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エマージェンシー

 妙な違和感を覚えて、伯爵は起床した。
 時計を見れば、まだ朝の6時である。
 日常の起床時間と同じだが、旅に来てまでこの時間に起きるとは、どうも様子がおかしい。
 ひょっとすると、体調が悪いのではないか?
 そう思って、体をチェックするものの、問題なさそうだった。
 すると、隣のベッドから苦しげな息遣いが聞こえてきた。


 もしかして……。

 おそるおそるツレに声をかけてみる。

 返事があった。

 既に起きていた。

 話を聞けば、夜中から体調を崩し、嘔吐や腹も下したらしい。
 『食中毒』の文字が伯爵の脳裏に浮かんだが、自分は何ともない。
 基本的に、体の丈夫さではツレに軍配があがる。
 日常においても、寝込むことなど全くといっていいほどないのだった。

  

 

 様子を見ていると、症状のピークは過ぎたようだ。
 ただし、すぐに回復できるという状況でもないらしい。
 今日一日、安静にしていても、明日のフライトに耐えられるかどうか。
 ここは、安全策をとるべきではないか?

 

 

 とりあえず、伯爵はホテルのフロントに電話した。
 部屋に備え付けの案内に、医師の紹介が記されていたからだ。
 日本語のできるスタッフと話したところ、ホテルの近くに病院があるらしい。
 後でわかったが、そのまま病院に行くならばホテルのスタッフも同行してくれるつもりだった。

  

 

 しかし、ここで伯爵は考えた。
 台湾の病院は、いくらかかるのか?
 海外旅行保険をかけていたので、最終的には保険で賄うことができる。
 しかし、診断書をもらったり、保険会社への請求も面倒そうだ。
 そこで、保険のキャッシュレス・サービスを利用することにした。

 これは、保険会社と提携のある病院に行けば、請求が病院から保険会社に直接されるシステムなのだ。

 

 

 

 まずは、保険のサポート・デスクに電話。
 病院を紹介してもらう。
 ホテルの近くでは2つの病院が該当したが、いずれも徒歩ではいけない距離だった。
 タクシーの利用は、避けられない。

 タクシー内でトイレに行きたくなったり、戻したりしないように万全の準備が必要だ。

 事前に電話予約をしたほうがよいとのことで、電話を試みるものの、なぜか繋がらない。
 5回ほど試して断念。
 こうなったら、ゲリラ戦法で強襲だ。

 

 

 

 タクシーに乗り込み、紙に書いた病院名を見せる。
 かなり有名な病院らしく、車はスムーズにスタート。
 幸いにも、ツレの嘔吐や下痢は小康状態を保っていた。

 

 

 

 到着。

 見上げるほどの立派な建物。
 でかい病院ではないか!

 安心するも、玄関を入って伯爵は驚いた。
 なんだ、これは……。
 凄い混雑ぶりである。
 日本の病院でも、このような混雑はみたことがない。
 加えて、どこが受付なのかもわからず、しばし途方に暮れる。

 しかし、一刻も早く治療を受けさせねば! 
 そんな想いに突き動かされて、伯爵は我に返った。

  

 

 

 伯爵は、そっと目を閉じる。
 脳裏に浮かぶは、数々のダンジョン。
 そう、伯爵はロールプレイングゲームにおけるダンジョンを、数々クリアしてきた経験がある。
 ゲームは、人の作ったもの。
 そこには製作者の意図があり、それを直感することで最短ルートを割り出す。
 それに比べれば、病院の構造など何するものぞ!

 

 おもむろに歩き出した方向に、やがてインフォメーションらしきコーナーを発見。
 とりあえず、英語で説明を試みるものの、なかなか台詞が思い浮かばない。

 すると、病院側のおばちゃんが別の人にスイッチ。
 なんと、日本語を話せるではないか。
 これで、一安心だ。

 

 おばちゃんの後をついていくと、入口とは別方向へと移動。
 その先には、別の入口がある。
 通路の左右には、移動式ベッドに横たわった人・人・人……。
 まるで映画でみるような、緊急時のような様相だ。
 伯爵はすっかり気後れし、神妙な面持ちでおばちゃんとツレの背を追った。

 

 おばちゃんを通訳として、症状の説明。
 必要書類の記入。
 保険証券の提出などを終える。
 おばちゃんがいなかったら、大変な作業だった。
 謝謝、おばちゃん。

 

 手続きが全て完了すると、先ほど目撃した移動式ベッドが運ばれてきた。
 なんと大げさな!

 率直な感想であるが、患者はこの後は病院側のスタッフにベッドを押され、検査や診察をこのベッドの上で受けるのである。

 ツレを乗せたベッドは、診察室らしき部屋の前に移動。

 ここで、おばちゃんは別の業務へと戻っていった。

 『後は、彼にお願いしましたので、大丈夫ですよ』

 おばちゃんの配慮は、最後まで行き届いていた。
 『彼』とは、ベッドをここまで押してきてくれたオジサンであり、外見は生粋の台湾人のよう。
 日本語は話せなさそうだ。
 一抹の不安を覚えたが、おばちゃんには自分の業務というものがある。
 何度もお礼を言い、伯爵は去っていくおばちゃんとの別れを惜しんだ。

 

 さて、診察を待つ間に、周囲を観察する時間ができた。
 広い通路の両側に、移動式ベッドは連なっている。
 あたりまえなのだが、皆が一様に具合の悪い表情だ。
 スーツを着た人、作業服の人。さまざまな人たちが、皆診察を待っている。
 外国人らしき人は他になく、伯爵らだけのようだった。

 

 伯爵は、おばちゃんとの会話を思い出す。

 看護師から渡された白い容器。
 一人用に小分けされた、豆腐のパックのようなプラスチック製のものだ。
 しかし、強度はもっと心許なく、底も浅い。
 これに、便を入れろとの指示。
 ただし、出た時のみでよいとのこと。

 その時は何の疑問も持たなかったが、心に余裕が出ると様々な疑問が湧いてくる。
 どうやって、入れるのか?

 直接では、たちまち溢れてしまう。

 掬って入れるには、その器具がない。
 まさか、指で?

 どうせなら、しっかり検査してもらった方がよい。
 しかし、解決方法がわからない。
 こんな時、俺が冒険野郎マクガイバーだったら……。

 そんなことを考える伯爵であった。

 

 結局、検便をせぬまま次に移行。
 診察室らしき中に入り、伯爵はしばし外で待つ。 
 息子らしき人物に連れられたお婆さんが、おぼつかない足取りで傍を通る。
 伯爵は荷物が邪魔にならないよう気を配ったが、あるものが目に飛び込んできた。
 白い。
 見覚えのある容器。

 ウォー。
 ゴッド・オブ・ウォー。
 心の中で叫ぶも、どうしようもない。
 はたして、その容器に既に便が入っているのか。

 それとも、未使用の状態なのか。

 様々な思考が回路を駆け巡り、本能がそれを遮断した。

 見るな。

 見てはいけない。

 視線を天井に据え、伯爵は彫像のように固まっていた。

 ここは台湾。
 ここに住む人たちの慣習が全てだ。
 俺は、よそ者。

 たとえ容器に検便が入っていようと、それがここのやり方だ。
 笑顔で受け入れ、道を開けよ。
 いや、既に道は開けているか。
 この状況を空気のように感じ、郷に従え。
 嫌という気持ちすら捨て去るのだ。
 伯爵、僅かに悟りの境地を垣間見る。

 

 さて、診察室からツレが出てきた。

 相変わらずベッド上にいるが、周囲を観察する余裕が出てきたようだ。

 おそらくは、最初で最後の病院経験。

 じっくり体験しようではないか。
 そのような気配すら、漂いだした。

 ウオッチアウト!
 ツレが顎を突き出す方向をみると、病人の付き添いで来たオバサンがいる。
 なんと、バッグから弁当を取り出しているではないか。
 ぬわぁにぃー。
 伯爵は、自分の目が信じられなかった。
 時間を5分巻き戻せば、お婆さんが検便の容器を持って歩いた空間である。

 しかし、そんなことは露とも知らぬオバサンは、昼飯のほうが大事だった。
 なんと、逞しいことよ。
 これって、単なる生活の一部。
 妙にカッコつけて、ギャーギャー騒ぐ自分が恥ずかしい。
 ヘタレな伯爵、自分の小ささをオバサンの飯で気づかされるのだった。

 

 さて、少し時間をおくと、医師が診察室からでてきた。
 診断は廊下で下されるらしい。
 ツレのベッドにやってきて、簡単な英語で説明をしてくれた。
 全ては理解できなかったが、どうやら急性腸炎っぽく、食中毒とは違うようだ。
 一通り説明を終えると、医師は誰かを探している様子。
 そう、初めのおばちゃんから伯爵らを託された、例の彼を探しているのである。
 彼は、他の患者のベッドを運んだりしており、やがて姿が見えなくなっていたのだ。

 医師は明らかに困っている。
 その場の空気を察し、伯爵とツレは見栄を張った。
 オーケー、オーケー。
 これで、もう大丈夫。
 そのジェスチャーは医師に伝わり、医師は診察室へと戻っていった。

 

 

 

 とりあえず、診察は終わった。

 このまま帰ってよいのか?
 判断がつかず、受付に戻っておばちゃんを探す。
 しかし、おばちゃんの姿はなく、他に日本語が解る人もいなかった。

 


 どうするか?

 顔を見合す二人に、今度は見知らぬオジサンが声を掛けてきた。
 話を聞けば、最初のおばちゃんと同じような職務らしい。
 伯爵らを気にして、診察室から後を追ってきてくれたのだった。

 なんと親切なことか!
 ありがたくて、心の底から感謝の念が湧いてくる。
 結局、この後に薬をもらわなければならないことが判明。
 それにもオジサンは同行し、サポートしてくれた。
 海外で、初めての病院。

 伯爵らにとって、予想以上に濃密な体験となった。

 

 

 


 

 
 


 

 


孔子廟に行く

 病院で帰りのタクシーは簡単につかまり、順調にホテルに戻ってきた伯爵ら。
 部屋に戻る前に、昼食を調達。

 ホテル隣のQスクエア地下におりた。
 ツレの胃腸を考慮し、パンを買う。
 YAMAZAKIという店名から、日本のヤマザキを連想させる。
 台湾っぽいアレンジ(タロイモをつかったパンなど)が施されているが、食してみたら結構うまかった。
 数種類を購入し、ジュース等も仕入れて、部屋に戻る。

 病院でもらった薬は量が多く、これだけで飲めばかなり効力は十分に思える。

 ツレは、そのまま就寝の道を選んだ。

 もう、伯爵のできることはない。
 あと半日。

 伯爵、待望のフリーとなる。

 

 とは言うものの、実はどうしてもこなさなければならぬミッションがあった。

 それは孔子廟に行き、受験のお守りを購入すること。
 平日に休みを取ったので、周囲にも多少なりとも配慮が必要だった。
 今回は、同僚の子供が受験となる。
 円満な職場環境を築くため、ここは一つ学問の神様のお守りでも手に入れておこうじゃないか。

 当初の予定では、本日の午前中は孔子廟を訪れ、次に変形金剛展(トランスフォーマー)をみるはずだった。
 プランは、大幅に変更しなければならない。
 少なくとも、ホラー映画を探す時間は譲れない。
 伯爵はリュックを担ぎ、ツレの眠る部屋を後にした。

 

 MRTに乗って、圓山駅で下車。

 地図で方向を確かめ、歩き出す。
 快晴。
 気温は暑いぐらいで、12月でも半袖で十分だった。

 屋台に毛が生えたような規模の店が少々。

 それを過ぎると、いかにもスモールタウン風情の景色が続く。

 目印になるようなものもなく、観光地とはほど遠い。
 ガイドブックでは、駅から孔子廟まで徒歩5分となっているが、なかなかその姿をみることはできない。

 実は、孔子廟の外壁に沿って歩いたのであり、門から入って初めて見えてくるのだった。

 順路らしき矢印があり、それに従って歩く。

 周囲にあまり人はいない。

 どこからともなく聞こえる鳥の鳴き声は、はたして実在の鳥か。
 それとも、幻聴か。
 自然の音しか聞こえぬ世界。
 町中とは思えぬ空間に、伯爵の心は洗われる。
 建造物に感心し、その美麗な細工を愛でる。
 ツレのために写真を撮り、ひととおり見学を終えると、いよいよお守り購入だ。
 最初に目についたのは、小さな土産物ショップ。
 観光地にあるような、孔子にまつわるグッズが一通り並んでいた。
 お守りもあるにはあるが、孔子が可愛い感じにデフォルメされている。
 しかも、日本語が書かれている。
 ご利益あるのだろうか?
 あまりに日本の観光地土産然としているのに、一抹の不安を覚える。

 間違いないのだろうが、なにも日本語を入れなくてもよいのではないか?
 他にお守りが売っていないかと、一度は店を出るものの、見つからない。
 しかし、このまま手ぶらで帰っても、孔子廟まできた証がない。
 迷ったあげく、伯爵は購入した。
 ちなみに、同僚の子供は見事合格を果たした。
 しかし、それは人伝に聞いたものであり、当事者から報告されたものでない。
 伯爵は、密かに思う。

 やはり、孔子は絶大だ。
 自分の時に、このお守りをもらっていれば……。

 


駅を出るとキャラクターによる歓迎の光景が……

 

何もなさそうな駅前風景

 

 

 

孔子廟の入口を抜けた光景

 

 

 

 

 

 


八徳路のDVDショップ

 アジアには、各国にアキバと称される電脳地帯が存在する。
 電脳といっても、伯爵は本当の電子機器を求めたりはしない。
 自身のオタク的欲求を満たすものが見つけられれば、それでよい。
 どちらかといえば、DVDソフトやゲーム、CDやコミックがその対象となる。
 

 台北のアキバといえば、『光華商場』。
 昔から存在しているが、数年前に移転した。
 移転によって、大規模なビルの中に、小さな店が幾つも入っているという形態に変化。
 その雰囲気は、日本のアキバにも同様にみることができる。

 ビルになったことにより、以前と比較して整然となった。

 しかも、きれいになっている。
 以前の雑然としたイメージは、見事に払拭されたといってよいだろう。

 

 『光華商場』は、MRT忠孝新生駅から徒歩数分のところに位置する。
 孔子廟を後にした伯爵の姿も、ここにあった。
 MRTの出口はいくつかあり、馴れないうちは気をつけた方がよい。
 移転後初の訪問では、伯爵は辿りつくことができなかった。
 その理由とは、

 ・駅の出口から目視できない位置にある。

 ・過去訪問した6月は、すでに気温が高く、探すのに相当の体力が必要だった。
 ・当時は自由になる時間が少なかった。

 などが挙げられる。

 知ってしまえば、なんだということになるが、町中には光華商場を示す看板など存在しない。
 ガイドブックでしっかり地図を確認するか、事前にインターネット等で行き方を確認した方がよい。

 もしくは、タクシーで行ってしまえば、煩わしい問題は起こらない。

 

 さて、伯爵。

 迷った挙句、先に手前の八徳路周辺を散策。
 ここらにもDVDショップがあり、そのうちの一軒は必ず立ち寄る店だった。

 ここは、記念すべきレア・ホラー発掘の第一現場でもある。
 まるで愛想のない親父を横目に入店すると、まずは一通り店内を物色。
 ハリウッド映画・日本映画・韓国ドラマ・中国ドラマといった分類で、昨年来たときとレイアウトは変わっていない。
 前回の発掘現場を見ると、新たなソフトはあるものの、ジャケ写がどうにも魅力薄。
 今後の豊作を信じて、スルー。
 ちなみに、この店の特徴を挙げてみよう。
 ソフトの価格は、光華商場と同等程度。

 発売から少し時間が経ったソフトは、大体270元(約800円)程度。
 光華商場より、ホラー発掘率は高いが、後述する台北駅周辺のショップに比べれば低い。
 他店と違うのは、アメリカ系ホラー(特にB・C級系)が分類されたコーナーがあり、一本あたり99元(約300円)の特価となっていることもある。

 店主の愛想がまるでなく、購入時は多少の緊張を強いられる。
 しかし、何か問題があったことはない。

 

 他に、このショップ以外に怪しい系DVDショップも近隣に存在する。
 いわゆるAVを扱っている店で、商品のほとんどは日本のものらしい。
 張り紙に『熟女コーナー⇒』なる案内があり、気になって移動してみると、レジの真正面に出てしまった。
 そこに座っていた店のおばちゃんが熟女だったのは、シャレのつもりであろうか?
 気まずさに耐えきれず、伯爵は逃げるように退散。

 

八徳路風景


光華商場

 さて、いよいよ光華商場にやってきた伯爵。

 ビルの1階は、飲食店などがあり、逆にショップとして見るところはない。
 すぐさまエスカレーターで2階へ移動。
 ここから、ローラー作戦を開始する。
 小さな店が多いためか、フロア案内図など存在しない。

 何がどこにあるのか。

 どんな店があるのか。

 ショップの配置に、規則性や法則性は存在しない。

 そのため、隅から隅まで確認する必要があるのだ。

 

 とりあえず、DVDを売っている店を把握。
 調査対象は、主に2階から4階くらいまで。
 その上階も存在するが、伯爵の参考になるような店ではない。
 気になるDVDショップは4軒程度。
 中には、かなりの陳列数を誇る店もある。
 それらを、一軒一軒丁寧に再調査していく。
 しかし、なかなかホラーは見つからない。

 どの店も、八徳路にあるDVDショップと似たような商品構成である。
 日本のアニメや特撮モノも存在し、昭和の仮面ライダーBOXが伯爵の興味を惹いた。
 ちなみに、価格は1,000元(約3,000円程度)。
 仮面ライダーBLACKがセールとなっており、400元(約1200円)程度で売られていた。
 思わず購入に踏み切ろうとした伯爵だが、スーツケースに占める容積は多くなる。
 後ろ髪を引かれながらも、断念するのだった。

 他にも特撮モノは、取り扱われている。
 ウルトラマンや宇宙刑事シリーズ、ジャスティライザーやセイザーXなど。

 しかし、肝心のアジアン・ホラー(日本を除く)には、出会えない。

 

 伯爵は、PCゲームを売る店へと移動。
 WindowsXP時代のゲームが、多く扱われていることを知る。
 価格は、安くなっているもので200元(約600円)程度。
 中文という表記があるので、中国語仕様になっていると思われる。
 あまりの安さに、海賊版かと疑うものの、どうも正規品らしい。
 実際に購入したわけではなく、その真偽は不明のままだ。

 

 

 

 ここで伯爵。

 なぜか冒険心が宿った。

 かねてから、台湾オリジナルのゲームを見たいと思っていたのだ。

 人の良さそうな、いかにも台湾のオタク然とした店員に質問を投げかかる。

 『ドゥーユーハヴ、タイワンズ オリジナルゲーム?フォーウインドウズセブン』

 この文章が正しいのか、正しくないのか。

 疑問を気合いで押し返し、伯爵は返答を待った。
 『ウィンドウズセブン?ノー』
 はにかみながらも返答する店員。

 どうやら意味は通じたようだ。

 本来ならば、XPでもよいから台湾オリジナルはないかと問うべきところである。
 しかし、台湾人に質問したという事実だけで伯爵は満足。

 『オーケー、サンキュー』

 と言い放ち、その店を後にした。
 これが伯爵のヘタレたる所以である。

 

 滞在時間、約2時間。

 既に時刻は16:00になろうかとしていた。

 収穫は、未だ無し。

 いよいよ、最後の望みをかける時がきた。

 あの店がある。
 確信があった。

 あの店は、きっと待っていてくれる。

 前回も、この危機を救ってくれたあの店だ。

 あの店なら間違いない。

 

 期待と不安に包まれながら、伯爵は光華商場を後にした。

 

MRT忠孝新生駅の出口から見た景色
光華商場の姿を目視できない

 

 

 

 

 

右手に科学技術大学を見ながら進む

 

 

少し進むと、前方に高架が出現

高架の左下あたりが光華商場だ

 

 

外見は、えらく地味……


台北駅周辺のDVDショップ

 MRTで台北駅まで戻った伯爵。

 もう後がない。

 逸る気持ちを抑えきれず、足は自然と小走りになっていた。

 

 人混みの激しい細い通路を通ると、おもむろにショップが姿を現す。
 店内は、台湾ティーンズに溢れ、主に日本や韓国のアイドルCDなどを物色している。
 あくまで感覚的だが、台湾アイドルそのものの人気より、外国勢の方が優勢の店内レイアウトなのだ。
 ティーンズの合間を縫って、DVD棚を発見。
 多くの商品からホラーを探し出すコツは、黒い背表紙のパッケージを探すことだ。
 黒いから、他商品よりはよっぽど目立つ。

 おっと、ホラー発見。

 ジャケ写を表裏まんべんなく確認し、見たことのないものであることを確認する。
 注意しなければならないのは、タイトルやジャケ写が台湾仕様になっているからだ。

 そのため、ジャケ裏のわずかな画面写真から、自らの記憶と照合する作業が必要なのだ。

 ここで、幾つかの未鑑賞ホラーを発見した。

 ただし、焦ってはいけない。
 実は隣にも別のDVDショップがあり、価格設定も違うのだ。

 作品名と価格を記憶し、隣と比較することも重要である。

 

 しかし、これで心に余裕ができた。

 全くの収穫なしではない。

 前回の訪台から僅か一年。

 その間に、どれだけホラーがリリースされるか心配していたが、きっちり結果は残していたようだ。

 もう何の心配もいらない。

 後は、オタク的欲求をどれだけ満たすかである。

 そのひとつが、『那些年、我們一起追的女孩』である。

 

 この作品は、まず映画の主題歌をYouTubeで知った。
 鼓夏という歌手が唄っており、作曲は日本人である。

 それを聞いて納得したが、昔のフォークソングを思わせ、メロディが覚えやすい。

 加えて鼓夏のクリアな歌声がばっちりハマっている。
 YouTubeの画像は、映画のシーンを使用したPVとなっており、非常に気になる作品だった。

 日本でも、何かの映画祭で上映されたらしく、一部のホームページでは『那些年 あの頃、君を追いかけた』という題名で紹介されている。

 まるで、ストーカーのようなイメージの邦題だが、実際は素晴らしい青春映画である可能性が高い。

 日本版が出てくれればよいが、出ない可能性もある。

 それならば、いっそ台湾で購入すべきか?

 などど、伯爵は考えていた。

 そして、ようやくその作品を発見することになったのだ。

 

 台湾の映画なのに、こんなに見つからないとは……。

 確かに、その店でも棚のはるか上段に位置し、探すのは困難な状況にあった。

 それを探しあてたのは、伯爵のマニア的勘以外の、何ものでもなかった。

 やがて、その店での物色は終了。

 比較のために、隣の店へと移る伯爵。

 そこには、不思議な体験が待っていた。

 

 

 店舗は、似たような作りである。

 入口から奥までをCDの陳列棚が並ぶ。 

 異なるのは、DVD売り場が2階になっていることだ。

 DVDは、ティーンズには人気がないらしい。

 CD売り場と比較して、ずいぶんと閑散としている。

 幸い、この方がゆっくりと商品を探すことができる。

 さらに、こちらの店は明確な国別分類がされていた。

 つまり、和製ホラーなら、日本コーナーだけを探せばよいことになっている。

 

 ここで、台湾で売られているホラー映画の種類を説明しよう。

 まずは、アメリカ系のメジャー作品。

 そして、物量的にはタイや韓国。

 和製もソコソコの検討ぶりであるが、みひろ主演作とか『競泳水着なんとか』のようにエロっぽい作品が目立つ。

 他には、インドネシアなども稀に発見することができる。

 商品によるが、字幕には英語と中文(中国語)が入っているものと、中文だけのものもある。

 当然のことながら、日本語字幕は入っていないのが前提だ。

 

 さて、伯爵の興味は主にタイと韓国にある。

 この二つのコーナーを慎重に調査し、気になるタイトルをピックアップ。 

 最新作というよりは、特価扱いの作品が充実しており、タイミング的に恵まれていたらしい。

 どのような作品と出逢えたかは次ページにて紹介するが、実は異色な体験があった。

 

 

 

 あらかた物色を終えた伯爵。
 何故か、フロアの最奥部が気になった。

 伯爵の膝あたりの低い陳列棚が、まるで祠のようになっている。

 

 そこに並べられたタイトルを見て、伯爵は愕然とした。

 主にタイ・ホラーが揃っている。
 国別のコーナーではランダムに配置されていたが、ここでは整然と並んでいる。

 しかも、国別コーナーにはなかった最新作まで!

 さらに、格闘映画のタイトルまで揃っているではないか!

 

 ゴォゴゴゴゴゴゴ……。

 周囲の空気が迫ってくるようだった。

 まさか……。

 まさか、同じタイプのスタンド!?

 誰かが自分を観察しているのではないか?

 この祠をみて、反応する人間をチェックしているのではないか?

 そんな思いが脳裏をよぎる。

 

 いるのか?

 台湾にも同じタイプのマニアがッ!?

 周囲を見渡したが、伯爵に目を向けている者はいない。

 それでも、きっといるに違いない。

 そいつは、日本のアキバに来て、ホラー映画を物色しているかもしれない。

 世間には、隠れたマニアがまだまだ存在している。

 祠は、そのことを伯爵に物語っていた。

 

 気がつけば、時刻は夕方6時を過ぎていた。

 そろそろ、ツレの様子が気になる。

 台北駅の寿司屋で助六風の寿司を買い、ホテルへと戻る伯爵であった。



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