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アマテラさん

その町はあまりにも大勢のゾンビが増えてしまった。ぼくは独り暮らしの女神アマテラさんのことが心配になって、会いに行ったんだ。

アマテラさんは両親から譲り受けた小さな町工場の屋根裏部屋で生活している。親が亡くなった後も作業員達は仕事をつづけていて、彼女はそこの家賃収入で細々と暮らしている。

屋根裏部屋へとつづく階段は裸電球が一個ぶら下がってるだけで暗く、しかも両側の壁は藁造りだ。階段は途中で行き止まりになっていて、頭上の真四角な天井板 が彼女の部屋の入り口だ。粗末な天井板を押し上げると、すぐに小さなベッドが目に入った。簡素な机の上にはポータブルのテレビがおいてあった。

ぼくが中に入って数歩進むとすぐに畳の部屋があらわれた。小さなコタツに座布団が二枚敷かれてあった。少し大きくて厚みのある四つ足のテレビが大事なもののようにおいてあった。

「おや、邪善茶かい?」という声と共にふすまが近づいてきて、懐かしのアマテラさんが顔を覗かせた。

「いま食事の支度してたのサ。」そう言って台所の棚から小さな壺を降ろすと、まだ生臭い梅干しを一粒取り出した。

台所は役割を終えて消え去り、代わりに厠がスーッと現れた。
相変わらず、妙な場所でアマテラさんは食事をする。

ぼくは無視して尋ねた。「最近町はゾンビだらけになってるけど、アマテラさん、どこか体の具合でも悪いのかい?」

アマテラさんは梅干しを口に含んだまま、きょとんとした顔でぼくを見つめた。
それからテレビを呼び寄せて外の様子を確かめると、「ありゃりゃ!」と叫んで慌てて全ての部屋を開放したんだ。

ぼくのロボット

天使達の住むまちを歩いていたらぼくのロボットに木が生えた。

木が大きくなると、やがて蜘蛛と鳥が来て巣を作り、天使とロボットは恋をして、一緒に暮らすようになった。

そしていま、白い花咲き乱れる
アカシアの木の根元で
屑鉄は夢見る。
ロボットだったころの幼かった木と、優しい天使の住んでいた町を。


雲間の村ウーダ・ワラット

ウーダ・ワラットに古代遺跡が見つかったと噂が立ったので、さっそく行ってみることにしたんだ。飛び猫サンテスタンを頭の上に乗せると、ぼくはゆっくりと雲間の村へ飛んでいった。

ウーダ・ワラットにすむ水蒸気人間達によると、かなり昔から遺跡はあったらしい。古代遺跡は小さなクレーターの中にあって、どうやらそれは星々の集会場のようだった。

ぼくがそこで火を焚くと、付近の星達がいっせいに集まってきた。
そして派手にロックン・ロール・パーティーが始まった!


行方不明の魔法使い

分解寸前の宇宙船から降りてきたのは、一万年ものあいだ行方不明になっていた魔法使いだった。
そいつはぼくの顔を見るなり青ざめ、急用を思い出したようにそそくさと船に引っ込んでしまい、その後は二度と船から降りてはこなかった。
だからぼくは、今頃こうして彼のものなのか船のものなのかよくわからない赤茶けた残骸を拾い集めなければならないのだ。不愉快極まりない。


クロード氏のムッシュー・オペラ

最近話題になっているオペラがあるというので、劇場に来てみたんだ。

かろうじて開演には間に合ったらしい。まだステージを分厚い真っ赤な垂れ幕が遮ったままだ。
満席の客席からは時折咳払いや鼻をすする音が聞こえる。
ぼくは席についたまま幕が上がるのを待ちつづけた。

かれこれ4時間ほど待っていてもオペラは始まらない。
ぼくは待ちくたびれて眠くなってしまった。

うとうとしていると、突然隣の席の老紳士が立ち上がり、BRAVO!と叫んだ。
それに続いて劇場内の観客達から一斉に嵐のような拍手が起こった。

ぼくは驚いてステージの方を見たけれど、分厚い真っ赤な幕は依然として下りたままだった。



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