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第一章

数時間後、二人は「雨の遺跡」の入り口、現地前で集合していた。
先に着き、大岩に腰掛けて待つルギの前に、小走りで駆けてきたラシェルが近づく。

「おまたせっ」
「ああ。…じゃあ行こう」

遺跡探索の経験豊富なルギとは違い、ほぼ何もかも初心者なラシェルは、準備に手間取って遅れてしまっていた。
しかし、ルギは特になにも言わず、
言葉少なく、さっさと遺跡に足を踏み入れる。
ラシェルは、遅れたことを気まずく思いつつも、それについて何も言わないルギを、不思議に思った。

(この人って、あんまり感情を表に出さない人なのかな…)

抱きつかれたけど、ということを思い出し、ラシェルはぶんぶんとかぶりを振る。
ルギが先にいってしまうので、ラシェルは急いでランタンを灯し、後に続いた。

既出の遺跡の調査とはいっても、奥のほうは誰も足を踏み入れていない、未開のダンジョン。
二人とも慎重に装備品を着用し、愛用の武器を持ってきていた。

基本的な流れは、ルギが前に出て、罠の発見や解除、調査。
ラシェルはランタンを照らし、マッピングを行っていた。

「遺跡調査に必要なことは、俺がやる。あんたは、明かりと地図記載を頼む」

そういってルギは、率先して先を歩いた。
後輩のくせにっ、と、ラシェルは面白くないまま、ムスッとした顔で、後ろからついていった。

少しづつ、慎重に進んでいくルギの後ろで、ラシェルは地図を作成しながら、色々な情報を書き込んでいく。

毒針の罠が仕掛けられた扉や、落とし穴。
天井が落ちてくる罠。
上に乗ると跳ねる床。
槍が飛び出してくる壁。

そういったものをすべて的確に発見&解除し、「ここはこれがあるから、これに触らないように」というルギの説明どおり、ペンを走らせるのであった。

ラシェルは、自分では発見出来ないような罠なども、ルギがあっさり見つけて解除するので、ルギが先頭でちょっとだけホッとするのと同時に、なんだか訳もわからず、胸がムカムカした。


最終更新日 : 2013-04-02 22:45:10

一方、ルギは、罠解除や罠発見に集中することで、ラシェルのことを意識しないようにしていた。

ただでさえ、暗い闇の中に二人きりである。
もし、こんな時に、また妹の幻を見てしまったら…
自分では、手を伸ばしたい欲求を、抑えることが出来るかわからない。

だから、最初から、自分が先頭に立ち罠を解除することで、ラシェルを数歩後ろに、サポートとして待機しておかせることにした。

近くにいると思っただけで、やりにくい。
つい、意識がラシェルに飛んでしまう…。
そのため、罠を解除するときは、灯りをラシェルから受け取り、手元に置くか口に咥えるかで、作業を行った。
ランタンを持った彼女が近づくと、ふわりと優しい甘い香が漂い、脳の奥が痺れるような感覚になり、指の先が震えてしまうからだ。

今のところ、罠は複雑なものはなかったが、数をこなしていたので、集中力が切れてきた。
ルギは、フゥ、と息をつき、毒針の仕込まれていた扉の罠を解除したところで、一つの事を見落としていた。

扉を開けて、次の部屋へ進むルギについて、ラシェルがドアをくぐろうとしたとき…
天井から滲み出ていたなにかが、ラシェルの肩に滴り落ちてきた。

ポタッと、肩に違和感を感じ、反射的にラシェルが見上げると…
天井から、ドロッとした触手がラシェルの上に絡み付いてきた!

「きゃあっ!」

ドンッ

「うわっ!?」

ラシェルは、思わず触手を避け、前を歩くルギの方向に飛び出してしまった。
体当たりされたルギはバランスを崩し、扉の先の床に、足を踏ん張る。

途端、床が真っ二つに割れ、奈落の口が開いた―。


最終更新日 : 2013-04-02 23:07:37