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考える化学Ⅱ

考える化学Ⅱ(近畿版)・大学受験薬学専科ゼミ編

薬学部合格への化学勉強法

 

学習内容編

 

 薬学部を目指す受験生にとって重要な学習内容を挙げてみました。中でも重要な部分は有機化学です。この分野は、大学入学後、薬品合成や様々な分野の基礎として取り上げられるので、必ず理解することが必要です。特に今後の解説に出てくる化合物は参考書などで構造式を調べ、学習することにより「化学力」が向上することは間違いないでしょう。

 

 

ベンゼン環の配向性

 

 例えば、ベンゼン環の二置換体には置換基の位置の違いによって、3種類の構造異性体が存在します。しかし、ベンゼン環に第一の置換基がすでに存在する場合、その置換基の種類によって、次に導入される置換基の位置が決定してしまいます。これは、ベンゼン環の配向性と呼び、教科書では、付録や応用といった項目に追加されている項目ですが、薬学部受験生としては当然知っておくべき知識です。

 

 入試としてのベンゼン環の配向性を考えます。まず最初に、トルエンやフェノールなどが代表例としてベンゼン環に電子供与性置換基(ベンゼン環に電子を押し出す置換基)が結合している場合、オルト位とパラ位に優先的に置換反応が起こります。この性質をオルト-パラ配向性と呼びます。また、次にニトロベンゼンのように、電子吸引性置換基(ベンゼン環から電子を引きつける置換基)が結合している場合にはメタ位に置換反応が起きやすくなる。これをメタ配向性と呼びます。例えば、次のような問題を考えてみました。

 

(問)フェノールに硝酸を作用させると、( A )ができ、さらにニトロ化が進むと( B )が生じる。 

 

 解答は、いきなり( A )を、ピクリン酸としてしまえば( B )には何も入れられません。ということは配向性を考える必要があります。この場合、ベンゼンには電子供与性のフェノール性ヒドロキシ基が側鎖となっているので、オルト-パラ配向性を考えます。 次にo-ニトロフェノールまたは、p-ニトロフェノールのどちらかを考えますが、生成量はオルト置換体の方が多いため、( A )にはo-ニトロフェノールを入れることになります。その後、( B )については、2,4-ジニトロフェノールを入れるのか、それとも、最後までニトロ化が進んだと考えて、ピクリン酸を入れるのかは、問題の流れや、解答欄の化合物名の種類によってあてはめます。他にも、構造式がかけるからといって、そのすべてが当てはまるという考え方は危険で、例えば、よく知られているのは、ケト・エノール平衡です。

 

 

ケト・エノール平衡

 

 ケト・エノール平衡はカルボニル化合物と不飽和アルコールの間に成り立つ互変異性体のことです。その例は、アセチレンに硫酸水銀触媒で水を付加反応させ、できたビニルアルコールがすぐに分子内転位しアセトアルデヒドになることで知られています。他の例は、プロピンに硫酸水銀触媒で水を付加反応させるとアセトンが生じる例です。この時の三重結合への付加反応にはマルコフニコフ則(非対称のアルケンまたはアルキンにHX型の分子が付加する場合、不飽和結合の2個の炭素原子のうち、水素の結合数が多い方の炭素原子にH原子が付加しやすいという法則)を用いることで、一つの物質に確定できます。ケト・エノール平衡を考えれば、たくさんの異性体がかけたとしても二重結合に直接ヒドロキシ基がついているような構造式が見つかれば、それはエノール型のため不安定で除外するように考えます。

 また、この例で取り上げたビニルアルコールのケト・エノール平衡によるアセトアルデヒドへの安定化の話はビニロンの製法でよく使われています。

 

 

ビニロン

 

 ビニロンの製法には有機化学を学ぶ重要な要素がたくさん入っています。ビニロンは京都大学で開発された、木綿に似た性質を持つ国産の合成繊維です。

 ビニロンを生成するにはポリビニルアルコールが必要です。しかし、ビニルアルコールを付加重合させることは、上記のケト・エノール平衡によりビニルアルコールが不安定なため難しく、実際、酢酸ビニルを作り、付加重合させてポリ酢酸ビニルを生成し、その後、けん化してポリビニルアルコールが作られます。このようにして作られたポリビニルアルコールは親水性のヒドロキシ基を多く含むため、耐水性を持たせるためにホルムアルデヒドによりアセタール化して、ビニロンを生成します。

 

 この製法を暗記することは重要ですが、アセタール化についても入試問題ではよく問われています。アセタール化はヘミアセタール構造(同一炭素にヒドロキシ基とエーテル結合が結合した構造)を経由してアセタール(同一炭素に2つのエーテル結合が結合した化合物)が生成されることからアセタール化と呼ばれています。このヘミアセタール構造はビニロン以外に糖の環構造の中にもあり、糖ではこのC-O結合が開裂しアルデヒド基に変わることによって還元性を示します。

 

 また、他にも異性体を聞く内容は多様で、大阪大学では核磁気共鳴分光装置を用いて分子構造を決定させている設問があります。

 

 

核磁気共鳴分光装置

 

 例えば、ベンゼン環において、この測定をおこなうと1種類のみの炭素が観測され、この結果はベンゼン環の炭素骨格が平面正六角形で、その分子中の炭素の性質がすべて等しい事実と一致します。この事実から、エチルベンゼンを同じように測定すると異なる性質の6種類の炭素原子が現れ、そのことを踏まえて、次のような問題が出題されています。

 

(問)エチルベンゼンの構造異性体である三つの芳香族化合物に対して、この測定をおこなった。その結果、観測された炭素の種類は、

①5種の化合物

②4種の化合物

③3種の化合物

であった。対応する構造式を書きなさい。

 

 解答はエチルベンゼンの芳香族の構造異性体として、二置換体であるキシレンを考えますが、上記の内容を理解して解答すれば

①m-キシレン

②o-キシレン

③p-キシレン

と解答されます。このように、難関大学入試では応用的な考え方が必要で、異性体の種類を考え、構造決定し、構造式を作ることは入試問題では当然の作業です。

 

 

立体異性体

 

 その他、異性体の考え方として、大学受験では立体異性体の分類は「幾何異性体」と「光学異性体」に分けることが一般的です。光学異性体には不斉炭素原子が存在し、それがn個の化合物には最大2のn乗個の立体異性体が存在します。しかし、分子内に対称面を持つ化合物(メソ化合物)では、その構造の対称性のため、本来存在すべき鏡像体が存在しません。例えば、メソ化合物を一つもつ酒石酸においては、不斉炭素原子が2個あるにもかかわらず立体異性体の数は3種類となります。

 この考え方を基本に一歩進めてみると、大学では立体異性体の分類は「エナンチオマー(鏡像体)」と「ジアステレオマー(鏡像体の関係にない立体異性体)」に分類されます。この「互いに鏡像関係にある立体異性体」と、「互いに鏡像関係にない立体異性体」に分類するという考え方は入試にも必要で、例えば、東京理科大学薬学部入試では、「立体異性体であるが、光学異性体でも幾何異性体でもない」という記述をマークさせています。

 

 

慶應義塾大学薬学部の入試問題

 

 また、多くの薬学部では天然高分子においても多く出題されています。例えば、慶應義塾大学薬学部ではジスルフィド結合(システインはチオール基 -SHが酸化されてジスルフィド結合 -S-S- をもつ二量体であるシスチンに変化する)を有するペプチドについて、そのアミノ酸の配列を答えさせています。ここで、私立薬学部最難関大学である2013年度慶應義塾大学薬学部についてその注目点をあげてみました。

 

設問1 一酸化窒素の電子式を選択する問題が出題されています。これは、NOでは最外殻電子の合計が奇数個であるため、N、Oのそれぞれに8個の電子をオクテットに配置することが難しくなります。そのことから、O側に2組の非共有電子対、NとOの間に共有電子対を2組、N側に1組の非共有電子対と1つの不対電子を配置する構造が正解となります。

 

設問2 標準的な「銅」に関する問題で、純度の高い銅の製法である「銅の電解精錬」を含んでいます。ここでは、計算問題を素早く処理することが必要で、指針を見失い、計算方法に手間取っていると、今後の問題で時間的に高得点が望めなくなります。

 

設問3 ベンゼンのような無極性溶媒中では、極性の強いカルボキシル基をもつ酢酸や、この問題で出題された安息香酸は、水素結合により2分子会合した二量体として存在していることがよく知られています。凝固点降下法により分子量を計算し、真の分子量のおよそ2倍の分子量になることも確認されます。過去にも、明治薬科大学で、酢酸を用いた同様の問題が出題されていました。

 

設問4 HIVの治療薬である核酸系逆転写酵素阻害剤に関する設問で、ザルシタビンが、糖部分の3位にヒドロキシ基がないことを解答とする設問。

 

設問5 グルコースの誘導体を設問に従って構成する問題。

 

設問4,5ともに標準的な内容。高等学校では、授業の進行上、天然高分子分野は、入試直前に終了してしまうなど、準備不足になりがちな箇所です。糖、アミノ酸の構造式に注意して学習を進め、特に糖の分野では最低でもグルコースの構造式は完全に暗記しておく必要があります。セルロースに関しても、示性式を書くことで、グルコース1単位あたり、3個のヒドロキシ基があり、そのすべてがアセチル化されたことを考えれば、基本的な計算問題といえます。

 

 以上が今年度の注目点です。いずれにしても、慶應義塾大学薬学部志望者なら有機化学分野を中心に、高等学校範囲の学習内容、さらに難易度の高い問題まで多く学習することが大切です。また、上記の入試問題の内容は、慶應義塾大学に限らず、今後、類似問題の出題も考えられるので十分な研究も必要と考えます。

 

 

受験システム編

 

2013年度 近畿圏薬学入試の現状

 

 2013年度の入試において、医療系人気が反映された結果、薬学部入試はこの少子化の中にあっても非常に好調な入試となっています。たとえば、今年度、近畿圏の理系大学就職ランキングの上位20位の中には、近畿圏で薬学部を持つ大学はすべて入っており、また、全国的に見ても上位に入っている学部は、薬学部を中心とした医療系関係がそのランキングを占めています。

 薬学部は全国的に見ても人気は高く、特に、近畿圏での国立大学薬学部は京都大学薬学部、大阪大学薬学部の2校しかなく、これらの大学の薬学部に入学する偏差値は、地方の医学部に匹敵する難易度となっています。どうしても近畿圏での国立大学薬学部への入学を希望した場合、センター試験で、最低85%ぐらいの得点率が必要になり、2次試験での学力レベルも偏差値60以上の非常に高い偏差値を要求されます。この難易度では、現役高校生が合格を目指すにはあまりにも高く、実質、近畿圏で薬学部を目指す場合、私立の薬学部を持った総合大学か、薬科大学への入学をまず目指すことが具体的です。

 

 しかし、私立大学側も、国家試験の合格実績や、病院実習に特徴を持った薬学部等、それぞれに差別化を図り難易度を上げています。実際、上位私立薬学部はこの非常に高い人気の中、歩留まり率も高くなることを予想し、軒並み合格者数を減らした激戦の入試となりました。

 

▼近畿圏薬学部難易ランキング

 偏差値

■60 以上

立命館大学薬学部 / 京都薬科大学 / 慶應義塾大学薬学部

■55~60

神戸薬科大学 / 大阪薬科大学 / 近畿大学薬学部

■50~55

摂南大学薬学部 / 同志社女子大学薬学部 / 武庫川女子大学薬学部

■45~50

神戸学院大学薬学部 / 兵庫医療大学薬学部

■45 以下

大阪大谷大学薬学部

 

 

薬学入試の考え方

 

 近畿圏への薬学部への入学方法は、大きく分けて「推薦入試」と「一般入試」の二通りの方法です。

 

 推薦入試は非常に現役高校生向きの試験方法です。試験日は毎年11月の上旬。高校3年生の2学期中間テスト後ぐらいの日程となります。科目数は2科目で、「化学」、「英語」となっているところが多く、この2科目なら楽そうに思えますが、問題は「化学」です。「化学」は多くの高等学校では、高校2年生で必修科目となっていますが、単元を未消化のまま、難しい分野を取り扱わずに終えてしまった高等学校が多く、高校3年生のこの時点で「化学」全分野に入試対策がとれ、違和感なしに問題を解くことができる生徒はとても少ないようです。一般入試を受験する場合でも、「化学」はこの時期までに、自分の目指す薬学部のテスト範囲までは終え、入試問題を解く準備にかからなくてはならないはずです。

 

 追加として、「化学」を勉強するツールとして用いられているのは、参考書では三省堂の「化学の新研究」、基本的な問題集では数研出版の「リード化学」または第一学習社の「セミナー化学」を使う場合が多く、「リード化学」も「セミナー化学」も高等学校準拠の問題集ですが、問題の質も入試に即した内容で、解説も丁寧で、受験向きの問題集として人気のあるものです。これらの問題集をしっかり学習することにより、受験の準備は大きく前進するはずです。多くの薬学部志望の現役高校生は、この推薦入試で意中の志望校に合格できた場合、入試は終了します。

 しかし、この時点で不幸にも合格校がない場合や、希望校でない場合は、一般入試に臨むことになり、この場合、試験科目は、「化学」、「英語」以外に、「数学」が増えてしまうので注意が必要です。国立大学薬学部志望者なら、「数学」を入試科目として学習しておくことは当たり前ですが、私立大学薬学部専願の受験生にとっては、「数学」を受験科目に必要としない推薦入試という制度は、非常にありがたい制度です。とにかく、一般入試ではすべての科目が推薦入試以上に内容理解が深く問われ、科目数も増加するということを考えれば、私立大学薬学部入試では推薦入試を利用することが得策と考えられます。とにかく、各大学の入試情報に注意し、自分の力が十分発揮できる受験方法を選ぶことが大切です。


この本の内容は以上です。


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