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息を切らせながら通路に座り込み、ハアハアと呼吸を整えながら、広間を振り返る。
頭部を失った蜘蛛は、縦横無尽に暴れまくっていた。
柱や壁、財宝にぶつかる度に、轟音と埃と苔が舞い上がり、砕けた宝石が、キラキラと飛び散った。

「…どうなったの?」

ラシェルが、青い顔でルギに聞く。
ルギは、肩で荒い息をしながら答えた。

「…頭部を切断したから、じきに死ぬだろう。…しかし、虫の生命力は凄いな…」

そう言ったルギの顔が、苦痛に歪んだ。
ラシェルが視線を落とすと、左腕上腕部がいびつにへこみ、肩から下が血まみれだった。

「た、大変!」

慌てて自分の救急道具を取り出し、腕の血を拭く。
しかし、出血がなかなかおさまらずに焦ってしまう。
その様子を見たルギは、ラシェルに静かに言った。

「…大丈夫だ、自分でやる…」

そういうと、ルギは腰から幅のある長い布を取り出し、左腕肩付近に巻き付けると、右腕と口を使って布を縛り上げた。

「…止血すれば、そのうち血は…止まるはずだ…。…くっ…」

そう言っても、痛みに顔を顰める。
ラシェルはそのままにしておけず、汚れた腕を拭いて、傷口を手当してくれた。

「…あんたに手当して貰うのは、二度目だな…」
「私…、治癒術がまだあまり上手くできないのだけれど…。しないよりマシだと思う」

そういって、ラシェルはルギの腕に手をかざし、呪文を唱え始めた。
多分ヒビが入ったであろう左腕に、添え木を当てて、丁寧に包帯を巻く。
ギュッと包帯を縛ったときに、ルギが顔をしかめる。
ラシェルは、顔を上げた。

「大丈夫?」
「…ああ…」

そう言った後、小さくルギが呟く。

「…ありがとう」
「パートナーだから、当然だよ」
「いや…手当のことじゃない」

ルギは目をふせた。


12
最終更新日 : 2013-04-03 00:30:39

「あんた、蜘蛛が怖そうだったのに、俺のこと助けてくれたろ? …感謝してる」
「だって、あれは…」

ラシェルは、無我夢中で、怖さなんか忘れていた。
とにかく、なんとかしなきゃ、と言う思いでいっぱいだった。

「…それに、俺があんたを守らなきゃいけなかったのに、蜘蛛の動きを読めずに危険にさらしてしまって…すまない」
「そんなの関係ないよ! だって私も、蜘蛛のこと避けきれなかったのが悪いんだし…」

ラシェルは、最初にルギの言うことをきいて一人で逃げていれば、もしかしたらルギが怪我をしなくて済んだかもしれない、と思うと、チクリと胸が痛かった。

「…まあ、お互い、なんとか無事に調査がすんでよかったな。…ほら、出口も出来たようだ」

ルギが指さした方向を見ると、蜘蛛の、最後の命の灯火が消える頃だった。
壁や柱に、縦横無尽に体当たりを続けていたが、最後にぶつかった柱が倒れ、通路奥の土砂と共に、蜘蛛は柱の下に崩れ落ちた。
その向こうには、光のさす出口が見えていた―――

13
最終更新日 : 2013-04-03 00:35:47

―――その日の夜は、大宴会だった。

ルギとラシェルが見つけた財宝で、しばらくは、黒烏団の財源が潤うということで、アジト中が活気づいた。
いつもなら、節約節約と煩いルークだったが、今日だけは、どんな贅沢も許可してくれた。
それに便乗し、ダインやシーマは、浴びるように酒を飲んでいた。

ルギは、アジトに帰ってから、もう一度左腕をラシェルに治してもらい、細かい傷やふさがらなかった部分は、包帯を巻いておいた。
宴会の最中、疲れたから、と先にルギは退席した。

宴会が終わり、ルークに褒められたので、ラシェルが良い気分で部屋にもどって、しばらくしたころ。
コン、コンと扉を叩く音がした。

「はーい」

楽しい時間の余韻に浸り、ベッドに突っ伏してゴロゴロしてたラシェルは、少しだけドアを開けた。

「あ…」

そこにいたのは、先に寝たはずのルギだった。

「…今日はお疲れ」

ルギがいう。

「…お疲れ様」

ほろ酔いのラシェルは、少し上目遣いでルギを見た。
先に休む、といっていて、今頃部屋を訪れて来られて、せっかくの余韻が少し冷めてしまった。

「どうしたの?」

ルギは、唐突にポケットに手を入れ、小さな箱をラシェルに差し出した。
無地の包装紙で包まれただけの、手の平にちょこんと乗る四角い箱。


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最終更新日 : 2013-04-03 00:46:40

「……?」

訝しげるラシェルに、ルギは言った。

「今日の訓練の労い…と、…先日の…詫びだ…」

暗い廊下の、揺れるランタンの明かりに照らされ、ルギの頬が少し赤い。


「えっ、いらないよ」

ラシェルは首を振る。

「今日はお仕事だったから、お互い全力を出したはずでしょ…? この間のことだって、もうやらないって言って貰ったから、もう済んだことだし」

と、ラシェルが慌てて言う。
しかしルギは、黙ってラシェルを見つめた。

「……いいんだ、俺があんたに、何かをあげたかっただけだ…。いらなかったら、売るか捨ててくれ」

と言って、ルギは小さな箱を、部屋の奥へと投げ入れた。

「あっ…」
「……おやすみ、……ラシェル」

そういって、ルギはバタンと扉を閉める。
ラシェルは慌てて、コロコロと転がる箱を拾い上げる。

綺麗に包装された、とても軽い箱だった。
そして、ふと気づく。

(…今日の労いって、今日は遺跡から真っ直ぐアジトに帰って来たから、買い物には行ってないし…)

今日買ったんじゃないなら、いつ…?
箱を胸に握りしめたまま、バタンとドアを開けたが、廊下にはすでに、ルギの影はなかった―。

* fin *

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最終更新日 : 2013-04-03 00:46:19

この本の内容は以上です。


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