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MUGA 第6号
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例外者たちの詩     那智タケシ
季節の詩     rita
「人間には、自分で自分を治す力がある」 菊地久幸×那智タケシ
世界中の人に自慢したいよ~忌野清志郎のうた
《無我的観照》第2回 『白痴』(ドストエフスキー著)から読み解く現代のキリスト像
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―
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MUGA 第7号
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『例外者たちの詩』  那智タケシ
『季節の詩』  rita
歌うも舞うも法の声~「AKB48」に寄せて
《無我的観照第3回》 霊的女優・イレーヌ・ジャコブ論
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―
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『例外者たちの詩』  那智タケシ
『季節の詩』    rita
編集会議 「AKBは無我的か否か」
川の流れのように~秋元康にみる「無我的表現」
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々― 
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MUGA 第9号
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例外者たちの詩     那智タケシ
『季節の詩』    rita
「何もしない時間の大切さ」 菊地クミユキ
無我表現としてのAKB前田敦子
無我的観照第4回 『マイネームイズハーン』に見る愚直な愛の表現
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『例外者たちの詩』  那智タケシ
『季節の詩』     rita
「土も人間も健康にする内城菌の力」 瀧 芳人(ヤマイチシステムプロデュース代表)
AKB48仲谷明香『非選抜アイドル』にみる無我表現
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アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―

アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―

 

「『父』との思い出」

 

 長岡マチカ(文化人類学を学び、現在、アラスカ在住)

 

 四月に入ってからの大雪。春の日差しにところどころ地肌が見始めていた風景も、一夜にして真っ白に戻る。木々の枝や庭先の花壇に出始めていた緑の芽も、こんもりとした雪に覆われている。翌日からは再び春の陽気。雪解け水の流れが道の端々に光っている。雪雲の立ち込める銀色の昨日が、まるで幻だったかのよう。こうしてアラスカは今年、春に踏み入れつつあった歩みを一瞬止める形で、記録史上最大の積雪量をマークした。

 

「今冬の雪はとにもかくにもすごかったね」

 雪についてすっかり過去形で話されるようになった五月の初め、ダウンタウンへ出かけた。あれほど高く積まれた雪山が、一体どこへ消えてしまったのだろうと首を傾げるほど乾いたコンクリートを、眩しい日差しが照らしている。ビルの間には水平線が光っている。まだ解け切らない浮き氷にでこぼことなぞられたその線に、ふと懐かしい顔が重なる。

 ちょうど十二年前のこんな乾いた日差しの中で、この道の先から、ネイティブ・アラスカンの男性がこちらに向かって歩いて来たのだった。引き締まった身体に短く切り込んだ白髪、目は少し上方を見据え、一歩一歩大地との繋がりを確かめているかのようにゆっくりとした足取り。

「あっ、『お父さん』!」

 思わず駆け寄った。三年ぶりの再会だった。目の前に佇む「娘」に、「父」は別段驚くといった様子もなく、昨日別れたばかりのような調子で「ああ」とだけ小さく声を発し、穏やかに微笑んだ。「父」というのは、私が村々を旅していたときお世話になった家の父で、私はその家で彼らの亡くなった親族の名前をもらい、彼らの「娘」として迎え入れられたのだった。その飛行機に乗って一時間ほどのところにある村にいるはずの「父」が、突然目の前に立っていた。アンカレッジで行われる「ネイティブ・アラスカン会議」に、村を代表して参加しているのだと言う。

 当時妊娠七ヶ月でアラスカに一人渡り、小さなワンベッドルームに夫と二人、ほとんど家具も無くフライパン一つで何もかも調理するといった、まるでままごとのような暮らしだった。アパートの窓から見えるチュガッチ山脈が、もうすぐ生まれる新しい命を暖かく見守ってくれているように頼もしく見えたものだった。妊娠したことをその偶然の再会で初めて告げた「親不孝な娘」を、「父」はその大きな手で抱きしめてくれた。そして、私の下腹部を指し示し、私の目をまっすぐ見つめながらこう言った。

This person needs you, you need this person.

This person needs this world, this world needs this person.

That is reason why this life is here.

この人にはあなたが必要 あなたにはこの人が必要

この人にはこの世界が必要 この世界はこの人を必要としている

だからこうして命が宿ったんだよ」

 この「父」の言葉が、その後の私の子育て生活でどれほど支えになってきたか分からない。五人の子供を追い掛け回し一日を終えぐったり疲れてしまっても、ふとこの言葉を思い出す度にまた明日から頑張ろうと思えたものだった。毎日二十四時間ノンストップで続く子育て、時には投げ出したくなることもある。それでもこの言葉がいつも戻るべき原点を照らしてくれる。地球上に何十億といる人々、ほとんどが一生会うということもない。その中でこうして縁あり親子という関係で共にいる。親と子互いに必要だったからこそこうして生まれて来るのだと「父」 は言う。そしてこの子が今のこの世界に生まれることが必要だったように、この世界もこの子の存在を必要としている。どんな子もこの世に必要とされるからこそ生まれて来るのであり、この世界に必要とされない命など一つもない。「父」のメッセージが私の奥の深いところで強く響き続けている。

 

 隣には、もうすぐ私の背を追い越すだろう十二歳の息子が歩いている。ジャケットを脱ぎ片手にぶら下げ、道に沿って続くガラス張りのショーウインドウをきょろきょろと覗き込みながら。ゆがんだ襟元を直してやる。ふと前方に目をやると、道の先に、「父」の後姿が見えたような気がした。


★編集後記

 椅子を買いました。基本、自分は座りっぱなしの仕事をしているのですが、木製の硬い木の椅子しかないのです。木の椅子だとどうしても2、3時間座っていると腰が痛くなる。今朝、ぼんやりした頭で何となくアマゾンで椅子を見ていたら、よさげなものがあったので衝動買いしてしまいました。1万円以上するものを通販で買ってしまったのですが、こういうものは座り心地を確かめるべきだったかな、とか。いや、雑言です。

 「静岡で美味しい野菜を食べる会」は地域的なこともあるし、人が集まるか微妙なのですが、最近は地に足がついた方々と縁ができてきた気がします。MUGAは、ずいぶんと「健全?」な方向に行っている気がしますが、あまり深く考えていません。いきなりラディカルになるかもしれませんしね。出会いを大切に、流れの赴くままに変化していきたいと思います。 (那智)

 


奥付



MUGA特集号 第2巻


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著者 : 無我表現研究会

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