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MUGA 第6号
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例外者たちの詩     那智タケシ
季節の詩     rita
「人間には、自分で自分を治す力がある」 菊地久幸×那智タケシ
世界中の人に自慢したいよ~忌野清志郎のうた
《無我的観照》第2回 『白痴』(ドストエフスキー著)から読み解く現代のキリスト像
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―
★編集後記
MUGA 第7号
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『例外者たちの詩』  那智タケシ
『季節の詩』  rita
歌うも舞うも法の声~「AKB48」に寄せて
《無我的観照第3回》 霊的女優・イレーヌ・ジャコブ論
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―
★編集後記
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『例外者たちの詩』  那智タケシ
『季節の詩』    rita
編集会議 「AKBは無我的か否か」
川の流れのように~秋元康にみる「無我的表現」
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々― 
★編集後記
MUGA 第9号
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例外者たちの詩     那智タケシ
『季節の詩』    rita
「何もしない時間の大切さ」 菊地クミユキ
無我表現としてのAKB前田敦子
無我的観照第4回 『マイネームイズハーン』に見る愚直な愛の表現
アラスカ便り―北の果てに暮らす日々― 
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『例外者たちの詩』  那智タケシ
『季節の詩』     rita
「土も人間も健康にする内城菌の力」 瀧 芳人(ヤマイチシステムプロデュース代表)
AKB48仲谷明香『非選抜アイドル』にみる無我表現
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アラスカ便り―北の果てに暮らす日々― 

アラスカ便り―北の果てに暮らす日々―

 

「祭、草のバスケット」

 

 長岡マチカ(文化人類学を学び、現在、アラスカ在住)

 

例年の倍以上の積雪量といわれる今冬。街のいたるところにかき積まれた雪山が春の日差しに照らされ始める2月の終わり、「ファー・ランデブー祭」が始まった。今年で77年目の祭り。まだ3千人程の街だった80年近く前のアンカレッジで、長く暗い冬の終わりを盛り上げようと、鉱山や罠猟での冬の収穫を携えた人々の立ち寄る時期に合わせ3日間の「スポーツの祭典」が催されたのが始まりと言われる。今では犬ぞりレースやマラソンなどのスポーツ的なイベントから、当時の経済の中心であり祭の名前の由来ともなっている毛皮(fur)ビジネスを偲ぶ毛皮オークション、そしてパレードに歌に踊りに移動式遊園地など、街のあちらこちらで様々な催し物が10日間近く続けられる。

 

「マチカいつ行く?」

電話口でネイティブ・アラスカンの友人が言う。

「決めてないけど、今年は何見たい?」

パレードに※ブランケット・トス、氷の彫刻、それにネイティブ・ダンスにアートクラフト。インターネットの「ファー・ランデブー・スケジュール表」を覗き込みながら受話器を片手に予定を立てる。スクリーン横には「私達のフロンティア精神を祝おう!」という文句が点滅している。ここ100年ほどの間にこの街を建てた開拓者と、8000年以上前にシベリアから渡ってきた人々を思う。

 

待ち合わせたショッピング・モールで久しぶりに会う彼女は、青い花柄のパルカを着込み、毛皮に縁取られたフードをかぶるとまるでそのまま広告に出てくるようなネイティブ・アラスカンの出で立ちだった。ハグを交わす。

Hi, Japanese sister. 元気だった?」

いつものゆっくりとした口調。ブレーキを踏み込みそれまで全速力で走っていたスピードを落としていくような気持ちになる。

「で、子ども達は?ハズバンドは?日本のお父さんお母さんは?日本のおばあさんおじいさんおばさんおじさんは?」

まずは私の家族親戚皆元気で変わりないかと尋ねると、次に従兄弟に赤ちゃんが生まれ、叔母は手術をしたところ、姉はこんな旅をしてね、彼女の親戚の様子を表情を変えながら細かく教えてくれる。彼女のリズムに合わせゆっくりと足を踏み出し一緒に歩き始める。

その日の目的の1つだったネイティブ・アートクラフト・マーケットを見て回る。毛皮の靴にパルカに手袋、仮面、絵画。ふと立ち止まる友人。明るい茶色に赤色のひし形の模様がついたバスケットを見つめている。燻した草で編まれたというそのバスケット、蓋はビーバーの毛で縁取られ取っ手の部分はセイウチの牙を彫った鷲の形の彫刻で飾られている。

「あなたが作るバスケットもこんな風に素敵だったの」

「?」

首を傾げる私を見て、ふふっと笑う。ああ、と思う。私は以前彼女の家族に「名前」をもらったのだった。アラスカ南西部のネイティブ、ユピック族には死者の名前を受け継ぐという習慣がある。15年ほど前村で彼女の家族と共に暮らした際、彼女の家族は私の中に亡くなった親族を見出したのだった。私がお茶ばかり飲んでいるところ、私の歩き方、そんな日常の様子から私の中に亡くなった彼女の叔母と祖母が宿っているという。家長の執り行う儀式を通し私は2つの名前を与えられ、家族として迎えられた。ユピックの人々はこうして死者と共にいる。死者を繰り返し思い出し、死者の思い出を抱きながら。

バスケットを手に取る。つんと乾いた表面がしばらくするとしっとりと手に馴染み始める。私の中に私以外の誰かがいる?私はこの地で草のバスケットを編み、ツンドラで摘まれた葉を煎じてお茶を飲み、確かにそんなこともあったのかもしれない・・・。

モールの中央にあるアイスリンクではネイティブ・ダンスが始まっている。一面太鼓の規則正しいリズムに合わせ、ツンドラの風景が蘇ってくる。

「“私”なんて曖昧なものなのよ」

友人はそう言うとアイスリンクに向って歩き始める。手に持っていたバスケットを置き早足で追いつくと隣に並ぶ。ドン、ドン、ドン、ドン。太鼓の音と2人の歩くリズムとが重なり溶け合っていく。 “あなた”と“私”なんてものもね」

そう微笑む彼女の横顔に村で出会ったいくつもの顔が重なって見えた。

 

 

※ブランケット・トス:元々はアラスカ北部の捕鯨漁を祝う祭で行われる。セイウチやアザラシの皮で作られたブランケットの端を掴む人々の中央で、皮の上をトランポリンのように飛び跳ねる。「ファー・ランデブー祭」ではダウンタウンの駐車場で行われ、ブランケットを持つ側、飛ぶ側どちらも体験できる。

 


★編集後記

松戸在住なのですが、先ほど(1421時頃)、大きな地震がありました。震度4だったそうです。千葉北東部では震度5強。地の底から湧き上がってくるような震えを体感すると、さすがに不安になりますね。震災から一年。これから日本はどうなるのでしょう? 大きな転換点を迎えていることは間違いないのですが、どのように転換するかは我々次第。何かできることを、と思いつつ、焦燥感ばかりで何もできていない気がします。新しい夜明けが美しいことを祈って。(那智)


目次

MUGA 第9号

「私」ではなく「世界=無我」からの表現を発信する

 

無我表現研究会発行 月刊メルマガ

 

◆目次

 

◇アート

 

・詩

『例外者たちの詩』  那智タケシ

 

『季節の詩』     rita

 

◇インタビュー

 

「何もしない時間の大切さ」 

菊地クミユキ(ウルトラリンパ開発者)

 

◇評論

 

・評論

無我表現としてのAKB前田敦子

       高橋ヒロヤス

 

・無我的観照第4回

映画『マイネームイズハーン』に見る愚直な愛の表現

 

       那智タケシ

 

 

◇エッセイ

 

アラスカ便り―北の果てに暮らす日々― 

『春の空の下』   長岡マチカ


例外者たちの詩     那智タケシ

★詩

 

例外者たちの詩     那智タケシ

 

 

★紫の服の女

 

名も知らぬ寂れた街中を車で走っていると

 

紫色の巨大な蝶を見た

 

いや、それはよく見ると、自転車に乗った女であった

 

紫色のドレスみたいな、ひらひらの服を着た中年女が、

 

髪をなびかせ、

 

ドレスを舞わせ、

 

快活に笑いながら、

 

立ち漕ぎで、

 

風に逆らうように車道を全力疾走しているのであった

 

ああ、しかし彼女の狂気の何と純粋なことだろう?

 

廻りの人間が影になってしまうように

 

彼女は全力で生き、

 

全力で走り、

 

全力で誰かを愛していた

 

絶対にそうに違いなかった

 

だからあんなにも光り輝いて

 

モノクロームの世界から一人、飛び出して

 

偉大な

 

絶対独自の物語を

 

曼荼羅を展開していたのだ

 

際限なき生命の尊さよ

 

目的なき喜びの純粋さよ

 

誰もが、彼女の運命を羨むことだろう

 

誰もが、彼女を愛することだろう

 

彼女の迷いなき生を

 

澱みなき光の発露を

 

憧憬を持ってただただ見守ることだろう

 

あんな風に生きることができたらどんなに素晴らしいだろう、と

 

しかし、彼女がどこに向かって走っているのかは

 

もしかすると彼女自身もわからないのかもしれない

 

目的なき全力疾走

 

だから彼女は少々狂っていて

 

少しばかり太っていたとしても

 

あんなにも美しかったのだ

 

そんなことを夢想しながら前を向くと

 

バッグミラーに、女の姿は映っていなかった

 


『季節の詩』    rita

季節の詩     rita 

 

【・小鳥・】

 

山間の春は ためらいがちに訪れて

川面に銀の鱗を着せかけるよ

そして

風の息遣いと太陽の速度で

一日をかけて 今日を泳いでいく

 

朝陽が木々に注がれる

毎分ごとに溢れて

松の細さには滴り落ちるほど

 

でもまだ春浅い光を

ほのかな甘さを

 

奪い合うように鳴き競う鳥達

 

一羽の小鳥は軒先にとまり

尾を振っている

薄衣をはためかせた恋人を

春風に呼んでいるところなのよ

 

 

【・黄水仙・】

 

再び時は廻り

黄水仙は

何を花唇に語ろうとするのか

 

再び首をもたげて

黄水仙は

今その言葉を開こうとしている

 

伝えたいことが

伝えきれなくて

このあいだの話は一年前の聞き覚え

 

そうして再びこの季節に

メッセージは開かれ放たれゆく

 

街の隅々に宿る

微笑みに似た花弁より

日常のあらゆる足もとを

無邪気に照らしてくれる存在を

 

今年も足早に通り過ぎてしまうのか

 

こんなにもまっすぐ見つめ

歌い 祈り

何を叫んでいるのだろうか

命のかぎり

何を呼び続けてるいるのだろうか

 

理不尽に滑り落ちる時の流れに

足首をつかまれまいとしても

幾度となくとらわれてしまう恐怖に

歩む命は

 

すでにこの世に堕ちている

招かれ選ばれた命は

 

むら気な風向きに幸福を夢追い

どこを見ているのかわからなくなってしまった

固く閉ざした瞳に

 

その瞳に黄色い花を飾るだけで

花が首をもたげるより容易に

心より希望を開かせゆく

 

黒く縁どられた血管に

光は矢のごとく突き刺さる

希望の旋律が沸きおこりうねりはじめよう

 

黄水仙はいつも

見つめるだけでいつでも

足をとめて向かい合うほどに

こうして希望を伝えているのかもしれない

 

 

【・春雨・】

 

春雨の紡がれる時

なすすべもなく存在を消されゆく雲たちに

どうしようもなく背景に飲まれていく山肌を

ひとり佇んで眺めてたの

 

少し経って

寒くなった体を湯に沈ませたら

緩やかに解放されていった

滴の鎖より

 

その粉砕した欠片はもう一度

私の腕や肩に戻ってきた

 

ひらひらと舞い降りてくる

湯に煙り迷い込んだ天使よ

 

ぽつりぽつりと花を咲かせてみせた

その様子はまるで天国の湖水へ

蓮の花の姿を

微睡みに見ているようだったの

 

 

【・梅・】

 

梅は春陽のクリスタル

春色のさきがけよ

 

みずからに春色を映して

熟して光を放つ頬よ

 

ひとつひとつの微笑みに

パフュームの小瓶は

通りすがりの人々の胸へ

 

振りかけて

くすぐりかけて

 

行き交う歩調はスタッカートに弾むの

恋する時のようにきらめく瞳たち

 

ひとつひとつ覗きこんで

問いかけよう

ひとつひとつ摘み取りながら

確かめよう

 

光と影が交錯するものだから

未来のまぶしさは

ときに痛みをともなって

それ以上進む勇気を持てなかった

 

でも、しなやかに伸びた道程に

天路を見通せないものはなかったの

 

空を突き上げる意思の強さ

強固な理念にたわむ弧状

 

風はいつも旗のように

光に塗られた余白のような未踏の枝先に

敬意をはらってひらめいていた

 

さっき手を伸ばした梅の香りは

わたしの肩をそっと包みこみ

これからの可能性を

耳元でささやいているよ

 

春陽の白い結晶は

育てゆく可能性の

小さくほころんでいる姿なのだと



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