閉じる


<<最初から読む

4 / 5ページ

風立ちぬ

7月21日鑑賞
**逆風の中、夢を追い続ける若者達へ**
最初にこの作品を観終わって「ああ、宮崎監督は大変な作品を作ったものだ」と圧倒された。と同時に、
「もしかすると、宮崎監督はこの作品を最後に、筆を置く覚悟かもしれない」と思った。
生半可な映画レビューなど、書く隙さえ与えないような、緻密さと厳しさを持つ作品である。
いま、二回目の「風立ちぬ」を鑑賞して、ようやく個人的な感想を書き留めておこう、と思った。
本作は子供向けには作られていない。また、宮崎監督は、始めて実在の人物を取り上げた。
零戦の設計者として著名な堀越二郎と、文学者の堀辰雄を、まるでエンジンに送り込む、ガソリンと空気の混合比のように、実に巧みに混ぜ合わせているのだ。決して単純に足して二で割っただけの人物像ではない、宮崎監督オリジナルの第三の人物像なのである。
この二人の人物に共通しているのは、彼らが生きた時代である。大正から昭和、そして戦争の時代を生きぬいた人物だ。
ぼくは以前から、大正から昭和の始めにかけて、実はとても良い印象をもっていた。
その時代には「大正デモクラシー」という夢があった。束の間の好景気があり、街には「モダンボーイ・モダンガール」(略してモボモガ)と呼ばれる西洋風なファッションを楽しむ男女がカフェに集い、カルピスが始めて飲まれ、宝塚少女歌劇が人気を博した。
活気あふれる街と庶民の文化が花開いた時代だ、と僕は感じていた。
その空気感は本作のヒロイン菜穂子と、二郎の恋物語の背景としてふさわしい、ロマンチックな雰囲気に溢れている。

しかし、本作でも取り上げているように、大正12年には関東大震災があり、銀行の取り付け騒ぎや、恐慌への恐れもあり、更には軍内部の圧力が徐々に限界点に達しようとしていた。1932年、昭和七年には五・一五事件が勃発、犬養首相が射殺される。
宮崎監督のような希代の創作者は、時代の空気を、誰よりも敏感に感じるセンサーを持ち合わせている。
この作品は宮崎監督から、若者達への「最後の」メッセージであろう、と僕は感じた。
「これからの日本は、決していい時代には向かわない」
若者は、そういう厳しい時代、向かい風の時代に、やむ終えず立ち向かわざるを得ない。そんな若者達へ宮崎監督は、あの無謀な戦争へ突き進んだ時代に生きた、生き抜いた、堀越二郎と堀辰雄という人物像を、あえてぶつけてみようと試みたのだ。
そういうメッセージを若者達に送ろう、という決断に至った宮崎監督の覚悟の強さを僕は思う。
それは時代のセンサーとしての強烈な覚悟であろう。
実はその覚悟を知る一つのヒントが本作のタイトルである。
ご承知の通り、宮崎監督の作品は、いままで「となりのトトロ」「紅の豚」という風に、作品タイトルに「の」がついていた。

それは宮崎アニメ成功の方程式でもあり、シンボルでもあった。本作のタイトルは、その大事な成功の方程式をかなぐり捨てているのである。
宮崎監督はそれほど必死で伝えたいのだと思った。
時代を作るのは大衆である。
実は大衆は愚かである。
僕から言わせれば多数決など糞食らえである。
多数意見は真理だろうか? 正義だろうか?
いいや、絶対にそんな事はないのである。
大衆は実に簡単に間違える。
それは歴史をみれば明らかだ。
そして、今また、大衆は間違えようとしている。
そういう時代に入ったのだ、ということを宮崎監督は感じ取ったに違いない。
因みに、ヒトラーはまったく合法的に政権を取っている。また、当時のドイツ国民の9割はそのヒトラーを熱狂的に支持した。
その決断、多数意見は真理だったか?
圧倒的多数は正義であったか?

答えは歴史のなかにある。
だから歴史に学ぶ意義があるのだ。
本作は日本の戦争について、直接的な表現をあえて避けている。また、紛れもなく強力な殺人兵器であり、武器である戦闘機を作った、堀越二郎という人の責任には触れていない。これは実にデリケートな問題である。宮崎監督が描きたかったのは、その側面ではないのだ。
宮崎監督が創造的にこしらえあげた「堀越二郎」という人物像は、あくまで「夢をカタチにする」表現者として作品に登場するのである。
映画監督は自分の夢を映画という表現方法でカタチにする。
同じように航空機設計者は夢を飛行機に託す。
当時、飛行機を作る事は軍用機を作るという事と同じであったのだ。
堀越二郎が幼い頃から憧れた、イタリアの飛行機設計者カプローニと、夢の中で語り合うシーンがある。
足元にはおびただしい戦闘機の残骸。
どこまでも青い空に上ってゆく、パイロット達の幾多の命。
「一機も帰って来ませんでした」
二郎はつぶやく。
それでも時代の風は吹いている。
若者はその向かい風の中で夢をみる。
若者達は困難な時代のなかで、これからどんな夢をカタチにしてゆくのだろうか。
僕はこの作品を、出来るだけ多くの若い人達に観てほしい、と思う。どんな感想を持ってもいい、今、理解出来なくても構わない。烈しい向かい風の中で、宮崎監督のメッセージに、ふと気がつく時が、必ず来るであろうと思う。

なお、私の信条として、新作映画の総合評価は常に最高点を四点までにして来た。だが、ストーリー、声優のキャスティング、映像、演出、音楽、どの項目を眺めても、ケチの付けようがないのだ。
ゆえに2010年公開、中島哲也監督の「告白」以来、二作目の満点評価となった。

**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆☆
美術 ☆☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆☆
**********
作品データ

監督   宮崎駿
声優   庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊
製作   2013年
上映時間 126分

予告編映像はこちらのアドレスをコピーしてお使い下さい。


http://www.youtube.com/watch?v=7Z1uo_511Xs

奥付



映画に宛てたラブレター2013•8月号


http://p.booklog.jp/book/74013


著者 : 天見谷行人
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/mussesow/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/74013

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/74013



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ



この本の内容は以上です。


読者登録

天見谷行人さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について