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算命学余話 #U16 (page 1)

 ソルジェニーツィンは「ロシア文学に道徳が入り込むようになったのはカラムジンからだ」と語っておりますが、残念ながら日本ではカラムジンという帝政時代の歴史家・作家について詳しく紹介している文献は出回っておりませんので、興味のある方は自力で探究してもらうとして、その「道徳性」が底辺を流れるロシア文学の伝統は、カラムジン以降のドストエフスキーやトルストイは勿論のこと、今日執筆している現代作家にも脈々と受け継がれています。

 日露交流の一環として最近和訳が出版されたガリーナ・アルテミエヴァ著『ピクニック』は、ソ連崩壊を挟んだ世代の作者から見た今日のロシア市民を描いた中編小説集ですが、今どきの若者やその親の世代の日常を市民の目の高さで判りやすく描いていながら、やはり根底にはカラムジンの時代から変わらぬ普遍的道徳が地下水のように静かに流れているのが読み取れます。

 

 説法や寓話ではなく小説に道徳を持ち込もうとすると、登場人物は知らぬうちに傷つく運命なのですが(つまりお目出度い勧善懲悪話ではない)、どうして傷ついたのかを読者が人物に同調して読み進むうちに、何が間違っていたのか、どこで道徳に背いたのか、その結果ずっと後になって自分自身や近親者が悲しむ破目になるのだという因果関係がおぼろげに感得される、その技術が巧みなのがロシア文学の特徴とも言えます。

 『ピクニック』の作者はインテリの女性なので、そうした社会的地位や良識が優れているとされる女性が陥りやすい人生の罠や、危機に直面した時の脆さ、安易に夫を見限って離婚して女手ひとつで育て上げ溺愛した子供たちがどういう欠陥を持った大人になるか、など現代の日本の中年層と若年層の抱える悩みがそのまま当てはまるような現代ロシアを紹介してくれます。翻訳もとても読みやすく、(一カ所だけ「ぞっとするような」の訳語が使われているのが残念!)ロシアや旧ソ連の事情を知らなくても大体理解できるので、ビギナーにもお勧めです。

 

 なぜこの本を「算命学余話」で採り上げるかというと、どの作品も親子の問題を多かれ少なかれ描いているからです。一見するとどこにでもある家庭だけれど、離婚や溺愛、見栄や欺瞞などが将来的に家庭や人生そのものの崩壊を、時間を掛けてゆっくり招く、という長期スパンで眺めた因果を描いており、しかも因果の原因は親にあるとしています。この点が算命学の理論と図らずも合致しているので、算命学に興味があって親子関係に悩んでいる方は、この本を読むと何らかのヒントが得られるものと思われます。

 

 というわけで今回のテーマは親子と教育です。既に#U13で親子について採り上げましたが、どちらかというと親子から夫婦の話に移行しました。今回は純粋に親子の関係を、教育という視点から考察してみます。教育者としての親の作用を鑑定する技法を含みますので、その型にはまった人が優越感や劣等感に振り回される恐れがあり、前回に続き購読料を若干上げて防護柵とします。この技法を知ったからといって、人の優劣を安易につける愚に陥らぬよう、賢明な読者にはご留意されたく思います。


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最終更新日 : 2013-07-01 17:28:16

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