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12月28日

 めぐみを連れてくるのは、さすがに骨が折れたよ。何たって超売れっ子のアイドルだからね。でも、『関係者』になっちまえば簡単だった。ホントに偶然、俺の前のバイト先の本屋で『握手&サイン会』をやるって話が。この時ばかりは、神様も俺が正しいって。味方してくれたんだ!・・・ホント、そう思ったよ。
 
 裏に車を停めて、『失礼しまーす』楽屋として使ってた事務所に潜入成功。人ひとりスッポリ収まるくらいデッカイ木箱を台車に載せて。
 
「・・・どうも」

「・・・えっ、俺の事覚えてない?」
 
その時にひと言、俺の名前を言ってくれりゃあ・・・こんな事思いとどまったかもしれないな。首、傾げやがるから・・・注射して、木箱に放り込んで(笑)。マネージャーがトイレに行ってくれてて助かったよ。
 
「アレッ、めぐみ・・・どっか行ってるんですか」

「さあ・・・僕が来た時にはいらっしゃいませんでしたけど」
 
 ──── フザけんな、アイツを呼び捨てにしていいのは俺だけだ。

12月29日

 だから、今までの“さわやかな馴れ初め”なんてのはぜーんぶウソ!めぐみをこんな体にしたのも、何もかんも俺!

言ったろ?・・・自分が蒔いた種だって。

それでも、この楽しかった時間もそろそろ終わりが近づいてきたみたい。『クスリ』が切れてきちまったらしくて、俺がバイトから帰って来た時さ?

何かうめき声みたいの出しながら、這いずり回って・・・

「まだ戻りたいの?」

ココから逃げようとしてたんだ。近づく俺に痩せ細った腕で、そこらの物を投げつけてくる。肩に手をかけて無理やり抱きついてやったら(笑)、必死になってもがいてた。今の俺を見ても、まだ怖いのか?まだ、信じてくれないのか?

 ──── お前が、俺の知ってる鳴瀬めぐみなら・・・絶対に殺さないのに。

12月30日

 今朝は包丁の冷たさで目が覚めた。何重にも丁寧にくくってある足で台所に行って、何重にも丁寧にくくってある両手で器用に包丁を持って・・・

俺を刺そうとしたんだな。

ま、メシも食おうとしない今のコイツの体力じゃ・・・蟻だって殺せないだろうけど、さすがに血は出てたよ。

「痛いよ・・・俺が悪かったよめぐみ・・・でも、こうするしかなかったんだ」

あのまま、あんな場所にいたら・・・絶対お前は過密スケジュールで“合法的に”殺される。俺はお前がテレビで見せた陰鬱な顔を知ってるんだよ。それがお前の本心だって分かってるから

「“鳥かご”を開けてやっただけじゃないか」

体を起こした俺の中に、めぐみは震えながら顔をうずめるようにもたれてきた。誘ったのは俺だけど、もう抵抗はしなかったんだ。中からじゃ、窓もドアも開かないこの部屋・・・観念したのかな。

 ──── いずれにせよ“泣き落とし”は上手くいったな。

12月31日

 「お前の夢、って・・・何だっけ」

デッカい会場でライブ?全国ツアー?・・・女優の真似事してドラマ?映画?

「・・・じゃあなりすと。あっちこっち・・・飛び回って、色んなトコロを・・・見て」

めぐみは、クスリの後遺症で喋りにくそうにしながらでも・・・ハッキリと自分の口からこう言ったんだ。何だ、ちゃんと覚えてたんじゃないか。

「今からでも、まだ遅くないよ」

そう言った俺に見せた涙は、どっちなんだろう。そのまま、めぐみはかすかな吐息を漏らして落ちるように眠っていた。

 ──── 夢見ようぜ、また・・・俺と一緒に。

1月1日

 ・・・初夢って、確か今日の夜に見るやつじゃなかったっけ?何か、ヤな感じだったなー。だってさ、朝だと思ってめぐみを起こそうとしたら

冷たくなって、硬くなってたんだ。

口元に顔を近づけても、息を感じない。体揺らしても、何の反応もないから・・・俺ってば、手と足の縄を解いてやってるのね。『ああ・・・死んだんだ』って納得してるっていうか、夢だからあんまり悲しくなかったのかな。

この日記もまた書かなきゃ。

 ──── だって、目が覚めたら消えてるはずだもん。


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