閉じる


試し読みできます

はじめに

 筆者は平成23年末の指定医新規講習会に参加して24年末にレポートを提出、翌25年6月に合格した。

 指導してくれた先生の指導方針のせいか、いわゆる過去の合格者レポートをあまり参照にせず、8編をほぼ独力で書き起こした。 このプロセスの中で

 ・たいていの過去レポートは、安全にふるために記述が(特に法的な記載が)煩雑になりすぎていて日本語の文章として読みにくい

 ・よく複数の先生からチェックを受けることがすすめられているが、かえって調整が煩雑になる

ことに気がついていった。

 

 ・精神保健福祉法の条文を理解して書けば、構成・言い回しなどにすっきりとした書き方ができる

ことに気がつき、このマニュアルではこちらのアプローチをおすすめしている。実際、最初の数本で自分なりに標準的な書き方を確立したら、それにしたがって残りのレポートを仕上げるだけでよく、時間的な面でも文章の質の面でも、従来方法より書きやすい。

 実際に提出したレポートを参考にこの方法論によるレポートの書き方を解説する。

 

 


試し読みできます

従来のレポートの例

 指定医レポートの作成を思い至って、近年の合格者のレポートを収集して読んだのだが、これがなんともすっきりしていない印象を受けた。

 例えば、第1症例で緊急措置入院をおこなったときの記載は以下のようなものであった。

「・・・被害妄想、幻聴、滅裂思考、興奮を認め、統合失調症の精神運動興奮を伴う幻覚妄想状態であり、医療及び保護の為に入院させなければ自傷他害のおそれが著しいと判断され、法第29条の2により同日都知事による緊急措置入院となった。都知事に代わり、都職員である指定医がその旨を本人に口頭と書面で告知し、その旨と日時を告知し、その旨を本人と日時を診療録に記載した。入院時より申請者が主治医となった。」

これだけ読むとこんなものかと思われるかもしれないが、この手の記述が延々続き、レポート全体としては字数2000字ぎりぎりであった。

 全体として「くどい」という印象を受けた。法律的な手続きはしっかり記載されているのであろうが、これでは読むほうが苦労するのではないかと思う。何かがおかしいような気がした。


試し読みできます

症例選択のポイント

 指定医の申請をしようかと思い始めるとき、頭をもたげてくるのが「必要な症例がそろっているか?」という不安である。最近は、後期研修医制度が充実し、精神科のある総合病院や精神科救急をやっている精神科病院にローテートしやすくなったため、以前に比べるとこの問題はかなり解消されてきたように思うが、それでも、措置症例や思春期症例は経験しにくいように思う。

 

●措置症例

これはもう地域の基幹精神科病院に勤めるしかないでしょう。

 

●思春期症例

これは難しい。救急をやっている病院ならば、18歳未満の初発の統合失調症などは経験できると思うが、問題は「思春期心性」をどう盛り込むかということ。要項などにも書いてあるが、「摂食障害」や「強迫性障害」の方がレポートとしては書きやすいと思う。また、精神科医としてのキャリアの上でも専門の小児精神科をまわっておくのは、後でその経験が活きてくる場合が多く、可能ならそういうところで症例を経験するのが望ましいと思う。

 

●FAQ

? 医療保護の2項入院は症例として不適当なのでしょうか

A 講習会でも散々いわれていると思いますが、だめです。使えません。

 

? 認知症を器質で使うのは良いでしょうか

A これも講習会で言われていると思いますが、望ましくないようです。認知症は認知症で使いましょう。

 

? 入院期間があまりに短いと読む側の印象が悪いとききますが、本当でしょうか

A 症例のジャンルにもよると思いますが、まとまっていればOKだと思います。私の症例のいくつかは入院期間が10日間前後でしたが、あっさり通りました。

 

? 市町長村同意で入院し、親族が見つからなかったため、治療終了後、そのまま市町村長同意で退院しました。症例として使えますか

A これは私もひっかかりました。特に認知症症例は、患者さんが高齢であるため親族が見つからず、こういったケースは多いと思います。条文をひっくりかえすと、これは「市町村長を保護者とする第1項入院」に該当するようで私の場合は問題なかったです。(後で詳しく書きます)

 


試し読みできます

レポート作成時のポイント

 冒頭でも述べたように、このマニュアルの目的は、「指定医レポートの作成には混乱がみられる。そこで、精神保健福祉法の原点、さらにはその背後にある書面主義にたちかえって、過不足なく法律文書的にも医学症例レポートとしても満足する文書を仕上げる」ということにある。

 テクニカルには「法律的な部分は根拠法に言及することで細かな言い回しを吸収・必要にしてかつ十分な記述にとどめ、査読者が治療の流れがわかるように書く」という方法論を提案している。

 冒頭では緊急措置診察時の例をあげたが、けっこう問題になっているのが医保退院時の退院届けの提出期限の問題でここではこれに関して述べる。

 医療保護入院者を退院させた場合、「退院届を10日以内に保健所長を経て都道府県知事に提出した」と記載するのが現在のスタンダードな記載方法だが、実務的には10日を経過して届出てしまう場合があるので、この場合、「実際にかかった日数を書く」、「『速やかに提出した』と書いてごまかす」など意見が割れている。

 実際に、法の条文を参照してみよう。

 

 第三十三条の二 精神病院の管理者は、前条第一項の規定により入院した者(以下「医療保護入院者」という。)を退院させたときは、十日以内に、その旨及び厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経て都道府県知事に届け出なければならない。

 

 

 これまでの、「退院届を10日以内に保健所長を経て都道府県知事に提出した」というのはそこだけ取り出せばまったく正しい記載なのだが、条文をよく読んでみよう。退院の届け出を出すのは、「精神病院の管理者」であって「指定医」ではない。指定医レポートは、指定医業務を行えるかどうか判断するためのものであるから、この問題に拘泥するのはナンセンスである。「平成○○年××月△△日、医療保護入院を退院とし、法第33条の2により退院届を提出した」ですむ話ではないか。

 こんなことにこだわるよりは、患者さんとどう関わり、どういう経過で退院までこぎつけたのかエネルギーを割いた方がはるかに有意義で、読む側にとって読みやすい文章になると思う。

 

 


試し読みできます

規定演技と自由演技

 指定医レポートは、法律文書としての要件と医学レポートとしての要件を必要とされることは前にも述べた。申請可能な時期が近づきレポート作成を意識し始めると、なんとかして先輩の過去レポートを入手することになる。これだけでもけっこう労力が要るが、読んでみるとあの通りである。法律的な言い回しと精神医学的な記載が混在している印象をまずは受ける。「こんなのを8本も書くのか」と気を重くしながらも何度か目を通していくうちに、法的な部分と医療的な部分の境目が次第にはっきりし始める。

 同僚の一人は「これは、フィギュアスケートで言うところの規定演技と自由演技みたいなものだ。法的な部分は、やることが型どおり決まっている規定演技。医療的な部分は、わりあい個性を出していい自由演技。評価されるためには、それら二つを一つのレポートの中に落としこまなければならない」というようなことを言った。なるほどと思い、彼が言うところの規定演技の書き方を煮詰めていった。

 具体的には

 ・入院形態(措置・医護・任意)ごとの入院時の言い回し

 ・隔離時の言い回し

 ・拘束時の言い回し

 ・退院形態(措置・医護・任意)ごとの退院時の言い回し

が、『規定演技』にあたるだろうか。

 私は、(途中若干ぶれたが)最終的にはこのマニュアルで言う『書面主義的アプローチ』で上記の部分を固めていった。

 

●法が規定する指定医職務

法が規定する指定医職務は第19条の4の1項と2項に規定されている。1項では、

・第22条の3(→任意入院への努力義務)

・第22条の4第3項(→任意入院の退院制限)

・第29条の5(→措置解除)

・第33条の第1項(→ご存知、医保1項入院)

・第33条の4第1項(→応急入院)

・第36条第3項(→行動制限。いわゆる隔離・拘束。これは重要)

・第38条の2第1項(→強制入院患者の定期病状報告)

・第40条(→措置入院患者の仮退院)

1項に関しては、第19条の4の2に診療録の記載義務が規定されているので、その点を考慮して言い回し(「規定演技」の評価ポイント!)をつくる。 

なお、2項では

・第29条第1項(→都道府県知事による措置入院の権限)

・第29条の2第1項(→緊急措置入院)

・第29条の2の2第3項(→措置入院患者の移送)

・第29条の4第2項(→都道府県知事による措置解除の権限)

・第34条第1項(→医療保護入院患者の移送)

・第34条第2項(→医療保護入院患者(2項)の移送)

・第38条の3第3項(→精神医療審査会以来の退院審査)

・第38条の5第4項(→退院請求審査)

・第38条の6第1項(→精神病院に対する立ち入り検査)

・第38条の7第2項(→退院診察)

・第45条の2第4項(→精神障害者福祉手帳返還時の診察)

が規定されている。第29条の2のように重要なものもあるが、申請時のレポートとしては、直接は関係ないものも多い。

なお、措置診察は27条に基づいておこなわれるが、どういうわけかこれは規定されていない。

 

例えば、隔離・拘束は頻繁に記載されるので

「病棟入室時、興奮を示したため、指定医が診察しその判断により法36条第3項に基づき本人の保護を目的に身体拘束を開始した。指定医がその旨を本人に口頭と書面で告知し、その旨と開始日時を診療録に記載した。身体拘束中は精神症状の推移を毎日頻回に診察し、診療録に記載し、その必要性を指定医と慎重に協議した。」

というように言い回しを決めておく。

 

 

 



読者登録

猪股 弘明さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について