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8月6日

 最近は、ニュースでもほとんど鳴瀬の話はしなくなった。考えてみれば、初めてアイツをテレビで見た時はビックリしたよ。ついこの間まで一般人だと思ってたヤツが、濃い化粧してまつ毛に頭にエクステつけて愛嬌を振り撒く姿は・・・俺から言わせれば惨めでしかなかった。高校の時のアイツは、絶対にこんな事望んでなかったんだ。もっと、ちゃんとした夢を持ってた。

ジャーナリストになって、世界中の“叫べない人たち”の『声』になる

って。ズルズル成り行きで入った世界が、鳴瀬にとって幸福な場所であるはずがないんだよ!

 ──── ホラ見ろ、お前はもうすぐ・・・忘れられちまうんだぞ?

8月14日

 “オレノトモダチ”・・・何も出来ないし何も話せない彼女と暮らし始めてから、もう5ヶ月。俺は、ずっと一線を越えないできたつもりだった。彼女は、何の文句もなけりゃ、抵抗もしないんだから、好き勝手にやる事も出来たんだけど

俺には、そんな気はなかった。

ただ、こうして一緒に暮らしているだけで、そこに『繋がり』を感じてるだけで嬉しかった。このまま、笑わなくたって会話がなかったって構いやしない。俺は、ずっと二人で生きていきたかった。

 ──── 彼女を、愛してしまったから。

8月15日

 何とかして、コミュニケーションを図る事が出来ないか・・・まだ、俺は諦められなかった。だから、毎朝、ノートパソコンにメモを表示させたままにして彼女のそばに置いておいた。手をキーボードにかざしてね。可能性はゼロに等しかったかもしれない。でも、きっといつか何か『声』が入ってる事を信じて・・・俺は、待ち続けたんだ。


8月22日

 あれから一週間。やっぱり画面には、まだ何の文字もなかった。彼女の視線すら、ディスプレイとはまったく見当違いのほうを向いちまってるし、これ以上やっても仕方ないんじゃないんじゃないかって・・・ふとそんな気持ちにもなりかけた。俺だって、これまで何もしなかったわけじゃない。暇さえあれば彼女の手を持って、文字を打つ練習をさせたりしてたよ。『おはよう』、『いってらっしゃい』、『おかえり』、『おやすみ』・・・同じ言葉を何回も何回も。

 ──── まるで、幼い子供に教えるみたいに。

8月26日

 毎日毎日、バイトから帰っては画面を覗くのが習慣みたいになっていた。もうすぐ二週間になるけど、まだ何の成果もない。たまに何かあるとすれば

ののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののののの

・・・こんな風に、同じ一文字で埋め尽くされていたりとか。案の定ずっと『の』を押さえ込んでて。


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