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赤く色づいた木の葉が、くるくると宙を舞って落ちた。
真紅の絨毯がひかれた、朝日が差し込む森の中に、悠然と佇むログキャビン
ルギとラシェルは、朝食後、ルークに、枯れ葉の散り積もった空中庭園に呼び出された。

「今日は、二人合同で、遺跡探索訓練を受けてもらいます」

ルークのその言葉に、ルギはポカンと口を開けて絶句し、ラシェルはそんなルギの態度に、あからさまに不機嫌になった。

「…異議はないですね、ラシェル?」
「わ、私はないんですけど…それよりもこっちの人のほうが、何か言いたげぽいですよ?」

そのラシェルの言葉に、ルークはルギを半目でジロッと睨んだ。

「………俺は………」

ルギが呟いたが、その後に話す暇を与えず、ルークはルギに言った。

「貴方は、腕は一流ですが、こちらの盗賊団では新人です。つまりは、4ヶ月前に入団したばかりの、ラシェルの後輩にあたります。今回は、新人同士の能力向上を図るため、既出の遺跡の調査を行っていただきます」

文句を言うな、といわんばかりのルークの眼力に、ルギは黙った。
どうせ、こいつに何を言っても無駄だと悟ったのだ。

オホン、と一つ咳払いをして、ルークは続けた。

「…調査内容は、アジトから少々離れたところにある、修行場として使っていた遺跡―通称『雨の遺跡』―です。先日の台風で起きた土砂崩れで、今まで発見されていなかった新たな通路が発見されました。貴方達は、その通路の奥を調査してきてください」

ルークは、そこで手元にある資料をぱらっとめくり、自分の眼鏡に触れた。

「…通路の先は、未だ未知数です。危険を感じたら…調査を中止し、帰還してください。最終報告期限は三日以内。…以上です」

そういって、ルークはアジト内に立ち去った。

後に残されて立ちすくむ二人を、木々の間から差し込むやわらかい斜光が包み込む。
ラシェルは小さく身震いすると、ルギに向かって言った。

「……別に、私と一緒が嫌なら、断ればよかったじゃない」

ムスッとした顔で、秋風になびく千草色の長い髪の先をいじくる。
最近、ラシェルは、あからさまにルギに避けられているのを感じており、正直、仕事上ペアを組まされても、やりづらいだけだと思っていた。

「あ……いや、そんなことはない」

慌ててルギが否定する。
嫌ではないが、やりづらいと思っていたのは、ルギも一緒だった。

「そう? ならいいけど。じゃあ、九時に現地集合ね」

そう言って、ラシェルは準備をするため、自室に駆けていった。
ルギは、現在の状況が把握できずに、呆然とその場に立ちつくした。

「……どうしてこうなった…?」

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最終更新日 : 2013-04-02 22:24:20

数時間後、二人は「雨の遺跡」の入り口、現地前で集合していた。
先に着き、大岩に腰掛けて待つルギの前に、小走りで駆けてきたラシェルが近づく。

「おまたせっ」
「ああ。…じゃあ行こう」

遺跡探索の経験豊富なルギとは違い、ほぼ何もかも初心者なラシェルは、準備に手間取って遅れてしまっていた。
しかし、ルギは特になにも言わず、
言葉少なく、さっさと遺跡に足を踏み入れる。
ラシェルは、遅れたことを気まずく思いつつも、それについて何も言わないルギを、不思議に思った。

(この人って、あんまり感情を表に出さない人なのかな…)

抱きつかれたけど、ということを思い出し、ラシェルはぶんぶんとかぶりを振る。
ルギが先にいってしまうので、ラシェルは急いでランタンを灯し、後に続いた。

既出の遺跡の調査とはいっても、奥のほうは誰も足を踏み入れていない、未開のダンジョン。
二人とも慎重に装備品を着用し、愛用の武器を持ってきていた。

基本的な流れは、ルギが前に出て、罠の発見や解除、調査。
ラシェルはランタンを照らし、マッピングを行っていた。

「遺跡調査に必要なことは、俺がやる。あんたは、明かりと地図記載を頼む」

そういってルギは、率先して先を歩いた。
後輩のくせにっ、と、ラシェルは面白くないまま、ムスッとした顔で、後ろからついていった。

少しづつ、慎重に進んでいくルギの後ろで、ラシェルは地図を作成しながら、色々な情報を書き込んでいく。

毒針の罠が仕掛けられた扉や、落とし穴。
天井が落ちてくる罠。
上に乗ると跳ねる床。
槍が飛び出してくる壁。

そういったものをすべて的確に発見&解除し、「ここはこれがあるから、これに触らないように」というルギの説明どおり、ペンを走らせるのであった。

ラシェルは、自分では発見出来ないような罠なども、ルギがあっさり見つけて解除するので、ルギが先頭でちょっとだけホッとするのと同時に、なんだか訳もわからず、胸がムカムカした。


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最終更新日 : 2013-04-02 22:45:10

一方、ルギは、罠解除や罠発見に集中することで、ラシェルのことを意識しないようにしていた。

ただでさえ、暗い闇の中に二人きりである。
もし、こんな時に、また妹の幻を見てしまったら…
自分では、手を伸ばしたい欲求を、抑えることが出来るかわからない。

だから、最初から、自分が先頭に立ち罠を解除することで、ラシェルを数歩後ろに、サポートとして待機しておかせることにした。

近くにいると思っただけで、やりにくい。
つい、意識がラシェルに飛んでしまう…。
そのため、罠を解除するときは、灯りをラシェルから受け取り、手元に置くか口に咥えるかで、作業を行った。
ランタンを持った彼女が近づくと、ふわりと優しい甘い香が漂い、脳の奥が痺れるような感覚になり、指の先が震えてしまうからだ。

今のところ、罠は複雑なものはなかったが、数をこなしていたので、集中力が切れてきた。
ルギは、フゥ、と息をつき、毒針の仕込まれていた扉の罠を解除したところで、一つの事を見落としていた。

扉を開けて、次の部屋へ進むルギについて、ラシェルがドアをくぐろうとしたとき…
天井から滲み出ていたなにかが、ラシェルの肩に滴り落ちてきた。

ポタッと、肩に違和感を感じ、反射的にラシェルが見上げると…
天井から、ドロッとした触手がラシェルの上に絡み付いてきた!

「きゃあっ!」

ドンッ

「うわっ!?」

ラシェルは、思わず触手を避け、前を歩くルギの方向に飛び出してしまった。
体当たりされたルギはバランスを崩し、扉の先の床に、足を踏ん張る。

途端、床が真っ二つに割れ、奈落の口が開いた―。


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最終更新日 : 2013-04-02 23:07:37

二人の足元に開いた大きな深刻の闇は、底が見えない深さだった。
穴に落ちる瞬間、ルギはラシェルの体を抱きしめ、自分の中に包む。

すぐに受身の体制を―と身体をひねったが、その刻は一瞬だった。
数秒程の間の後に、ルギは背中から、地面へ叩き付けられた。

ドンッ

「ぐっ!」

思わず呻き声が出る。
背中のバックパックがクッションになったとは言え、一瞬呼吸ができず、視界が真っ暗になった。

二人が落ちてすぐに、ゴウゥゥンという石のぶつかる音がして、落ちて来た穴―現在は天井であるが―は、閉じてしまっていた。

「う…」

ラシェルは頭を抱えながら、上半身を起こした。
なにやらドロドロする物体に驚いて、その先の穴に落ちてしまったけど、自分の体に怪我はなかった。
手をついた先がなにやら暖かい物体で、良く見ると、どうやらルギを下敷きにしてしまっているらしい。

ラシェルは慌てて、近くに落下して転がっていたランタンを拾い、ルギに近づける。

「…大丈夫!?」

ルギは眉間にシワを寄せて唸っていたが、

「…ああ、……大丈夫だ」

とだけ、返した。
ホッとして、ラシェルは辺りを照らす。

そこは、ただの石作りの真四角の部屋で、木製の扉が一枚ついているだけだった。

「…串刺しのトラップがなくてよかったな…」

背中の打撲だけで済んだルギが、痛てて、と身体を起こす。
それを見て、ラシェルが呟く。

「…ゴメン」
「いや…。あんたは、怪我はないか?」
「うん、私は平気」
「なら、良かった…」

ハァ、と小さく息をつき、ルギは壁に背を預けた。


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最終更新日 : 2013-04-02 23:16:44


「…悪いけど、少し休んでいいか?」
「どこか痛むの!?」
「…いや、そうじゃない。ちょっと疲れた」

そう言ったルギは、立てた膝に片腕を乗せ、顔を埋めた。

「背中、怪我してない?」

と、ラシェルはルギに問い掛けた。
ルギは、顔を見ずに答える。

「ああ…。大丈夫。あんた、軽いから」
「…でも、擦り傷とかついたら、ばい菌が入っちゃうから、消毒しないと…」
「いや…」

ラシェルが、ポケットから消毒液を出そうとすると。

「…スマン。今、俺に近づかないでくれ」

と、ルギはキッパリと言った。
流石にムッとして、

「なんで?」

とラシェルは返す。
すると、ルギは少し動揺した。

「いや……」

そのまま言葉を濁そうとするルギを、ラシェルは鋭い眼光で睨む。
観念したように、ルギは俯き、顔を背けて呟いた。

「…………あんた、いい香りがするから…………」
「は?」
「…………あんたが傍にくると、罠の独特の香りや、毒や空気の臭いがわからなくなるんだ………」

ルギが言ったことは、半分は本当だった。
ラシェルの、髪のフワッとした甘い香り。
その甘美な匂いに酔いしれ、脳が危険に鈍感になり、罠が良くわからなくなる。

それに加え…
先程落ちたときに、庇うためだったとはいえ、うっかり彼女を抱きしめたせいで、自分の鼓動が早鐘のようになり、苦しかった。

今、彼女が傍に来たら、自分がどうなるのかわからなくなる。
ルギは、再び腕に顔を埋め、目をつぶった。

「…少し休んだら、出発しよう」
「…………」

ラシェルは、なんだか良くわからない事を言われたが、自分のせいで罠に引っかかって、ルギを危険な目にあわせてしまったので、何も言えなかった。
ますます機嫌が悪くなり、部屋の片隅に座って、先程の地図の続きを書きはじめた。


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最終更新日 : 2013-04-02 23:24:18


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