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三日後。

ルギは、アジトに戻ったネオスに、決闘を申し込んだ。
完全装備による、互いに万全な体制の元での、正式な戦いだった。

団員たちが見守る中―、中庭中央に、二人が歩み寄る。
ネオスは黒刀に短刀、ルギは双剣を装備した。

ルギは皮手袋をはめると、ネオスを睨んだ。

「……今日で……お前を…倒す」
「………」

ネオスは黙って、ルギを見つめた。

そして、ゆっくりと唇を動かす。

「…覚悟を決めたのか?」
「…ああ、お前から開放される覚悟をな」

ルギがそういい終わると同時に、ダインの号令の掛け声が響く。

「始めぇ!」

その言葉と同時に、ルギは背中の剣を抜き、ネオスに切り掛かる。
ネオスは黒刀で受け流す。

「ハアッ!」

ルギはその流れのまま、激しい打撃を打ち込みはじめる。
流れるようなルギの剣の軌跡をかわしながら、ネオスは隙をついて、ルギの肩や脇腹の間接部分を狙う。
しかし、ネオスの刀もまた、ルギの双剣に防がれていた。

「あんたは…、俺を救ってくれたのかもしれない…」

ルギは、ネオスに斬り付けながら、独り言のように呟く。

「生きる気力を無くした俺に、目標をくれた…っ!」

ガン、ガン、ガンと連続で打ち込まれる、凄まじい速さの剣の乱舞に、ネオスが少しずつ後ずさる。
さらにルギは、双剣を交差させ、叫んだ。

「だが、それだけじゃない。俺に真実を知る機会をくれた!」

ガキィン!という、金属の交わる音とともに、ルギの乱舞無双が始まった。

「ハァァァッ!!!」

と、息を深く吐きながら、左右からのすさまじい連撃を浴びせる。
ネオスも黒刀一本じゃ捌き切れなくなり、ついに腰の小刀を抜き、二刀で防いだ。

「……やっと抜いたな……!」

呟いたルギはそれでも、追撃を止めない。
双剣での乱舞無双は、激しくスタミナを消耗する。
そのために、ルギは必死にトレーニングを積み、体力をつけてきていた。

同じ二刀流になったものの、さすがのネオスにも、怒濤の剣の嵐を止めることは出来ない。
肩が、胸が、脚が切り裂かれ、皮鎧に傷がつく。
自分の刀でぎりぎりかわしてはいるが、腕や頬に、赤い筋が次々に入った。
そしてついに、黒刀が弾き飛ばされた。

「っ……!」

ネオスが眉をしかめたその瞬間。

「もらった!」

トドメとばかりに、ルギがネオスに飛び、上空から双剣を叩きつける。
しかし、ネオスはその隙を見逃さなかった。
一瞬無防備になったルギの腹に回し蹴りを入れ、その身体を吹き飛ばす。

「ぐっ!」

ルギは回転しながら受身を取り、すぐに体制を立て直したが、遅かった。
ネオスは一瞬でルギの懐まで間合いをつめると、今度は小刀を次々と回転させて、ルギの身体を切り裂く。
胴を、腕を、胸を―――
皮鎧に守られて、辛うじて傷にはならないものの、その小刀の繰り出される速さに、今度はルギが防戦一方になる。
そして、その軌跡を受け止めようとしたとき―
今度は双剣を持つ左腕に、ネオスの蹴りが入る。

「うっ!」

小手の上からでもズシンと重い衝撃に、思わず剣を落とし―――
そのまま、残った右の剣だけで防戦するが、ネオスの攻撃はさらに早かった。
右肩の付け根に小剣を深々と刺され、そのまま強く体当たりを喰らい、押し倒される。

「うわぁっ!」

ドンッ!と、地面に倒れ、一瞬目をつぶる。
すぐに目を開けたが、そこには―――

自分の上に馬乗りになり、首に、いつの間にか手にした仕込短剣を突きつけている、ネオスの姿があった。

「………負け………だな………」

ルギは、ハアハアと荒い息をしながら、呟いた。

ネオスも、肩で息をしながら、仕込短剣を引き、立ち上がる。

「……トドメを、刺さないのか…?」

右肩に刺さる剣の痛みに耐えながら、ルギはネオスに言った。
ネオスは、息を整えたあと、ルギを見た。

「……もう、勝負はついたはずだ……」

そう答えたネオスは、ルギの肩にすばやく布を巻き、小刀を引き抜く。

「ぐうッ」

苦痛に顔をゆがませ、思わず傷口に手を当てるルギを起こし、ネオスはラシェルを呼んだ。

「すぐに手当てを頼む…」

ネオスがそういうと、ラシェルは、そっと傷口に手を当て、治癒をはじめた。
ルギはその間、深く息を吐きながら、空を見上げて、誰ともなく呟く。

「……あんたの報告書を見て、わかったんだ……」

そして目を閉じる。

「……結局、妹を、病を治す方法なんか、無かったんだと……」

唇をかみ締めながら、震える声で、ルギは言った。

「…だけど、妹を笑わせてやれなかったのは…、本当の笑顔を見れなかったのは…、薬のせいでも、…あんたのせいでもなかった…」

ルギの目から、一筋の涙がこぼれた。

「……俺が、あいつの重荷になっていたんだと……ようやくわかったんだ……」




―――『待てなくて、ごめんね』―――



妹のその言葉は、妹が命を落とした、その日のことを意味するものではなかった。

自分が小さい頃から、一生懸命、自分の薬を探してくれてた兄。
自分の時間をすべて犠牲にして、自分のためだけに、生きてくれていた兄。
ならば、自分は兄のために生きよう。
いつか、兄が本当の薬を持ってきてくれる日まで。
少しでも、長い時間、傍に居れる様に。
そして、いつか、一緒に笑えるように。


―――兄が、自分から開放されて、幸せになれるように。


しかし、妹の願いは叶わなかった。
お互いに、何かが狂い始めた。

ルギは、妹のために、薬を手に入れることが自分の役目だと信じていた。
……それが、妹の願いだと思っていた。

ユイリは、兄のために、少しでも長く生きて、傍に居ることが幸せだと思っていた。
……しかし、自分のために自分の人生を費やす兄に、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それが、辛かったのだ。

「ユイリは、早く病気を治したいんだと、…そう思っていた…。そうじゃなかったんだな……。妹が笑わなかったのは、俺のせいだ……」

左腕で、顔を覆いながら、ルギが呟いた。

自分の必死さが、妹の負担になっていた。
薬を待たなきゃいけない、と、思わせてしまっていた。
いつも寂しそうな顔で、優しく微笑んで、ルギを送り出す姿は儚げだった。
もっと傍にいてやっていたら、彼女だって寂しい想いをしなかったはずなのに……!


「…俺は……馬鹿だ……」


ルギの目から、再び涙が零れ落ちた。


6
最終更新日 : 2013-04-21 05:01:13

きっと、ネオスも知っていたんだろう。
ユイリの本心を。

―あの夜、ネオスが家に来た晩。
ユイリが、ネオスとどんな話をしたのかはわからない。
しかし、ネオスもきっと気づいたのだろう。
ユイリの病気が治らないことに。
そして、自分に残された残りわずかな時間を、少しでも長く、ルギと過ごしたいということに。

だが、ネオスはルギに、何も言わなかった。
ルギが、自分で気づかなければいけないことだったからだ。
だから、彼が盗賊団に現れた日、追い返さずに迎え入れ、そのまま見守っていた。
いつか必ず、妹の想いが伝わる時がくるように。

―そして、妹の死を、受け入れることが出来ると信じて―。


―――ルギが、ネオスと決闘を行った次の日の朝。

ラシェルの治癒術の力で傷が癒えたルギは、ラシェルの部屋を訪れ、治療のお礼を言った。

「ええっ!そんな、当然のことをしただけだよ」

と、わざわざお礼に来たルギに驚き、ラシェルは慌てた。
しかし、ルギは、

「…あんたには、これからも世話になる。……よろしく頼む」

というと、頭を下げた。


―――そして、朝食時。
皆が食事を取り終える頃に、ルギは立ち上がっていった。

「ネオス――いや、頭領――」

その時、ルギは初めてネオスを『頭領』と呼んだ。
そのまま、ネオスをまっすぐ見つめて、言った。

「――俺を、これからもここにおいて欲しい。どうか、頼む」

そういって、深く頭を下げた。
それを見た団員たちは、一瞬沈黙したが…
すぐにその後。


「あったりまえだろ! もう何年一緒にやってんだ! ガハハ!」

とダインが言う。

「ちょっとダインさん、まだ2ヶ月くらいですよ…!」

とシーマが突っ込んだが、

「それでも、修行やら訓練やら、色々一緒にやった仲じゃねぇか。いまさら出て行くのも、水臭いぜ!」

と、ダインが明るく笑った。
そんな皆の表情をみて、ネオスも頬を緩ませ、

「……ああ、よろしく頼む」

と、ルギに言った。
そして、ルギは

「ありがとう…」

と言い。

―初めて、
団員の前で、笑顔を見せた。

皆が、明るく歓声を上げる中で、ルギは、目を閉じて、思い出す。

―――『お兄ちゃん、はい、あげる……!』―――

幼い頃、笑顔で花冠をくれた彼女。
これからは、心の中の彼女が、いつまでも笑ってくれるように。

―――俺は、生きる。
―――これからは、俺のために。

窓の外を見ると、何処までも青い空が、遠く遥かに続いている。
ルギは、その空に誓うのであった―。

        =fin=


7
最終更新日 : 2013-04-21 04:55:43

この本の内容は以上です。


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