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そうルギに言われ、ラシェルは悟った。
ルギが囮になる間に、逃げろと言われているのだと。

ラシェルは、顔を青くして言った。

「…じゃあさ、どちらかが囮になってる間に、もう一人が攻撃したら…?」

しかし、ルギは首を横に振る。

「…正直言うけど、あんたじゃ、囮も攻撃も無理だ。…見たところ、戦闘経験だって殆どないんだろう? 死にたくないなら、あんたは怪物には手を出さない方がいい」
「でっ… でもっ…!」

ひどく焦りながら、他にいい方法がないか一生懸命考えるラシェルを見て、ルギはつい、口元をほころばせた。

(あ…)

ラシェルは、ルギの笑顔を久しぶりに見た。
ルギ自身が、妹の死以降、笑ったのは2回目―ラシェルの前でだけだった。
そうは言われても―、ラシェルは、不安げに、おろおろとルギの顔を見上げる。

一つ息を吐いたあと、ルギは、ラシェルを真っ直ぐ見て言った。

「じゃあ… 俺が戦ってる間、あんたは蜘蛛の背後から攻撃してくれ。 俺が、危なくなった時… その時は、助けを呼びに行ってくれるか?」
「う、うん!」

ラシェルは、何もしないで、一人で逃げるよりはいいと思った。
その嬉しそうな笑顔に、ルギはドキッとした。

久しぶりに、彼女の笑顔を間近で見れたことが、嬉しかった。

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最終更新日 : 2013-04-03 00:02:58

思わず、ラシェルに手を伸ばしたくなる衝動にかられて、ルギはグッと、自分の手を抑える。

「どうしたの?」
「いや…なんでもない」

ラシェルに言われ、慌てて目を逸らしながら、ルギは立ち上がる。
その視線の先に…

先程は、土砂のようにしか見えなかった大きな固まりが、垂直に立ち上がるのが見えた。

「~~~~~~っっっっっ!!!!」

ラシェルは叫びそうになり、慌てて自分の口を抑えながら後ずさる。

巨大な…赤紫の蜘蛛。
足がそれぞれ2m近くあり、毛がビッシリ生えた、固そうな甲羅で覆われていた。
身体はどす黒い赤で、1.5mほどはあるだろうか。
その先端に、遠慮がちについた頭部には、複数の緑色の目があり、口には巨大な牙が覗いていた。

「…大丈夫なの…?」
「多分、な……」

(…それに、アレを倒せないようでは、ネオスに勝てない…)

背中から、双剣を抜きながら、心の中で呟いた。
蜘蛛は、ゆっくりと脚を動かし、財宝の山のほうに向かう。
こちらに、調度背を向けた。

チラッとラシェルに視線を移し、ルギは言った。

「…準備はいいか?」
「うんっ」
「…いくぞ!」

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最終更新日 : 2013-04-03 00:06:39

ルギは、二本の剣を構えてダッシュした。
蜘蛛はそれに気づき、長い足をワサワサと動かしながら、真正面から来たルギに突進して行く。

(ひぃぃ~)

ラシェルは、その動きの気味の悪さに心の中で悲鳴を上げながら、蜘蛛の背後に、そおっと周りこんだ。

ルギは、蜘蛛の釜のような前足の攻撃を避けながら、少しづつ打撃を与えて行く。
その度に、蜘蛛の足や身体から、どす黒い血が飛び散った。

ブラッドスパイダーの、前足の2本が、鎖鎌のように鋭く湾曲していた。
ルギに向かって、両方の鎌を振り下ろした瞬間。

ガキィィィィィィン!

と、鋭い金属がぶつかる音が響き渡る。
ルギが頭上で交差した双剣で鎌を受け止め、気合を込めて、その鎌を打ち払う。

「ハッ!!」

気合で押し返したルギは、よろける蜘蛛の頭上に高く飛び上がり、背中めがけて双剣の猛打を浴びせた。
しかし、蜘蛛も長い脚を器用に動かし、すばやく追撃を避ける。

(…す…すごい)

見ていたラシェルは、思わず感嘆の息を飲んだ。
二本の剣を持って、素早い動きで蜘蛛をかわしながら、まるで舞う様に攻撃を入れる。
非常時だというのに、ルギの戦術は、見ていてとても綺麗だった。

ルギが頭上で二本の剣を交差させて、気合いを込める。

「ハアッッ!!!」

すぐさま、双剣の乱舞が始まった。
まるで舞踏のように、ルギの双剣の軌跡が弧を描きながら、宙に紋様を描く。
ガンガン、ガンガンと、蜘蛛の脚や胴を剣が打ち抜き、赤黒い血飛沫を上げながら、蜘蛛がどんどん後ずさる。

―――しかし、そこには。

後ろに回り込んでいた、ラシェルがいた。

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最終更新日 : 2013-04-03 00:16:04

ルギの猛攻を受け、すごいスピードで下がってくる蜘蛛を避けきれず、ラシェルは声を上げた。

「きゃっ!」

「ラシェル!」

悲鳴に気づき、ルギが打撃を止める。
その瞬間、蜘蛛が再びルギに向かって突進し、長い二本の鎌状の前脚で、ルギを締め上げた。

「しまった…!」

蜘蛛の鎌はそのままルギを締め付け、頭上へ掲げた。
日本の脚は、革鎧の上から、ギリギリとルギの肺を圧迫した。

「うっ…」

苦しみながらも、まだ手にある剣で、蜘蛛の頭部を狙う。
左腕を振り上げた瞬間――
その左腕に、蜘蛛が鋭い牙を突き立てた!

「ぐあっ!」

皮鎧の上からザックリと深く刺さった蜘蛛の牙は、腕の奥深くまで到達し、ジュウジュウと嫌な音をたてて吸血を始める。
ガッチリと喰わえられた顎に、ルギの腕の骨が、ミシミシと悲鳴を上げるのが聞こえた。

「……………っっ!」

苦痛に思わず目をつぶり、左腕の剣が、ガシャンと地面へ落下した。

「ルギ!」

大変だと思い、ラシェルは、吸血に夢中で動きが止まっている蜘蛛の後ろ脚に、小剣を刺した。

「えい、えい!」

殆どが固い甲羅で弾き返されるが、運よく、関節部分に深く刺さり、蜘蛛がバランスを崩す。
ルギは、そのチャンスを見逃さなかった。
一瞬牙が緩んだ瞬間、無理矢理に蜘蛛の顎から腕を引き抜き、残った右腕の剣に力を込める。

「ヤァーーッッッ!!!!」

と、気合いとともに、頭部の接続部分に剣を突き入れ、剣を捩りこんで、頭部を切り裂いた。
部屋の中を、赤黒の鮮血を迸らせながら、蜘蛛の頭が宙に飛んだ。
―途端、蜘蛛が、八本の肢をばたつかせながら暴れ始める。

胴を締め付けていた鎌が緩んだルギは、急いで落ちていた剣を拾うと、ラシェルを右腕で抱き抱え、通路へ走った。


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最終更新日 : 2013-04-03 00:22:59

息を切らせながら通路に座り込み、ハアハアと呼吸を整えながら、広間を振り返る。
頭部を失った蜘蛛は、縦横無尽に暴れまくっていた。
柱や壁、財宝にぶつかる度に、轟音と埃と苔が舞い上がり、砕けた宝石が、キラキラと飛び散った。

「…どうなったの?」

ラシェルが、青い顔でルギに聞く。
ルギは、肩で荒い息をしながら答えた。

「…頭部を切断したから、じきに死ぬだろう。…しかし、虫の生命力は凄いな…」

そう言ったルギの顔が、苦痛に歪んだ。
ラシェルが視線を落とすと、左腕上腕部がいびつにへこみ、肩から下が血まみれだった。

「た、大変!」

慌てて自分の救急道具を取り出し、腕の血を拭く。
しかし、出血がなかなかおさまらずに焦ってしまう。
その様子を見たルギは、ラシェルに静かに言った。

「…大丈夫だ、自分でやる…」

そういうと、ルギは腰から幅のある長い布を取り出し、左腕肩付近に巻き付けると、右腕と口を使って布を縛り上げた。

「…止血すれば、そのうち血は…止まるはずだ…。…くっ…」

そう言っても、痛みに顔を顰める。
ラシェルはそのままにしておけず、汚れた腕を拭いて、傷口を手当してくれた。

「…あんたに手当して貰うのは、二度目だな…」
「私…、治癒術がまだあまり上手くできないのだけれど…。しないよりマシだと思う」

そういって、ラシェルはルギの腕に手をかざし、呪文を唱え始めた。
多分ヒビが入ったであろう左腕に、添え木を当てて、丁寧に包帯を巻く。
ギュッと包帯を縛ったときに、ルギが顔をしかめる。
ラシェルは、顔を上げた。

「大丈夫?」
「…ああ…」

そう言った後、小さくルギが呟く。

「…ありがとう」
「パートナーだから、当然だよ」
「いや…手当のことじゃない」

ルギは目をふせた。


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最終更新日 : 2013-04-03 00:30:39


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