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10月26日

 かねてから噂されていた鳴瀬めぐみのセカンドシングルが、混乱の中とうとう発売された。ファンは当然ながら狂喜乱舞・・・だが、失踪の三日前にレコーディングされたとあって、その一部の間では『もう、これっきりじゃないか』なんて言われているらしい。BBSを覗いたら案の定、それに反論する書き込み・・・ってかケンカ?それをカッコつけてなだめようとする“同じ穴のムジナたち”も。

 ・・・それにしても、コイツらの行動の速さには脱帽するよ。『さびしくなったら、ココをクリック!』流れてくるのは、“元カノ”の歌声。俺が聞いたこともないような、寒気がするほどの猫なで声で嬉しそうに歌ってやがるんだ。俺には、そんな風にしか聞こえない。

 ──── 本当の鳴瀬めぐみを知ってる俺には。

11月4日

 今までは、俺にとっちゃどーでもいい日だった。だいたい誕生日なんてのは、この世に生を受けたその一日だけに意味があるんじゃないか?歳が幾つかなんて、関係ない。

ガキでもしっかりしたヤツはいるし、歳食ってるだけのバカもいるじゃん。

・・・ま、こんなフザけた事言ってるヤツばっかだったらケーキ屋が儲からねえか。

 でも、とりあえず今年は俺も貢献してやった。だって、彼女と一緒に食べたかったしケーキ。自分の誕生日にかこつけて?

「あ、お前・・・誕生日いつだっけ」

おぼえてない

 ──── そっか。じゃ、この際だからもう一緒にお祝いしちゃおう。

11月13日

 しっかし、鳴瀬の人気はスゲーな・・・。本人がいねえのに、ストラップとか写真集がバカ売れなんだって。しかもさらにレアなのが・・・

コールド・トイズ社製の、超リアルな6分の1フィギュア

ますます鳴瀬が哀れだった。ただでさえ“事務所の金儲けの道具”・・・商品と同じ扱いを受けながら、本当に『商品化』されちまったんだから。

 ──── ああ、“いない”から“売れる”んだ。逆に。

11月26日

 今日バイトから帰ったら、彼女がこんな事言ってた。

わたしはだれ

って。名前も・・・やっぱり自分の歳も分からないんだと。

「だから、俺が助けてあげたんじゃないか」

何も心配するな。今が楽しかったら、それでいいんじゃないの。俺は一生お前を守っていくよ。

「・・・大丈夫、信じててくれよ」

頭を撫でたら泣き出した。

 ──── コレって、嬉し涙・・・だよな?

12月3日

 あの日から、ずっと彼女がどことなく暗い感じがする。いつも同じ無表情なのに元気がないように見えてしまう。何ていうか・・・明らかに今までとは様子が違うんだよ!俺だって、モヤモヤした気持ちが取れなくて、理由もなく焦ってる。

余計な事、考えんなよ!名前くらい忘れたってどうって事ないだろ!?・・・そんなの、お前が決めたわけじゃないんだし。

 ──── お前のアイデンティティーは、お前自身なんだから。


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