閉じる


<<最初から読む

2 / 5ページ

コン・ティキ

2013年7月10日鑑賞
*** ちっぽけなイカダと人間が見た大きな夢  ***
  誰もが、子供の頃、一度は聞いたことがある「コンティキ号」の冒険のお話。いままで、何で映画化しなかったのか? むしろそれが不思議なぐらいだ。もっとも、実際の航海の時に撮ったフィルムがあり、それがドキュメンタリー映画としてアカデミー賞に輝いている。いまさら、脚本を書いて、物語としてリメイクするというのは、それ自体がかなりの冒険だ。
主人公ヘイエルダールはもちろん実在の人物。彼は研究のためポリネシア諸島に奥さんとしばらく滞在した。その時から彼には、ひとつのアイデアが頭から離れなくなった。
この島に住む人たちの身体的な特徴や、崇拝する神の象徴。それらが、南米に住む人達と極めて似ているのだ。彼は自分の想像力にとりつかれてしまう。もし、古代の人達が海を超えて、この島に移住したとしたら?  南米からポリネシアまで、その距離8000kmをだ。
誰もが行けるはずがないと思う。だけど彼の研究者としての執念は凄まじい。
古代の人達と同じイカダを作ってみよう、大海原を渡ってみよう、実験すればいいんだ、と。
彼はスポンサーを探し、乗組員を探す。やがて彼の熱意はコンティキ号というイカダと、乗組員を得ることになる。
イカダはタグボートに引かれて外洋に出る。
そしてうまく貿易風と潮流に乗ることに成功する。この流れに乗りさえすれば、後はポリネシアまで、風と潮の流れがイカダを運んで行ってくれる。実際、この航海は船で航海したというよりも、あくまで、何もせずに漂流することによって、ポリネシアまでたどり着けることを証明したのである。
ただ、この漂流実験が行われたのは1947年である。その後の研究によって、ポリネシアの人達が、必ずしも南米から来たという証明にはなっていない、ということが分っているらしい。いまはハイテクによる研究ができる。人のDNAも調べることができるようになった。そこから、冷徹で、予想もつかない意外な真実が明らかになる事がある。科学というのはそうやって進化してゆく。
この作品はドキュメンタリータッチではなく、観客が観て楽しい、ファンタジーに近い味付けがなされている。
航海の途中、針路に迷ったり、サメに襲われたり、仲間割れしたり、大波に飲み込まれそうになったりと、観客を飽きさせない工夫がなされている。
この作品を観て改めて思うのは、あまりにスケールの大きい大自然だ。その巨大な大自然に挑もうとするイカダと人間達の姿は、滑稽なほどちっぽけだ。
本作に登場する巨大なジンベイザメや凶暴なサメ、天空に轟く稲妻や嵐。それらはすべて自然界が生み出したものだ。それに比べ、小さなイカダの上でさえ、いさかいを起こす人間は、何とちっぽけで頼りない存在なのだろうか。
西洋の人達には、その心情の根底に、自然を征服する事への強い意思を感じる事がある。
だが、古代のペルー人やポリネシア人達の自然観は、きっと近現代の西洋人の自然観とは違うはずである。
そのあたり、主人公ヘイエルダールはどう考えていたのだろうか?
僕は作品を観ながら、改めて自然への畏怖の念を抱いた。それは自然と共存する事を好む、東洋人の自然観なのだろう。自分のカラダに染み込んだ、この感覚。ああ、自分はどうしようもなく東洋人なのだ、と強く感じた。
*************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆
美術 ☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆
**********
作品データ

監督   ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
主演   ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン、
     アンドレス・バースモ・クリスティアンセン
製作   2012年 イギリス,ノルウェー,デンマーク,ドイツ
上映時間 113分

予告編映像はこちらのアドレスをコピーしてお使い下さい。



http://www.youtube.com/watch?v=arVeYKFRk9U


さよなら渓谷

2013年7月7日鑑賞
**  憎しみと復讐から愛が生まれる時 **
この作品を観に行くのは、僕にとって、ちょっと勇気が必要だった。原作は「悪人」の吉田修一氏である。
当然のように、暗くて重いテーマの、シリアスなドラマ、人間内部のドロドロした部分を描くお話である。
自分の精神状態がいいときに観にいかないと、あとあとまで引きずりそうな気がしたのだ。
体調と気合を整えてようやく観に行った。
観終わって、やはり、いい意味で後に引きずる映画である。
「真木よう子」という女優は、ハンパじゃないんだよってことを観客に見せつけた映画でもある。


主人公は集団でレイプされた過去をもつ女性である。その過去が彼女の宿命として重くのしかかる。
事件から何年か経て、結婚しようとするが、相手が嫌がったり、そういう女はやめておけと、相手の親族が妨害する。
ようやく結婚にこぎ着けたら、今度は夫のDVだ。
彼女は自殺未遂を図り、やがて失踪する。
この作品、まずは監督が切り取って見せる絵がいいなぁ。ひとつのカットの長さ、編集、ロケーション、これらがなんとも絶妙なのだ。
いいシーンがいっぱいある。
例えば電話ボックスのシーン。
たぶん、これゲリラ撮影だよね。手持ちカメラで遠景から撮る。電話ボックスの中で、へたり込んでいる真木よう子がセリフをしゃべり始める。相手役の大西信満が駆け寄って、会話になってゆく。カメラは徐々に二人に近づいく。やがて二人を画面いっぱいに撮ってゆく、というワンシーン・ワンカット。
さて、加害者の男、俊介。
彼は彼なりに罪を償おうとした。
彼女に謝罪しようと思った。
「だったら、あたしより、不幸になってよ!!」
真木よう子が叫ぶ。
そしてあてもなく、彼女は電車に乗り、終着駅までゆき、歩いて歩いて、歩き抜く。
田舎の一本道、真木よう子が先を歩き、それを追いかけるようにして、俊介がついてゆく。
「ついてこないでよ!!」と叫ぶ、真木よう子。その背後に映る田園風景と、今にも台風が襲ってくるような真っ黒な空。このシーンは見応えあるねぇ。よく、こんな絵が撮れたねぇ。
俊介はそれでもついて来た。
この時の真木よう子のセリフがいいなぁ。
ふりかえってボソッと
「おなか減った」
二人は食堂で食事をする。俊介は彼女の奴隷になる覚悟をする。
そして後に二人はようやく一つの安住の地を得る。

彼女は偽名を使う。実はレイプされかかったとき、彼女はもう一人の女友達と一緒だった。その女友達は先に逃げ出していた。
彼女はその女の子「かなこ」として生まれ変わる事にした。
誰も自分のことなど知らない地方の街で、ひっそりと影を隠す様に生きてゆく。
やがて彼女は被害者である自分に、被害者であるがゆえの「強み」と「権利」が発生している事に気がつく。
それを利用してやろうとする。そこには明らかに悪意がある。彼女は、加害者である俊介と一緒に暮らし、セックスをする。快感を得るのも、すべてこの男から幸せを吸い取るためだ。俊介もそれでいい、と覚悟を決めている様である。後に彼女は、隣に住む、自分の子供を殺した主婦と、俊介は親密な仲だと、警察に告発する。
俊介は警察に拘束され取り調べを受けるが、やがて釈放される。「かなこ」がいる部屋に戻って来た。彼女は俊介を何事もなかったかのように迎え入れる。
「おなか空いてる?チャーハンならつくれるけど」
「うん、食べたいな」
なんという二人なのだろう。
彼は罪を償いたかった。彼女が死んでくれと言えば死んだだろう。
憎しみと、憎悪と、贖罪を共有するために、生活を始めたふたり。やがてほのかに湧き上がってくる、どうにも厄介な「愛情」というもの。
彼女はそんな自分自身が、許せなくなっていたのではないだろうか?
観客に問いかけを放り投げる様にして、この作品は終わる。見事な、見事なエンディングであると僕は思った。
**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆
**********
作品データ

監督   大森立嗣
主演   真木ようこ、大西信満、大森南朋
製作   2013年
上映時間 117分

予告編映像はこちらのアドレスをコピーしてお使い下さい。


http://www.youtube.com/watch?v=ulRuTVPfB9g

風立ちぬ

7月21日鑑賞
**逆風の中、夢を追い続ける若者達へ**
最初にこの作品を観終わって「ああ、宮崎監督は大変な作品を作ったものだ」と圧倒された。と同時に、
「もしかすると、宮崎監督はこの作品を最後に、筆を置く覚悟かもしれない」と思った。
生半可な映画レビューなど、書く隙さえ与えないような、緻密さと厳しさを持つ作品である。
いま、二回目の「風立ちぬ」を鑑賞して、ようやく個人的な感想を書き留めておこう、と思った。
本作は子供向けには作られていない。また、宮崎監督は、始めて実在の人物を取り上げた。
零戦の設計者として著名な堀越二郎と、文学者の堀辰雄を、まるでエンジンに送り込む、ガソリンと空気の混合比のように、実に巧みに混ぜ合わせているのだ。決して単純に足して二で割っただけの人物像ではない、宮崎監督オリジナルの第三の人物像なのである。
この二人の人物に共通しているのは、彼らが生きた時代である。大正から昭和、そして戦争の時代を生きぬいた人物だ。
ぼくは以前から、大正から昭和の始めにかけて、実はとても良い印象をもっていた。
その時代には「大正デモクラシー」という夢があった。束の間の好景気があり、街には「モダンボーイ・モダンガール」(略してモボモガ)と呼ばれる西洋風なファッションを楽しむ男女がカフェに集い、カルピスが始めて飲まれ、宝塚少女歌劇が人気を博した。
活気あふれる街と庶民の文化が花開いた時代だ、と僕は感じていた。
その空気感は本作のヒロイン菜穂子と、二郎の恋物語の背景としてふさわしい、ロマンチックな雰囲気に溢れている。

しかし、本作でも取り上げているように、大正12年には関東大震災があり、銀行の取り付け騒ぎや、恐慌への恐れもあり、更には軍内部の圧力が徐々に限界点に達しようとしていた。1932年、昭和七年には五・一五事件が勃発、犬養首相が射殺される。
宮崎監督のような希代の創作者は、時代の空気を、誰よりも敏感に感じるセンサーを持ち合わせている。
この作品は宮崎監督から、若者達への「最後の」メッセージであろう、と僕は感じた。
「これからの日本は、決していい時代には向かわない」
若者は、そういう厳しい時代、向かい風の時代に、やむ終えず立ち向かわざるを得ない。そんな若者達へ宮崎監督は、あの無謀な戦争へ突き進んだ時代に生きた、生き抜いた、堀越二郎と堀辰雄という人物像を、あえてぶつけてみようと試みたのだ。
そういうメッセージを若者達に送ろう、という決断に至った宮崎監督の覚悟の強さを僕は思う。
それは時代のセンサーとしての強烈な覚悟であろう。
実はその覚悟を知る一つのヒントが本作のタイトルである。
ご承知の通り、宮崎監督の作品は、いままで「となりのトトロ」「紅の豚」という風に、作品タイトルに「の」がついていた。

それは宮崎アニメ成功の方程式でもあり、シンボルでもあった。本作のタイトルは、その大事な成功の方程式をかなぐり捨てているのである。
宮崎監督はそれほど必死で伝えたいのだと思った。
時代を作るのは大衆である。
実は大衆は愚かである。
僕から言わせれば多数決など糞食らえである。
多数意見は真理だろうか? 正義だろうか?
いいや、絶対にそんな事はないのである。
大衆は実に簡単に間違える。
それは歴史をみれば明らかだ。
そして、今また、大衆は間違えようとしている。
そういう時代に入ったのだ、ということを宮崎監督は感じ取ったに違いない。
因みに、ヒトラーはまったく合法的に政権を取っている。また、当時のドイツ国民の9割はそのヒトラーを熱狂的に支持した。
その決断、多数意見は真理だったか?
圧倒的多数は正義であったか?

答えは歴史のなかにある。
だから歴史に学ぶ意義があるのだ。
本作は日本の戦争について、直接的な表現をあえて避けている。また、紛れもなく強力な殺人兵器であり、武器である戦闘機を作った、堀越二郎という人の責任には触れていない。これは実にデリケートな問題である。宮崎監督が描きたかったのは、その側面ではないのだ。
宮崎監督が創造的にこしらえあげた「堀越二郎」という人物像は、あくまで「夢をカタチにする」表現者として作品に登場するのである。
映画監督は自分の夢を映画という表現方法でカタチにする。
同じように航空機設計者は夢を飛行機に託す。
当時、飛行機を作る事は軍用機を作るという事と同じであったのだ。
堀越二郎が幼い頃から憧れた、イタリアの飛行機設計者カプローニと、夢の中で語り合うシーンがある。
足元にはおびただしい戦闘機の残骸。
どこまでも青い空に上ってゆく、パイロット達の幾多の命。
「一機も帰って来ませんでした」
二郎はつぶやく。
それでも時代の風は吹いている。
若者はその向かい風の中で夢をみる。
若者達は困難な時代のなかで、これからどんな夢をカタチにしてゆくのだろうか。
僕はこの作品を、出来るだけ多くの若い人達に観てほしい、と思う。どんな感想を持ってもいい、今、理解出来なくても構わない。烈しい向かい風の中で、宮崎監督のメッセージに、ふと気がつく時が、必ず来るであろうと思う。

なお、私の信条として、新作映画の総合評価は常に最高点を四点までにして来た。だが、ストーリー、声優のキャスティング、映像、演出、音楽、どの項目を眺めても、ケチの付けようがないのだ。
ゆえに2010年公開、中島哲也監督の「告白」以来、二作目の満点評価となった。

**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆☆
美術 ☆☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆☆
**********
作品データ

監督   宮崎駿
声優   庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊
製作   2013年
上映時間 126分

予告編映像はこちらのアドレスをコピーしてお使い下さい。


http://www.youtube.com/watch?v=7Z1uo_511Xs

奥付



映画に宛てたラブレター2013•8月号


http://p.booklog.jp/book/74013


著者 : 天見谷行人
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/mussesow/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/74013

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/74013



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ



この本の内容は以上です。


読者登録

天見谷行人さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について