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一方、ルギは、罠解除や罠発見に集中することで、ラシェルのことを意識しないようにしていた。

ただでさえ、暗い闇の中に二人きりである。
もし、こんな時に、また妹の幻を見てしまったら…
自分では、手を伸ばしたい欲求を、抑えることが出来るかわからない。

だから、最初から、自分が先頭に立ち罠を解除することで、ラシェルを数歩後ろに、サポートとして待機しておかせることにした。

近くにいると思っただけで、やりにくい。
つい、意識がラシェルに飛んでしまう…。
そのため、罠を解除するときは、灯りをラシェルから受け取り、手元に置くか口に咥えるかで、作業を行った。
ランタンを持った彼女が近づくと、ふわりと優しい甘い香が漂い、脳の奥が痺れるような感覚になり、指の先が震えてしまうからだ。

今のところ、罠は複雑なものはなかったが、数をこなしていたので、集中力が切れてきた。
ルギは、フゥ、と息をつき、毒針の仕込まれていた扉の罠を解除したところで、一つの事を見落としていた。

扉を開けて、次の部屋へ進むルギについて、ラシェルがドアをくぐろうとしたとき…
天井から滲み出ていたなにかが、ラシェルの肩に滴り落ちてきた。

ポタッと、肩に違和感を感じ、反射的にラシェルが見上げると…
天井から、ドロッとした触手がラシェルの上に絡み付いてきた!

「きゃあっ!」

ドンッ

「うわっ!?」

ラシェルは、思わず触手を避け、前を歩くルギの方向に飛び出してしまった。
体当たりされたルギはバランスを崩し、扉の先の床に、足を踏ん張る。

途端、床が真っ二つに割れ、奈落の口が開いた―。


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最終更新日 : 2013-04-02 23:07:37

二人の足元に開いた大きな深刻の闇は、底が見えない深さだった。
穴に落ちる瞬間、ルギはラシェルの体を抱きしめ、自分の中に包む。

すぐに受身の体制を―と身体をひねったが、その刻は一瞬だった。
数秒程の間の後に、ルギは背中から、地面へ叩き付けられた。

ドンッ

「ぐっ!」

思わず呻き声が出る。
背中のバックパックがクッションになったとは言え、一瞬呼吸ができず、視界が真っ暗になった。

二人が落ちてすぐに、ゴウゥゥンという石のぶつかる音がして、落ちて来た穴―現在は天井であるが―は、閉じてしまっていた。

「う…」

ラシェルは頭を抱えながら、上半身を起こした。
なにやらドロドロする物体に驚いて、その先の穴に落ちてしまったけど、自分の体に怪我はなかった。
手をついた先がなにやら暖かい物体で、良く見ると、どうやらルギを下敷きにしてしまっているらしい。

ラシェルは慌てて、近くに落下して転がっていたランタンを拾い、ルギに近づける。

「…大丈夫!?」

ルギは眉間にシワを寄せて唸っていたが、

「…ああ、……大丈夫だ」

とだけ、返した。
ホッとして、ラシェルは辺りを照らす。

そこは、ただの石作りの真四角の部屋で、木製の扉が一枚ついているだけだった。

「…串刺しのトラップがなくてよかったな…」

背中の打撲だけで済んだルギが、痛てて、と身体を起こす。
それを見て、ラシェルが呟く。

「…ゴメン」
「いや…。あんたは、怪我はないか?」
「うん、私は平気」
「なら、良かった…」

ハァ、と小さく息をつき、ルギは壁に背を預けた。


4
最終更新日 : 2013-04-02 23:16:44


「…悪いけど、少し休んでいいか?」
「どこか痛むの!?」
「…いや、そうじゃない。ちょっと疲れた」

そう言ったルギは、立てた膝に片腕を乗せ、顔を埋めた。

「背中、怪我してない?」

と、ラシェルはルギに問い掛けた。
ルギは、顔を見ずに答える。

「ああ…。大丈夫。あんた、軽いから」
「…でも、擦り傷とかついたら、ばい菌が入っちゃうから、消毒しないと…」
「いや…」

ラシェルが、ポケットから消毒液を出そうとすると。

「…スマン。今、俺に近づかないでくれ」

と、ルギはキッパリと言った。
流石にムッとして、

「なんで?」

とラシェルは返す。
すると、ルギは少し動揺した。

「いや……」

そのまま言葉を濁そうとするルギを、ラシェルは鋭い眼光で睨む。
観念したように、ルギは俯き、顔を背けて呟いた。

「…………あんた、いい香りがするから…………」
「は?」
「…………あんたが傍にくると、罠の独特の香りや、毒や空気の臭いがわからなくなるんだ………」

ルギが言ったことは、半分は本当だった。
ラシェルの、髪のフワッとした甘い香り。
その甘美な匂いに酔いしれ、脳が危険に鈍感になり、罠が良くわからなくなる。

それに加え…
先程落ちたときに、庇うためだったとはいえ、うっかり彼女を抱きしめたせいで、自分の鼓動が早鐘のようになり、苦しかった。

今、彼女が傍に来たら、自分がどうなるのかわからなくなる。
ルギは、再び腕に顔を埋め、目をつぶった。

「…少し休んだら、出発しよう」
「…………」

ラシェルは、なんだか良くわからない事を言われたが、自分のせいで罠に引っかかって、ルギを危険な目にあわせてしまったので、何も言えなかった。
ますます機嫌が悪くなり、部屋の片隅に座って、先程の地図の続きを書きはじめた。


5
最終更新日 : 2013-04-02 23:24:18

数分後―
二人は、さらに遺跡の奥へと向かっていた。
地下にある遺跡は石壁でしっかり出来ていて、何処かに空気穴もあるのか、息苦しさはなかった。

通路や小部屋が多かったが、遺跡内でこれといった発見はなかった。

「古代人の作った遺跡は、直線的な建築様式が多いから、地図製作は楽だな」

ルギがボソッと言う。

「どういうこと?」

思わず、ラシェルが問いかけた。

「間取りが規則的だから、地図が書きやすいだろう? これが、自然の洞窟を利用している遺跡だと、訳がわからなくなる」
「なるほどねー」
「しかし…罠ばかりだな。宝もないのに」

後ほど、盗賊団が訓練にくるとしても、ほぼ全ての罠をルギが解除しているので、再び誰かが入ってきても、作動しない罠が多い。
ルークは、ここを訓練場に使用するといっていたが、果たして罠解除の訓練に使えるのか疑問だった。
まぁ、罠のある場所すべてに目印を付けたので、あとで当事者が、嫌らしい罠を再度設置するんだろうが…

遺跡に入ってから数時間程経過した頃。
ラシェルの書いた地図を見ていたルギが、だいたいの位置を把握した。

そしてルギはずんずんと進み―しばらく長い通路を進んだあと、急に天井が高くなり、かなり広い空間へ出た。

「わぁ…」

と、思わずラシェルが声を上げそうになり、慌ててルギが大きな手で口を塞いだ。
ラシェルが声を上げた理由、それは―

土砂崩れの地盤変動のせいで、高い広間の天井が崩れ、地下だというのに、地上からの光が斜めに部屋を照らしていた。
その部屋は、崩れかけた石壁と柱が、数メートルも天に向かってそびえ立ち、それぞれに、緑豊かな蔦が幾層にも重なって緑が生い茂っていた。
地面にも、苔と共に、湿地に生息する植物や胞子が生え、さながら地底の森の中のようだった。

天井を支える頑丈な巨大な柱には、規則正しく宝石が埋め込まれ、太陽の光を反射して、数多の星のように瞬いている。
そして、その広間の隅に、まばゆく輝く山のような財宝があり、柱の瞬きと、宝物で反射する光で、部屋の中が虹色のプリズムで満たされていた。

6
最終更新日 : 2013-04-03 00:48:03

ルギは、ラシェルの口を塞いだまま、通路までズリズリと引きずると、ゆっくり座らせ、耳元で囁いた。

「……やばい敵がいる。手を離すから、静かに聞いてくれ」

ラシェルは黙って、ルギを見上げながら頷く。
ルギは、一つ深呼吸してから言った。

「…広間の奥に、ブラッドスパイダーという、巨大な蜘蛛がいる。あれは、古代人が人工的に作り出した、合成怪物だ…。かなり強いと…思う。で…」

ルギは、広間の奥を見ながら言った。

「遺跡の作り的に、真っ正面に、外に出れそうな通路が続いてると思ったんだが…、見た目には、土砂で埋まってるみたいだ。そこで…」

今度は、広間の右にある、巨大な倒れかけの柱を指さした。

「俺が、敵を引き付けてる間に、あんたはあの柱を登って、天井の隙間から脱出してくれ」

ラシェルは、一瞬キョトンとなった。

「…一緒に出ればいいんじゃない?」
「…俺には、あの隙間は無理だな…」

確かに天井には、細かい隙間が無数に開いていたが、どれもこれも幅が小さいため、ルギが通るのは無理そうだった。

「あんたは、壁登りは得意だろ? 蜘蛛は石壁や柱は上れないから、先にでて、ルークに作成した地図を渡して、報告して欲しい。」
「ルギは?」
「…俺は、あいつを倒しておくから…」


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最終更新日 : 2013-04-03 00:02:39


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