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外国為替市場とビットコイン

外国為替市場とビットコイン
Seibun Satow
Jun, 18. 2013
 
「勘定合って銭足らず」。
『諺苑』
 
 日々ニュースで報道されながらも、仕組みが一般にはあまり理解されていない物事があります。その一つが外国為替市場です。マスメディアの報道で、「円買いドル売りの動き」や「安全資産である円を買ってドルを売る流れ」といった言い回しが使われます。しかし、この意味をわかっている市民は決して多くないでしょう。
 
 外国為替市場は具体的に実在しません。特定の枠組みの中で行われる取引全体を指す抽象的概念です。この取引の多くは電話や電子機器を通して行われています。
 
 為替は銀行為替や小切手、郵便為替、銀行振込など金融機関を介した現金以外の決済手段を指します。決済は債権債務関係の解消のことです。この為替決済において、一方の当事者が海外の場合を特に外国為替と呼びます。外国間の決済では、通貨が異なりますから、交換する必要があります。これを行うのが外国為替市場です。
 
 外国為替市場では異なる通貨を交換するための比率が設定されています。これが為替レートです。インターバンク市場における各国通貨の取引の相場に当たります。この市場では通常100万通貨単位を最低取引単位として金融機関が取引をしています。ドルですと、100万ドルが最低取引単位です。非常に大口の取引なのです。
 
 現在、日本を含め多くの国が変動相場制を採用しています。為替レートは需給のバランスによって市場で決まります。原則的に市場の調節機構に委ねられていますから、短期的な乱高下や本来の水準から乖離するミス・アラインメントも生じます。けれども、変動相場制は外国為替市場の不均衡の是正が期待できるとして国際的に採用されています。各国通貨に対する需要と供給がレートを決定しますが、中でも、基軸通貨であるドルが重要な位置を占めています。
 
 ある通貨の資産を別の通貨建てに交換する取引が急増すれば、為替レートは急変します。ここで為替レートが決まるメカニズムを具体的に説明しましょう。
 
 日本の経済主体がアメリカ製品を輸入したり、米国に証券投資を行ったり、米旅行をしたりすれば、ドルへの需要が高まります。為替レートは円安ドル高に振れます。他方、アメリカの経済主体が日本製品を輸入したり、円建ての金融資産を購入したりすれば、円への需要が増加します。レートは円高ドル安へとシフトします。円建ての金をドル建てに替えれば、円安ドル高、その逆なら、円高ドル安になるわけです。
 
 為替レートは原則市場が決定します。けれども、政府・中央銀行は野放図に外国為替市場を放置していません。市場が過度な変動を示し、レートが不適切と判断した時には、単独もしくは国際協調で介入することもあります。
 
 日本を例に説明しましょう。諸般の事情により通貨が投機の対象となり、為替レートの急変が実体経済に悪影響を与えると政府が判断したとします。財務省は、その際、日本銀行に市場取引に参加して通貨売買をする命令を発動することができます。これが介入です。
 
 介入にもいろいろな種類がありますが、基本的な方法をこうなります。円売り介入の場合、資金は財務省の外国為替資金特別会計から捻出されます。それを元手に、日本の債券市場で政府短期証券(FB)を発行して円資金を調達します。その円を為替市場で売却して、他通貨を購入します。一方、円買い介入の場合、外貨準備から他国の国債など諸通貨を売ります。介入には国債をめぐる取引がついて回るのです。財務省は、ですから、介入の実績を公表しています。
 
 今日、外国為替が多様化しつつあります。外国為替市場は抽象的な概念だと言いましたが、通貨自身がコンピュータとインターネットの中にしかない仮想通貨も登場しています。その一つが今話題の「ビットコイン(Bitcoin)」です。
 
 フリードリヒ・フォン・ハイエクが貨幣発行自由化論を主張した時、世間の反応の大半は嘲笑するか、無視するかのいずれかです。それは政府による貨幣供給の独占を廃止し、民間機関が競争を通じて自由に発行するというものです。今日、そのアイデアは事実上実施されています。クレジットカードや電子マネーなど各種の金融テクノロジーによって貨幣市場の供給量は膨らみ、中央銀行によるコントロールが完全にはできなくなっています。
 
  貨幣発行の自由化は決済手段の多様化です。電子マネーは電子情報の交換による決済で、将来性が期待されています。決済システムにおいて重要なのは効率性と安全性であす。決済にはリスクが伴い、信用リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスクなどがあります。また、決済システムは多くの現代的な課題に直面しています。IT技術の高度化、国際化と標準化、国際的な金融市間の競争の激化、取引規模の拡大などが挙げられます。電子マネーが普及するには、これらの課題を解決するか、それを上回る使用のインセンティブがあるかといった条件が不可欠です。
 
 電子決済は通常次のような流れをたどります。ドルや円などの通貨をインターネット上で仮想通貨に交換して送金、受け取ったら、それを自国の通貨に替えて自分の銀行口座から引き出せます。一般の電子マネーはあくまでも決済手段です。
 
 2009年、「サトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)」という謎の人物が論文でビットコインのアイデアを提唱します。それに共鳴した有志が実現します。いくつかの変遷を経て、今では、渋谷に各国通貨とビットコインの取引所「マウント・ゴックス(Mt.Gox)」が開設され、全取引の約7割がここで行われています。
 
 ビットコインは、それ自体が価値を持つ点で、一般の電子マネーと異なります。ビットコインへの交換は外国為替市場における通貨取引に似ています。通貨供給量が実際の通貨とリンクしているわけではなく、一定の計算式に基づいているのです。この式の制約上少しずつしか増えません。しかも、上限は2100万ビットコインまでと決められています。
 
 ビットコインには、中央銀行も運営主体もありません。それどころか、サーバーさえないのです。P2Pの電子マネーです。中央銀行を始め通貨制度が未整備もしくは無政府状態など不安定な地域の場合、こうしたウェブ上の決済システムの有効性が指摘されています。
 
 けれども、金本位制の復活とも見えてしまうように、取引規模の増大という今日的な課題には応えられていません。実際、金を思い出させるビットコインの仕組みは投機を招きやすいものです。総通貨価値が134月にようやく10億ドルを超えた程度です。また、先に述べた通り、外国為替取引の最低単位は100万です。2100万が上限のビットコインは現代の金融取引では希少すぎます。
 
 供給量が厳しく制約されているため、需要が増大すれば高騰、減少すれば急落する危険性があります。また、市場規模が小さいので、相場操作が容易です。しかも、供給量を管理する主体も不在ですから、こうした事態も放置されます。ビットコインは決済における今日的課題を踏まえて設計されたものではなく、今のところ、ハイリスクな通貨資産です。
 
 公共政策との整合性に貨幣発行自由化論はあまり注意を払っていません。その不在や失敗を想定する議論も必要ですが、政府は市場と相互補完関係にあるのが平常で、それを考慮しなければながりません。現代の国家はケインズ政策がビルトインされ、失業率30%を超える不況に陥ることがなくなっています。それでも生じる景気変動や経済危機に対処するため、中央銀行が金融政策を実施します。政府や中央銀行の機能を軽視ないし無視する通貨システムは非現実的です。
 
 外国為替市場に関する基礎的な知識が世間に行き渡っていない状況で、こうした新たな電子決済が生まれているのです。専門家でなくとも、この変化の中で本質的に考えるために、市民には経済リテラシーの習得が必須です。
 
 もちろん、電子マネーは将来有望です。さまざまなアイデアが今後も生まれてくるに違いありません。この金融テクノロジーが社会を変える可能性があります。けれども、現時点では決済システムの補完として位置づけるべきでしょう。
〈了〉
参照文献
吉野直行、『社会と銀行』、放送大学教育振興会、2010

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最終更新日 : 2013-06-19 22:22:21

奥付



p2p通貨ビットコインは世界を変えるのか? 佐藤清文


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最終更新日 : 2013-06-19 22:28:48

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