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キリスト教圏では絶対書けないショート。

「ガブリエル。やはりコンタクト出来るのは、この時代しかないか?」

ミカエルが尋ねた。

彼らはトリエルリ人の持ち込んだ、感応ツールのテストをしていた。

このツールは時間、空間を超えてその先の相手と、コンタクトが可能だという事だ。

彼らはこのツールをテストする為に幾度も、長老会(ダーデアースン)に申請を出していた。

ダーデアースンは現在、ロプスタンテック人が持ち込んだ別の空間移動ツールを先進科学チームが取り上げ、先進派がこの計画の実用化を押し進め、蜂の巣をつついた騒ぎで議論を戦わせている最中で、彼らの申請等後回しだった。

が、ウリエルがコネを使いなんとかねじこみ、やっと許可が降りたばかりだった。

彼らがこのツールを使ってコンタクト出来たのはどうやら、かなり未来の地球人だった。

荒野にたたずむ男で、彼は空間に現れた彼らの姿に驚かず、言葉を交わす事に、成功した。

残念ながら、トリエルリ人達が普段使っているように空間を飛び越え肉体を送るには、エネルギーが足り無すぎて無理だったが、その時代の人間と話す事には成功した。

荒野の男は、彼らを神聖なものだと思ったらしい。

がガブリエルが会話して解った事は、この時代は既に彼らが用いているエネルギーは欠片しか見つからず、このエネルギーを使って栄えたアトランティス人は最早、記憶も伝承にも、残っていないように感じられた。

…つまりどのくらいの未来かは解らないが、アトランティス人の、知恵と繁栄はすたれ、滅び去っているようだった。

しかも男は随分粗末な衣服を纏い、顔色も体付もひどく貧弱で弱々しかった。

このエネルギーに溢れた中で暮らす彼らは殆どの病から救われていたし、いつも循環が良く、顔色も良く、老化も遅かった。

だが男には軽い感応作用があり、彼らのエネルギーを感知しただけでなく感応し、吸収する能力もあるようだった。

彼らは尋ねられる言葉に返答したが、正確に彼らの言葉が伝わっているかは、危ぶまれた。

彼らの姿だって、男にはどう映っているのかも解らない。

ともかくテストしなくては。と、彼らの中で一番果敢なミカエルが言った。

男が見て、聞く事の出来るエネルギー波に出来るだけ近づけ、彼らはほんの数日先の自分達へと、映像を送ってみた。

「………随分、ブレてるな」

ミカエルが、うなった。

「生態エネルギーが背の辺りから白く広がっている……。

彼らは我々を、天使、翼ある者と思いこんでいるようだが、これなら無理も無い。

白い生態エネルギーの映像のブレが、翼のように見える。

頭の周囲に金の輪も、浮かんでいるしな。

しかも、彼らは我々が話した“万能な者”

を、神と呼んでいる」

ウリエルが聞いた。

「誰か、神に似た発音の言葉を発したのか?」

皆、一様に首を横に振った。

ガブリエルが言った。

「…感応力で感知している。

耳では無く、イメージで受け取っているようだ。

この時代に感応者は数名いるが、彼らは民に“予言者”と呼ばれているようだし、受け止める者によっては解釈も違う…」

ラファエルが、心配げに言った。

「…後世だろう?

我々は時代に介入してるんじゃないのか?」

皆が、ミカエルを見た。

彼はため息を付いた。

「…万能な者とはミュースの事だろう?

だが彼は神じゃない。

我々の時代一の、能力者だが」

ラファエルが言った。

「…本当の彼の様子を伝えたら、彼らはがっかりしないか?

ちゃんと生身なんだから」

ガブリエルが異論を唱えた。

「…むしろ感動するだろう…。

彼の概念は我々のそれを超えている」

ガブリエルはその時代の『万能なる者』ミュースの事を思った。

先進派達。

能力等殆ど無い彼らは、ミュースのように素晴らしい能力者と対峙する為、交流している宇宙人達から譲り受けた技術を都市に貢献し、人々の尊敬を得ようとしている。

けれどミュースに敵対する彼らが、どれだけその技術を都市発展に役立て、素晴らしい功績を上げようと、人々の圧倒的な敬意はミュースに向けられていた。

…そういう意味では“神”に近い尊敬を、ミュースは受けていると言っても過言では無い。

彼は天候を操り、通常の能力者では操りきれない力を操り、多くの仲間達に力を貸して、数々の災害から多くの人命を救ってきた。

どうしていつも、他の為にその素晴らしい力を、何のためらいも無く使えるのかと、彼に尋ねた事がある。

彼は『どうして息をしているのか?』と、尋ねられたような顔をして、言った。

「自分のすべき事があり、それをしているだけだ」

でもそれは無償の愛と同じだと、ガブリエルは思っていた。

だがミュースにとってそれは、当たり前の事のようだった。

ミュースは少し悲しげな顔をしてつぶやいた。

「私は他より耳と目がいい。

助けを呼ぶ声が聞こえ、その姿が見える。

その悲鳴を救い、笑顔に変わると、とてもほっとする」

彼は、大層孤独だろう。

たった一人しか、見る事、聞く事の出来ないものをずっと、見続けているからだ。

だが彼は孤独に溺れず、すべき事をする。

多くの者が彼が空間を飛んでいくと、尊敬と感謝と、暖かい瞳で見上げる。

あの夕日の中、空間を飛んでいく白い彼の姿はまさしく、神に等しい者ではないのかと、ガブリエルは思った。

だが途中で実験を、放り出す事は出来なかった。

コンタクトした男はその後、神を説いて使徒を増やした。

そして感応した際、彼らから受け取ったエネルギーで、その世界、その時代では「奇跡」と呼ばれる現象を、起こしてみせた。

が、コンタクトはいつも出来た訳では無かった。

男の価値観、概念、感情が変わると途端、波長がずれる。

感情波は色で見えたが、ある色合いの時でしか、話したり、姿を現す事は無理だった。

それ以外では男が見た物、感じた事を、こちらが受け取る事は出来た。

が男の前に彼らの姿を現し、言葉を伝える事は出来なかった。

男は、やがて磔にされた。

「神よ、私を見捨てたのか!」

男は十字架の上で叫んでいた。

彼らは一様に項垂れた。

こちらから幾らコンタクトを試みても、男の感情波は乱れ、とても話す事が出来ない。

少しでも話せたら、また力を送れて男は奇跡を起こせるに違いなかったが。

だが死の間際ようやく、男は彼らの姿を、見た。

一瞬、だったが………。

やがて彼は死した体を持ち上げ、“復活"を果たし、奇跡を起こしてみせた………。

ミカエルはコンタクト相手を無くし、報告をまとめ始めた。

天使。

そして現在、都市中が賛否両論の、ロプスタンテック人の持ち込んだツールの実用化について言い争っていたが、ロプスタンテック人は男の時代では、彼らが思う「悪魔」にその姿が似ていた。

ロプスタンテックは灼熱の惑星からの訪問者だったし、彼らの星は不毛の、焼かれた岩だらけの地で、彼らの顔は黒く、頭に山羊のような角を確かに、生やしているような姿に見えた………。

ツールは空間を浮かぶ巨大な都市を支える事の出来る技術の要で、ロプスタンテック人の提供で初めて実現する。

がその空中都市は大層巨大で、果たしてその必要があるのかが、議論の的だった。

能力者達は皆、空を飛べる。


が、飛べない先進派達は、巨大な浮遊都市を造りそれに対抗しようとした。


先進派達は事ある毎にミュースと対抗し、大がかりな計画で民衆の関心を引こうとし、その計画の殆どは、科学の力でミュースを不要な存在にしようと試みる物ばかりで、躍起になって装置の素晴らしさを民衆に示していた。


彼らは常にロプスタンテック人を引き連れ、ミュースのみならず、能力者達を見かけると

『自分達がいずれ勝ち、能力者は無用の長物になる』

そんな競争意識を剥き出しにし、都市の要とも言えるダーデアースンの多くを自分らの味方に取り込み、勢力を拡大していた。

だが民の敬意は常にミュースに向けられ、揺るがなかった。


先進派が自慢げに見せるどんな優れた装置より、今失われる!と思った大切な命を目前でミュースら、能力者達に救われた者らは、心からの感謝を能力者達に捧げていた。


それは“信仰”に近かったに違いない。


が民の真摯なミュースに向ける敬愛は、ますます先進派達を、ミュースを必ず不要の者として葬り去るという決意と野心に、拍車をかけただけだった。

もしこれらの情報をイメージで受け取っていたら、天界と地獄の戦いのように映るし、ミュースは彼らと戦って民の意志を守る、神に見えた事だろう………。



だがミカエルは後世に影響を与えた事より、この事を報告の筆頭に上げた。

“かの時代でアトランティスは影も形も無く滅び、その文明は、完全に失われていた……"

………………………………と。




              END


この本の内容は以上です。


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