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本文

線維筋痛症の診断と20134月時点での治療方法

線維筋痛症の治療は変形性関節症にも有効

 

まとめ

 線維筋痛症の不完全型に対しても線維筋痛症と同じ治療を行うため、線維筋痛症の診断基準は学会発表や論文作成の際には有用であるが、臨床の観点ではほとんど無用である。著者は論文上の有効性と副作用、自分の経験した有効性と副作用、薬価、適用病名、自動車運転の可否を総合的に判断して、投薬の順位を決めている。ノイロトロピン®、アミトリプチリン(トリプタノール®)、デキストロメトルファン(メジコン®)、ノルトリプチリン(ノリトレン®)、メコバラミン(メチコバール®)と葉酸(フォリアミン®)の併用、イコサペント酸エチル(エパデール®)、ラフチジン(プロテカジン®)、ミルナシプラン(トレドミン®)、ガバペンチン(ガバペン®)、デュロキセチン(サインバルタ®)、プレガバリン(リリカ®)の順である。

 

福山リハビリテーション病院リハビリテーション科

戸田克広

 

Key word:線維筋痛症(fibromyalgia)、中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome)、診断(diagnosis)、治療(treatment


はじめに

 世界では医学的に説明の付かない痛みは慢性痛やリウマチの領域では線維筋痛症(FM)又はその不全型と診断され、精神科の領域では身体表現性障害と診断されている[1]。医学では治療成績がよい治療を行うべきという不文律がある。治療成績の比較は行われていないが、科学的根拠に基づいた有効な治療方法の数を考えるとFMあるいはその不全型と診断した方が治療成績がほぼ間違いなくよくなると推測している[1]。それが答えである。

 診断と治療の詳細はガイドライン[2]や拙書[3]を参照していただきたい。医師の方は拙書[3]の薬物治療総論をご一読いただきたい。本書に書ききれなかった薬物治療の実際が記載されているため線維筋痛症のみならず神経障害性疼痛の治療に有用である。大変残念ながら絶版となった。中古の本は高額であるため、電子書籍の購入をお勧めする。「線維筋痛症がわかる本」とGoogleに入れて、アマゾンか主婦の友社のサイトに入れば電子書籍を購入することができる。

 2013年4月以降に発売された薬や適用症が拡大された薬の情報や2013年4月以降に発表された論文を取り入れたため一部に矛盾があるが、ご容赦いただきたい。

 

痛みの分類と治療方法

 痛みは持続期間の観点で急性痛と慢性痛に分類される。一般的には痛みの持続期間が3か月未満の場合が急性痛であり、持続期間が3か月以上の場合が慢性痛である。持続期間の観点で分類しているため鑑別は容易である。

 痛みは原因の観点から侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、およびその合併の3種類に分類される。日本では痛みの原因を説明するに足る異常が見つからない場合に心因性疼痛としばしば分類されるが、患者を精神的に痛めつけるだけであり、中枢性神経障害性疼痛に分類した方が治療成績が向上する。

 前述のように痛みが3か月も持続すれば脳に機能障害が生じ中枢性過敏(central sensitization: CS)の状態になる。つまり中枢性神経障害性疼痛である。そのため、侵害受容性疼痛単独の慢性痛は存在しないと推測している。つまり、慢性痛は神経障害性疼痛単独か、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の合併である。すなわち、慢性痛では全例神経障害性疼痛の治療が有効なのである。3か月以上の痛みと述べたが、恐らくそれより早期にCSがおこると推測している。一方、急性痛では侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、およびその合併の3種類の痛みが存在する。つまり神経障害性疼痛の治療が無効な痛みとは急性痛の中で侵害受容性疼痛単独の痛みのみである。

 現在、痛みの性状などにより痛みの中から神経障害性疼痛を見つける努力が行われている。実は、逆である。痛みの中で侵害受容性疼痛単独の痛みを見つければよいのである。急性痛の中で侵害受容性疼痛単独の痛み以外は神経障害性疼痛の治療が有効である。侵害受容性疼痛は痛みの原因(転倒など)および理学検査(局所発熱、発赤、腫脹など)、血液検査、画像検査などにより診断可能な場合が多い。それでも不明な場合にはアセトアミノフェン(カロナール®)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を長くても12か月使用して、無効であれば神経障害性疼痛の治療を開始すればよい。NSAIDの中で最強のNSAIDであるジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)座薬を長くても1週間使用して無効であれば、それ以上NSAIDを使用する意義はない。このように考えると痛みのほとんどは神経障害性疼痛あるいは神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛の合併であることがわかり、それらには神経障害性疼痛の治療が有効なのである。前述のように3か月以内でも中枢性神経障害性疼痛が生じると推測されるため、侵害受容性疼痛単独の痛みはさらに少なくなる。神経障害性疼痛の治療中に侵害受容性疼痛が合併していると判断すれば、アセトアミノフェンやNSAIDを併用すればよいのである。もちろん、神経障害性疼痛の治療とは後述するようにFMの治療である。

 


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最終更新日 : 2014-09-29 23:05:50

1990年基準

表1アメリカリウマチ学会の1990年の線維筋痛症の分類基準

 

1.広範な痛みの既往

定義:以下のすべての部位に存在する場合に痛みが広範であると見なされる。左半身の痛み・右半身の痛み・腰より上の痛み・腰より下の痛みに加えて体幹部の痛み(頸椎・前胸部・胸椎・または腰部)がなければならない。この定義では肩と臀部の痛みは各々各部の痛みと見なされる。腰痛は腰より下の痛みと考える。

2.指による触診で18か所の圧痛点のうち11か所に痛みがある。

定義:指による触診で以下に述べる18か所の圧痛点のうち少なくとも11か所に痛みがある

後頭部:両側、後頭下筋群の付着部

下頸部:両側、C5−C7における椎間孔の前部

僧帽筋:両側、上縁の中間点

棘上筋:両側、内側縁近傍の肩甲棘の上の起始部

第二肋骨:両側、第二肋骨軟骨移行部、移行部上面のすぐ外側

外側上顆:両側、外側上顆から2cm末梢

臀部:両側、片側臀部を四分割した上外側

大転子:両側、大転子の後部

膝:両側、関節線中枢の内側脂肪体

 

触診は約4kgで行われるべきである。

For a tender point to be considered “positive” the subject must state that the palpation was painful.  “Tender” is not to be considered “painful.”(医師が何も尋ねないにもかかわらず触診により患者が痛いと述べた場合を圧痛とみなし、医師が痛いですかと尋ねて初めて痛いと述べた場合は圧痛とみなさない。)

 

分類目的では両方の基準を満たした場合には線維筋痛症と見なされる。広範な痛みは少なくとも3か月存在していなければならない。別疾患の存在は線維筋痛症の診断を除外することにはならない。

 

 

 顔面や頭部は上半身、左右の半身には含まれないが、頸部は上半身、左右の半身に含まれる。著者の以下の論文に著者の疑問に対するWolfe医師の回答をWolfe医師の許可を得てその由を記載している。それはこの分類基準の施行細則に該当する。

Toda K: The prevalence of fibromyalgia in Japanese workers. Scand J Rheumatol. 36: 140-144, 2007.


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最終更新日 : 2013-09-03 12:35:05

2010年基準

2 線維筋痛症の予備的診断基準(2010年)

 

患者は以下の3つの条件を満たす必要がある。

  1) Widespread pain index (WPI)7以上でsymptom severity(SS)点数

    5以上、又はWPI36SS点数が9以上。

  2) 症状が少なくとも3か月同程度である。

  3) 痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない。

確認

1) WPI:患者が過去1週間以上疼痛を感じた部位の数。点数は119

 の間である

左肩甲帯、右肩甲帯、左上腕、右上腕、左前腕、右前腕、左股(臀部、大転子)、右股(臀部、大転子)、左大腿、右大腿、左下腿、右下腿、左顎、右顎、胸部、腹部、上背部、腰部、頚部

2) SS点数

疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状

各症状が過去1週間どの程度であったかを以下の指標で示す。

  0=問題なし。

  1=わずか又は軽度の問題がある、通常は軽度か間欠的。

  2=中等度、かなり問題がある、しばしば存在するか中等度のレベル。

  3=重度、蔓延する、持続的、生活を脅かす問題

患者が身体症状をいくつ持っているか。

  0=症状がない。

  1=ほとんど症状がない。

  2=中等度の数の症状。

  3=かなりの数の症状

SS点数は三つの症状(疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状)と身体症状の程度の合計である。最終的な点数は012の間である。

 

身体症状:筋肉痛、過敏性腸症候群、疲労、思考の問題や記憶の問題、筋力低下、頭痛、腹痛や腹部の痙れん、しびれやヒリヒリ感、めまい、不眠症、抑うつ、便秘、上腹部痛、吐き気、緊張感、胸部痛、かすみ目、発熱、下痢、口の渇き、痒み、喘鳴、レイノー現象、蕁麻疹やみみず腫れ、耳鳴り、嘔吐、胸焼け、口腔潰瘍、味覚の消失や変化、けいれん発作、ドライアイ、息切れ、食欲不振、皮疹、日光過敏症、難聴、あざができやすい、脱毛、頻尿、排尿痛、膀胱の痙縮
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最終更新日 : 2013-08-19 21:07:30

2011年基準

3 線維筋痛症の予備的診断基準の改訂(2011年)

 

以下の3つの条件を満たすと、患者はアメリカリウマチ学会の2010年の線維筋痛症の診断基準の改訂版を満たす。1) Widespread pain index (WPI)7以上でsymptom severity(SS)点数が5以上、又はWPI36SS点数が9以上。2) 症状が少なくとも3か月同程度である。3) 痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない。

確認

1) WPI:患者が過去1週間以上疼痛を感じた部位の数。点数は119

 の間である

左肩甲帯、右肩甲帯、左上腕、右上腕、左前腕、右前腕、左股(臀部、大転子)、右股(臀部、大転子)、左大腿、右大腿、左下腿、右下腿、左顎、右顎、胸部、腹部、上背部、腰部、頚部

2) SS点数:疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状

各症状が過去1週間どの程度であったかを以下の指標で示す。:0=問題なし。1=わずか又は軽度の問題がある、通常は軽度か間欠的。2=中等度、かなり問題がある、しばしば存在するか中等度のレベル。3=重度、蔓延する、持続的、生活を脅かす問題

 

SS点数は三つの症状(疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状)と過去6か月の間に以下の症状が生じた数の合計である:頭痛、下腹部の痛み又はけいれん、抑うつ(0-3)。最終的な点数は012の間である。

 


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最終更新日 : 2013-08-19 21:14:17

本文2

線維筋痛症の診断

 1990年の分類基準[4](表1、図1)が実質的にほぼ唯一の診断基準であったが、2010年に臨床用予備的診断基準[5](表2)、2011年に研究用予備的診断基準[6](表3)が報告された。1990年の基準は廃止ではなく使用可能である。2010年の基準を用いると、多数の症状の有無を口頭で患者に確認するための時間がかかりすぎることや症状を説明しうる他の疾患をすべて否定する必要があるため、著者は1990年の基準を用いている。それを用いれば、診断に時間がかからずその基準を満たせば他にいかなる疾患を合併していても自動的にFMと診断可能である[4]2011年の基準は簡便であり診断に時間がかからず、医師の診察が不要であるため疫学調査には有用である。ただし、症状を説明しうる他の疾患を否定する必要があるが、患者へのアンケートという少ない情報に基づいた基準であり、医師の診察なしでどのようにして症状を説明しうる他の疾患を否定するのかという矛盾に満ちた診断基準である点には留意すべきである。また、線維筋痛症診療ガイドライン2013には2011年の基準においては痛みの部位と症状の点数の合計が13以上の場合にFMと診断する由が記載されているが[2]2011年の基準は①痛みの部位が7以上かつ症状の点数が5以上あるいは②痛みの部位が3-6かつ症状の点数が9以上、のどちらかを満たす必要がある[6]。「痛みの部位と症状の点数の合計が13以上」は診断基準ではないことをその基準が掲載されている論文の筆頭著者であるWolfe医師自身が明言している[7]

 1990年の分類基準[4]において圧痛点を約4 kgで押さえることに関して、「いい加減な診察方法である。」という意見がある。この意見は妥当でない。圧痛は医学界では自覚症状ではなく、他覚所見であると広く認められている。例えば腹部の圧痛は重要な他覚所見である。腹部の圧痛を調べる際の力は明確には定義されていない。1990年の分類基準の一つである圧痛点は約4 kgで押さえることになっている。押さえる力が定義されている点では腹部の圧痛よりは正確である。FMにおける圧痛点の圧痛を他覚所見と認めずいい加減と判断するのであれば腹部の圧痛はそれ以上にいい加減な所見になる。余談になるが圧痛点を「約4 kgの力」で押さえるのである。「約4 kg/cm2の圧力」で押さえるのではない。1990年の分類基準が記載された原文[4]を確認していただきたい。「約4 kg/cm2の力」で押さえることは不可能である。「kg/cm2」は力の単位ではなく圧力の単位であるからである。

 通常は腰痛、肩こりから不全型FMを経由して10年以上かけてFMが発症すること[3]や不全型FMFMの治療を行えばFM以上の治療成績を得ることができること[8]を考慮すると、診断基準は学会発表や論文作成の際には価値があるが、臨床的にはほぼ無価値である。

 FMの診断において注意すべき点は合併する疾患の診断である。FMやその不全型患者の訴える痛みの中には侵害受容性疼痛やFMとは関係のない神経障害性疼痛が原因のこともある。全てを見つけることは不可能であるが、常に注意する必要がある。侵害受容性疼痛を誤ってFMの不全型と診断した経験もある。

 

線維筋痛症の治療が有効な疾患

 FMの治療は肩こりや腰痛症にも有効である[3]。さらに言えば、医学的に説明の付かない痛みやほとんどの神経障害性疼痛にも有効である[3]FMは中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome: CSS)の代表疾患であり[9]CSSに含まれる疾患の中で痛みを引き起こす疾患(口腔顔面痛、緊張型頭痛、外陰部痛、機能性胃腸症、更年期障害、月経困難症など)にも有効である[9]。つまり、侵害受容性疼痛ではない痛みの大部分に有効なのである。侵害受容性疼痛か神経障害性疼痛か鑑別困難な場合にはアセトアミノフェン(カロナール®)やNSAIDを長くても12か月使用し、無効であれば神経障害性疼痛と見なしてFMの治療を行えばよい。FMの治療に精通すれば、痛みの治療成績が著しく向上する。

 

変形性関節症に線維筋痛症の治療が有効

 変形性関節症は侵害受容性疼痛と思われがちであるが、実はそうではない。変形性関節症の多くは3か月以上痛みが続く慢性痛である。原因が何であれ痛み刺激が3か月も持続すると脳に機能障害が生じる。CSの理論である[10]CSによって生じた疾患群がCSSである。別の言い方をすれば中枢性神経障害性疼痛である。つまり、変形性関節症のほとんどは侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の合併である。侵害受容性疼痛にはNSAIDやアセトアミノフェンが有効であり、神経障害性疼痛の治療にはFMの治療が有効である。FMの治療に精通することにより変形性関節症の治療成績が向上する。

 二重盲験法により60-120 mg/日のデュロキセチン(サインバルタ®)は変形性関節症に有効であることが示されている[11-12]NSAID治療を受けても持続的な中等度の痛みがある変形性関節症患者において二重盲験法によりデュロキセチンの有効性が示された[13]。デュロキセチンはFDAにより変形性関節症や慢性腰痛症などの慢性筋骨格痛に使用することが認可されている[14]。変形性関節症に対してプレガバリン(リリカ®)のみ、NSAIDのみ、プレガバリンとNSAIDを併用するとプレガバリンとNSAIDの併用が最も鎮痛効果が強かったという盲験法ではない無作為振り分け前向き研究がある[15]。二重盲験法によりノイロトロピンは変形性関節症に有効であることが示されている[16]。著者は変形性関節症に対してノルトリプチリン(ノリトレン®)やデキストロメトルファン(メジコン®)に鎮痛効果があることを経験している。恐らく後述するFMに優先使用する薬(スタメン)はすべて変形性関節症に有効であろうと推測している。

 ただし、変形性関節症の痛みを軽減すると結果的に膝関節への負担を増加させることになり、関節の破壊を促進してしまう点には注意が必要である。

 

線維筋痛症の治療総論

 痛みにはNSAID、痛みにはステロイド、痛みには神経ブロック、痛みには選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)やベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)という自分の属している診療科の癖を捨てないと適切な治療はできない[2]

 FMにおける薬物治療や非薬物治療は対症療法であると同時に根治療法でもある。

 

線維筋痛症の非薬物治療

 FMを薬物のみで治療してはならない[3]。非薬物治療も重要である。その中心は、禁煙、有酸素運動、教育である。認知行動療法は論文上は有効なのであるが、具体的に何をすればよいのかよくわからないこと、それを適切に行うことのできる人がほとんどいないことが欠点である[3]

 有酸素運動を行う際には運動量を漸増することが重要である[3]。痛みが悪化するほどの運動は有害である。痛みが強く通常の運動ができない場合にはアスパルテームを含まないガムを噛んだり、深呼吸を行えばよい。

 患者教育は認知行動療法に代わる治療である。医学的に説明の付かない痛みは身体表現性障害や心因性疼痛ではなくFMやその不全型であること、FMの原因は不明であるが脳の何らかの異常が原因であることが世界の定説になっていること、FMCSSの代表疾患であること、CSSがどのような症候群であるのかなどをまずは説明することが重要である。その後、痛みが出る行動は有害であるため痛みが出るほど頑張りすぎないことなどを説明する。

 禁煙がFMに有効という報告はないが、喫煙者はFMになりやすいという報告[17]FM患者の中で喫煙者は非喫煙者より症状が強いという報告[18][19]、および著者の経験から、禁煙は有効な治療と推測している[2-3]。間接受動喫煙も有害であるため、配偶者やそれに準ずる者は禁煙、同居する家族は屋外喫煙が必要である。

 日本人のFM患者では肥満者は少ない。BMI30を超える場合には一般的な健康法としても減量することが望ましい。しかし、FMに有効な薬物にはしばしば肥満の副作用がある。最低でも1か月に1回体重測定をして、少なくとも太らないことが重要である。

 人工甘味料のアスパルテーム摂取によりFMが発症した症例が報告された[20]。アスパルテームには空腹感を増す副作用があるという報告があり[21]、そもそも減量できたデータがない。発癌性があるかもしれないという疑惑がどの程度正しいのかどうかは不明であるが、減量できたデータがない上に前述の報告があるため、摂取しない方が無難である。

 二重盲検法によりグルタミン酸ナトリウム(味の素)はFMの痛みを悪化させると報告されているので、摂取しない方が望ましい[22]

 少なくともトリガーポイントが長期的に有効という報告はない。星状神経節ブロックを含む交感神経ブロックが有効という報告もない。

 鍼はFMの治療としては勧められないという系統的総説がある[23]。死亡例も報告されている[24]。鎮痛効果の点で偽鍼と差がないという報告[25]や鎮痛効果を裏付ける有力な証拠が乏しいという報告[24]が多い。偽鍼が実は真の意味でプラセボではないという意見は正しい可能性はあるが、鍼に厳しい結果を示した系統的総説やメタ解析にはその意見は記載されていないことも事実である。その意見が正しければ、鍼は現時点では対照群のない研究で有効ということになり、プラセボ効果を否定できない。鍼が有効な場合、長期間実施する必要があり、費用が高い問題もある。他の治療を変更せず、12か月間鍼治療を追加し、鎮痛効果がなければ中止すべきである。それで鎮痛効果があれば、プラセボ効果かもしれないことを承知の上で高額の費用負担ができる人は継続すればよいと考えている。

 一般論として体を冷やすと痛みが悪化し、体を暖めると痛みが軽減する。

 

線維筋痛症の薬物治療総論

 FMを各カテゴリーに細分化して各カテゴリーごとに優先使用する薬を変えるという治療方法には現時点では科学的根拠がなく[2]、世界標準の治療ではない。FMそのものに有効な治療とFMに合併した疾患に有効な治療を区別しないと混乱が起きる。筋付着部炎型FMにステロイドが有効という理論[2]は癌型FMに抗癌剤が有効あるいは糖尿型FMのインシュリンが有効という理論と同程度に不適切である。著者が知る限りFMにステロイドが有効というガイドラインは日本以外には出されていない。筋付着部炎を引き起こす強直性脊椎炎などが合併している場合には、強直性脊椎炎などにステロイドが有効なのであって、筋付着部炎型FMにステロイドが有効なのではない。うつ型FMに抗うつ薬が推奨されているが、そうでないFMには抗うつ薬が推奨されていない図もある[2]。抗うつ薬の鎮痛効果は抗うつ効果による間接的な鎮痛効果ではなく、直接の鎮痛効果であり、初心者は誤解しやすいため注意が必要である。線維筋痛症診療ガイドライン2013を全て読み込めばこれらの誤解は起こらないが、誤解を引き起こしやすい記載であるため注意が必要である。

 FMを症状によって分類しようという試みは行われている。しかし、最大の問題点は報告者により分類の方法が異なっている点である[26-28] [29]。現時点ではFMの細分化に関しては一定の見解はないと言わざるを得ない。FMを各カテゴリーに細分化して各カテゴリーごとに優先使用する薬を変えるという治療方法を具体的な薬物を明示してガイドラインはスペインのガイドライン[29]のみである。アメリカ[30]、カナダ[31]、ヨーロッパ[32]、ドイツ[33]、スペイン[29]がガイドラインを報告しているが、日本のガイドライン[2]はそれらとは隔絶している。アメリカ、ヨーロッパ、ドイツのガイドラインの比較[34]も報告されている。スペインのガイドラインはFMを各カテゴリーに細分化して各カテゴリーごとに治療方法を変えようとしているが[29]、FMの各カテゴリーごとに優先使用する薬を変えると治療成績が改善するというデータは明示されていない。カテゴリー分類は日本とは全く異なり、各カテゴリーに推奨される薬も日本とは当然異なる。また、スペインのガイドラインは執筆者間で話し合いがなされており[29]、実質的には分担執筆制である日本のガイドラインとは異なる。線維筋痛症診療ガイドライン2013にはFMを各カテゴリーに細分化して各カテゴリーごとに優先使用する薬を変える根拠が記載されていない[2]。線維筋痛症診療ガイドライン2013に対するamazonのカスタマーレビューには「この通り治療を受けてもよくならないことが多いので、あまり過剰に期待しないで読む「読み物」にすぎないものだと割り切って購入する分には良いと思う。つまらないから発売同時くらいに中古で売りに出ているという反応であることからもよくわかる。」という厳しい評価がなされている。もし、次回のガイドラインでも執筆者の一人に選ばれるようであれば、執筆者間で徹底的に議論を行い、このような評価がなされないガイドラインを執筆したい。なお、その書評を著者は書いていない。著者が酷評する場合には必ず実名で行う。

 

 国際疼痛学会が神経障害性疼痛の薬物治療において勧めているように[35]、当初は一つの薬のみを上限量まで漸増することが基本であるが[3]、ほとんどの医師はこれを守っていないため、同じ薬を使っても治療成績が悪くなる。図2の如く、以下のいずれかに該当させる必要がある。①満足できる鎮痛効果が得られる。②鎮痛効果はなく副作用を我慢できない。③上限量を使用しても鎮痛効果がない。④上限量を使用すると不十分な鎮痛効果が得られる。⑤不十分な鎮痛効果はあるが、副作用のため増量不能。①の場合にはそのまま経過観察をする。②と③の場合には、漸減して中止後、次の薬を同様の方法で追加する。④と⑤の場合には、鎮痛効果と副作用を患者自身が天秤に掛けて最適量を決定し、次の薬を同様の方法で追加する。図2に従い各薬が有効か、無効かを必ず判定し、有効な場合には最適量を決定する。上限量を使用しても効果が不明瞭な場合には、必ず中止して痛みの変化を観察する。最適量の決定は慎重に行うべきであり、不明瞭な場合には漸減、漸増を繰り返すこともある。痛みは軽減したが眠気などの副作用が強く社会生活が破壊される場合には薬を減量する必要がある。上限量を試さず無効と判断し中止したり、鎮痛効果があるかどうか不明のまま長期間投薬してはならない。多くの薬は漸増、漸減する必要がある。初回投与量が最高使用量であるメコバラミンと葉酸の併用、ラフチジン、漢方薬などでは4週間、ノイロトロピン®では4-8週間使用し無効であれば中止している。

 可能な範囲で鎮痛作用の機序あるいは薬の種類が異なる組み合わせが望ましい。薬を何種類まで併用可能かという問題の正解は誰もわからない。著者は睡眠薬を除いて原則的に6種類まで併用している。

 FMの薬物治療を行う際には、適用外処方は不可避である。

 添付文書上BZD、抗痙攣薬、抗精神病薬、睡眠薬、ほとんどの抗うつ薬を内服中は自動車の運転が禁止されている[36]。たとえ超短時間型睡眠薬でも、それを飲むと日中に運転することは禁止である[36]。これが遵守されると多くの患者の生活と日本経済は破綻するが、患者さんに説明する必要がある[2, 36]。自動車運転の問題は大問題であるが、実名でこの問題を取り上げている医師は著者が知る限り著者のみである。この問題は最終的には国会で議論すべき問題である。著者の意見に賛同される医師は論文などでこの問題を提起していただきたい。

 抗うつ薬の鎮痛効果は抗うつ効果とは独立している[2]SSRIの鎮痛効果は三環系抗うつ薬(TCA)やセロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害薬(SNRI)より鎮痛効果が弱い[3][2]SSRITCAより副作用が少ないという理論にはほとんど根拠がなく、著者が知る限りではパロキセチン(パキシル®20 mg/日はアミトリプチリン(トリプタノール®100 mg/日より副作用が少なかったという盲検法の記載のない研究があるのみである[37]。二重盲検法を用いた研究では20-40 mg/日のパロキセチン(パキシル®)と50-150 mg/日のアミトリプチリン(トリプタノール®)の副作用の頻度に差はないと報告されている[38]。盲検法の記載のない研究より二重盲検法を用いた研究の結果が優先されるべきである。骨粗鬆症[39-40]、性機能障害[41]、脳卒中[42]、出血[43-45]の副作用を考慮するとSSRIの方が副作用が多い可能性すらある[2]。そのため、鎮痛目的でSSRITCASNRIより優先使用してはならない[46]。ただし、抗不安効果や抗うつ効果を目的とした場合にはSSRITCASNRIより優先使用しても構わない。

 一般論として、抗うつ薬(乳癌、卵巣癌)[47]、アセトアミノフェン(カロナール®)(血液腫瘍)[48]NSAID(腎細胞癌)[49]、睡眠薬(癌全般)[50]、葉酸(前立腺癌)[51]、長鎖ω-3多価不飽和脂肪酸(エパデール®など)(前立腺癌)[52]を長期使用すると悪性腫瘍の発生率が高まる。トラマドールは自殺の危険性を高めることがFDAから警告されている[53]。睡眠薬の常用により死亡率が増加する[50][54][55]。異論はあるが[56][57]FDAは抗痙攣薬により自殺行動や自殺念慮が2倍になると警告している[58-59]。つまり、FMの治療を行うと薬の副作用によりわずかに死亡する危険性が増える。しかし、テレビのコマーシャルで有名な風邪薬の副作用により毎年死者が出ていることを考えるとやむを得ないと著者は考えている。

 世界標準の医学では主に論文上の有効性の順番に処方することが勧められているが、それは実用的ではないと考えている。著者は論文上の有効性と副作用、自分の経験した有効性と副作用、薬価、適用病名、自動車運転の可否を総合的に判断して、投薬の順位を決めている。この方法は、著者の個人的な方法なのであるが、線維筋痛症診療ガイドライン2013でも承認されている方法である[2]。実は、そのガイドラインは実質的には分担執筆制であるが、その後に書き換えが行われたために著者の個人的な方法がそのガイドラインで推薦される治療方法になるという珍事がおこった。副作用が少ない薬を優先使用する場合もある。痛みが強烈な場合には有効性の証拠が強い薬を優先使用している。この順番には明確な科学的根拠はないが、参考にしていただきたい。後述するようにスタメンと個人的に呼んでいる優先使用する薬を優先順位に従って順番に使用すれば、医師免許さえあれば専門的な知識はなくても誰でもほぼ同じ治療成績を得ることができる。ただし、副作用で増量不能になったり十分な鎮痛効果が得られない限り、必ず上限量まで増量する根性は必要である。日本ではFMを含む原因不明の痛みに対して少量のプレガバリン(リリカ®)が第一選択として使用されることが多い。上限量を使用しない問題点は既述した。プレガバリンは鎮痛効果の強い優れた薬であるが、高い薬価、強い眠気、肥満の副作用のために、早急に鎮痛が必要な場合を除いて第一選択薬としては望ましくない。

 同系統の薬は原則的に併用していない。優先使用している薬(スタメン)の中ではアミトリプチリン(トリプタノール®)とノルトリプチリン(ノリトレン®)、ミルナシプラン(トレドミン®)とデュロキセチン(サインバルタ®)、ガバペンチン(ガバペン®)とプレガバリン(リリカ®)がそれに該当する。

 FMに有効な薬といっても8割のFM患者に有効な薬は存在しない。偽薬効果や自然軽快を含めて4割のFM患者に有効であれば効果が高い薬である。他の領域の薬に比べるとFMの個々の治療薬の有効性は低いと言わざるを得ない。俊足の亀は鈍足の兎より足が遅いことはやむを得ない。それを承知して治療を行う必要がある。

 

 

 

薬価は20124月時点。*抄録、後発品

 

運転:自動車運転の可否(プレガバリンでの表記は他の薬よりも厳しい)

病名:適用外処方の程度

Ⅰ:系統的総説、メタ解析、Ⅱa:無作為振り分け二重盲検法、Ⅳ:対照群のない研究、症例:症例報告


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最終更新日 : 2016-04-20 15:41:52


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