ?」



「1」 が、何か英語で喋っている。 声は電子音っぽい加工がされている。

しばらく話すと、映像が終わった。



と、同時に、会場のスタッフらしき人物がステージに立ち、
トラブルがあった事を説明している。

チェックの為、少し休止しますと、日本語テロップが流れた。


なんだったんだ?



そうだ、こういう時はネットでググればいい。テレビより情報が速い。

2ちゃんまとめサイトが、ひっかかる。
便利な世の中だ。



もちろん、プログラムが自動で記事を書いているわけじゃない。
どこかのだれかが、貴重な限りある命の時間を削って書いている。

みんなにすごいと褒められたい、承認欲求からなのか、
みんなを喜ばせたい親切心や博愛精神からか、

理由はなんであれ、彼らは欲しい情報を与えてくれる。 ありがたい存在。

冗談まじりに 『神』 とさえ、時に呼ばれる。


もちろんインターネットは、デマや、心ない誹謗中傷もめちゃくちゃ多い。
情報ソースの無い記事、扇動しようとする流れ、ウンザリもする。

心が弱っている時は、引っ張られるから見ない方がいい。

だからと言って、この便利な情報収集ツールを使わないのも、もったいない。


まとめ人の取捨選択で、記事のイメージや、論調も操作されてしまうけど、

それはネットに限らず、新聞社やマスコミ、政府発表なども、同じ側面はある。



「帰国子女がノイジスピカライブのテロ犯行声明を訳したったwwww」

記事タイトルには、こう書かれていた。


テロ?

テロ動画だ? さっき少し流れていた6人の映像、テロの犯行声明だったの?


そのまとめサイトに掲載された翻訳記事を見ると、
信じがたい事が書かれていた。


「1」 が言ったこと。





皆さん、お楽しみの所すまない。少し時間をいただく。

我々は 『ヘブン』

この世界を救うものだ。


今日、世界同時テロを起こした。

だが、恐れなくていい。 従来のテロとは違うものだ。

誰も死なない。

文字通り、もう誰も寿命では死なない。


全人類を、不老の存在にした。 

詳しく言えば、空気感染する

不老ウイルス 『アップルスネーク』 を撒いた。

別にゾンビになったりはしないし、安全で副作用も無いから、安心してくれ。

いずれ君たちも理解するだろう、これは人類の発展の為に必要な行為だったんだ、と。

詳しい事は、また近々説明する。

世界同時中継されている、このライブ会場をハッキングし、宣伝の場にさせてもらった。

すまなかった。

さあ、ライブを楽しんでくれ。






袋をかぶった男 「1」 が映像で話した内容は、

これが全てだと、そのネットサイトには書かれてあった。



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2 音楽なんかで腹はふくれんのぞ?


不老にするテロ?

この翻訳が正しいなら、俺達人類は、もう歳をとらなくなった?


・・・・ありえない。


きっと「釣り」だ。




視聴者という「魚」を、嘘のテロ情報という「餌」で釣り上げて喜ぶ、愉快犯の仕業だろう。

思えば、映像がしょぼかったし。ヘブンって、天国?

きっと犯人はアメリカの暇でギークな大学生あたりだ。



だけど、ちょっと気にはなるな。

『不老テロ』 ・・・か。


そんな言葉、初めて聞く。

不老不死に、憧れを持ったことがない人間なんて、
きっといないと思う。


例えば、
コンビニに並ぶ、中年女性向けの雑誌。

こんなキャッチコピーがある。


「美しく年齢を重ねる」

「40歳から、女は輝く!」


特集は、美のカリスマのインタビュー


「歳を重ねる事はマイナスじゃないの。 みんな誤解してる。

 シワやたるみだって、ぽっちゃり体系になることも、チャーミングなこと。 
 まず自分がありのままの自分を受け入れて、好きになるべき。

 そして、いい男は、そこをちゃんと見て愛してくれる。
 加齢を愛せない男、若い女にしか、女の価値を見つけられない男は未熟なの。」



前向きに歳を重ねようというよくある記事、

俺はそんな記事を読むと、中年女性の現実逃避っぽくも感じるけど、
それで癒される人がいるんだろうし、
まぁ、前向きでいいんじゃないの? と思う。


だけど、そんな特集があるその雑誌の広告ページに目をやると、ギャップに少し驚く。


「ダイエット食品」

「しわ・たるみをとるエステ」

「10歳若返るとうたう、サプリメント」


今の自分を認めたいし、認めてほしい。
だけど、やっぱり若いままでいたいと思うのが、きっと、女心なんだろう。


いや、そんなの女だけじゃない。

男だって、若さに憧れている。



男性雑誌の広告を見れば、潜在的な欲求が、透けてみえる。

あと、年代別の欲求がみえる。


中学生が読む雑誌の広告は、
「背が伸びる」 「ニキビが消える」

そんな感じ。

それが、18歳あたりになると、
「モテるファッション」 「ペニスが5センチ伸びるマシーン」

20~30代だと、
「美女と出会える」 「パチンコ・競馬必勝法」 「株・財テク」 「自己啓発」

40~50代になると
「薄毛に効く」 「メタボ解消」 「ED」 「健康サプリメント」


そんな感じ。



そんな老いの話しなんて、高校生の俺には、まだまだ、どうでもいい。

モラトリアム期間がたっぷり残されてる。


お、ちょうどライブ再開。

最高の正月!


だけど、楽しい時間は一瞬で過ぎる。 3時間ライブもあっという間に終わった。

この時間が、永遠に続けばいいのに。




午後5時すぎ。 小腹が空いてきた。
俺は下の階にいき、食べ物を探すことに。


「お、守君! ノイジ・スピカのコンサート終わったんだね。 どうだった?」

姉の旦那が話しかけてくる。


「まじ最高でした。」


姉の旦那は28歳。 職業、公務員。 名前は・・・・・・忘れた。


愛媛県庁だか、松山市役所だか、確か、そういう真面目そうな所で働いていた。

黒ぶち眼鏡をかけて、中肉中背。
派手でも地味でもない服を着て、ブサイクでもイケメンでもない。

姉は、この男のどこに惚れて結婚したんだ?


そんな姉は、親戚たちとテレビで、お笑い番組を爆笑しながら見ている。

よくあんなギャグで、笑える。 ある意味、しあわせな才能だ。


胸には、先日、自分が産んだばかりの、かわいい赤ちゃんを抱っこしている。



「守、ちょっと来い。」


リビングの奥、灰色のソファに座っている父が、俺を呼んだ。

嫌な予感しかしない。


「何?」


父はゆっくりと、呆れた表情で話し始めた。


「おまえの進路の事や。お母さんから聞いたが、ミュージシャンやと?」

「うん。」


「何考えとんや?」

「正直な気持ちを言っただけ。」


「音楽で食っていけるのはな、ごく一部の人間だけや。
 ほとんどが失敗して、正社員になれんで、結婚も出来ず、
 馬鹿にされて悲惨な人生をおくるんやぞ。」

「正社員とか・・・結婚したら、それが幸せなん?」


「何が幸せなんぞ?」

「俺は音楽が好きだし・・・・音楽で、人に夢をみせたいというか。つらい人を救えたら幸せ。」



「あのな。 音楽で人を救うとかいうのは幻想や。 やめーやめー。誰もそんなん救えん。」

「そんな事ない。」


「救うとか、勇気与えるとかな、あんなのはナルシストの自己満足にすぎん。
 ミュージシャンや、絵描きだのはな、金持ちのボンボンにだけ許された遊びや。
 うちは裕福じゃないんぞ。」

「・・・」



「東日本大震災の時に、おまえも感じたやろが 
 音楽とか絵とか、そういうくだらんもんの無力さを。」

「食料・水・インフラ。物資を運んだり、自衛隊や、生きる為に必死で頑張ってる人の前で、
 おまえは何か歌えるんか?」

「・・・・・」


「わしは、音楽が嫌いや。あんなもん。 趣味じゃいかんのか?」

「趣味じゃ、なんか違う・・・」


「お父さんの仕事はな、知っとろう? 食品関係や。
 お前には地味で、魅力の無い仕事に見えとるかもしれん。

 ちやほやもされんし、別に褒められもせん。

 でもな、食料品を扱っとる。

 それに誇りもっとるんや。

 食べもんは、命を繋ぐ。 生きるために絶対必要なもんや。

 おまえもそういう、ちゃんと社会の役に立つ仕事をせえ。
 17歳やろ、大切な事がまだわからんか?

 音楽なんかで腹はふくれんのぞ? おまえの音楽聞きたい人、おる思うか?」


俺は反論しようと思った。

チャリティーライブや、応援ソングに、生きる希望を感じた人だって、きっといるって。

だけど、

父が言う事も間違っていない気もした。
それに、父を否定するのも嫌だった。マジメでつまらない父だけど、尊敬してもいるから。

学生で、親のすねをかじってる俺には、何も言えない。

早く、家を出て、音楽で仕事して、食えるようになって、認めさせたい。



俺は沈黙に耐えられなくなって、黙って部屋を出た。

「よー考えろ!」

父の大きな声がした。 俺は玄関を出て、歩き出した。



父はソファを立つと、自分の部屋に入った。

椅子に座り、たばこに火を付けて、

引き出しの奥から、一冊の本を取り出す。


『卒業アルバム』


ページをめくると、
そこには、軽音楽部という手書きの旗をバックに、演奏をする学生達。

白いギターをもつ学生は、どことなく父に似ている。





俺は、フライブルク通りを、理由なく北へ歩いていた。

上着を着ないで飛び出したせいで、夕暮れの風がとても冷たい。



「おーい、寒ない?」

後ろから、姉の旦那が、小走りで駆け寄る。
手には俺のジャンバー。

「あ、すみません。いい人っすね。」


二人で並んで歩く。


「俺、なんか、ダメ人間みたいです。」

ふと、弱音がでてしまった。

「え? そんな事ないよ。 完璧な人間なんていない、いない。」


「お義兄さんは、学生の時、夢というか、やりたい事って、あったんですか?」

「僕? 僕はね、役者、俳優になりたかったね。」


意外だった。

姉の旦那の口から、役者とか、そんな言葉が出るとは思っていなかった。

「子供のころ舞台に連れて行ってもらってね。かっこよかった。
 それで、俳優に憧れた。

 だけど、プロになる自信が持てなかった。
 だから、上京とかしなかったし、
 公務員試験受けて。
 
 でもね、地元の劇団に所属して、年一回公演とかしてるんだよ。」


姉の旦那は、今とても幸せだと言う。
好きな演劇をしながら、愛する妻と子に囲まれて。


どういう舞台が好きか。

どんな役者が好きか。


そんな話をしながら、家に戻る。

あたりはもうすっかり暗くなっていた。





姉が俺に、赤ちゃんを渡してくる。

どう触ったらいいかわからないけど、恐る恐る、赤ちゃんを抱いてみた。


小さい。

柔らかい。


明るい姉と、誠実な旦那さん。 二人の間にできた、赤ちゃん。

純粋な目。


この子も、一秒一秒、大人へ成長している。

生まれた瞬間から、死ぬまで。


この子は、

大人になったら、どんな仕事をするんだろう?

誰を愛するんだろう?

この小さな手は、なにを掴むんだろう?

赤ちゃんは、「ぷーっ」と、

よだれをたらしながら微笑んでいた。



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3 スーパーマーケット佐藤 お餅の歌


も~う い~くつ 寝ると~ お正月~♪


365日たつと、だいたい毎年、正月と呼ばれる日が訪れる。

あと365日寝ると、2014年のお正月が始まる。


それが、太陽系の惑星、この星のルール。





何にも縛られない、

ルールなんかなさそうに見える宇宙や惑星にも、ルールがある。

地球という器のサイズにあった、時間というルール。



大富豪だって、世界的スターだって、凶悪な犯罪者だって、

どんなに自由に見える人間だって、ルールに縛られている。

人という器のサイズにあった、時間というルール。



365日×100年=36500日

約100年生きたら、ほとんどの人はルール上、
亡くなることになる。



もう~ 36500日寝ると 自分のお葬式~♪ 不謹慎だけど事実。現実。




人は地球に縛られ、

地球は宇宙に縛られ、

全ては時間に縛られ、

それ以上の、なにかに縛られている。


そしてそれらは、縛りながらも、守っている。




ルールは、法則とも言い換えられる。



斉田家にも法則がある。

毎年、1月2日に、近所の佐藤さんが遊びに来る。


佐藤さんは、父の幼馴染。

近所で『スーパーマーケット佐藤』を経営している。



「あけましておーめでーとさん!」

元気な大声が響く。やっぱり今年も来た。みんなと談笑している。



ん?


俺に話しかけてくる。


「守ちゃん! 音楽やるんだよね? ギターとか弾くんだよね?」
「まぁ・・・」

「お願いがあるんだけどさ、一曲、うちのお店に歌、作ってよ!」
「お店の歌、ですか?」


「そう! お店というか、お餅なんだけどね。」

「?」


「あのね、うっかりさー お餅を大量に仕入れちゃって、在庫の山なんだよ。
 だから、お餅がバンバン売れるような曲を店内でかけたいんだよねー。」

「お餅が売れるような・・・曲ですか?」



「ほら、よくあるじゃん! 魚を食べたら頭が良くなるから買って~とか、そういう歌!」

「おれ、まだ作曲とかはできないと・・・」


「だめだめ! 守ちゃん、プロのミュージシャン目指してるんでしょ?
 プロなら、どんな依頼だってこなさなくちゃ!

 できないなんて言ったら、そこで負けだよ。
 なんでもできます! やらせてください!
 
 そういう精神で仕事しなきゃ、社会じゃ通用しないよ!」

「・・・・・・わかりました。やります。」


しまった。

乗り気じゃないけど、

つい、そんなんじゃプロ失格と言われた事にむかついて
曲作りを、ひき受けてしまった。


「ありがとう! まぁ、簡単な曲で、なんでもいいからさ! お餅お餅~♪ って感じで。
 ああ、ちゃんと作曲料も払うから。出来上がったら聞かせて、よ ろ し く っ !」

握手をして、佐藤さんは帰った。


佐藤さんは元ラグビーだったか、
アメフトだったかをしていて、ガタイが大きい。

声もでかい。


いつも笑顔で、誰とでも話して、誰とでも仲良くなるタイプ。

社交性の低い、俺とは違うタイプの人間だ。
嫌いじゃないけど、大好きなタイプでもない。



あーあ、

受けてしまった以上、やるしかない。



ちょうど学校は休みだし、時間はある。

簡単な曲でいいって言っていたし、簡単に作ってみるか。


たかがお餅だ。



2日後、

適当に、キャッチーな曲のメロディーを真似て、安易な歌詞をつけて持っていった。


「スーパー佐藤のお餅はおいしいよ~♪ やわらかくって 甘くって♪」


これなら耳障りも悪くない。無難に、受け入れられると思った。




「全然ダメだね。」


開口一番、佐藤さんからダメ出しがとんできた。

「聞きやすい曲だけどさ、なんにも胸に響かない。
 面白くもないし、これじゃお餅が売れない。曲を流す意味がないな。」

「でも、悪い曲じゃないでしょ? どんな曲でもいいって・・・」

「おいおい、そこがダメ。守ちゃん、こっちはお客様、口答えしちゃダメ!
 お客様は神様でしょう。
 要望と、アドバイスはありがたく聞かなくちゃ。
 ミュージシャンとして成長しないよ?」

「はぁ・・・」

楽器を弾いたこともないスーパーの経営者に、
ミュージシャンの何がわかるんだ と思いながらも、

曲が良くないと言われたまま、引き下がりたくないので、
直す約束をした。



店内で流すなら、多少、奇をてらわないと耳に残らないのかな?


お餅に興味ないのに、興味ある振りして作るのはしんどいな。
プロになるってこういう事なのかもな・・・


ひらき直ろう。

俺はお餅に対する愛情なんて、あまりないんだから、
餅への愛を歌っても、薄っぺらな歌にしかならない。


だから、子どもが楽しめるような、面白くて、ポップな歌を作ろう。



ギュギューン

「モッチ! モッチ! モッチ! ヘイヘイ

 モッチ! モッチ! モッチ! オーイェー

 スーパー佐藤のお餅は うまくて! 安くて!

 お ク チ い っ ぱ い

 きもちイイー!

 おもちイイー!

 モッチ! モッチ! モッチ!」


やぶれかぶれな気も、しないでもないが、

これなら耳に残るだろう。それなりに納得できる曲になったので持っていった。


曲を聞いた佐藤さんが笑い出した。



「いいよこれ! 突き抜けてる! ありがとう!
 さっそくお餅コーナーで流させてもらうよ。」

色々言われたが、喜ばれると嬉しいもんだ。


「ああ、バイト代払うからちょっと待っててね。」

奥から戻ってきた佐藤さんから、お礼のお餅と、封筒をもらう。

封筒の中をみると、1000円札が、一枚入っていた。


「ギャラ、1000円ですか?」

「1分の曲だし、録音は1時間もかかってないでしょ?

 高校生だし最低時給680円かな。だけどサービス!
 おまけして1000円にしといたからね! おじさんの気持ちだよ。」


俺は、時給換算するんなら、この曲を考えるのに使った時間を
入れてほしいと思った。

とても1時間でできない。


俺のギターテクニックを考えたら、小学生の頃からやっているのだから、
10年以上の積み重ねがあってこその、この1分の音だ。

10年+1分 そんな時給を、もらいたいくらいだ。


だけど、5分で作っても、名曲は名曲だし、
10年かけて作っても、駄作は駄作だ。


ピカソが1分で描いた絵と、
中学生が1年かけて描いた絵。

時給換算なら、中学生の絵は高くなり、
ピカソの絵は安くないとおかしい。だけど、そんなことはない。



成果主義は良いのか? 悪いのか?

ネット上でよく目にする仕事に関する議論に、
こういうものがある。




仕事のできる社員には、次々と、10の仕事がまわってくるが、
それをこなし良い仕事をして、定時退社。

仕事の遅い社員は、時間がかかり、
1の仕事を残業してやっと完成。

でも、残業代はたくさん出るから、できる社員より給料は良くなる。


できる社員は、上司に不満を言うと、

私達はチームプレイだ。できない社員を助けなさい、
会社というチームで頑張るんだ! と、説教される。


できない社員にコツを教えようとするが、

マジメで聞く気があるならまだいいけれど、
仕事にやる気なんてない人も多く、勉強する気なんてゼロ。
ぼんやり、可もなく不可もない仕事をして、とにかく波風を立てないように生きようとする。


馬鹿らしくなって、できる社員は会社を辞める。
実績を評価してくれる海外の企業へ行く。

その結果、

海外の企業は、有能な社員を多く抱え、
日本の企業は、おだやかで挑戦しない社員を抱えることになり、

現代の、グローバルな世界競争で勝てなくなる。

それが、日本社会の良いところで、ダメなところ。




そんな意見を、よく目にする。社会で働いたことないから、本当かどうか知らないけどさ。


だけど一方で、


成果主義を日本に入れすぎると、
先輩が後輩にノウハウをいっさい教えなくなるから、

会社組織、チームとして弱くなる。


後輩に技術を教え、実力がついてしまうと、
先輩である自分の仕事がとられ、

今の時代、賃金が高い労働力である先輩が、リストラされるからだ。


どっちがいい。と言えない微妙な問題。

「社会で働くこと」議論。そういうものを考えれば考えるほど、


若者は思うんだ。


自分は負け組みになりたくない、いい会社に就職したい、

ブラック企業は嫌だ!

そう思うのが、俺たち高校生だ。



1000円を見ながら、

俺は、頭の中ではそんな事を考えていた。


「1000円じゃ安すぎる」と、
この佐藤さんを説得するにはどうしたら良いだろう?

でもまてよ、無名の高校生に善意で仕事を振ってくれて、
ギャラもくれているのだから、小難しいこと考えないで感謝してりゃいいか。

嫌な気持ちにさせたくないし、父の友達だし・・・

俺は、おとなしく受け取ってお礼を言った。

「ありがとうございました。」




10日後、佐藤さんから電話がくる。


「守ちゃん! すごいよあの曲! 近所の子どもに大ヒット!

 今度地元のテレビ局がさ、
 地域情報番組のなんだっけ?

 あれの取材に来るんだよ。守ちゃんもおいで!」


どうやら、あの曲が話題になっているみたいだった。




スーパー佐藤に向かう。


本当だ、お餅売り場で、小さな子ども達が歌を口ずさんでいる。
近所の子ども限定だけど、ヒットソングになっているようだ。

「すみませーん!」

厚化粧で小じわを隠し、若作りに必死な、
女性アナウンサーにマイクを向けられ、曲にこめた想いを聞かれる。

「えっと・・・ ノリで作りました。」

お餅への熱いテーマ性なんて、
俺には語れないのだから、正直に答えた。


テレビ局だって、
どうせ高校生らしい馬鹿っぽい無難な、
放送で使える答えを求めているだけなんだから。

いちいち問題発言なんか、してほしくないだろう。


スーパーを後にしようとすると、

佐藤さんが握手してきた。


「本当にありがとう! やっぱりお父さんに似て、守ちゃんには才能があるわ!」

「え? 父に?」


知らなかった。

佐藤さんによると、


父は昔、バンドをやっていて松山では、かなり有名だったらしい。

大手レコード会社からデビューの話まで来ていたそうだ。


だけど、その時に好きな女と出会って、
この女は誰にも渡したくないと強く思ったらしく、

急いで、結婚しようとした。

そして、彼女の親に挨拶に行くと、

結婚を認める条件として、

不安定な音楽をきっぱりやめて、
安定した仕事に就くことが条件だと言われたんだそうだ。



仲間達は、音楽やめるのはもったいない、

女なんて星の数ほどいる。と説得したんだけど、父は頑固で聞かず、

結局、音楽をやめて、その女と結婚することを選んだんだ。


そして、その女。


つまり、父が夢を諦めて母と結婚後、
生まれたのが、姉と、俺。

父は一度もそんなこと、教えてくれなかった。



小学生の女の子達が、いっしょに写真とってくださいと、俺に寄ってきた。

「え? 俺は普通の人だよ、いいの?」

そう言いながらも、ちょっと嬉しかった。

「ありがとうございました! また楽しい曲作ってください。」




音楽が、人と人を結びつける。


この曲。


安いギャラだし、佐藤さんの上から目線にむかついたし、

別にやりたかった音楽ではなかった。


だけど


何かを気づかせてくれた。

俺の、斉田守のデビュー曲。


『スーパーマーケット佐藤 お餅の歌』




携帯がなる。

「もしもし」

「テレビ見たよ。守、なにやってるの?」

「なにって?」

「なんであんなダサい曲作って、うかれてるの?」


電話をかけてきたのは、
一緒にバンドをやっているメンバーの、ヒカルだった。


「普段やらない方向だし、ダサい曲かもしれないけど、
 子どもには受けてるぞ。」

「守は、あんな曲作って楽しい?」

「仕事だし。断ったら悪いじゃん。」


「依頼されたら、お金をもらったら、守は何でもやるの?

 守が尊敬する、ノイジ・スピカがさ

 もしも、そこのスーパーの歌、依頼されたら作ると思う?
 魂込めて歌うと思う?」


確かにそうだ。ノイジ・スピカなら、きっと依頼を断る。


「仕事はどんな仕事だって大事だよ。
 わかるよ。正しいよ。

 でもさ、
 例えばアイドルがさ、ファンから
 セックスしてってお願いされて、

 断ったら悲しませちゃうから・・・って言って、
 セックスしちゃうようなアイドルだと、どう思う?

 それによって、喜ぶファンもいるだろうけど、
 もっと深く悲しんで深く傷つく人が生まれるんだよ。

 だから、ファンの気持ちを大切にするなら、
 断ることも大事なんだよ。」


「・・・まだ俺らプロじゃないし、ファンなんかいないだろ?
 そんなに悪いことしたか?」


「悪いことはしてないよ・・・

 あの曲で、聞いた子どもは喜ぶし、
 店だって、お餅が売れて、お金が儲かって喜ぶよ。

 だけど、僕はそんな曲を歌う守を、見たくない!」


ヒカルがこんなに声を荒げるのは珍しい。


「僕はさ、守にはすごい才能があると思ってる!

 そこらのバンドやってる奴とは全然違う。
 僕にはわかる!

 だから、あんな仕事はもう、請けないで欲しい。
 あのスーパーは守を大切にしていない。

 守じゃなくてもいいんだ、
 だれでもいい仕事なんだから。」


「・・・別に俺達のバンドにリーダーはいないじゃん。
 ヒカルが俺に指図する権利はないだろ?」

「ないよ。そうだよ・・・だけど・・・」

「・・・」

「個人的な希望を伝えたかったんだ。ごめん。」


電話が切れた。


てっきり、ヒカルは、おめでとうって言ってくれると思っていた。


それが、あんな仕事はやめたほうがいいって言うなんて。



子ども達の笑顔を見て、俺は嬉しかった。

だけど、そんな俺を見て、ヒカルは悲しかった。


わけがわからない。



家に帰って、テレビをつける。

ニュース番組だ。


ん?

ホワイトハウスじゃん。



アメリカの大統領がなにか喋っている。


英語の成績が悪い俺にも、わかる単語がなんどか出てきた。



「アップルスネーク」


アメリカ大統領は真剣な表情で、アップルスネークと言っていた。

その言葉に、俺は聞き覚えがある。



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4 赤ん坊は永遠に、赤ん坊のまま


チャンネルを変える。

アメリカ大統領の記者会見を、ニュース番組で通訳が話している。

「私は恐れていた。情報を発表することで、パニックになることを。
 世の中のシステムがクラッシュしてしまうことを。



 だが、我々は恐れてはいけない。悪い面は直し、良い面は認めて
 より良い社会を構築していく。ずっとそうして今がある。

 それができる。 悲観してはいけない、事実はすぐには変えられない。
 冷静に受け止め、乗り越えよう。」


さすがスピーチに定評がある大統領だ。ゆっくりとした口調で、わかりやすい。


「少し前、あるライブ中に、ヘブンと名乗る者による映像ジャックが行われた。
 
 話題になったので知ってる人も多いだろう。
 人を強制的に不老にするテロというものだった。

 空気中に『アップルスネーク』という不老ウイルスを散布したと言った。
 

 悪ふざけだと我々は思っていた。

 だが、研究機関から信じられない調査結果が送られてきたのだ。

 現段階で公表すべきか迷いもしたが、真実から目を背けては前進は無い。

 我々人類は、事実として、しばらく逃れようのないテロを受け入れることになる。


 アップルスネークは実在し、奴らの宣言どおり感染が確認された。

 アメリカ全土、いや、すでに世界中の空気中にあった。」


カチッ コチッ カチッ コチッ


頭の中で、何かの歯車が動き出す音がする。

ニュース番組では、アメリカは負けない! といった内容のスピーチが続けられているが、
俺は、ぼうぜんとしていた。


気付いたら夜だ。


下の階におりると、家族がテレビの緊急特番に目をやっている。


父が口を開く。

「えらいことになった。社会がメチャクチャになる。これからどうなるんや・・・」

母が答える。

「ふろうって何?」

「不老も知らんのか? 歳をとらない、死ななくなることだ」

「えー、素敵! せっかくなら私が若い頃に、不老になりたかったわー」

父は眉間にしわを寄せ、
母は笑っている。


そっか、

そうなんだ。

不老になる。

それは、悪くもとれるし、良くもとれるんだ。


ナマズ顔って生徒に揶揄されている、歴史の先生が言っていた。

「古い制度の中に生きている人達にとっては、
 新しい制度は脅威であり、悪いことに見える。

 新しい制度の中に生きている、
 生きようとする人達にとっては、
 古い制度は脅威であり、悪いことに見える。

 明治政府が~、鎖国のままだと~、坂本龍馬が~、幕府が~」

細かな事は忘れたが、そんな話をしていた。

歴史は、価値感と、価値感がぶつかりあい、混ざり合い、進化していると。



テレビでは、日本政府の発表が中継されている。

総理大臣が言うには、
今月中に、日本人全員の血液検査を実施するという発表だった。


先に血液検査をしたところ、すでに、総理大臣自身も、アップルスネークに感染しており、
不老になっていると公表した。

このウイルスに本当に副作用がないか、
抗体はできないか、調査研究をすすめるている、と。

不安にならず、今まで通りの社会生活、学校生活をおこなうように。


政府はそう言っている。

そして、現段階でアップルスネークに関してわかっていることは、

細胞と結合したウイルスが、

最初に触れたエネルギーと、同じ量のエネルギーを真似して、生み出していること。


例えとして、 『形状記憶合金』 が出されていたが、アップルスネークは、

空気感染した時点の細胞を記憶し、複製する。

つまり感染した場合、その人の体の全細胞が、
『複製維持細胞』 になる。


感染した時、たまたまヒザをすりむいて傷があったら、永遠にその傷は完治しない。

免疫が治そうとする以上に、
アップルスネークによる、傷ついた状態を複製維持する力の方が強いからだ。


「そんな、無から有を生み出すようなこと普通は不可能だ・・・
 どっかからエネルギーを得ているのか?」


赤ん坊の話がでていた。


成長しようとする本能以上に、
アップルスネークによる、複製維持の力が強いため、

赤ん坊は永遠に、赤ん坊のまま ということだった。


俺はその話を聞いて、また頭がクラクラした。

そうだ。

そりゃそうだ。 そうなんだ。 このケースで不老になるってことは、そういうことなんだ。

ゾンビになって暴れて街を壊すとか、人を襲うとかそういうことじゃない。


俺は永遠に17歳で、

年寄りは永遠に年寄りで、

産まれたばかりの赤ん坊は、
産まれた瞬間に、空気と一緒にアップルスネークを吸いこみ、感染し、

永遠に乳幼児のままになる。 そういうことなんだ。



これから、世界はどうなるんだ?

日本政府はどうするんだ?

明日から、学校はどうするんだ?


総理大臣が、いままでどおりに生活してください。と言っていた。
俺達は、しばらくは、受験勉強をつづけなくちゃいけないのだろう。

しばらくっていつまでだ? 1年か、2年?

まさか、永遠じゃないよな。


俺の頭の中の歯車は、 カチッ コチッ カチッ コチッ と音を刻んでいる。
時を重ねて、前に進み続けている。

姿かたちは現状維持のまま、前に進めなくなったのに・・・。



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5 サイダーは嘘つきだな


自分はなんのために、生きてるんだろう?

なぜこの世界の、この時間軸に産まれてきたんだろう?


ねれない。
布団にはもぐったけど、ねむれない。

中学生みたいなそんな考え。 まるで禅問答が、頭の中をとびかう。

結局、人間に答えなんて出せないのに。
中学生の時、考えるのをやめたのに。




気付けば、朝になっていた。 
少しだけど、ねむれたみたいだ。


朝のテレビ番組はいつも通り。
お天気キャスターが可愛く喋っている。

チャリに乗り、高校へ向かう。

すれ違う女子校正も、サラリーマンも、幼稚園児も、花に水をやっているおばあちゃんも、
みんないつも通りだ。

長い上り坂を登って、ようやく学校についた。

靴箱に靴を入れていると、後ろからヒカルも登校してきた。
昨日の夜、電話ですこし気まずくなったから、顔をあわせづらい。

気付かないふりをして、さっさと教室に向かった。
ヒカルと俺はクラスが違う。


席に座ると、

普段、話かけてこない女子が、テレビに出てたね!スゴイスゴイ! と、
笑顔で話しかけてきた。
「お餅の歌、かわいいね!」 なんて言われるかな? と内心期待したが、

曲については何も言われなくて、
ただ、ただ、テレビに出たことだけを、
無条件で褒められる。

なんか、むかついた。


授業が始まると、最初に教師が、アップルスネークのことに触れた。

慌てないように、パニックにならないように、と言っている。

先生、大丈夫です。どう見ても、このクラスにパニックの兆候はないです。
俺達高校生は、へたな大人よりも情報はネットでしっかりチェックし、
行動をシュミレートしていますから。

不老になったからって、トイレットペーパーを買占めに行く、情弱バカは少ない。

授業はたんたんと続いた。


おそらく、昨日発表された出来事は、歴史の教科書に載るレベルの重大事件。なのに、
不気味なほど、いままでと何も変わらない日常だった。

爆弾だ、殺人だっていう、わかりやすい凶悪事件じゃないから、
みんな、どう反応したらいいか、わからないってこともあるんだろう。

放課後になった。

一日はあっという間だ。
貴重な一日があっという間に過ぎた。


この、あっという間という感じかたも、不老になったんだから、変わるのかな?


百個の中の角砂糖一個の価値と、
一兆個ある内の一個だったら、
同じ一個の角砂糖だけど、価値が変わるもんな。

だから、この一日の価値も・・・

考えるだけで、身震いがする。


ガチャ シャコン

「あの、昨日はごめん。」
チャリ置き場で、ヒカルが俺に話しかけてきた。

「ん? あ、いーよ、こっちこそごめんな。 なんか、俺のこと考えてくれたのに」

「ううん、守の気持ちを考えないで、僕も勝手なこと言い過ぎたよ。」

一緒に坂道を下って帰る。
途中、堀之内公園に入って、愛媛県美術館の前のベンチに座った。


俺の家が衣山方面で、ヒカルの家が道後方面だから、ここがちょうど分岐点。
軽い曲の打ち合わせは、いつもここでしてから、別れて帰る。
楽器を使う練習は、週末に、メンバーの家に集まってやる。


今日は、やけにヒカルがニヤニヤしていた。

「ヒカル、なにかいいことでもあった?」

「うん? だって、昨日、すごくいいことがあったからさ。」

「昨日?」

「そうだよ。ニュースを見てて、もー嬉しくて嬉しくて、たまらなかったよ!」

「え、なんかあったっけ?」

「アップルスネークだよ! 僕らは不老になれたんだ。
 だから、守達と、好きな音楽がずっとずっとずーーーーーーーっと
 やれるんだよ!」


俺はその言葉に、ハッとした。


「守は気付いていないかもしれないけど、
 守の持ってる音楽の才能は、愛媛とか狭い場所に眠らせておくべきじゃないよ!
 もっといい楽曲作って、日本中に、世界中に広めるべきなんだよ。

 守の作る音楽は、前に進み過ぎているから、普通のセンスの人はまだ理解できない。

 このまま10年たっても、世間が理解できない可能性もある。
 だけど、二百年やってたら、二千年やってたら、きっと守の才能に世間も気付くよ!」

「二千年・・・・・・」

「最高だよね! 二千年だろうと二千億年だろうと、
 ずっと音楽がやれるなんてさ!」



この瞬間はっきりと気付いた。 



「ヒカル、俺、わかった。」

「何が?」

「俺は、音楽が好きじゃないのかもしれない。」

「え?」

「ヒカルは、音楽がずっとやれるって嬉しがってるけど、あのニュース見て、
 正直言うと、俺はしんどいなって心の中で思ってた。

 ちょっとした才能より、楽しんで続けられる才能の方が、たぶんあれよ、きっと強い。」

「いや・・・でも、才能が無い僕みたいなのが努力するより、
 守が努力したら、もっとすごい音楽を作れるから・・・」

「無理だ。続けられない。
 ウサギとカメの話、あるじゃん。 俺は、たぶんウサギタイプ。
 そして、すぐやる気がなくなる。

 でも、ヒカルは、カメみたいにさ頑張れるんだよ。
 コツコツ、何万年とかけて成長できて、最後にはウサギに勝つ。」


ヒカルは急に黙り込んだ。

俺も、黙った。
喜んでいるヒカルを昨日に続き、今日も落ち込ませてしまった。
でも、ごめん。心の中は少しスッキリしていた。


ヒカルの言うように、
俺には音楽を『作る才能』が、少しあるのかもしれない。

だけど、音楽を『作ることを楽しむ才能』は、
あまりないみたいだ。

ノイジ・スピカの曲を聞いて、いつか一緒のステージに立ちたいとは今でも思っている。
だけど、そんなのは、ちょっとした嵐で吹き飛ぶ、ペラペラの憧れでしかなかったんだ。


「ごめん、なんて言っていいかわからないよ・・・ また、あした・・・」

ヒカルが自転車を押しながら帰っていく。
しばらくすると、自転車は乗るものだと思いだして、乗って帰って行った。


俺はひとり、薄暗くなった公園のベンチに座ったまま、ライトアップされた松山城を見ていた。


「あんな山の上に、お城作るなんて、昔の人はすげーな・・・」


何があんな立派な城を作らせたんだろう。

大名への忠誠心?

神様への信仰心?

城が無いと戦いに負ける、その恐怖心?

他の地域に負けたくない地元愛?

他の大名が作ってるから真似しただけ?

うーん・・・


本気になったら、俺でも城は作れるか?

城の作り方を徹底的に学べば、百年もありゃ城造りの知識だけは覚えられるだろう。

大きな石を割り、巨大な石垣を作ることだって、千年やればできるんじゃない?
もし千年で無理なら、1億年かければ作れるだろう。

だけど、俺はやらない。
不老になったんだから、やろうと思えばやれる。 だけどやらない。

すごい城だな、作れるとすごいよなー程度じゃ、
本当にやりたいことじゃないから、体が動かないんだ。



「お城、好きなんですか?」


横から声が聞こえた。 見ると、同い年くらいの・・・かわいい女子が立っていた。

「何分もお城ばっかり見てたから、お城が好きなのかなって思って、つい声かけちゃいました。」


「いや、べつにそんなに好きじゃない。
 
 作ろうとは思わないし・・・」


「え? お城を作る気だったの? あははは、おもしろい。」

暗闇に対照的な、まっ白い肌の女の子は、笑顔で俺を見ていた。

「名前なんていうんですか?」

「まもる・・・ 斉田守。」

「サイダマモル? うーん? 守るって感じしないなー。」


「そう?」

「守るっていうより、なんか・・・壊すって感じのオーラが漂ってる。」

「壊すか。ははっ いいね!

 そうなんだ。 実は、俺、この退屈な世界を、ぶっ壊そうと思ってる・・・」


ゴソゴソ


俺はポケットからボールペンを取り出して、彼女の方に向けた。

「このボタンを押せば、世界は一瞬で消滅する!」

「ほんと?」

俺がうなずくと同時に、彼女は飛びかかっていた。


カチッ


両手でつつみ、俺の指ごと、スイッチを押した。
もちろん、芯が出るだけで、世界が消滅するはずもない。


「サイダーは嘘つきだな」


その瞬間、俺の心の奥で、なにか大切なスイッチが押された。


カチッ




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