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7月16日

 今朝、彼女の様子が少しおかしかった。いつもより寝息が荒く大きな気はしたんだけど、俺が起こそうとした時には、もう充血した目を潤ませてこっちを見てた。椅子に座らせるのに抱きかかえてやっとその『異変』に気づいた。

熱、出してたんだ。

もたれかかるその体は火照り、無表情な顔もこの時ばかりはさすがに辛そうだった。

 いつも一緒にいるけど、今日は買い物にも行かないで付きっきり。ちょうど買い置きしてた薬があって良かった。今、彼女は俺の横で静かに眠ってる。だいぶ楽になったのかな。

 ──── 俺も、もう寝よう。

7月20日

 ようやく熱も落ち着いたみたいで安心した。どうやら夏風邪みたいだった。朝メシを食べさせた後、俺は今回の件でずっと休んでたバイトに出かけた。ただでさえ仕送りもらってても足らないのに“ふたり暮らし”なんてしてたら(笑)。

「ちょっと、花に水やってきていいスか」

この言葉が、皮肉にもまた俺を印象づけた。・・・昼休みだ。だってさ、水やんないと枯れちゃうじゃん。

 ──── 花って、デリケートだから。

7月30日

 今さらこんな事言うのもアレだけど、実は俺も鳴瀬めぐみの件で雑誌記者の取材を受けたんだよな。家に行くとか言ってたけど、色々マズかったから近くの喫茶店で。何か

『高校時代、同級生で仲が良かった』

って、そんな理由で。いったい誰からそんな話を聞いたんだか・・・確かに俺はアイツとデキてたよ。でも、大学も別々になっちまったし?いつの間にか電話にも出なくなっちまって・・・それっきりさ。だから言ってやった。

「・・・そんな話、鵜呑みにするな」

ってね。

 ──── 今は、おたくらに付き合ってるほどヒマじゃねーよ。

8月6日

 最近は、ニュースでもほとんど鳴瀬の話はしなくなった。考えてみれば、初めてアイツをテレビで見た時はビックリしたよ。ついこの間まで一般人だと思ってたヤツが、濃い化粧してまつ毛に頭にエクステつけて愛嬌を振り撒く姿は・・・俺から言わせれば惨めでしかなかった。高校の時のアイツは、絶対にこんな事望んでなかったんだ。もっと、ちゃんとした夢を持ってた。

ジャーナリストになって、世界中の“叫べない人たち”の『声』になる

って。ズルズル成り行きで入った世界が、鳴瀬にとって幸福な場所であるはずがないんだよ!

 ──── ホラ見ろ、お前はもうすぐ・・・忘れられちまうんだぞ?

8月14日

 “オレノトモダチ”・・・何も出来ないし何も話せない彼女と暮らし始めてから、もう5ヶ月。俺は、ずっと一線を越えないできたつもりだった。彼女は、何の文句もなけりゃ、抵抗もしないんだから、好き勝手にやる事も出来たんだけど

俺には、そんな気はなかった。

ただ、こうして一緒に暮らしているだけで、そこに『繋がり』を感じてるだけで嬉しかった。このまま、笑わなくたって会話がなかったって構いやしない。俺は、ずっと二人で生きていきたかった。

 ──── 彼女を、愛してしまったから。


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