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もし福島第一原発が東京にあったら

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第1のIF もし福島第一原発が東京にあったら

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●もし福島第一原発が東京(東電品川火力)にあったら
 ⇒23区全域が警戒区域で立ち入り禁止。賠償金総額はGDP超えで日本は破産
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*私は福島第一原発で起きたことを単純に「事故」と呼ぶことに抵抗があります。事故という言葉で言い表してしまうにはあまりにも愚かな原因で起きたからです。結果の重大さ、複雑さを知っている今、「事故」という言葉を使うことで、「フクシマ」の真相がますます見えにくくなる気がします。
 かといって「原発人災」という言葉を繰り返すのもどうかと思うので、「愚かすぎる管理・行動の結果、大量の放射性物質をばらまいてしまったあの事件の総体」を「フクシマ」とカタカナで表記することにします。
 これは「ヒロシマ・ナガサキ」が、単純に原爆が落とされたという戦争史の一コマだけでなく、その後の人間社会に語りきれないほど大きな、多岐にわたる課題を与えたことと同じ意味合いです。
 また、拙著『裸のフクシマ』(講談社)でもそうしましたが、福島第一原子力発電所のことは、現地の人たちが以前から使っていた「1F」(いちえふ)という通称で記述することにします。第二原発は「2F」(にえふ)です。
 東電では「ふくいち」という呼称も使っていますが、これは私たち福島原発周辺で暮らしていた人間にはあまり馴染みのない呼称で、どうにも違和感があるので使いません。

 

 
 まえがきで紹介した図をもう一度見てください。
 この地図は東京電力品川火力発電所から半径20㎞と30㎞の円を描いたものです。
 東京電力は、東京湾の千葉県側に千葉・五井・姉崎・袖ケ浦・富津の5つの火力発電所。神奈川県側に、川崎・東扇島・横浜・南横浜・横須賀の5つの火力発電所。それに挟まれるように、東京湾中心部に大井と品川という2つの火力発電所を持っています。
 これだけ多くの火力発電所を東京湾岸に有しているのですから、原子力発電所だって1つくらいあってもおかしくないように思えますが、東電の原発は、福島県と新潟県という、非常に離れた場所に造られています。
 なぜなら、万が一にも放射能漏れ事故を起こした場合、首都圏では取り返しがつかないことになるからです。
 それゆえに、わざわざ送電ロスの多い遠隔の過疎地に建設したわけです。
 皮肉なことに、「フクシマ」*が実際に起きてしまって、その計算は見事にあたってしまいました。

 

 もし東京湾に原発があり、その原発で福島第一のような事故を起こしたらどういうことになっていたか……。
 各火力発電所のほぼ真ん中にある品川火力の位置を基準に考えた図がこれです。
 
 品川火力発電所は1960年運転開始という古いガス火力発電所ですが、古い発電設備は徐々に廃止され、2003年には「改良型コンバインドサイクル」という効率のよい火力発電設備に完全に切り替わりました。
 この発電所の場所をサンプルとして選んだのは、東電が東京湾岸に所有している火力発電所のほぼ中心に位置しているので、サンプルとしていちばん適当だろうという判断からです。
 さて、この位置に原子力発電所があり、そこで「フクシマ」と同じ程度の放射性物質漏れを起こしたとします。運よく風が海側に流れて、漏れ出た放射性物質のほとんどを太平洋にばらまいたとしても、その一部が「フクシマ」と同じ程度に拡散しただけで、東京23区は20km圏の警戒区域(立ち入り禁止で一切の経済活動が停止)にすっぽり入るわけです。
 国会も皇居も主要企業も……日本の中枢部はなにもかも深刻な放射能汚染に見舞われ、そこから人間が出ていかなければなりません。
 これが、首都圏直下型地震による建物の倒壊、焼失などという物理的な被害であれば、その被害は甚大であったとしても、時間をかけて復旧していくでしょう。しかし、放射能汚染という被害はそうはいきません。現場に人が入れないのですから、復旧作業そのものが不可能になってしまいます。
 数十年という長期間にわたって、首都圏を含む関東エリアは日本から消えたも同然になるわけです。
 おそらく、首都は大阪か名古屋に移転となるでしょうし、放射能汚染地帯を挟んで日本は東と西に分断されるため、経済活動も二分されるでしょう。
 日本を支えるのは西日本、ひたすら援助を受ける東日本、という西高東低の構図になり、国の規模が一気に半分以下になるかもしれません。
 
 次に、「フクシマ」が東京で起きたときの被害の大きさを、金(コスト)の面で考えてみます。
 次の図は、「避難に関わる精神的賠償」として一人毎月10万円が支払われた地域です(東電賠償請求ガイドブックより)。
 
 これを「1Fがもし東京にあったら」の図と重ねてみると、こうなります↓
 
 
 このエリアの住民には、すべての補償のベースとして、1人あたりひと月10万円(集団避難所の場合は12万円)が支払われてきました。首都圏がこの程度に汚染され、同じレートで賠償が実施されていたら、一体どれくらいの金額になるでしょうか?
 東京都で約1300万人、川崎市が約144万人、横浜市が約370万人、市川、松戸、柏、千葉、船橋周辺含めて約300万人。さいたま市123万人、大宮、川越、所沢……と、このへんが全部やられた感じになるので、ざっと2000万人が対象になったとします。その一人一人に月10万円支払うと、2兆円/月です。24兆円/年。2年で48兆円。
 これはあくまでも、家を捨てて避難せざるをえなかった「精神的損害賠償」としての最低金額(無条件ベース補償)であって、財産や失業の補償は別です。避難前に得ていた収入は全額補償ですし、活動を停止させられた企業への補償もしなければなりません。
 原子力災害対策本部が内閣府に提出した資料では、「事故当時の避難指示区域内人口」は約8万6000人とされています。実際には川内村などは20㎞圏外のエリアも含めて全村避難指示を村が出しており、その区域の人たちにも「避難による精神的損害賠償」として10万円/月が支払われていますから、少し多めにみて、ここはざっくり「避難指示による対象人口10万人」としてみましょう。
 東京で同じ規模の放射能漏れ事故が起きた場合の避難指示区域人口は、今見たように2000万人とします。つまり、対象となる人口は200倍です。
 2011年10月に、政府の第三者委員会は「現時点で見積もりが可能な東京電力の賠償額は2013年3月末までに限っても約4兆5千億円」と試算しました。首都圏で「フクシマ」が起きたときの賠償金額を、人口規模の200倍で計算すると、4兆5千億円の200倍で、900兆円になります。
 実際には、東北の過疎地よりも首都圏のほうがはるかに生産性は高いし、不動産価格やインフラコストなどもずっと高いので、このさらに何倍かの金額になるでしょう。
 日本のGDPは約500兆円。GDPの倍の賠償金額となれば、どう考えても日本は破綻します。
 900兆円を日本の労働力人口約6600万人で割ると1363万円です。一人あたり1千万円単位の金が、「復興」の前に「賠償」だけで飛ぶのです。
 
*昨今はニュースなどでも「兆」という単位の金額がサラッと言われるので感覚が麻痺しがちですが、私たちはこの単位のお金に対して、極力リアルな感覚を持つ必要があると思います。
 日本の労働力人口は約6600万人。
 労働力人口の定義は「就業、休業あるいは求職中である15歳以上の人口」ですから、この数字には失業者や休業者も含まれています。実際に働いて金を稼いでいる人はもっと少ないわけですが、少なく見積もるとバイアスがかかった試算だと言われそうなので、逆に専業主婦や学生、ニートなどの一部にも働いてもらったとしてかさ上げし、潜在労働力人口7000万人としてみましょう。(それだけの仕事・雇用がない、という現実は無視して、多めに見積もっているわけです)
 日本国で働く能力のある人間7000万人が一人10万円ずつ負担する金額が7兆円(1桁の兆)、一人100万円ずつ負担する金額が70兆円(2桁の兆)、一人1000万円ずつ負担する額が700兆円(3桁の兆)だということを覚えておきましょう。
 これは荒唐無稽なシミュレーションではありません。「フクシマ」は実際に起きたこと、今も続いていることです。
 繰り返しになりますが、もし東京で放射能漏れ事故が起きたら、日本は終わってしまいかねません。恐ろしすぎて造れないので、地方の過疎地を選んで建てていったのです。