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カタナ/ファイターの名誉(build2.3)

                                                          

カタナ/ファイターの名誉

 

JunichiYONETA 米田淳一

 


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カタナ/ファイターの名誉(build2.3)

                                                          

序章

 

 

オープニング

 白い霧の中から、瑞々しく鮮やかな緑につつまれた中国のリゾート地・珠海の空港が見えてくる。

 戦闘機乗りにしては、僕は自分を軟弱だと思う。

 FIパイロットとして、こうしてF-283『カタナ』戦闘機を駆る僕の父は、航空自衛隊幕僚長だ。

 FIとは、ファイター・インターセプトで、航空自衛隊で言う迎撃戦闘機である。

 統合幕僚長とは、上に防衛大臣と総理大臣しか上のいない、エリートだ。

 僕はそこまで上り詰めた父に従い、幼いころは全国を転勤して回った。

 そして、父が昇進寸前までやっていた戦闘機パイロットを、僕は目指した。

 この21世紀末、戦闘機は無人戦闘機に取って代わられるといいながら、いくつかの紛争でそんなあこがれは砕かれていた。

 人間は、血を流さなければ、その過ちに気づかない。いや、流しても気づかないことがいつもなのだ。

 それが防大の教官の言葉だった。

 僕は日々を軟弱に過ごしながら、飛行機へのあこがれだけは、軟弱なりに持っていた。

 父は厳しかった。

 僕は片づけが苦手なのだが、それを何度も父にしかられた。

 父は僕にとっては大きな存在だった。母がそれを裏付けていた。

 仲のいい父母に恵まれ、僕は公立高校から防大を受験し、その後に航空自衛隊に入った。

 選抜試験は厳しかった。何度ももうだめだと思った。

 それに、選抜する自衛隊の人々も、父の活躍を知っていたせいか、どこか違和感を持っているようだった。

 僕にとって、父の経歴に傷が付くのが一番怖かった。

 

 父は、僕にとっては一番偉大な人だった。

 防大に入って初めて給料をもらったときも、高校の同期に比べてはいい給料だったが、父の給料に比べて、駆け出しの自衛官候補生というものの現実を見せられた気分だった。

 とはいえ、僕はそれほどシリアスでもなく、ただ高校をちょっと厳しくしたような防大の学生生活に満足していた。

 僕は転校を続けた小中学生時代とは違い、高校は全寮制だったので、あまり違和感はなかった。

 防大の卒業前に、ダンスパーティーがある。

 そのとき、防大生はすべて、防大以外から異性のパートナーをつれてこなくてはならない。

 僕は引っ込み思案だったが、思い切って高校時代の淡い初恋の女性を誘った。

 彼女は卒業後、シナリオの学校に通い、TVの制作の仕事を目指していた。

 そんな彼女だから、興味を抱いて参加してくれた。

 ダンスを踊りながら、防大の女学生と違う空気に、しばし酔った。

 そしてパーティーが終わり、卒業を迎えた。

 

 世の中はどんどん変わっていた。

 北朝鮮は崩壊し、韓国主導ながら中国の息のかかった政権の統一韓国ができていた。

 中国では中国共産党が模様替えして、ロシアと通じて勢力を作りつつあった。

 空母を持った中国に対抗しようと、自衛隊も空母を持った。

 米軍は光輝ある『縮退政策』とかで、日本の基地を撤収した。いつでもまた日本に駐留できる体制ができたので、わざわざ軍人の家族をテロの危険にさらす必要はないとの判断だった。

 そのため、米軍基地は完全には返還されなかったが、部隊が駐留するのはグアムだけで、佐世保と横田と座間に巨大な武器や装備の集積所だけが残された。

 

 そして、僕はそんななか、防大を卒業し、自衛官として航空課程に進んだ。

 優秀、というつもりはなかったが、結果的にそれほど落ちこぼれもせず、かといって主席と言うほどの成績も上げず、可もなく不可もなく過ごしていた。

 それでも十分エキサイティングな航空学生生活だったが、それは僕が今更言わなくても他のみんなが語っていると思う。

 Gスーツも改良されたし、ミサイルよけに分身のように使える搭載型無人機もあり、昔に比べれば覚えることは多くなったらしいが、両用脳磁計(AMEG)と、それを使ったAIというには緻密で不思議なアシスタントシステムが補助してくれる。

 

 昔、『戦闘妖精・雪風』というSF小説があった。

 戦闘機とそのパイロットを描いた小説だった。

 初版は70年代、再刊は21世紀初めだったが、友達に勧められて読むうち、すこしずつ、違和感と共感のないまぜな感情になっていた。

 防大の同期が地上配置になったので、地上配置の人々もそれはそれで誇りを持ってやっているわけだし、第一刀剣というものは切っ先だけでできているわけではない。

 そう思ったが、でも戦闘機乗りの一般人の持つイメージを少し考えた。

 戦闘機乗りは孤独ではない。むしろ今の戦闘機は、高度にシステム化され、パイロットといえども、そのなかの一部である。

 軍隊とはそういう組織力、チームプレイが求められるもので、だれかがくじければ、それが全体に悪影響を及ぼす。

 まあ、1970年代はそういうことが理解されない時代だったと思う。当時のSFの事情について僕は詳しくないが、どちらかというと21世紀に再刊されたときに作者・神林長平が雪風の次作、グッドラックで書いた世界のほうがイメージがしっくりきた。

 21世紀現代のパイロットは、すべて複雑な操縦系を高いGの中で操作するために脳の出力をAMEGという小型脳磁計を使って飛行機に伝える。

 その仲立ちにアシスタントシステムを使う。

 このシステムは良くできていて、FIと呼ばれる迎撃機だろうが、FSと呼ばれる支援戦闘機だろうが、給油機や輸送機だろうがすべて思いの通りに動かせるように、操縦操作の意図、意志を解釈してくれる。

 そのシステムは各パイロットが一度初期設定すると、自衛隊を辞めたとしてもなお使い続けるものだ。

 ログインパスワードとともに一人で決めなくてはいけない。

 僕は、だめだろうと思いながら、『yukikaze』と入力し、申請した。

 他のパイロットが使っていると表示されたが、現実には欠番だったのだろう。

 旧海軍の幸運艦・駆逐艦〈雪風〉の名はそうなっていても不思議ではない。

 そこで、僕はキーパネルを操作した。

 wind-yuki

 僕の母は宮山由樹(みややまゆき)という名前で、父は宮山浩一(みややまこういち)空将だ。

 そのwind-yukiの入力をすると、しばらくの間の後、『申請は受理されました。アシスタントの設定を開始します』とフライトコンピュータが応答した。

 まだプロペラ推進の練習機しか乗れないのだが、その練習機のコンピュータは、このwind-yukiに管理され、僕とつながる。

 僕は確保したwind-yukiのログイン名と、宮山一郎3尉の表示を見た。

 表示されたのは、wind-yukiという名の巫女姿の少女だった。

 狂ったことに、このカタナをはじめとする自衛隊のパイロット資格を持つ者すべて一人に一つづつあるアシスタントAIのシンボルは、巫女姿らしい。

 あどけない顔の少女は、それでいながらどこか冷たさを感じさせた。

 この趣味には、なんと、とあきれたが、しかし由来がいろいろあるらしい。艦艇には同じように人形の船魂があるなんて話もあったぐらいだ。

 このパイロットとしての人生を踏み出す瞬間のために、友人たちがカードを送ってくれていた。

 そのなかには、『挫折禁止』というカードもあった。

 懐かしい、雑貨書店で売っているカードだったが、嬉しかった。

 パイロットに、なった。

 まだヒヨッコだが、でもきっといいパイロットになる。

 父から、一言、メールが届いていた。

 

 おめでとう。父

 

 短いメッセージだった。父は当時すでに技術研究本部や幕僚監部にいて、複雑な仕事をしていて忙しかったようだが、それでも祝ってくれた。

 パイロット人生は、そのときから、wind-yukiとともに進んできた。

 

それから

 それから後のことは少し端折る。

 僕の乗機は、プロペラを推進式に装備した練習機・T-9白菊から、T-183ドルフィンIIとよばれるジェット練習機になり、そしてそのあとにFS、支援戦闘機と同じT/F-257という戦闘機になり、そしてFI課程の研修を終え、今はF-283・カタナと呼ばれるFI、制空戦闘機になった。

 今日はその制空戦闘機を駆って、珠海という中国の観光都市で開かれる兵器ショーにこのF-283を出展するために移動したのだった。

 

 カタナは、昔バイクにあった名前で、そのバイクはずいぶんクセのあるバイクだったらしい。

 人によってはかなり好き嫌いが別れると言うが、戦闘機としてのカタナは、間違いなく、いい戦闘機だ。

 とくに21世紀末、世の中を二つの発明が、あおっていた。

 片方は小型核融合機関。SC型と呼ばれていた新しい水素融合のサイクルを使った機関で、昔はウラン・プルトニウム炉のように大きく作らなければいけなかった核融合を飛行機のエンジンにまで小型化してしまった。

 核融合は21世紀初めは夢物語のまた夢だったらしい。事実、巨大なトカマク炉やヘリアック炉を使っても臨界、投入したエネルギーを越える出力が出なかった。

 それがSC機関では、特殊な超ナノテクノロジーと大統一理論による特殊なコンデンサーで水素の原子核を融合させてしまうのである。

 その反応の制御は非常に困難だったらしいが、それを極高速制御コンピュータが解決してしまった。SC機関はその点で、エンジンと言うよりも電子機器だ。

 それを搭載するのがこのカタナで、事実、行って還ってくるだけだったら有り余るパワーで地球の重力を振り切り、再突入にはシールドを張って熱に耐えて戻ってこれる。この発明が長らく欧米の後塵を拝して苦しかった日本の航空業界を一気に活気づけた。

 当然日本はこの小型核融合機関を国家戦略の中心に据えて輸出した。

 そしてもう一つの発明が、DAGEXという人工重力だった。

 超弦とされるすべての力の源である究極の粒子に働きかけて、大統一理論の応用で電力で重力を作るそのシステムは、物理がついにすべての力を統一した勝利と喧伝されていた。

 そのDAGEX素子を使うことで、様々なものが浮かび上がった。

 もう開通していた中央リニア線に加えて岡山までのびていた山陽リニア線では、電力を使ったMAGLEVという浮上システムが消費電力の多さと地上コイルの調整トラブルで最高速度の限界に来ていたが、DAGEXによるリニア鉄道が実験を始めていた。

 軌道側と車両側にともにコイルを必要とするMAGLEVは優れたシステムだったが、DAGEXは素子に与える電力を調整するレーザーマーカーを使うだけで、軌道はそのままのMAGLEV方式も使えるし、軌道側のコイルを省略することもできる。

 NX900と呼ばれるそのDAGEXリニア試験車は、最高速度900km/hを目標に東北リニア線で実験が続いている。

 そして、そのDAGEXを開発したロシアでは、船や要塞を空中に浮かべる実験が始まっているという。

 想像もつかないが、実験は進みつつあるらしい。

 

 中国・珠海航空ショーでは、そのSC核融合とDAGEXの競演となるだろうと言われていた。

 もう一つこの時代を象徴しているのが、入出力デバイスとして普及の始まったAMEGと呼ばれる脳磁計だった。

 かつては地磁気から遮蔽された部屋に据え付けられた巨大な装置だったのに、解析アルゴリズムの発展やFPGAといった技術と結びつき、大幅に小型化された。いまではヘッドギアと言うよりも、ヘッドリングの大きさのモノすらある。

 人間の意志を脳から読みとり、人間の視覚野に磁気で画像を書き込むデバイスである。

 導入当初は脳への入出力で危険視されていたが、しかし脳にケーブルを差す侵襲性デバイスではなく、ヘルメットやヘッドリングに内蔵して頭に乗せるだけでよい非侵襲性デバイスという利便性から、航空機パイロットのヘッドギア、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の発展形として日本で開発が進んだ。

 仮想現実しか作れなかったコンピュータが、現実感という感覚を作り出せるようになり、批判もされもしたが、こうして戦闘機を飛ばしていると、この便利と引き替えならそれぐらいの危険は仕方がないと思えてくる。

 軽量なヘルメットにデザインされたAMEGを乗せた脳には、レーダーだけでなく光学センサーの情報が整理されて脳に表示される。

 なにしろ図形だけの表現ではなく、奥行きや質感までが再現されている。目がやられても脳に傷がなければ周囲を認識できるので、加齢による視力の衰えに影響されないばかりか、時に自分の姿をまるでゲームの自機のように見ることができる機能を持つ。

 闇夜を飛ぶときにこれほど頼りになるものはない。この装置の研究が進んだおかげで、高機動戦闘機の操縦が格段に簡易になり、空間識失調と呼ばれる上下方向を見失った結果の墜落をほどんどなくすことができた。

 しかし、このAMEGに到るまでには汎用空間グリッドや統一場理論などの発展が必要で、それは21世紀初めには誰が作り出したか分からない状態の睡眠夢を制御するペンダント・ジェネレータという商品名で売られていたとも聞く。

 それ以上の話は憶測に過ぎず、僕にはウンヌンできないが、しかし時代は大きく進歩し、日本もついに東京から首都を淡路島に移すなどという話がある。

 自然の豊かな淡路島に巨大人工島というと、その近くの徳島基地で寝起きする僕には想像もつかないが、しかし新淡路市と呼ばれるらしいその新首都の基礎工事はすでに始まり、地質調査船が忙しく行き来しているのを空から何度も見てきた。

 

「こちら珠海タワー。ゼノン03、28滑走路に北側から進入せよ」

「ゼノン03了解。進入する」

 僕は編隊長のカタナに続いて自機のカタナを編隊着陸にあわせて位置を取った。

 編隊長の安里怜奈(あさと れな)3佐に続いて、2尉である僕は徳島に新設されたFI飛行隊、第11航空団651飛行隊(651SQ)に所属するカタナを操縦している。

「宮山、しっかりついてきて。横滑りに気を付けて。さっきから気流センサーが妙な乱流を検知してる」

「了解です」

 誘導信号を受信したカタナの制御AI・wind-yukiは自動着陸を提案したが、安里3佐は拒否し、マニュアルでの着陸を選択した。

 いくらパワーに余裕のあるカタナでも、空気を読み、気流を探らなければ、単に飛ぶだけでは許されない戦闘機のパイロットとしては失格である。

 とくに気流は対地攻撃時には大きく作用する。

 いくらパワーに余裕があって、そのうえ精密誘導爆弾を落とすとしても、気流というのは恐ろしい力を持っている。

 特に21世紀末、ここまで人類が悪化させてきた地球の気候は、ついに台風時に秒速80メートルという猛烈な突風まで起こしている。

 そのなかでも戦闘機乗りは飛ばねばならない。

 安里3佐に従う僕は、彼女の精密な着陸の組み立てに感心してしまっていた。

 ゆっくりと降下し、失速寸前にパワーを絞り、機首を最後に少し上げて主脚を接地させ、そして前脚を降ろす。

 大地と再び結ばれたカタナを、遠くから望遠レンズの砲列が狙っているのが見えた。

「宮山(みややま)2尉、ご苦労さま」

 安里3佐が通信で声をかけてくる。

「いえ」

華燭

エアショー会場

「珠海地上、着陸スポットは11番で良いか」

「珠海地上、11番でよし」

 タキシー、滑走して珠海空港の展示施設近くにカタナを留める。

 エンジンをアイドル位置にして、キャノピーをあける。

 中国大陸の風が気持ちよく抜けていく。

 地上整備員は先に輸送機で珠海に着いていた。

「ご苦労様です!」

 機を止めると輪止めがされ、機付長がはしごをかけ、登ってきて声をかける。

「ありがとうございます」

 歳のころでは父に近いベテラン機付長に機を預け、稼働していたAI・wind-yukiを終了させ、それが搭載されたサイコメトリックストレージ、CSドライブを取り出して機を降りる。これによって機は整備用自己診断モードに入るのだ。

 珠海の気候は晴れ。夕日が美しい。

 展示飛行のある航空ショーは明日で、今夜は出展者として先にショーの中身を見ることになっている。

「まったく、日程が詰め詰めね」

 安里3佐がヘルメットバッグを片手にやってきた。

 身長178センチと女性にしては長身とはいえ、僕は軟弱ながら父譲りの186センチあり、彼女をどうしても見下ろしてしまう。

 僕は子供のころからの長身で気が引けてつい猫背になってしまうクセがあったのだが、自衛隊はそれを許さなかった。

 胸を張って歩くことには抵抗があったが、しかしそうしなければ部屋長から厳しい叱責を受ける。

 結果長身を隠さなくなったのだが、人を見下ろせる立場なのか、と自分をなじることは、今でも時々ある。

「僕らが見なくても背広さんたちが検討しているんですよね」

 背広さんとは自衛隊では内局の事を言う。制服と呼ばれる僕らが実際に戦闘機をとばすが、その戦闘機を買う予算を付けるのは彼ら内局、背広の仕事だ。

「もう、若いんだから、もっといろいろ見聞きしても良いんじゃない? 特にあなたはこれからの空自を背負っていくんだから」

 安里3佐は笑う。栗色の長い髪が金色に輝く。

 引き締まった顎に小さな口、薄く濡れた唇に、大きな利発な、それでいて鋭さを秘めた瞳。

 そして優しい柔らかな声。

 それでいながら首は女性アスリートのように太く、また快活だ。

 まさに理想のパイロットである。

「父は別ですよ。僕はずっとパイロットでいたいです」

 僕は安里3佐に編隊長としても、自衛官としても、そして異性としても深い尊敬を抱いていた。

 自分はまだまだだと思う。

 時々、自分が安里3佐の思慮にくらべてひどく劣っていることを感じる。

 カタナパイロットとしての資質を自分に問うことすらある。

 だが、安里3佐は『比較は意味はないわ。自分がいかに純粋になれるかよ』となだめてくれた。

 本当に信頼できる上官である。

「みんなそう。

 私も結局、日本で最初で最後のスペースシャトルパイロットになった直方怜子空将にあこがれたけど、私は結局もう次の異動で地上配置。

 そりゃあ楽しい高射隊とか需品科の管理職が待ってるわ。それも人の仕事だし、それにそれぞれ、立派な喜びがあるのは知ってる。

 でも、こうして飛行機に乗っている楽しさはまだ特別だと思う」

「そうですね」

「定年まで飛行機に乗っていたかった。残念」

 安里3佐は笑った。

 安里3佐ほどの人でも、あきらめねばならない夢があるのだ。

 夢って何だろう。

 一生見続けるとしても、届かない夢。

 それにしては人生は苦しすぎやしないだろうか。

「じゃあ、今夜の宿に荷物おいて、そのあとショーを先に見ましょう。ホテルのロビーで携帯を鳴らして」

「はい」

 

ブース

 ショーのブース展示を見る。

 かれら兵器メーカーを死の商人と書く人々もいるが、しかし武器は人間を動かす独特の魅力がある。

 それを知ってこそ、それを使わないですむ思考を導けるのだと僕は思っている。

 

 ロシアブースでは、とんでもないものが展示されていた。

 それは、空中移動要塞というものだった。

 全長300メートル、全幅250メートル。高さは70メートルもある。

 これはまるで映画『ゴジラ』に出てきたスーパーXというゴジラ退治の秘密兵器のようだったが、まさしくそういうデザインだった。

 図体が大きいのは主動力に日本がライセンスを持つSC機関を使えないため、旧式のヘリアック炉を使っているためらしい。

 正面に巨大なサーチライト、主砲の防空レーザー砲に防空近接防御機銃、水平発射式ミサイル装備。それにセラミック・チタンの装甲をまとった空中要塞である。

 日本でもこういう空中大型兵器の計画は進んでいる。

 技本、技術研究本部は基礎設計を終え、スーパーYという名前で今年度に2隻を就役させるつもりだと言う。

 こういったこの大型兵器を浮上させるのはDAGEX装置の反重力効果の成果である。

 そのDAGEXについては開発したロシアが肝心なところを握っているらしく、日本だけでなくアメリカやヨーロッパも後れを取っている。

 そして、ロシアがそのDAGEXと日本のSC機関を組み合わせた究極の空中艦船を作ろうと日本と交渉していることは有名である。

 欧州とアメリカ・アジアの台湾は日本からSC機関を購入している関係上ロシアと対立し、中国といくつかの国々はDAGEXを完成品としての供給を受けてさまざまな産業に利用している。

 そこで第二次日露戦争のウワサも飛び交うが、ショーで話すロシア人は皆、木訥ながら明快だった。

 この人たちと争いたくないと思うが、しかしロシアでは極右勢力が台頭しつつあるらしいことが言われている。

 彼らはアフリカや中央アジアでの内戦とテロに対応しきれず形骸化しつつある国連をあきらめ、新たな国際政治の枠組みを訴え、それがいくつかの国々に支持されている。

 とくに日本と経済的な結びつきを持っているはずの中国がなぜか日本に敵愾心剥き出しにロシアと関係を深めているのがだんだん日本海をきな臭くさせている。

 統一韓国はというと、その大統領がまた無能な人間で、現実には国家安全企画庁という諜報組織が牛耳って、本来なら日本との経済関係を放棄できないのに反日外交を続けている。

 日本ではその反日感情の異常さに日本人が反感を持つことに対して、韓国の特殊な国情を理解せよなどとマスコミが火消しに回っているが、しかし現実には日本人は韓国人のそのねじけた心情に愛想が尽き果てている。

 それでもまだ戦争は起きていないし、武器は供給されていても、火がつかなければ大丈夫だと僕も含めて思っている。

 確かにFIとしてスクランブルがかかって韓国軍や中国軍・ロシア軍の不審機を追尾しても、彼らはコクピットの中から手を振ってくるぐらい、親密に空の仲間として接してくれている。

 大丈夫だろう、そう思っている。

 ロシア空軍のパイロットに、コマロフというパイロットがいる。

 有名な曲技飛行団を指揮したパイロットで、また現場に戻ったらしいが、このショーの場で再び会った。

 向こうは年上で、僕がまだ候補生だったころ、徳島基地で行われた航空ショーに最新のスホーイ戦闘機を展示した彼に、サインをもらったほどの関係だった。

 彼はほろ酔いの上機嫌だった。

 挨拶をして、安里3佐とともに空の話をした。

 彼の乗るスホーイ583フリースカイ戦闘機はすでに地上展示スペースに留められていた。

 カタナのような圧倒的なパワーはないとはいえ、格闘戦になれば五分に持ち込まれてしまうほどの優秀な機体だとされている。

 21世紀末、戦闘機どころか輸送機・給油機に至るまでステルスで、その上にカナードやブースターや推力変向システムで高機動性を確保している。

 そのステルス時代の空中戦は、幸いなことにまだ訪れていない。

 スホーイ・フリースカイ戦闘機は日本のカタナと同じ世代の空力設計を持っている。

 違いは主動力はフリースカイはリュールカXMという水素系燃料を使ったプラズマジェット機関を使っているのに対し、カタナはロ207甲というSC核融合機関の出力をe-e素子で電力に変換し、その電力を使ったエレクトリックジェット推進を使っている。

 どちらが優れているかは実際に争ったことはまだ無いので不明だが、ジェーン軍備年鑑ではSC機関を未知数として低く評価している。

 カタナは独力で大気圏離脱実験に成功したのだが、フリースカイは固体ロケットブースターで大気圏を離脱した。

 独力大気圏離脱をしても、輸出ができない日本の兵器の評価は人それぞれのままだ。

 そして、日本は21世紀末になっても専守防衛である。何度か政権交代があったが、結局その国是は変わらない。

 ただ、テロ対策の関係上、国連軍に参加することだけは認められた。

 しかし、国連常任理事国としてロシアがいる以上、ロシアと争うことは日本が直接攻撃されること以外にまずないだろう。

 大国ロシアに敵対する国連軍が生まれるとはとても思いにくい。

 特にコマロフのフリースカイ戦闘機は『ノーイ中隊』と呼ばれるエース中隊で、金色のカギをデザインしたマークが描かれている。

 ちなみにそのフリースカイを開発した航空隊は『ネメシス中隊』とも言われていた。なぜそうなのかはそれはそれで歴史があるのだという。

「あら、宮山君じゃない」

 声をかけてきたのは自衛隊情報本部の中堅分析員である久瀬生花(くぜ・せいか)2佐だ。

「久瀬さん、お久しぶりです」

「ホントね。お父様にはいつもお会いしているけど、お父様もなかなか気苦労しているらしいわよ。パイロットの家族はいつも気苦労が絶えないと言うけれど、ホントね」

「でもカタナは優秀ですよ。僕がヘマをやってもちゃんと補正してくれるし」

「そんな情けない事言っちゃだめよ。お父様ますます心配しちゃうわ」

「久瀬さんもショーの見学ですか」

「そうよ。なかなかね、出世すると仕事も増えて。もうこの歳なのに独身で合コンもできなくて。婚活もうまくいかないし。あら、安里3佐も?」

「ええ。久瀬さんも相変わらずね」

「あなたに言われたくないわよ。あなただって独身でしょ? せっかくなんだから宮山君を食べちゃえばいいのに」

 安里3佐は絶句した。

「え、まさか、もうご賞味しちゃったとか」

「そうじゃなくて」

 僕がツッコむ。

「もう、久瀬さん下品すぎますよ」

 僕はそうして久瀬さんをとどめる。

「男社会になじむにはシモネタが一番なのよ」

「私はそこまでしなくても良いと思ってるわ」

 安里3佐と久瀬さんは防大の同期である。

「しかし、ロシアのあの移動要塞、実現するのかしら」

「大統一理論が完成したから、何でもありだというのは分かるわ。でも、ああいう兵器はこれまでなかった。

 物体は大きさを倍にすると、体積は3乗倍になる。だから大きな空中兵器はいずれも失敗している。

 21世紀末になっても戦闘機はミサイルよけの機動標的を搭載しても未だに長さ13メートル・幅10メートルほどの大きさだし、大型機の実現に一番期待されたツェッペリン飛行船もツェッペリンNTが作られても搭載力は小さいし、突風には弱いし、高空にあがれば氷が着いて沈んでしまう。

 JAXAが開発してる成層圏ステーションも飛行船形式ではどうにも難しいって聞いたわ」

「でもロシアの移動要塞はそれを浮かべるって言ってたわね。デモンストレーションは特にないパネルと模型の展示だけど、私としては結構衝撃的ね。

 第一、飛行機であんな重装甲じゃ、どうやって撃ち落としたらいいか分からない。対戦車ミサイルでもぶち込むしかなさそうだけど、戦車と違って空を飛ぶみたいだし」

「まあ、争わないのが一番よ」

 僕を含めた3人は会場を進む。さまざまな防衛産業が展示ブースを作り終え、明日の商談に向けて打ち合わせをしている。

 日本で開発されたパワードスーツも軍用化されていて、戦術LANを搭載した情報化歩兵システムとなっている。

 なにしろ最新の戦術LANを含めた装備は人力で装備するには重すぎた。

 そこで、民生用に足の不自由な障害者を登山させるデモを行ったような、アシストスーツが軍事転用されているのだ。

「ここらで食事にしましょう」

 久瀬さんの案内でホテルのレストランで食事となった。ここでも周りはこの防衛産業ショーの人々である。

「SC機関はホント引き合いが多いみたいね。でもあれってロシアの学者が作ったんでしょ」

「基礎理論はね。ラスター・セニョルコフ。当時ソ連と呼ばれていたロシアがペレストロイカの失敗でどん底だった20世紀末、彼によって開発されたけど、日本では名古屋小牧の航空技術センターで実験されて実用化されたのはご存じの通り」

「そして同様にDAGEXもロシア人によって開発された」

「ロイフ・ラジーノフ。正確にはポーランド移民らしいわ。セニョルコフも東欧移民だった。どうも東欧って数学や物理学の才能を育てる独特の風土があるようね」

「そうね」

 安里3佐は同意してシャンパンを香った。

「ところで明日の飛行展示はお二人で?」

「そう。ブルーインパルスが出られれば良かったんだけど、ショーの運営側から練習機のブルーインパルスではなく、是非とも実戦部隊のカタナを出展してほしいって要望があって。まあ、そういう決定は背広さんの決定事項だから、私たちは言われるままにやるだけ。

 あ、そうだ、DAGEXって、もしかすると質量補償効果があるんだったらものすごい耐G性能の戦闘機も作れるんじゃない?」

「そうみたいね」

 そこにレストランのボーイがやってきた。

「あちらのお客様が、相席したいと」

 見ると、そこにはロシア空軍のコマロフ中佐がいた。

 僕らは顔を見合わせた後、頷いた。

 

会食

「いや、我々も背広には困ることがあって。こちらは久瀬さんでしょう? 自衛隊情報本部の」

「そうですが」

「まあいいか。調べは着いているだろう。極右勢力のウラージ党の国際戦略の話はもう国際ニュースになっている。かつての大ソ連、大共産圏の復活をというが、結局は外交重視といいながら、国内問題を国際問題にすり替えるやりかたでね。どうにも、私も我がロシア軍も君たち自衛隊と同じで、シビリアンコントロールの下にあるから、どうこう言うわけにはいかないのだが」

 コマロフは華奢な身体に骨張った顔を見せる瞳の青い、金髪のロシア人である。歳は安里3佐と同じ感じだが、異民族の年齢というのはなかなか推測がむずかしい。

 だが、中佐という階級で察しを付ける。かつて僕がサインをもらったときはコマロフは中尉だった。出世としては遅いほうだが、実力派ということだろう。

「なかなかここの中華はイケるな。以前中国に来たときは四川というのか? あれの辛さにはマイッタよ」

 談笑が続くそのとき、コマロフの胸ポケットで携帯が鳴った。

「まったく、メシだってのに」

 といいながら出るその瞬間、他のテーブルでも次々と携帯が鳴った。

 僕の携帯も、安里3佐や久瀬さんの携帯も鳴り出した。

 メールの着信だった。しかも緊急メールだ。

「ちょっと席を外しましょう」

 と安里3佐が言うとき、レストランで同じように席を外す人々でごった返した。

 なんだろう、と見る携帯のホログラフィパネルを見る。

 

 竹島、爆撃される

  海上自衛隊の発表によると、竹島付近を警戒中だった哨戒機P-111が、領有権を韓国と日本が互いに主張している領土紛争地・竹島が何者かの爆撃を受け、炎上する様子を発見した。

  同時に韓国沿岸警備隊も竹島が爆撃されたと発表、しかし爆撃を行ったのがなにものかは不明、韓国政府も日本政府も調査中とのみ発表した。

  韓国によれば、現在も韓国政府と韓国竹島守備隊とは連絡不通と発表された。

 

「なんで?!」

 安里3佐が口にすると、緊急メッセンジャーのパネルが空中に開いた。

『日本側の新ジャッジシステムの情報では、爆撃はステルス機と滑空誘導弾を使った爆撃らしいようですが、当時空自も海自も通常警戒態勢です。市ヶ谷指揮所以下、確認が完了しています」

「じゃあ、韓国?』

『韓国が自身で自国の守備隊300名を自ら爆撃して殺害したら収拾不可能な状態になります。そんなことはまずあり得ません』

「我が国のAWACSは?」

『とぎれとぎれですが、北方から接近するステルス機の機影らしきものを。バイスタティックシステムの解析で発見しています。目下さらに解析を進めますが、しかし我が国のAWACSの分析性能を知られることになります。結果の発表は政治レベルで検討されると思われます』

「しかし、あそこを爆撃して誰が得をするの?」

 そこに久瀬がやってきた。

「安里、むずかしい情勢が一気に引き起こされたわ。ともかく、部屋に戻って話をするわ。ここで話すのは危険すぎる」

「そうね。でも、これじゃ防衛産業ショーは中止ね」

「仕方ないわ。まったく、どこのトンチキ、馬鹿かしら。こんなときに」

 その僕らの前を、コマロフが通り過ぎた。

 彼は顔を真っ赤にしていた。

 まさか!

「あり得ないわ」

「ええ」

 僕を安里3佐と久瀬さんが否定した。

 

ホテル

 宿舎として割り当てられていた珠海のリゾートホテルの僕の部屋で、ストリーミングウェブの画像を見ながら話す。

 あの急峻な地形が崩れるほどの大爆発の中に沈んでいく竹島を海自の哨戒機が撮影した画像が何度も繰り返し放映される。

「あそこは韓国のAWACSも警戒中だったはず。韓国政府も日本政府も公式なコメントはまだ拒否している。でも両国のマスコミは互いの相手に責任を求めている。情報本部としても警戒はしていたけれど」

 といいながら、久瀬はなにか小さな機械を取り出し、スイッチを入れた。

「これは盗聴防止装置」

 さすが情報本部と思った。

「つかんでいた線があるの。おそらく、爆撃したのはロシア軍よ。だからコマロフは顔を真っ赤にしていた」

「で、その心は」

「日韓を不信に陥れるのが第1の動機だったけれど、本当はロシア軍を利用してニセのクーデター劇を演出、一気にロシアは政権をひっくり返す。軍の制御能力を失ったという事で現ソブリン政権を崩壊させ」

「ウラージ党が政権を執る」

 安里3佐が感づいたようだ。

「その通り」

「クーデターじゃないですか」

「ええ。明日、情報本部が正式に分析結果を官邸に届けるわ」

「まさか、環日本海戦争?」

「それについてはまだ名前は決まっていないけど、そういう事態が始まっていると見て間違いないわ。

 市ヶ谷は防衛レベルを上げ、各飛行隊と高射隊に待機命令を発令した。明日、C棟が資料をそろえ次第、官邸は防衛待機を正式に命令する」

 

 こうして、この戦争は始まったのだった。

 

 明くる朝一番で機付長たち地上整備班は輸送機で移動、その輸送機を護衛して僕と安里3佐はカタナの飛行展示を一回もしないまま、徳島基地へ戻った。

 

徳島基地

 徳島基地は、もともと練習機の飛行基地だった。

 本来なら築城基地や小松基地、百里基地、三沢基地、千歳基地といった航空基地があるのだが、国連軍参加をにらんだ防衛計画で徳島基地が拡張された。

 数年先には新淡路市と呼ばれる海上都市が大阪湾に造られる。その直接防衛の意味もあって、徳島基地は大幅に拡充されたのだった。

 いつもの滑走路に着陸し、駐機場に機体を留める。

 留守居の副機付長がはしごをかけ、登ってきて出迎える。

「ごくろうさまでした」

 そのとき、同時に同じカタナが離陸していく。哨戒飛行だろう。

「あとよろしく」

「はい」

 牽引車がやってきて、僕らが列線を離れて飛行隊の格納庫に向かう間にカタナを牽引し始めた。

 緊急発進用の装甲格納庫のところには、2機のカタナが武装状態で待機し、そのとなりに緊急発進要員待機所が、その隣に装甲をしていない格納庫があり、そこにロッカールームがある。

 その格納庫は、よくある丸屋根ではなくスクエアな概観で、中には熱源に反応して放水する自動消火放水銃があり、防火壁も備えられていて、空母の格納庫と同じような構造になっている。

 カタナは地上運用機で、海上自衛隊の空母にはSTOL(短距離離着陸)可能な戦闘機・F-211が装備されている。

 着替えて、隊長のいる格納庫脇の詰め所にはいる。

「ご苦労だったな。まさかこんなことがあるとは思っても見なかった。ともかく休んでくれ」

 隊長に報告を終え、隊舎に車で移動する。

 隊舎は徳島基地の拡張された地区にある。

 日本国内は遙か昔よりバッジシステムと呼ばれる迎撃指揮システムが張り巡らされ、音速でやってくる外敵に可能な限りADIZ、防空識別圏で迎撃機と接触させ、本土への侵攻を阻止するようになっている。

 かなり昔から標準規格よりも大きな冗長性を持たせたシステムで、これの通っている離島ではその島の住民数に不釣り合いなほどの大きく豪勢な光ファイバー施設を含んだ通信施設が作られていた。しかもそのバッジシステムは更新されJADGE、ジャッジシステムとなり、今は新ジャッジシステムが運用され始めている。

 それが破られでもしない限り、日本本土への空からの攻撃は防げる。

 隊舎でカタナを動かすAIの入ったストレージ、wind-yukiを隊舎内の金庫に保管する。

 金庫には預かり証と、バッジシステムを統合した統合空中戦情報評価装置『マザーJ』と情報をやりとりするためにストレージに接続する端子のあるロッカーがセットされている。

 この部分だけ、外部からの攻撃に絶えるように厚さ1メートルのコンクリートと複合素材の装甲が張り巡らされている。

 その後、食事を取る。

 整備員や基地の自衛機銃・自衛対空ミサイル隊のみんなと同じ食堂だが、飛行機搭乗員には補食としてのおやつがつく。

 今日のおやつはプリンだった。

 そして、独身寮、BOQに帰る。

 二人で一人の部屋で、ルームメイトは同期の高輪(たかなわ)2尉である。

 彼との部屋の仕切りには本棚が作り込まれている。窓際に机、そして昔好きだったゲームの自機の飛行機のディスプレイモデルが飾ってある。

 高輪は出番らしく、明かりが消えている。

 テレビのように使うパネルを点灯させる。

 繰り返し繰り返し竹島空爆の話が続いている。

 一瞬、意見の集まるウェブ上の意見共有システム・びでお1スレッドを見ようと思ったが、やめた。

 大事なことは、すでに話してもらってある。

 戦争は、始まったのだ。

 疲れていたので、着替えてベッドに横たわった。

 今頃、父はどうしているだろう。

 市ヶ谷の地下には装甲された指揮所があるという。僕は一度も入ったことがないし、ほとんどの自衛官もそうだ。

 どういう仕組みになっているかはいろいろな本やアニメで描かれてきたが、父に聞くと、一つもホンモノと似たものは無いという。

 じゃあどう違うのか、と聞かなかった。

 それを知ったところで、どうするわけでもない情報を入れてどうするのだ。死の向こうまで背負っていく荷物が増えるだけで、いいことはない。

 疲れていたが、気ばかり妙に冴えていた。

 携帯端末に転写した飛行割を見直した。

 飛ばなくてはならない。

 どうあっても。


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