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台北駅周辺のDVDショップ

 MRTで台北駅まで戻った伯爵。

 もう後がない。

 逸る気持ちを抑えきれず、足は自然と小走りになっていた。

 

 人混みの激しい細い通路を通ると、おもむろにショップが姿を現す。
 店内は、台湾ティーンズに溢れ、主に日本や韓国のアイドルCDなどを物色している。
 あくまで感覚的だが、台湾アイドルそのものの人気より、外国勢の方が優勢の店内レイアウトなのだ。
 ティーンズの合間を縫って、DVD棚を発見。
 多くの商品からホラーを探し出すコツは、黒い背表紙のパッケージを探すことだ。
 黒いから、他商品よりはよっぽど目立つ。

 おっと、ホラー発見。

 ジャケ写を表裏まんべんなく確認し、見たことのないものであることを確認する。
 注意しなければならないのは、タイトルやジャケ写が台湾仕様になっているからだ。

 そのため、ジャケ裏のわずかな画面写真から、自らの記憶と照合する作業が必要なのだ。

 ここで、幾つかの未鑑賞ホラーを発見した。

 ただし、焦ってはいけない。
 実は隣にも別のDVDショップがあり、価格設定も違うのだ。

 作品名と価格を記憶し、隣と比較することも重要である。

 

 しかし、これで心に余裕ができた。

 全くの収穫なしではない。

 前回の訪台から僅か一年。

 その間に、どれだけホラーがリリースされるか心配していたが、きっちり結果は残していたようだ。

 もう何の心配もいらない。

 後は、オタク的欲求をどれだけ満たすかである。

 そのひとつが、『那些年、我們一起追的女孩』である。

 

 この作品は、まず映画の主題歌をYouTubeで知った。
 鼓夏という歌手が唄っており、作曲は日本人である。

 それを聞いて納得したが、昔のフォークソングを思わせ、メロディが覚えやすい。

 加えて鼓夏のクリアな歌声がばっちりハマっている。
 YouTubeの画像は、映画のシーンを使用したPVとなっており、非常に気になる作品だった。

 日本でも、何かの映画祭で上映されたらしく、一部のホームページでは『那些年 あの頃、君を追いかけた』という題名で紹介されている。

 まるで、ストーカーのようなイメージの邦題だが、実際は素晴らしい青春映画である可能性が高い。

 日本版が出てくれればよいが、出ない可能性もある。

 それならば、いっそ台湾で購入すべきか?

 などど、伯爵は考えていた。

 そして、ようやくその作品を発見することになったのだ。

 

 台湾の映画なのに、こんなに見つからないとは……。

 確かに、その店でも棚のはるか上段に位置し、探すのは困難な状況にあった。

 それを探しあてたのは、伯爵のマニア的勘以外の、何ものでもなかった。

 やがて、その店での物色は終了。

 比較のために、隣の店へと移る伯爵。

 そこには、不思議な体験が待っていた。

 

 

 店舗は、似たような作りである。

 入口から奥までをCDの陳列棚が並ぶ。 

 異なるのは、DVD売り場が2階になっていることだ。

 DVDは、ティーンズには人気がないらしい。

 CD売り場と比較して、ずいぶんと閑散としている。

 幸い、この方がゆっくりと商品を探すことができる。

 さらに、こちらの店は明確な国別分類がされていた。

 つまり、和製ホラーなら、日本コーナーだけを探せばよいことになっている。

 

 ここで、台湾で売られているホラー映画の種類を説明しよう。

 まずは、アメリカ系のメジャー作品。

 そして、物量的にはタイや韓国。

 和製もソコソコの検討ぶりであるが、みひろ主演作とか『競泳水着なんとか』のようにエロっぽい作品が目立つ。

 他には、インドネシアなども稀に発見することができる。

 商品によるが、字幕には英語と中文(中国語)が入っているものと、中文だけのものもある。

 当然のことながら、日本語字幕は入っていないのが前提だ。

 

 さて、伯爵の興味は主にタイと韓国にある。

 この二つのコーナーを慎重に調査し、気になるタイトルをピックアップ。 

 最新作というよりは、特価扱いの作品が充実しており、タイミング的に恵まれていたらしい。

 どのような作品と出逢えたかは次ページにて紹介するが、実は異色な体験があった。

 

 

 

 あらかた物色を終えた伯爵。
 何故か、フロアの最奥部が気になった。

 伯爵の膝あたりの低い陳列棚が、まるで祠のようになっている。

 

 そこに並べられたタイトルを見て、伯爵は愕然とした。

 主にタイ・ホラーが揃っている。
 国別のコーナーではランダムに配置されていたが、ここでは整然と並んでいる。

 しかも、国別コーナーにはなかった最新作まで!

 さらに、格闘映画のタイトルまで揃っているではないか!

 

 ゴォゴゴゴゴゴゴ……。

 周囲の空気が迫ってくるようだった。

 まさか……。

 まさか、同じタイプのスタンド!?

 誰かが自分を観察しているのではないか?

 この祠をみて、反応する人間をチェックしているのではないか?

 そんな思いが脳裏をよぎる。

 

 いるのか?

 台湾にも同じタイプのマニアがッ!?

 周囲を見渡したが、伯爵に目を向けている者はいない。

 それでも、きっといるに違いない。

 そいつは、日本のアキバに来て、ホラー映画を物色しているかもしれない。

 世間には、隠れたマニアがまだまだ存在している。

 祠は、そのことを伯爵に物語っていた。

 

 気がつけば、時刻は夕方6時を過ぎていた。

 そろそろ、ツレの様子が気になる。

 台北駅の寿司屋で助六風の寿司を買い、ホテルへと戻る伯爵であった。


発見したホラー映画たち

 発見したホラー映画を紹介しよう。

 他にも気になった作品はあるが、限りがあるので厳選した。

 

 ■韓国

 ・『陰聲』

 ジャケ写……血の涙を流す女。女学生と、彼女に触れようとする幽霊

 実は韓国ホラーの有名シリーズ・女校怪談の一つ。残念ながら邦題『ボイス』で日本リリース済

 

 ・『結伴自殺』

 ジャケ写……学校の屋上から、今にも飛び降りようとする4人の女学生

 こちらも女校怪談シリーズ第5弾。こちらは、現在のところ日本未リリース。

 

 

 

 

 ■タイ

 ・『鬼機No.8』

 ジャケ写……旅客機内部。CAと懐中電灯を照らす整備員。その周囲に多数の霊

 こちらは、日本でリリース予定

 

 ・『詭門開 Who R U』
 ジャケ写……開きかけたドアの前に座る林家パー子風女学生と母。共に顔色悪し

 ジャケ裏見ても、内容がさっぱり想像できず

 

 ・『鬼詛咒 Six』
 ジャケ写……右上部に恐怖顔の女。中央にマジナイのマーク。

 こちらもジャケ裏から内容は想像できず

 

 ・『鬼4忌 STILL』
 ジャケ写……中央に女の霊らしき姿。左右に不審顔の男女。下部に布に包まれた死体。

 4篇からなるホラー・オムニバス。ちょっと気色悪そう

 

 ・『609猛鬼終結者』
 ジャケ写……首を切られて横たわる男。その奥にメスを持つ口裂少女と母親

 画は迫力あるが、どうやらホラーコメディらしい

 

 

 

 

 ■香港 

 ・『童眼 THE CHILD’S EYE』

 ジャケ写……巨大な瞳。手前に美少女

 ヒロインは、台湾のアイドル、レイニー・ヤン。監督は、あのパン・ブラザーズ

 

 台湾の新作DVDは、定価が400~500元(約1200円~1500円)程度。

 韓国ホラーなどは、廉価盤として100元(約300円)がメーカー価格として設定されるものもある。

 さらに、店舗によってはセールとして39元(約120円)まで下がるものもあった。

 

 注意してほしいのは、これらのソフトをそのまま日本に持ち込んでも、家庭用DVDで全てが視聴できるわけではないということ。

 台湾の映像記録方式はNTSCであるが、リージョンは日本と違う3であることが多い。

 中には、リージョン・フリーも存在するが……。

 

 

 

 

 

 


パレ・デ・シンの朝食

 伯爵らは、4日目の朝を迎えた。

 心配していたツレの状態も回復。

 朝食も食べることができそうだったので、朝食レストランへと向かう。

 

 あくまで個人的感想であるが、パレ・デ・シンの朝食は良い意味で台湾っぽさを残していると思う。

 サラダの野菜や果物。

 中華系メニュー。

 内容的には同じ台北のシャーウッド・ホテルと似たような感じだが、たとえばヨーグルトのクオリティなどはパレ・デ・シンに軍配があがる。

 もちろん、完璧ではない。

 人の好みによって、たとえば中華系メニューの品数がもっと多い方がよいと考える人もいるかもしれない。

 ただ、伯爵らにとっては、バランスが非常によく、味にも大変満足している。

 この朝食ビュッフェを食べなければ、台湾に来た気がしないのだ。

 

 前回と比べて、気になった点をあげると、日本食メニューが減ったような気がする。

 その理由は予測がつく。

 それは、蕎麦やうどんの麺類に起因する。

 日本人にとって、麺類はうれしい。

 最初は、伯爵も喜んで食したのだが、ツユが間の抜けた味になっている。

 出汁を取っていないのではないか?

 そんな疑惑が、持ち上がる。

 そのため、一回食べれば、もう良いという気になってしまった。

 当時は、蕎麦・うどんコーナーが大量に売れ残り状態となっているように思えた。

 

 パレ・デ・シンともあろうものが、出汁を取らないツユを提供するだろうか?

 どうにも納得がいかず、もう一度トライしたことがある。

 その時、新たな発見があった。

 出汁の部分が、鍋の底で沈殿しているのでは?

 このアイデアは、当たりであった。

 お玉で底からかき混ぜると、ツユは正式な味へとチェンジ。

 しかし、これはあまりに勿体ない話だ。

 その発見も既に遅く、今回は麺類が大幅削除。

 そうめんをアレンジしたヘルシー・サラダ風に姿を変えていた。

 

 

 

 このように、メニューは見直しがされているようで、次回の楽しみにも繋がる。

 反対に、これまで気に入っていたものが、無くなっている可能性もある。

 少なからず特徴的なビュッフェなので、宿泊者は一度は体験してみるべきであろう。

 

 

 

 

 

 

 


春水堂

 朝食を終えた伯爵ら。

 伯爵は徒歩圏内にあるお茶屋でさらに土産用茶葉を購入。

 ホテルに戻り、11時頃チェック・アウト。

 帰国便の出発時間は、16:00頃。

 14:00頃に空港到着していればよい。

 

 スーツケースも土産で重くなっており、ここはホテルからタクシーで空港へ向かう。

 タクシーはホテルのエントランス付近で待っているが、ドア・ボーイがいれば手助けしてくれる。

 人によっては、『マツヤマ?』なんて行き先を聞いてくれるが、今回はいつもの人がいなかった。

 若い女性だったが、『マツヤマ』といっても通じない。

 念のため、『松山機場』と行き先の書いたメモを持っていたが、これまでの経験から口で伝えられないのも寂しい。

 

 勇気を出して初めての中国語。

 

 こんなこともあろうかと、伯爵は空港の発音を覚えていたのだった。

 『ソンシャン・エアポート……』

 その言葉に、ドア・ボーイならぬガールの顔が晴れた。

 自信ありげに頷き、タクシーの運転手に行き先を告げる。

 用心深い伯爵、実はしっかりメモを運転手にみせて確認をとった。

 走り出すタクシー。

 帰路は、どことなく寂しい。

 昨日、病院に行った時の道。

 客観的にみれば、大勢の人で賑わっている。

 タクシーの運転手は、全くと言ってよいほど話しかけてこない。

 これはこれで、ありがたい。

 おそらくは、英語すら通じないのだから。

 

 渋滞がなければ、空港まで15分程度。

 その間に、旅行中の記憶を整理する。

 今回もいろいろなことがあった。

 ホラー映画も発見した。

 やはり、期待を裏切らない街だぜ、タイペイ。

 

 車は、空港に到着。

 まずは、スーツケースをコイン・ロッカーに入れる。

 その後、国際線側の2階にある『春水堂』を目指したが、あいにくの満席。

 ここは、いつも満席のようで、なかなか入ることができない。

 

 時間もあるので、伯爵らは再び『微熱山丘』まで歩くことにした。

 土産用のパイナップル・ケーキを購入するためである。

 空港にもパイナップル・ケーキはたっぷり売っているが、『微熱~』のこだわりがオタクたる所以であった。

 往復で約30分を歩き、再び空港へと戻ってくる。

 

 再び『春水堂』。

 あっ、空いている。

 通路側手前の二人席が、空いているではないか!

 すぐさま飛び込み、座席を確保した。

 『春水堂』は、台湾では有名な喫茶店である。

 名物は、タピオカ・ミルクティー。

 これが、絶大な人気を誇っているのだった。

 伯爵は一度体験したが、ツレは全くの未体験。

 是非とも試したいところだった。

 

 

 ここの店は、注文を聞きにくるのではなく、テーブルの伝票に数を記入してレジで注文。

 このシステムを知らないと、少し苦労する。

 ツレが伝票を持っていくと、何とタピオカ・ミルクティー売り切れ。

 売り切れなどあるのかと思ったが、小さな空港店では無理もないか。

 ところが、ジャスミン・タピオカミルクティー(小サイズで75元(約230円)などはできるとのことで、それを注文する。

 伯爵は、タピオカの入っていない、鉄観音ミルクティー(小で65元)に変更。

 どちらも満足の味だった。

 

 

 

 

 さらに、ここにも麺メニューが存在した。

 XO醤ピリ辛麺(85元。約250円)は、今回の麺食い旅の終焉にふさわしい一品。

 エビベースのXO醤が特徴的。

 辛さは、これまでの麺に比べると大したことはないが、小腹が空いたような状況には嬉しいボリューム。

 この後、機内食も出るのだから、セーブしておかないと。

 そして、チェックインの時間はやってきた。

 

 

 

 

 


帰国の途

 相変わらずのキティちゃんである。

 ドピンクなプラスチック製ナイフとフォークも恥ずかしい。

 機内食を食べながら、白ワインを飲む伯爵。

 このチグハグさ、傍からみればどうだろう。

 

 思い起こせば、数年前までは日本のアキバに行くのが楽しみであった。

 中古のヘタレ・ホラーなぞをよく捜し歩いたものだ。

 まだ、ネットレンタルも活用していない頃である。

 思うような収穫に恵まれない時も多々あった。

 それでも、わざわざアキバまで出向いて探すという行為に、夢があった。

 

 時代は流れ、今では日本発売されているホラー映画は容易に鑑賞が可能だ。

 某ネットレンタルでは、1作品あたり100円で借りることができる。

 金銭面・手間の両面で、消費者にはプラスとなっている。

 コレクター癖を満足させるならば、これまた中古品のネット販売がある。

 家に居ながら、幅広い範囲で商品を検索し、料金を比較し、購入を決めればよい。

 アキバにいって、何時間もかけて、商品を探す。

 全く収穫が無い時のむなしさ。

 それと比較すれば、人力とネット力の差はあまりに大きすぎる。

 

 ネットによって、伯爵のマニア力は増大した。

 すでに、アキバに通った時代では考えられない欲求が存在する。

 ネット万歳!

 そう、伯爵はネットの存在を否定しない。

 こんなに便利なものは、もはや手放せない。

 

 その一方で、寂しさもある。

 ひたすらに豊作を祈った、あの頃。

 期待を込めて探した陳列棚。

 路地裏の自販機でジュースを買い、自分の労をねぎらった夕暮れ。

 それらの体験は、もう日本では経験できないであろう。

 

 アジアのホラー映画も、ネットで手に入るものもある。

 しかし、それは今のところ完全ではない。

 品揃えや、価格的な理由から、まだまだ台湾で直接探す価値は勝っている。

 それもいずれは、逆転する日がくるかもしれない。

 

 伯爵は、台湾から戻ってから、さらにアジアン・ホラー熱に冒された。

 インドにも、ホラー映画がある。

 フィリピンでも、ホラー映画は作られている。

 そして、今最も注目したいのは、インドネシアだ。

 結構グロめの描写。

 クリーチャー系もあるようだ。

 そして、エロチックさも加わっている。

 それらの商品を取り扱っているネットショップは、まだ非常に少ない。

 聞けば、インドネシアのホラー映画は年間で40~50程度作られることもあるという。

 ならば、これまでにリリースされた作品はどれぐらいだろう。

 新たな開拓地が出現した。

 台湾以上に、未知の領域である。

 ネットでは、まだまだ購入が難しい。

 行くか?インドネシア。

 ホラーを探して、インドネシア。

 失われた買い物の醍醐味を再び求めて、新たな夢が出現した。

 

 もし、海外でホラー映画を物色している人がいたら、それは怪奇伯爵かもしれない。
 いつかまた、皆さまとホラーを共有できることを信じて、再見!!

 

 



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