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8月15日

 何とかして、コミュニケーションを図る事が出来ないか・・・まだ、俺は諦められなかった。だから、毎朝、ノートパソコンにメモを表示させたままにして彼女のそばに置いておいた。手をキーボードにかざしてね。可能性はゼロに等しかったかもしれない。でも、きっといつか何か『声』が入ってる事を信じて・・・俺は、待ち続けたんだ。


8月22日

 あれから一週間。やっぱり画面には、まだ何の文字もなかった。彼女の視線すら、ディスプレイとはまったく見当違いのほうを向いちまってるし、これ以上やっても仕方ないんじゃないんじゃないかって・・・ふとそんな気持ちにもなりかけた。俺だって、これまで何もしなかったわけじゃない。暇さえあれば彼女の手を持って、文字を打つ練習をさせたりしてたよ。『おはよう』、『いってらっしゃい』、『おかえり』、『おやすみ』・・・同じ言葉を何回も何回も。

 ──── まるで、幼い子供に教えるみたいに。

8月26日

 毎日毎日、バイトから帰っては画面を覗くのが習慣みたいになっていた。もうすぐ二週間になるけど、まだ何の成果もない。たまに何かあるとすれば

ののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののの

・・・こんな風に、同じ一文字で埋め尽くされていたりとか。案の定ずっと『の』を押さえ込んでて。

8月31日

 ついに、この日が。画面に『言葉』が表示されていたんだ。
 
す ち た せ さ は ん い
 
明らかに少ない文字。床に投げ出された腕を見ると、前みたいに滑ったまま押さえ続けてたんじゃないらしい。初めての『意思表示』、
 
「何て書いたの」
 
って聞いても、“いつもみたく”知らんぷり。
 
 ──── ・・・お前らしいな。

9月13日

 今日は、いつもよりタバコが美味かった。何でかって・・・
 
アイツが『おかえり』って
 
『打ったんだろ!』『何か言えよ!』肩つかんでブンブン揺らして。俺・・・酔ってたんだ。でも、いつだって俺の、どんな気持ちも静寂に変えちまうコイツ見てると
 
涙が止まんなかった。俺の目の前には、その、腹立つくらい“すました顔”があった。だから・・・
 
なんで黙ってたんだよ?俺は、思い出させたくて・・・思い出したくて
 
 ──── 思いっきり、チューしてやった。


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