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歌声

ドはドーナツのド
レはレモンのレ

ミはミンナのミ



ウタゴエは踊るように人殺しを続けていた。
感情は初めから無かった。殺すことが生きることだった。
ウタゴエはイチゴの脳みそで考えた。
そうだ、どうせ殺すのならこの世にいらない奴、悪人を殺そう。
ウタゴエは殺した、ライオンの牙、コンドルの爪で。
ウタゴエは殺した、硫酸の涎、剃刀の翼で。

男『俺は利用されていただけだ!助けてくれ!』

喉を噛みやぶった。

そして、気づいた。「これじゃあキリがないよ。」
ウタゴエはイチゴの脳みそで考えた。そうだ、子供を殺そう。
悪い大人になる前に、根絶やしにしよう。

ウタゴエは殺した、公園の隅で、渋谷の真ん中で。
ウタゴエは殺した、科学室の前、グラウンドで。

子供『ねえ、ボク今からおじいちゃんのお見舞いに行かなくちゃいかないんだ。』

全身を引きちぎった。

そして、気づいた。「これじゃあキリがないよ。」

ウタゴエは、イチゴの脳みそで考えた。そうだ、女を殺そう。
悪い大人になるであろう子供を産む前に。
ウタゴエは殺した、醜くただれた顔、幼い瞳で。
ウタゴエは殺した、昼夜問わず街を駆け回った。
もはやウタゴエは、どんな人間であろうと殺すようになっていた。
ウタゴエは殺し続けた。
積み重なった死の先には、万人の幸福があるに違いなかった。少なくともウタゴエはそう信じていた。絵本のページをめくる様に、ウタゴエの心は、まばゆい好奇心と希望に満ち溢れていた。自分が世界を救う、これが生きる目的、生きている実感だ。




ある夜、防波堤の上で血まみれの牙を舌でなめしているウタゴエの前に、中学生くらいの少女が独り立ちふさがった。
制服はカッターのような刃物で切りつけられボロボロ、顔にはもはや読み取れないほどの無数の落書きが施されている。そして、彼女は静かに語りだした。

「永い永い暗闇を往く、孤独な旅だった……心は枯れ枝のように折れてなお、黴(かび)つくようだった。そこで私はウタゴエ、君に支えられたんだ。君がいつか善も悪もすべて殺し尽くし、世界を浄化するという妄想に私は夢中になったんだ。ねえ、ウタゴエ。君がいてくれなければ、私はとっくに死んでいたよ。私が憎み、呪い続けた世界と人間たちを君が……そう、たとえ幻でも消し去ってくれたから、私はここまで耐えることができた。ありがとう、ウタゴエ。……でももういいんだ。このままじゃいけないんだ。気づいたんだ、私がお守りのように抱え込んだ絶望や憎しみには、ちっともキリがないって事に。闇に色彩を与えていなかったのは私自身だった。私が君を生んだから、君を消すのも私なのよ。さよなら、ウタゴエ。大丈夫、怖くないわ。君の死が、これから私の命の意味になるんだ」

少女はウタゴエを海にそっと突き飛ばした。

ウタゴエは暗い海に消えてゆく体を眺めながら、イチゴの脳みそで考えた。
幻に生きる僕に、存在価値はあったのだろうか?
感情もないくせに、少し寂しすぎて泣いていた。

ウタゴエ『死ぬ価値があるのなら、きっと価値はあった』

ウタゴエは、ドレミの唄を頭で口ずさんだ。


 ドはドーナツのド
 レはレモンのレ
 ミはミンナのミ
 ファはファイトのファ
 ソはアオイソラ
 ラはラッパのラ
 死は幸せよ
 
 さあ、唄いましょう


奥付



歌声


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著者 : 堀内
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/syrup0117/profile


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