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はじめに

はじめに


 額縁は中世からルネサンス期のヨーロッパの教会、特にイタリアの教会の祭壇画の周囲を縁取る枠組みに現在の原型があると考えられます。木の板上にテンペラ技法によって描かれたイコンや祭壇画は、その絵画面より更に高く盛り上がり絵画の描かれた板と一体となった木枠によって縁取られ金箔が貼られました。これらの縁取りは、聖書の一場面や聖母像、キリストの磔刑の描かれた絵画面を周囲から隔てると同時に、主題に視線を導き強調する役割がありました。14〜15世紀にはゴシック様式の荘厳な装飾によって縁取られた建築物のファサードような形状をした祭壇画も数多く作られました。
 中世後期になると、これらの枠の表面には石膏を盛り上げて装飾する技術、パスティーリア(Pastiglia)が施されるようになります。これらの装飾模様は植物をモチーフにした唐草文や葉状装飾、紐が複雑に絡んだ模様(組紐文)等をモチーフとし、額縁はやがて絵画とは独立して作られるようになります。15世紀後半から16世紀になると絵画とそれを縁取る額縁は、教会という閉鎖的な空間から解放され、貴族や裕福な人々の住居の中で移動可能な鏡枠や絵画の装飾枠としても飾られるようになります。絵画の主題は宗教的なものに限らず肖像画や風景画等、世俗的な絵画も徐々に描かれるようになります。


 当時の額縁制作技法は、ボローニャ石膏を膠で溶いたものを下地とし、その上に金箔を水押し(ウォーター・ギルディング/water gilding)という手法で貼っていくテンペラ画の技法と同じものです。このような古典的な装飾技法にはパスティーリアの他にもミッショーネ、グラフィート、パンチングなど数種の異なる技術がありますが、この本では古典技法の基本となるボローニャ石膏や膠の扱い、水押しによる金箔の貼り方、盛り上げ技法/パスティーリアの技術を紹介します。
 四角に組んだ木枠に下地を施し金箔で仕上げていく額縁作りは、高度な職人的技術を本来要求されるものですが、なるべく分かりやすく誰でも古典技法に親しんでもらえるように解説しました。
 古典技法を知ることは、現代技法をより深く理解することにつながります。「額縁と額装」の愉しさ奥深さを知る上で最も大切な額装の基本の全てが古典技法にあると言えます。



                                 小笠原尚司



© OFFICE OGASAHARA



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金箔貼り - 01(水押し)

古典技法で額縁を作る醍醐味は金箔貼りにあるといえます。彫刻を施し、何度も何度も下地のための石膏塗りを繰り返し、サンディングとボーロ塗りの末たどりつく金箔貼り作業(水押し)は、仕上がりへの期待感とそれまでの苦労の思いが複雑に混ざった緊張感のある作業です。
ボーロ下地の表面に柔らかな筆(りす筆)でたっぷりと水を敷き、その水が下地に吸い込まれる直前に水の表面張力と溶け出してくる膠の接着力を利用して金箔を貼ります。貼るというより「押す」あるいは「置く」という感覚に近い作業は高度な職人的技術を要求されます。金箔を貼るための技法には簡単な方法もありますが、この水押し技法による金箔貼りとその後の瑪瑙棒による磨き仕上げが、金の輝きを最もひきだす方法と言えます。例え失敗したとしても金箔の美しさは魅力的です。
* 水で濡らす。
リス筆に水を含ませ金箔を貼る部分をぬらす。
筆にたっぷりと水を含ませて水の乗らない部
分がないようにする。


一度に金箔1枚全部を貼ろうとすると失敗しや
すいので、最初は部分ごとに細かく切って段階
的に貼っていく。




水が下地に吸い込まれる前に箔刷毛で金箔を置いていく。
注)箔刷毛は毛先に油分を少し含ませることで金箔を持ち上げることができる。












        
         * 箔押さえ
           脱脂綿で金箔を置いた後に軽く表面を押さえ、
           金箔をしっかりと固着する。



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販売価格300円(税込)

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